• アクセス
  • English
  • 東京外国語大学

今日のアフリカ

今日のアフリカ

南アフリカを標的とした米国の行政命令

2025/02/11/Tue

 7日、トランプ米大統領は、南アフリカの「目に余る」(egregious)行動への対応とする行政命令を発した。これにより、米国は南アへの援助を停止するとともに、南ア政府による「人種差別を逃れるアフリカーナー難民の移住を促進」する。

 この行政命令発布の根拠として、米国は2つの点で南アを非難している。第一に、イスラエルを非難し、イランとの関係を深めるという米国と同盟国に攻撃的な対応をしたことである。イスラエル・ハマス戦争の中で、イスラエルの行動が「ジェノサイド」であるとして国際司法裁判所(ICJ)に訴えたこと、また外相訪問などイランと接近したことが批判されている。

 第二に、雇用、教育、ビジネスにおける機会平等を破壊する政策をとり、エスニックマイノリティのアフリカーナー農民の土地を補償なく収容する法律を制定したことである。1月24日に制定された収用法(expropriation act)がアフリカーナー農民の財産権を侵害するとし、雇用、教育、ビジネス面での黒人への優遇措置とともに非難されている。

 これに対して、南ア政府は8日短い声明を発し、次のように反駁した。「米国の行政命令は、事実関係において不正確な前提に立ち、南アの植民地化とアパルトヘイトの歴史に対する理解を欠いている。事実誤認とプロパガンダのキャンペーンに懸念を表する。また、南アで最も豊かな人々に難民のステータスを与え、その他の地域から米国にやって来る人々を強制送還するのは、皮肉である。南アは今後も、誤解や論争に外交的な方策を見つけるようコミットする。」

 米国の共和党議員には南アに強い不満を持つ層がおり、バイデン政権期にもAGOA(アフリカ成長機会法)からの追放などを主張していた。トランプ政権に代わったタイミングで、その影響力が前面化したのだろう。

 しかし、トランプ政権が問題視した収用法に目新しい点はなく、白人を主たる支持層とする野党のDA(民主同盟)も、「国家が恣意的に土地を収用できる法律だというのは正しくない」と収用法を弁護している。AfriForumのようなアフリカーナー・ナショナリスト組織からも、自分たちは難民ではないし、南アを罰してくれと頼んだことはない、との主張が上がっている(10日付ルモンド)。

 米国による今回の措置は、トランプ政権がアフリカをどのように扱うかを示している。総じてアフリカに関する知識が乏しく、ロビイストの数も少ないために、少数の極端な意見が通りやすいのだろう。こうした的外れな政策が続けば、現行の国際秩序に不信を抱く人々をさらに増やすだけだ。(武内進一)

クラウドファンディングへのご協力ありがとうございました。引き続き、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。