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今日のアフリカ

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南アフリカ・米国関係の緊張

2023/05/14/Sun

 11日、ブリゲティ(Reuben Brigety)在プレトリア米国大使は、地元テレビ番組で、南アがロシアに武器を提供したとして、同国が主張するウクライナ戦争への中立性に疑問を呈した。大使は、2022年12月初めにケープタウン近くの軍港に停泊していたロシア貨物船が、武器を運搬したと主張した。この発言が伝わるや、為替市場ではラントが売られ、大幅な安値を記録した。
 これに対して南ア大統領府は、本件については調査中であり、大使が「このような非生産的なスタンスを取ることに失望を禁じ得ない」との声明を発表した(12日付けファイナンシャルタイムズ)。
 この問題はしばらく前から燻っていたものだ。昨年12月初めにロシア船Lady R号がケープタウン近くのサイモンズ・タウン(Simon's Town)に停泊していたこと、この船が入稿の際に送受信装置を切っていたことは、既に今年1月に報道されていた(1月27日付FT)。最大野党の民主同盟(DA)も、本件について、不明な点が多すぎると批判していた。
 米国内には、「非同盟主義」を掲げてウクライナ侵攻のロシアを非難しない南アフリカに苛立ちの声がある。今年2月には中国、ロシアと軍事演習を行い、8月にはBRICSのサミットを主宰する。米国の思い通りにならない南アに対して、AGOAから排除し、関税優遇措置を剥奪すべきだとの声も出ている(4月27日付FT)。大統領付国家安全保障顧問のムファマディ(Sydney Mufamadi)をトップとする使節団が最近ワシントンを訪れ、ウクライナ問題に関する南アのスタンスを説明し、AGOAの維持を求めたところである(5月13日付FT)。このLady R号事件についても、調査を約束していた。
 こうしたなかでブリゲディ米大使の発言があったわけだが、その後は両国ともにいたずらに事を荒立てないよう努めているように見える。翌日大使を呼び出した南ア外務省は、同大使がパンドール外相に対して「率直に謝罪する」と述べたと発表した(5月12日付FT)。ブリンケン米国務長官がパンドール外相に連絡した一方、ムファマディ顧問も南アとしてこの問題を自主的に調査すると約束した。
 米国は非同盟主義そのものを批判していない。グローバルサウス全体を敵に回せば、ロシアの思うつぼだ。一方で、思い通りに動かない南アのような国への苛立ちは、とりわけ議会あたりに強い。今回の一件は、そうしたせめぎ合いを示している。
(武内進一)