1月20日、パリ第八大学教授で歴史家のバンジャマン・ストラ(Benjamin Stora)が取りまとめた報告書がマクロン大統領に提出された。これは、アルジェリア戦争を中心としたフランス・アルジェリア間の記憶をめぐる和解(réconciliation mémorielle)に関する報告書であり、両国間に横たわる複雑な歴史問題に向き合おうとするものだ。マクロンは、歴代の仏大統領の中で初のアルジェリア戦争後生まれであり、就任前からアルジェリアでの植民地支配を「人道に反する罪」だと述べるなど、両国間の歴史問題に取り組む姿勢を示してきた。その一環で、アルジェリア戦争がフランス、アルジェリアで生み出した傷の癒しに資する提言を、歴史家のストラに求めたのである。
1月20日以降、ルモンド紙は連日この提言やアルジェリア戦争について大きく取り上げている。アルジェリア戦争はフランスにとってきわめて大きな歴史的事件であり、調査によれば、18~25歳のフランス人の39%は、家族に一人はアルジェリア戦争に何らかのかかわりがある人がいると回答している(22日付ルモンド)。当然ながら、植民地支配と戦争に対する見方は、フランス、アルジェリアの双方で多様である。フランス側では、アルジェリア独立戦争の大義を主張したサルトルのような知識人から、それに反対した入植者(ピエ・ノワール)や軍人まで様々だし、アルジェリア側にも解放戦線(FLN)だけでなく、ハルキ(Harki)と呼ばれる仏軍側で戦った人々もいる。
報告書の政治的反響を考慮して、その提出時期は慎重に検討された。報告書は、2020年9月末には概ね準備できていたが、フランス側の理由(テロ事件、警察暴力への抗議など)とアルジェリア側の理由(テブン大統領の不在)の双方により、提出が大きく遅れたと報じられている(20日付ルモンド)。
20日付ルモンド紙に従い、22の提言の概要を以下に示す。
1.戦争終結(1962年3月19日)、フランスでのアルジェリア人労働者運動鎮圧(1961年10月17日)など、記念日の公式化。
2.真実と和解のための証言の収集
3.19世紀半ば、フランスの侵略に抵抗したエミール・アブデルカデルの記念石柱建設
4.1957年のアルジェにおける弁護士アリ・ブーメンジェル(Ali Boumendjel)の殺害にフランスが関与したことを認める
5.2012年オランド大統領のアルジェ訪問時に設置されたワーキンググループの作業に基づき、アルジェリア戦争における「行方不明者便覧」(アルジェリア人、ヨーロッパ人)を刊行する。
6.フランスが1960~66年にアルジェリアで行った核実験の場所を特定する共同作業を行う。
7.国立自然史博物館(Muséum national d'histoire naturelle)に保存されている19世紀のアルジェリア戦士の人骨調査を仏・アルジェリア共同委員会で進める。
8.ハルキとその子供たちが仏・アルジェリア間を移動しやすくするよう、アルジェリア当局と検討する。
9.1962年7月にオランで起こったヨーロッパ人誘拐、殺害事件の解明に向け、仏・アルジェリア合同歴史家委員会を立ち上げる。
10.アルジェリアにおけるヨーロッパ人、ユダヤ人の墓地保存を支援する。
11.通りに海外出身者の名前や、旧フランス領で活躍した医師、芸術家、教師などの名前をつける。
12.2013年に設置された史料(アルシーブ)に関する共同委員会の活動を活性化させる。
13.研究者のビザ発給要件を緩和する。
14.仏・アルジェリア関係に関する研究書出版を助成する。
15.文学や歴史書のフランス語・アラビア語翻訳に資する基金を設立する。
16.学校教育において、仏・アルジェリア関係に関するプログラムをより充実させる。
17.若手芸術家の作品を支援する仏・アルジェリア共同事務局を設置する。
18.かつて構想されたフランス・アルジェリア歴史博物館プロジェクトを再活性化させる。
19.2021年に、アルジェリア戦争に反対した知識人(フランソワ・モーリアック、レイモン・アロン、ジャン=ポール・サルトル、ポール・リクールなど)を顕彰する国際研究集会を開催する。
20.2021年に、アフリカ独立に関する展示と研究集会を国立移民史博物館(Musée national de l'histoire de l'immigration)で開催する。
21.アルジェリア戦争に反対した弁護士ジゼル・アリミ(Gisèle Halimi)をパンテオンに埋葬する。
22.1830年のアルジェ征服時に持ち去られた歴史法典"Baba Merzoug"(la Consulaire)の再現に向けた仏・アルジェリア共同歴史家委員会を設置する。
提言のなかには、実現に相当の政治的困難が予想されるものもある。とはいえ、大統領が歴史家に依頼し、こうした提言が提示されたことは、大いに評価すべきだと考える。植民地支配の見直しという歴史的な流れに位置づけられる動きであり、私たちにとっても考えさせられる問題である。