ステレオタイプを超えて、現場のリアルと向き合う ──自由な探求を促す風土と、現地で学ぶことの本質
~坂井 真紀子教授 × 山本 貴仁さん(国際社会学部アフリカ地域専攻) 対談~
外大生インタビュー

2022年の入学以来、学生主体のプロジェクトや留学の企画、現地での小規模金採掘(ガラムセイ)問題の調査・研究へと歩みを進めてきた山本さん。そして、2012年度にアフリカ地域専攻が開設されて以来、学生たちの自主的な試みを温かく見守ってきた坂井教授。
「貧困」や「発展途上国」という既成概念にとらわれず、現地の人々の生きた声や知恵と向き合う中で、いかにして独自の学びと自発的なカルチャーが育まれてきたのか。二人が歩んできた軌跡と、現地で学ぶことの本質、そしてこれからのアフリカ研究の展望について語り合いました。
【対談者】
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坂井 真紀子教授
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山本 貴仁 さん(国際社会学部アフリカ地域専攻4年)
関心の原点と選択──ステレオタイプを解きほぐす学び
山本さん 実は、坂井先生とは高校の先輩・後輩なんですよね。
坂井教授 たまたまそうだったんですよね。山本くんが入学してきた時には知らなかったけれど、オリエンテーションの時に分かってびっくりしました。
山本さん 私が東京外国語大学に入学したのは2022年4月で、アフリカ専攻ができて10年が経った時でした。高校の時から漠然とアフリカに関心があり、「発展途上国」という枠組みの中で何か役に立ちたいという思いがありました。そこからアフリカの歴史やパン・アフリカニズムに興味を持つようになり、日本で唯一、学部レベルでアフリカを学べる専攻に入ったんです。
坂井教授 最初はみんな「貧困」や「支援」といったステレオタイプから入ってきますが、アフリカ地域専攻ではまずそのイメージを一度壊してもらうことを意識しています。教科書や教員の話を聞いたり、2年生以降で実際に現地に行ったりする中で、「なんて豊かな大陸なんだ」と認識が変わっていきますよね。山本くんは1年生で入ってきた時から、自主的に色々と動いていましたね。
自発的な試みと学びの継続──危機を乗り越えたクラウドファンディング
山本さん 先生方がやりたいことを自由にさせてくれましたし、同級生もやる気のある仲間が多かったです。外語祭における語劇や料理店だけでなく、留学生との交流会やルワンダの協定校へのスタディツアーを自分たちで立ち上げたり、大使館を訪問したりと積極的に企画や運営に参加しました。動けば何かができるという自信が学生の間に生まれ、それが次の代へも引き継がれていると感じます。
坂井教授 専攻立ち上げ当初は私ともう一人の島田先生(*1)の二人きりで、手探りでした。でも、現代アフリカ地域研究センターができたり留学制度が整ったりして、山本くんたちの代がその環境をうまく調理して使ってくれましたね。留学生との交流も、大学の制度任せではなく学生自身が自主的に作ってくれました。
山本さん その積み重ねの一つが、2024年から2025年にかけて実施したクラウドファンディング(*2)です。文科省の5年間の事業(展開力事業)(*3)の資金が終わると、留学や留学生招聘の資金が縮小してしまうという危機感がありました。
坂井教授 一度開かれた可能性やネットワークが縮んでしまうのは本当にもったいないですからね。
山本さん そこで教職員・学生・留学生がチームを組み、アフリカに関わる東京外大生全員で頑張った結果、目標150万円に対して268万円を集めることができました。
*1:現・京都大学名誉教授の島田周平先生
*2:クラウドファンディング「アフリカの留学生を東京外大へ!」
*3:文部科学省「大学の世界展開力強化事業(展開力事業)」。国際的な教育連携や学生の双方向留学を支援する事業で、本学ではアフリカ協定校とのネットワーク等を活かした「アフリカ展開力事業(IAFP)」などが展開されてきました。
・本学のアフリカ展開力事業(IAFP)
・本学の「大学の世界展開力強化事業」取組一覧
(左から3番目:元交換留学生で現在は本学博士後期課程に在籍、左から6番目:元交換留学生で現在は本学国際日本学部3年に在籍、左から7番目:山本さん)
学びを社会にひらく──外語祭「リアルクラウドファンディング」と繋がる風土
坂井教授 クラウドファンディングは継続してできるものではないので、今度は外語祭(*4)で新しい企画を立ててくれたんですよね。
山本さん はい。「リアルクラウドファンディング」(*5)として、外語祭で提供するアフリカ料理の売り上げを留学生の招聘資金に充てる計画です。単に資金を集めるだけでなく、一般の方のアフリカに対する根強いステレオタイプを変えるために、教室企画も組み合わせています。
