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今日のアフリカ

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FGMをめぐるガンビアの動き

2024/03/09/Sat

 3月8日の「国際女性の日」を前に、UNICEF(国連児童基金)は7日、FGM(女性性器切除)に関する報告を発表した。FGMとは女性の外部生殖器を部分的、または全体に切除する行為である。報告によれば、FGMを受けた女性の数は全世界で2億3000万人に上る。うちアフリカは1億4400万人で、アジア(8000万人)、中東(600万人)よりずっと多い。
 施術者数は、シエラレオネ、エチオピア、ブルキナファソ、ケニアなどで大きく減少しているが、ソマリアのように15~49歳の女性の99%にFGMを経験している国もある。他にも、ギニア(95%)、ジブチ(90%)、マリ(89%)といった国で比率が高い。報告では、懸念すべき傾向として、施術の低年齢化が挙げられている。5歳以下で施術されることが増え、外部から関与する可能性を低めている。
 FGMは単に文化慣習の問題ではなく、複雑な様相を呈している。3月4日、ガンビア議会は、FGMを禁止した2015年法を再検討する審議を開始した(5日付ルモンド)。この背景には、FGMの禁止解除を求める世論がある。4日も議会内外で、「女子割礼」は深く根付いた伝統であり、その禁止は慣習を実践する権利を制約する、と訴えるデモがあった。一方で、複数の市民団体は、法による禁止継続を訴えている。
 この法律は、1996年から2017年までガンビアを支配したジャメー前大統領の下で制定された。2015年、ジャメーはFGMはイスラームの教えにないとして禁止する政令を発布し、その後議会が同じ内容の法律を制定した。同法では、FGMに対して懲役3年以下の刑罰が規定されている。
 2023年、3人の女性がFGMに関連して訴えられ、その罰金を宗教指導者が支払うという事件があった。その後、ガンビアの宗教組織「最高イスラーム評議会」は、「女子割礼」はイスラームの観点から合法だとの判断(ファトワ)を下し、政府に禁止解除を求めた。議会の審議は、それを受けたものである。
 ガンビアの事例からは、この問題が文化だけでなく、政治とも深く関連していることがうかがえる。独裁者ジャメーの下で制定された法律であるだけに、その後彼が放逐され、民主化したガンビアで多様な意見が表出されるようになると、見直しへの機運が高まったということであろう。
 FGMはSDGsでも取り上げられるグローバルな課題だが、他の開発課題と同様に単純ではない。文化をめぐる問題は、必ずと言っていいほど政治と関わっている。
(武内進一)