7月9日、南スーダンは分離独立してから10年を迎えた。本来であれば記念式典が盛大に行われるところであるが、新型コロナウイルス感染症の拡大を理由に式典は中止され、国民に向けたテレビ演説のみが行われた。この演説のなかで、サルバ・キール大統領は、「新たな10年は、国民を再び戦争に戻すことはないと保証する。ともに失われた10年を取り戻し、国家を開発に向けた道筋へと戻そうではないか」と述べた。
しかし、南スーダン国内には祝賀ムードはほとんどない。10月9日付のAl Jazeeraは、専門家のコメントや市民の声を取り上げながら、独立に沸いた歓喜の声は、10年経った今ほとんど聞かれないと報道している。また、南スーダン教会評議会(South Sudan Council of Churches: SSCC)は、10周年に先立ち、「独立から10年間、日々、国のいたるところで命が失われ、われわれの心は苦痛、苦悩、混乱、悲嘆に呻き続けた。この10年は、南スーダンの人々にとって本当に困難な時間と経験であり、祝うべきことはほとんどない」と述べた。
南スーダンは、2011年7月に独立したものの、わずか2年後の2013年12月に勃発した国内紛争によって推定約40万人が犠牲となり、国民の3分の1が国内外に避難するという大惨事がもたらされた。2018年9月に、2度目の和平合意である「再活性化された紛争の解決に関する合意(Revitalized Agreement on the Resolution of the Conflict in South Sudan: R-ARCSS)」が締結され、2020年2月には、南スーダン政府と敵対する政治勢力の権力分有に基づく新たな国民統一暫定政府(Trasitional Government of National Unity: TGoNU)が発足した。しかし、その後も、対立する政治勢力間での意見調整は難航し、合意の履行は遅れた。和平合意の鍵ともいえる政府軍と反政府軍双方が参加した統一した国軍の編成については未だに達成されていない。国内各地に設けられた野営地では、何千人もの兵士たちが、物資と食料の不足に苦しみながら、訓練と卒業を待ち続けている。
2018年の和平合意後、大規模な戦闘は沈静化したものの、コミュニティ間の衝突は増加している。2018年以降、市民の犠牲者のほとんどはコミュニティ間の衝突によるものであり、なかには数百人規模の犠牲者を出した事件もある。また、2019年以降は、ナイル川流域の洪水やサバクトビバッタによる食害が発生したことにより、食糧危機が深刻さを増した。ある国際NGOは、現在720万人の国民が飢餓寸前の状態にあると警鐘を鳴らしている。しかしながら、南スーダン政府がベーシックニーズとヘルスケアに充てる予算は世界最低レベルであり、依然として国民はまともな医療サービスにアクセスできていない。
こうしたなか、暫定政府の中にも新たな分断が見え始めている。2021年3月には、前大統領顧問が、キール大統領は平和的に政権の座から降りるべきだと発言し、物議をかもした。一方、これまでマチャル副大統領を支持してきたヌエルの軍人たちの間にも離反の動きがみられるようになっている。総選挙は2022年末に予定されているが、それまでの間に権力争いが再び激化しないかが懸念される。
和平合意の履行が遅々として進まないなか、南スーダンは独立から10年を迎えた。持続的な平和の達成に向け、南スーダン政府には、現在の政治的不安定と人道危機を乗り越えるための具体的な施策を講じるとともに説明責任を果たすことが強く求められている。