坂井教授 屋外での出店に加えて、講義棟内の教室も使うんですよね。
山本さん 留学生によるアート展示や、カメルーン留学経験者による現地のダンスワークショップなど、体験を通して学べる循環型の企画を準備しています。1年生から4年生まで約30名の学年横断チームで動いています。
坂井教授 アフリカ専攻は縦のつながりが強く、オープンキャンパスなどもほぼ全員参加で文化祭のようなノリになる独自のカルチャーがありますよね。教員としても本当にありがたいですし、頼もしいです。
*4:第104回外語祭 公式サイト
*5:第104回外語祭「Wings of Africa」出展のご案内
現場(フィールド)の現実と葛藤──ガーナ留学での小規模金採掘(ガラムセイ)問題の衝撃
山本さん 私自身、最初のアフリカ体験は1年生の2月に学生団体MPJ Youthの活動でケニアに行ったことです。先輩に連れて行ってもらい、徐々にリミッターが解除されて自分で動けるようになりました。
坂井教授 私の最初のアフリカは、最初の仕事を辞めた27歳頃でした。栃木県のアジア学院という有機農業の学校で1年間住み込みボランティアをし、そこで出会ったアフリカの研修生たちに手紙を出して、返事が来たところへ6ヶ月間一人旅をしたのが原点です。その後、NGOでチャドに5年ほど駐在した時は資金を出す「パトロン」として見られることに違和感があり、30代でフランスへ留学して貧乏学生としてフィールドワークをした時に、対等な関係性の大切さを実感しました。
山本さん 私はガーナ大学への交換留学中、日本のNGOでのインターンを通じて小規模金採掘(ガラムセイ)の現場を見に行きました。農地や森林がデコボコに掘り返され、環境破壊や健康被害が起きている現場を目の当たりにして、「何かがおかしい」と強い衝撃と焦りを覚えたんです。
坂井教授 首都の快適な環境や教科書だけでは分からない、現場のリアルですね。
山本さん ステレオタイプで語られがちな問題ですが、現地の人々の声とメディアの語られ方とのギャップに気づき、大学院へ進学してこの問題を長期的・学術的に研究していきたいと決意しました。
*リードダンス:年に1度、少女たちが葦を持ち全国から参加する伝統行事。
画面越しでは得られないもの──現場に身を置く意味
坂井教授 今は世界のどこに行っても、ネットで日本と繋がり続けられる時代だからこそ、意識的に現地社会へ飛び込まないと、日本で動画を見ているのと変わらない留学になってしまう怖さもありますね。
山本さん 私もガーナでは日曜日にあえて下町の友人の教会へ行き、ご飯を作って子どもたちと遊ぶ時間を大切にしていました。これからのAI時代、すでにデジタル化された情報はAIで扱えますが、フィールドにしかない情報や現地に入り込んで得られる一次情報にこそ、より価値が出てくると感じています。
坂井教授 まさにその通りですね。農作業のスピードや薬草の知識など、現地の人々が持つ「身体知」や生きる力を前にすると、自分の弱々しさを痛感させられます。これからのアフリカ研究は「支援対象」としてではなく「対等なパートナー」として向き合い、彼ら自身の発信を理解することが重要になります。歴史や哲学といった人文系の学問の意義を、学生たちが現場で示していってほしいですね。
自由な風土と継承──「頼もしい先輩」と後輩がつなぐ学びの場
山本さん アフリカ地域専攻の先生方は「知識を教える教員」というよりも、「アフリカを長く知っている頼もしい先輩」として接してくださいます。だからこそ学生も気兼ねなく相談でき、やりたいことにチームで取り組める文化ができています。
坂井教授 ルールで縛らず、緩やかにしておくのが良いのかもしれませんね。アフリカ50カ国以上の多様性を教員だけで伝えきることはできませんから、入口(大使館のリレー講義など)を作った後は学生たちにお任せするスタイルをとっています。
山本さん 後輩たちには、このカルチャーを固定化せず、今後も自ら更新・アップデートしていってほしいです。
坂井教授 15年前に着任した時はどうなるかと思いましたが、毎年少しずつ蓄積が広がり、シナプスが繋がっていくようにネットワークが広がってきました。これからも教員・学生・留学生が関わり合いながら、この場所をさらに面白くしていってほしいですね。
(インタビューを終えて)
周囲と共に数々のプロジェクトを形にしてきた山本さん。自ら行動を起こす彼の熱量と、それをあたたかく見守り後押しする坂井教授をはじめとした教員の方々の姿勢が合わさって、自由な挑戦の場が生まれているのだと実感しました。現地でのフィールドワークを経て大学院へと歩みを進める彼が、これからも人々をつなぎながらどのような学びを切り拓いていくのか、今後の活躍から目が離せません。
(2026年9月29日収録)
本記事に関するお問い合わせ先: 広報・社会連携課 広報係 koho[at]tufs.ac.jp([at]を@に変えて送信ください)
