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誰も取り残されない社会を作る ~「共感」から生まれた活動~:岩崎弘治さんインタビュー

外大生インタビュー

「東京外国語大学と言えば留学」というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。実際に、新型コロナウイルスが広がる前は、1年次の学生の53%が夏・冬学期を利用するショートビジットを、3年次の学生の68%が長期留学を経験していました。しかし、コロナ禍で留学が困難になった今、東京外大生は一体どういった活動に力をいれているのでしょうか。「TUFS in New Normal」と題して、この企画では、留学とは異なる挑戦や活動に取り組む学生の姿を紹介していきます。

第1回は、昨年12月に発足した府中BBS会の代表を務める、岩崎弘治(いわさきこうじ)さん(国際社会学部アフリカ地域4年)にインタビューしました。BBSとは、Big Brothers and Sistersの略で、地域の年上のお兄ちゃん、お姉ちゃんという意味で、罪を犯した少年少女の社会復帰の支援や、そうした行為を防ぐための活動を行う団体です。活動に携わることになった経緯や、岩崎さんの活動に対する思いを伺いました。

取材担当:国際社会学部東アジア地域/中国語2年 長谷部結衣(はせべゆい)さん(広報マネジメント・オフィス学生取材班)

アフリカの貧困を救いたい!

——最初に、岩崎さんが東京外大に入学した経緯や、なぜアフリカ専攻を選んだ理由を教えてください。

実は高校3年間は理系で、医学部を目指して二浪しました。結局大学が決まらずに、一浪目も理系の医学部専門の予備校に通っていました。どちらかというと国語や英語の方が点数を取ることができたというのと、もともと英語の音楽がすごく好きだったので、英語に特化した大学に進学したら自分に合っているのではないかと思い、二浪目からは東京外大を第一志望に勉強しました。アフリカ地域専攻を選んだのは、本当に直感としか言いようがなくて・・・。アメリカの歌手のマイケル・ジャクソンがすごく好きなんですが、”We Are The World” という曲が好きでよく聴いているうちに、アフリカには貧困があって、それを救うための活動があることを知り、憧れを持って、僕もやりたいと思うようになりました。そこで、専攻を選ぶときに「アフリカ」という文字を見て、迷わずに選びました。

——これまでにアフリカ地域に留学などに行く機会はありましたか。

2年生の春学期に半年間、ケニアに渡航し、国際協力系の団体でインターンシップに参加しました。首都ナイロビから離れた田舎の場所を活動地とする団体です。団体の主な活動は、首都から離れた田舎の農村地帯を活動地として、小学校に行ってエイズ教育の普及活動を行ったり、ボロボロの学校にマニュアルを運輸して補修したりすることでした。エイズ教育や補修の指示は団体が雇ったケニア人スタッフが行い、実際に活動をするのはその小学校の保護者たち、という構造でした。僕はインターン生として、ケニア人のスタッフと一緒に活動に赴き、その日の活動の様子を団体に伝達する役目を担っていました。インターンシップでは「持続可能性」を大事に活動しました。日本人が現地に入って小学校を直して帰るのではなく、現地の人々を活動の主体に設定することで、団体がいなくなった後も、活動を続けられ、他の地域にも応用できるというメリットがあるからです。

——大学生活の中で大切にしていることはどのようなことでしょうか。

中学・高校は進学校に入り勉強しかしてこなくて、浪人中も含めて「受験のために」勉強するということばかりをしてきました。今までは勉強が90パーセントで、「勉強していれば大丈夫」という環境だったのが、大学に入学して、勉強だけでなくいろいろな選択肢の中から自分自身で選択をしていかなければならないとなった時に、ポツンと取り残されてしまった感覚に陥りました。どこから手をつけていいかわからないという状態になってしまったんです。その中で勉強にも身が入らないし、じゃあ「自分にはどういう価値があるのか」と1年生の頃からずっと悩んでいました。そのうちになぜ大学に入ったのかもよくわからなくなってきてしまって・・・。そのような状態が結構長かったんですが、その中で悩みながらも、これだけは後々自分のためになるだろうと思ったのが、「人との関わり方」でした。これから生きて行く中で、必ず人とは関わっていくだろうなという思いがありました。あとは、僕は話すのが苦手で、自分でも課題と思っていたので、机の上での勉強に集中できないのだったら、自分の中の課題でもある「人と関わること」を攻略しようと思いました。アルバイト先での人との関わりを大切にしたり、一人で飲食店に入って、お客さんとマスターとの会話や、お客さん同士の話し方を見たり聞いたり、実際に話に参加したりして、話し方のコツを勉強していました。このようにして、大学生になってからは、「社会でどう生きていくか」ということを学んできました。

「共感」からBBS活動に携わる

——次に、岩崎さんとBBSとの出会いについて教えてください。

一昨年から、府中市のコミュニティラジオ局「ラジオフチューズ」でアルバイトをしていて、音響の仕事やパーソナリティをしています。昨年の7月頃に、府中市のBBS保護司会と更生保護女性会の会長がゲストとしていらっしゃった生放送番組を僕が担当したのですが、放送の中で、「BBSという学生主体の組織が府中にはなく、ぜひ東京外大と東京農工大の学生にやって欲しいのですが・・・」という話がありました。それを側で聞いていて、放送終了後に「東京外大生なのですが、ちょっと興味あります」とお話しして、それがBBSとの出会いでした。

