4月27日付ルモンド紙は、米国がバルカンヌ作戦への関与を当面継続するとのパルリー仏軍事相の発言を報じた。バルカンヌ作戦はサヘル地域でのフランスの軍事行動で、イスラーム急進主義勢力の活動を制圧するために5千人以上の兵士を派遣している。広大なサヘル地域での活動は困難を極めており、仏軍にも多くの犠牲者が出ている。最近、トランプ政権は、アフリカでの軍事活動を縮小する意向を示しており、バルカンヌ作戦への協力を停止する可能性が取り沙汰されていた。フランスは、サヘル地域で多国間の安全保障枠組みを構築することに熱心で、当事国からなるG5サヘルを組織するとともに、EUそして欧米諸国に関与を呼びかけている。多国間枠組からの離脱をちらつかせる英米に対しては、引き留めに躍起になっている。
安全保障の多国間枠組みの維持は簡単ではない。4月初めには、サヘル地域の重要なプレーヤーであるチャドのデビィ大統領が、今後チャド軍は自国外での軍事行動に協力しないと表明した。これは、3月23日に「西アフリカのイスラム国」(ISWAP.ボコハラムの分派)の攻撃によって98人のチャド軍兵士が死亡する事件を受けての発言であった。チャド軍は、ISWAPに対してその後反撃し、政府発表で相手方1000人を殺害したとのことだが、4月9日になってデビィ大統領が自国以外での軍事行動に参加しないと表明した。
名指しこそしなかったが、この発言はナイジェリアやフランスを念頭に置いたものと見られる。チャド軍は砂漠での戦闘に高い能力を持ち、サヘル地域での「対テロ」活動で大きな役割を果たしてきた。デビィはこれによってフランスに恩を売る格好になっていたし、ナイジェリアに対しては軍事力の大きさにかかわらず関与が低いと不満を抱いていた。自国軍が大きな犠牲を受けたことで、対外活動から手を引くと述べてパートナー諸国に揺さぶりをかけたと見られる(4月16日付Africa Confidential)。
デビィの発言は、これまでチャドの軍事力に国防を依存してきたニジェールなど他のサヘル諸国にも衝撃を広げた。その後チャド外務省は、デビィの発言をそのまま認めることはせず、これまで通り国連PKOのMinusma、G5サヘル、ナイジェリアとの共同軍事作戦MNJTF(Multinational Joint Task Force)に参加すると確認した。当面は一息ついた形だが、こうした揺さぶりはこれからも続くだろう。サヘル地域では多国間安全保障枠組みが最も現実的ではあろうが、その実態は決して楽観を許すものではない。