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今日のアフリカ

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サヘルのクーデタ、ンベンベの分析

2023/08/05/Sat

 サヘル地域で続発するクーデタを受けて、カメルーン出身の著名な知識人アシル・ンベンベの寄稿が4日付けルモンド紙に掲載された。興味深い内容を含むので、概略を報告する。
 サヘルで次々に軍部が政治権力を握り、フランスや国連に撤退を命じ、人々が歓呼してそれを支持する状況を、ンベンベは「新主権主義」(néosouverainisme)の台頭と表現する。脱植民地化が不完全な状況下で、「主権」を要求するわかりやすい主張が、不満を抱える層(特に、1990年~2000年代に生まれた若者たちと、海外のディアスポラ)に受け入れられ、そこで増幅しているのである。
 「新主権主義」者たちはパンアフリカ主義に言及することがあるが、前者は後者が痩せ細ったものであり、一貫した政治思想ではない。若者たちや先進国で社会統合に失敗したディアスポラたちは、反帝国主義やパンアフリカ主義の称揚を耳にして育った。しかし、彼らが十分に理解していないのは、反帝国主義やパンアフリカ主義が、いかに現代における3つの思想的な柱(民主主義、人権、普遍的正義)に貢献してきたのか、ということた。「新主権主義」は、これら3つの思想と切断している。「新主権主義」の支持者は、大陸外の国々に背を向ければアフリカが解放されると考えており、民主主義に価値を置いていない。
 20世紀末から21世紀はじめにかけて、アフリカは、表面的な好景気の中で、略奪と搾取の時代を経験した。それは一部の人々が私的蓄積を進めた時代であった。そうした時代の後で、「新主権主義」が台頭した。
 アフリカは現在、大きな曲がり角にある。アフリカに人間の安全保障がなければ、ジハディストとの戦いには勝利できない。安定と安全保障は民主主義の深化によってしか得られない。
 ンベンベの論考は例によって難解だが、続発するクーデタをアフリカの歴史的社会変容の帰結として捉えている。彼はまた、軍事的介入によって事態を反転させることに悲観的な見通しを示している。どうすればいいのか、という声が社会に満ちる中で、民主主義や人間の安全保障の価値に立ち返る姿勢は、貴重だと思う。
(武内進一)