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今日のアフリカ

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アマドゥ・クファの死とマリ情勢

2018/12/08/Sat

12月3日付ルモンド紙によれば、フランス政府に続いてマリ政府も、11月22日夜のフランス軍による攻撃で、反政府武装勢力の指導者アマドゥ・クファ(Amadou Koufa)が殺害されたと発表した。急進的なイスラーム主義を掲げる武装勢力「マシナ解放戦線」(Front de Libération du Macina / Katiba Macina) の指導者クファの死は、確実と言える状況である。クファはカリスマ性のある指導者で、フルベ人の若者に対して強い動員力を持っていた。年齢は60歳前後、もともとはフルベの女性の美しさをうたった詩人として知られ、イスラームの価値を尊び、社会的平等を説いて、フルベの階級社会を糾弾した。2009年、マリの家族法改正案に反対して名を上げ、その頃に(後に急進的イスラーム主義武装勢力Ansar Dineの指導者となる)Iyad Ag-Ghaliと親交を結ぶようになった。
 クファ率いるFLMは、2015年1月頃から武装活動を本格化させた。マリ中部は、人口増加と土地不足、そして気候変動による干ばつによって、牧畜民(フルベ人)内部、また彼らと農耕民との間で緊張が高まっており、FLMの旗揚げで治安は一気に悪化した。2017年3月には、FLMは、Iyad Ag-Ghaliの勢力および「マグレブ・イスラームのアルカイーダ」(AQMI)とともに、「イスラームとムスリムを支持するグループ」(Groupe de soutien à l'Islam et aux musulmans: GSIM)を結成した。2018年11月8日にインターネット上に投稿されたビデオでクファは、フランスを敵視し、「セネガル、マリ、ニジェール、コートジボワール、ブルキナファソ、ナイジェリア、ガーナ、カメルーン」のフルベ人に対して、ジハード主義の下に結集するよう呼び掛けた。
 クファの殺害に関して、仏軍事大臣(Ministre des armées)のパルリ(Florence Parly)は、28日の記者会見で、「ピラミッドのトップを攻撃した。テロリズムの基盤を弱体化させるには最も良いやり方だ」と胸を張った。しかし、5日付ルモンド紙は、懐疑的な見方を示している。トップを殺害しても、一般民衆レベルではむしろ急進的イスラーム主義を掲げるジハディストの影響が拡大しているのではないか、というわけだ。2013年以来、フランスはこの地域で軍事行動を続けており、地域諸国、アフリカ連合、そして国連もそこに深く関与している。しかし、ジハディストの活動は止まず、治安の不安定化はマリ北部のみならず中部に広がっている。FLMがマリ中部で勢力を拡大した背景には、牧畜民をめぐる環境の悪化がある。問題が軍事力だけで解決しないことはフランス軍も認めているが、治安の流動化が徐々に広がっていることは深刻に捉えるべきである。際限のない軍事介入に対する恐怖感はフランス軍内にもあるようだが、戦略の全面的な再検討が必要になっている。