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今日のアフリカ

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スーダン内戦の地域化

2025/12/24/Wed

 2023年4月に始まったスーダン内戦は、周辺国の多様な関与のなかで続いている。ルモンド紙は最近スーダンに関する連載記事を掲載しており、興味深い内容が含まれているので紹介する。

 ブルハーンの軍事政権とヘメティのRSFの戦いにおいて、エジプトが前者を、UAEが後者を支援していることはよく知られている。エジプトの関心はナイル川の流域支配にある一方、UAEについてはアフリカ大陸北東部からサヘル地域にかけての影響力拡大にあるようだ。
 エジプトとともに軍事政権側についているのは、エリトリアとソマリアである。いずれも反エチオピアという点でエジプトと立場を同じくする。エジプトにとってエチオピアは、ダム建設によってナイルの水資源を支配しようとする宿敵である。
 一方RSF側には、リビア東部を支配するリビア国民軍(LNA)、チャド、南スーダン、ウガンダ、エチオピア、ケニアなどがついている。この背景には、UAEによる資金提供がある。UAEは、コロンビア人の傭兵を送り、チャドやソマリアのプントランド経由で武器を送るなどRSFを直接支援しているが、それに留まらず、周辺国の指導者にも資金を提供し、RSF支援に協力させている。
 チャドに対してUAEは、2023年に補助金や貸付の形で2億ドルを供与した。今年3月、ナイロビでRSFによる政府設立を発表する大規模な会議が開催されたが、その1週間後、ケニアはUAEから15億ユーロの貸付を得た。UAEは豊富な資金を使って同盟国を増やしている。
 ただし、UAEの関与とRSFへの支援は、アフリカ諸国の内政に影響を与えている。その代表例はチャドである。チャドのデビィ政権は、スーダン国境に近い地域を地盤とし、ザガワ(Zaghawa)人が中枢を占めている。
 10月26日には北ダルフールの州都エル・ファーシル(El-Fasher)がRSFに制圧され、多くの住民が虐殺された。RSFはダルフールのアラブ人を中心とする組織で、一方エル・ファーシルの犠牲者やそこでRSFと戦った武装勢力の多くはザガワ人である。
 RSFによるエル・ファーシル制圧や虐殺に対してチャドから公式の反応はない。チャドのマハマト・デビィ大統領はUAEから多額の支援を受けており、また自らの出身コミュニティであるザガワを治安面で警戒していることから、RSF支援の立場をとっている。国内には不満と怨嗟の声が渦巻いているようだ(23日付ルモンド)。
 UAEやエジプトの関与を止める者はいない。サウジアラビアと米国を加えた4ヵ国がスーダン内戦の調停を進めることになっているが、調停者が内戦当事者を焚きつけているのが現状である。
 米国は、スーダン和平と新政権の枠組みにおいて、ブルハーンの軍事政権もヘメティのRSFも排除されると述べている(12月8日付ファイナンシャルタイムズ)。しかし、UAEに対してRSF支援を止めるよう圧力を加えることはほとんどない。イスラエル・パレスチナ紛争や対イラン政策においてUAEとの関係は非常に重要で、米国はスーダンのためにUAEとの関係を悪化させたくない、という見方が強い(19日付ルモンド)。
 周辺国の関与がなければ、スーダン内戦がここまで激化、長期化することはなかった。紛争の影響は、難民や武器流通、さらには政権の不安定化といった形で周辺国に及ぶことだろう。(武内進一)

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