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今日のアフリカ

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美術品返還をめぐる議論

2024/09/29/Sun

 ヨーロッパ諸国が植民地支配に伴ってアフリカ大陸から持ち去った美術品に関して、ここ数年来返還の動きが強まっている。フランスでは、2017年にマクロン大統領がブルキナファソ訪問時に美術品返還の方針を示し、2018年にはセネガル人フェルウィン・サール(Felwine Sarr)とフランス人ベネディクト・サヴォイ(Bénédicte Savoy)という二人の研究者が執筆した返還に向けた報告書が公表された。しかし、返還の具体的な進め方については、議論百出でまとまっていない。28日付ルモンド紙のTribune(意見表明欄)に、興味深い意見が掲載されたので、紹介する。フランソワ・ブランとジャン=ジャック・ヌールによるものである。

 美術品返還問題に関しては、2つの極端な立場が対立している。一方は植民地期に収奪された品々の返還を要求する声であり、もう一方はヨーロッパの収集品を世界的な至宝として厳格な保全を訴える声である。

 美術品返還は当然の要求であり、それに対応する形で2020年にはフランスからベナンやセネガルに返還がなされた。一方、西側の大きな美術館に美術品を置くことで、知られざる文化に光を当てるという意味もある。ロンドンの大英博物館やパリのケ・ブランリー美術館の展示は、こうした美術品を世界的に有名にしている。

 美術品を全面返還すべきなのか、それとも普遍的な価値あるものとして先進国で保全すべきなのか。二つの立場の対立に関して、我々は、美術品を所有する美術館・博物館の経営を国際化することが解決策になると考える。UNESCOが責任を持つ形で、美術品を国際的に管理するのだ。こうすれば美術館は、国宝以上のもの――すなわち世界遺産を伝える大使となる。

 この考えは突飛なものではない。1972年以来、多くの文化財、自然財が世界遺産として登録されてきた。世界遺産のガバナンスを国際的な収集物の保全に拡大すべきである。

 美術品の収奪をめぐる議論も数多い。古代からナポレオン、ヒトラーに至るまで、多くの美術品収奪があった。この問題は植民地支配に関わる問題に限定せず、文化遺産の強制的な移転という文脈で考えるべきだ。ただし、返還要求のすべてが同じ重要性を持つわけではないし、要求があれば文化遺産を必ず返還しなければならないということでもない。

 危険なのは、美術館が国威発揚の展示場になることだ。関係国が協力し、国際的なスタッフで美術館を管理することを考えてよい。もともとその美術品があった国から要求があれば、常に貸し出しがなされるべきだろう。これによって、収集物のインテグリティが守られる。分極化を深める世界にあって、我々は「壁」ではなく「橋」を建設する必要がある。美術館は、世界遺産の大使としての役割を担うべきである。

 日本の我々にも考えさせられるところが多い議論だと思う。美術品返還をめぐる軋轢は、「橋」をつくるチャンスでもあるのだ。(武内進一)

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