西アフリカのサヘル地域では、マリやナイジェリア北部を中心にイスラーム急進主義を掲げる集団の影響力が広がり、治安の悪化が続いている。ブルキナファソにおいても、ここ1~2年の間に急速に状況が悪化した。マリ中部からブルキナファソ北部では、牧畜に依存するフルベ人(プール人ともいう)と農耕民との間の対立という形で紛争が広がっている。これは、2015年頃からフルベ人がリーダーを務めるイスラーム急進主義組織が勢力を拡大し、そこにフルベ人の若者が多数参入したことがきっかけとなっている。
マリ中部ではフルベ人と農耕民のドゴン人、ブルキナファソ北部ではフルベ人と農耕民のモシ人が主たる対立軸になっている。相互に自警団がコミュニティに攻撃を繰り返すことで、多数の一般市民が殺害され、国内避難民が急速に拡大した。よく知られているのは、モシの自警団コルウェオゴ(Koglweogo:「叢林の番人」の意)で、この3月8日にブルキナファソ北部でフルベ人の3つの村が襲撃された事件の実行犯だと指摘されている。
ブルキナファソ下院は1月21日、「祖国防衛ボランティア」を育成する法案を採択した。これは一般市民に対して2週間の訓練を行い、武器の扱いなどを教育して、コミュニティ防衛を担わせる政策である。この法案は、繰り返される市民への攻撃への対応策として2019年11月に提案された。3月11日付ルモンド紙によれば、政府はこのボランティアはまだ実施段階に至っていないと述べているものの、コルウェオゴのメンバーがボランティアに採用され、次のように証言している。
「軍は私たちに銃の扱いを教え、武器を与えた。武器は作戦以外の機関においてはチーフが保管する。怪しい人物がいるとの通報があれば、我々が行って捕まえる。10人中9人はフルベ人だ」。
3月17日ルモンド紙に掲載された、ヒューマン・ライツ・ウォッチのペドノー(Jonathan Pedneault)研究員の論考は、「祖国防衛ボランティア」政策の危険性を指摘している。イスラーム急進主義勢力は以前は政府機関を攻撃していたが、近年ではコミュニティの指導者が狙われている。これに対してコルウェオゴのような自警団が報復攻撃をするために、多くの市民が被害を受けている。
ブルキナファソ政府は「ボランティアを民兵にしない」と述べているものの、紛争がコミュニティ間の対立に転化しつつある中で、民間人を紛争に動員する政策は相当に危ういものがある。