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今日のアフリカ

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大統領選挙とマリ情勢

2018/07/29/Sun

7月29日の大統領選挙を前に、マリへの関心が高まっている。今回の選挙では、現職のイブラヒム・ブバカール・ケイタ(IBK)が再選を狙う。ケイタは有力候補だが、77.6%の得票で圧倒的勝利を収めた前回(2013年)ほど安泰ではない。7月27日付ルモンド紙によれば、フランスのルドリアン外相は、ケイタ氏の統治について「失望した」と繰り返し表明している。治安改善への取り組みに対して、政治的意思が欠けると見なされているのである。実際、この5年の間にマリの治安情勢は悪化したと言ってよい。今や北部のみならず、中部でも紛争状態が広がっている。
 これに関して、7月24日付ルモンド紙は、政府による民兵利用の影響を指摘している。マリでは、反政府運動が勃発した時に、民兵を利用してこれを封じ込める政策が以前からとられてきた。1990年代にトゥアレグが反乱を起こした際、ソンガイの民兵(Ganda Koy/Ganda Izo)が利用された。2012年の北部反乱の際にも、同様の手法が用いられた。さらに、ソンガイ人が少ない北部の要所キダルを占領するイスラーム急進主義勢力に対抗するため、政府やフランス軍は、トゥアレグ人主体の世俗派武装勢力(Mouvement pour le salut de l'Azawad: MSA)やトゥアレグ人被支配層主体の民兵組織(Gatia)へのテコ入れや協力を続けてきた。
 この政策には厳しい批判がでている。7月26日付ルモンド紙には、元マリ駐在フランス大使が、自国の政策を正面から批判した意見が掲載された。現在のマリ北部のジハディスト勢力は、その首領であるイアド・アグ・ガリがそうであるように、トゥアレグの貴族層の出身者が多い。トゥアレグ人は1960年代から独立・自治を求めて紛争を繰り返してきたが、その中心は常に貴族層であった。トゥアレグは階層社会で、支配層である貴族階層とそうでない被支配階層の間には深い亀裂がある。Gatiaは後者から構成されており、これを支援したことで、フランスはトゥアレグ社会内の紛争に深く巻き込まれてしまったと元大使は批判する。
 加えて、マリ政府に倣って武装勢力と手を組んだことで、武装蜂起することの「うまみ」を現地社会に知らしめてしまった。武装しているがゆえに政府軍やフランス軍の支援を受けるのであれば、武装解除のインセンティブは高まるはずがない。結果として、DDRプログラムは全く進まず、武装勢力がさらに跋扈する結果となった。
 マリ北部の治安問題を解決するために、軍事力だけでは不可能であることは、フランス軍の担当司令官も認めている。29日の大統領選挙が、これまでの北部政策を再考する契機となることが期待される。