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今日のアフリカ

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ANCの路線対立

2019/08/02/Fri

7月31日付ファイナンシャルタイムズ紙では、コラムニストのディヴィッド・ピリングが南アフリカのANCについて分析している。彼曰く、2つのANCが戦争状態にある。2つのANCとは、ラマポサ大統領派とズマ元大統領派ということである。ズマが表舞台から去った後も、ズマ派は党書記長のマガシュレ(Ace Magashule)に代表されるように、強い影響力を維持している。両派の覇権争いは、最近の南ア情勢のそこここで観察される。
 ひとつは中央銀行をめぐるものである。ラマポサ大統領は中銀総裁のカニャゴ(Lesetja Kganyago)氏を再任した。同氏は中銀の運営に優れた手腕を発揮したと評価されている。一方、マガシュレらは、中銀がインフレ抑制ではなく、成長と雇用を含めて取り組むようマンデートを変えるべきだと主張している。より経済に介入し、積極的に雇用創出を図るべきだと主張しているわけである。オンブズマンの役割を持つPublic Protectorのムクウェバネ(Busisiwe Mkhwebane)氏もこれに同調し、中銀が「市民の社会経済的安寧」に焦点を当てるべきだとの指示を発出した。この指示に対しては、プレトリアの裁判所が憲法違反だと断じている。ANCのなかには中央銀行を国有化すべきだと考えている者がおり、ズマ派の主張はこれに近い。カニャゴ氏は、国有化すれば、中銀はANCの政治アジェンダに従属すると見ている。
 もう一つの争点は、巨大国営電力会社のEskomである。大統領はこれを3つの国営企業(発電、送電、小売)に分割し、人員削減を実施したいと考えている。彼に近いスタッフには、Eskomを民営化する議論もある。しかし、労組は反発している。最近、ムボウェニ(Tito Mboweni)財務相は、Eskomの債務救済のためにさらなる資金提供を決めた。財務相は大統領に近い立場と言われ、意に反する決定だったようである。債務救済によって現状維持に手を貸すか、大胆な改革を行うかという選択になる。
 ANCの路線対立には、ラマポサか、ズマかという要素だけでなく、グローバル化、新自由主義路線に乗るか、乗らないかという要素がある。ラマポサは前者、ズマは後者に近い。ANCの歴史的経緯を考えるなら、全面的な新自由主義路線は打ち出しにくく、市井の人々の生活向上を掲げないわけにいかない。ここに問題の複雑さがあるように思う。