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今日のアフリカ

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スーダンの武力紛争とイスラーム主義勢力

2023/05/04/Thu

 スーダンで勃発した武力紛争のなかで、イスラーム主義勢力の復権が囁かれている。4月25日、バシール政権時代(1989~2019年)の要人ハルーン(Ahmed Haroun)のメッセージがテレビで流され、彼が監獄から逃亡したことが明らかになった。ハルーンは、ダルフール紛争での人権侵害に関与し、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が発出された人物である。ハルーンだけでなく、バシール政権期の要人十数名が混乱の中で刑務所から解放されたという(26日付ルモンド)。
 バシールは1989年6月30日のクーデタで政権を握ったが、これを主導したのはイスラーム主義勢力であった。バシール政権転覆に伴って、彼らは1989年クーデタに加担した容疑で一斉に逮捕・収監された。その彼らが刑務所から解放されたわけである。なお、バシール自身はしばらく前に刑務所から病院に移送されたようだ。
 4月25日のメッセージで、ハルーンは国軍を支持するよう呼びかけた。軍はイスラーム主義との関係を否定するが、内部に支持勢力が残存している可能性は否めない。また、2021年10月25日のクーデタで文民政権が倒れて以降、ブルハーンはイスラーム主義者に有利な決定を繰り返してきたとの指摘もある。
 一方、バシールに取り立てられたにもかかわらず寝返ったヘメティは、イスラーム主義者から見れば「裏切り者」である。こうした背景からハルーンが国軍への支持を訴えたと見られる。ヘメティの側は、今回の紛争を「イスラーム主義者への戦い」と位置づけ、バシール政権を打倒した民衆の支持を得ようとしている。
 今回の武力衝突がなぜ起こったのか、どちらの陣営がなぜ攻撃を仕掛けたのかは、依然謎である。3日付けルモンドでは、今回の武力衝突で利益を得たのはイスラーム主義者だけだ、として、衝突をイスラーム主義者が仕組んだ可能性を示唆している。
 事態がはっきりするまでまだ時間が必要だが、30年間のバシール政権のレガシーが様々な形で現れていることがわかる。
(武内進一)