右はラジオでアフリカ地域専攻のオープンキャンパスをした際の写真

——BBSを知る前に、そのような支援活動などに興味があったのでしょうか。

そうだと思います。だからあの時、声を掛けたのだと今では思いますね。活動の対象が罪を犯した少年少女たちなのですが、その中でもいろいろな人がいます。本当に悪意があって罪を犯してしまう少年少女もいれば、例えば、家庭の中で両親が喧嘩をしていて居場所がなく、外に居場所を求めて悪い仲間に出会い、犯罪に手を染めてしまう人もいます。他にも、親に自分のことを見て欲しくて万引きをしてしまった人など、本当にグラデーションがあるんです。その中の、「居場所がない」という部分に僕はすごく共感できたんです。自分自身は結構恵まれた環境で育ってきたと思うのですが、寂しさや「居場所がない」ということを感じたことがありました。誰に助けを求めたらいいのかも分からない、そもそも助けを求めることが必要なのかも分からない、ということがありました。だからこそ、どうしたらこの環境が変わるのか、どうしたら自分の居心地が良くなるのか、どうしたら周りがもっと居心地が良くなるのかということを考えてきました。BBSという活動があると知った時に、罪を犯してしまう少年少女の気持ちと自分の気持ちがすごく似ていると思ったんです。だとしたら、当時の自分もこういった活動をしている団体の存在を知り、助けを求められていたら、救われたのかな・・・と思いました。この子達は罪を犯すという一線を超えたけど、自分は一線を超えていないだけで、同じような境遇にいた可能性もあると思ったり・・・、やはり他人事とは思えませんでした。

——BBSの活動の概要や歴史などを教えてください。

BBSとは、少年少女と同じ目の高さで共に学び、考えることを理念とし、非行少年や生きづらさを抱える少年たちのいない、犯罪や非行のない明るい社会を目指す青年ボランティア運動です。BBSの活動は、1904年にアメリカで始まった「Big Brothers運動」に起源があり、その後、第2次世界大戦の戦災孤児の非行対策会議に関する新聞記事を読んだ京都の大学生が、荒んだ社会環境の中で、孤児となり非行に走る少年たちの姿に心を痛め、活動を始めたそうです。なので、実は大学生が始めた活動なんですよ。

——府中BBS会は発足から約1年が経ちますが、今まで実際に行った活動や計画中の活動を教えてください。

BBSの主な活動は、非行少年に対する立ち直り支援、非行防止活動、広報活動の3つです。立ち直り支援の中には、メインとなる「ともだち活動」があります。これは、居場所がない子たちの居場所を作ってあげるというのが目的です。簡単に言うと、一緒にゲームをしたり、勉強をしたり、放課後の学童保育のイメージですね。コロナ禍で対面の活動が制限されるのと、場所を確保するには費用面の課題もあるため、同じような活動をしている団体と協力して活動することを考えています。

——府中BBS会発足までで、どんなことが大変でしたか。

メンバー集めが大変でした。現在は、東京外大生と東京農工大学の学生の6人で活動をしているのですが、発足することになってSNSで呼びかけて募集しました。また、コロナ禍で始まった団体なので、コロナの影響で活動が大きく制限されてしまっている現状です。ようやく最近になって、活動の規制が緩和されてきました。なので、本当にこれからだと思っています。

——岩崎さんは活動に携わる上で、どんなことを最も大事にしていますか。

僕個人が大事にしているのは、少年・少女たちと自然体で関わることです。ともだち活動という名前にもある通り、「友達」でないとダメだと思っていて、例えば「矯正しよう」とか「教育しよう」という意思があると、特に傷つきやすい子や一度傷ついてしまった子は、おそらく敏感に察知して拒絶してしまうのではないでしょうか。それを見せないようにするためには、もちろんバックボーンとなる知識や方針は持って接しつつも、あくまで少年少女たちにとってはただ一緒にいてくれる人でありたいと思っています。

——大学生活で学んだことがBBSでの活動にどう生きていると思いますか。

人と関わることですね。スノーボードサークルのリーダーを務めたり、飲食店のアルバイトで年上の人とコミュニケーションを取ったりなど、大学生活で積んだ、人と関わる経験が活動でさまざまな境遇にある人と関わる上で生きていると思います。また、日々の学校生活もそうですし、ボート大会、外語祭の料理店や語劇といったイベントの中で、みんなで一緒に何かをするという経験が多くできました。そうした共同作業を通じて、まずは相手の事を受け止める姿勢を学べたことは、宝物だと思っています。

外語祭(左:アフリカ地域料理店、右:アフリカ地域語劇)

誰も取り残されない社会を作る

——団体として、今後どういったことに焦点を当てて取り組んでいきたいと考えていますか。

コロナが落ち着いたらスムーズに活動ができるように、まずは、府中でのBBS活動や更生保護の認知度を上げることが課題だと思います。来年1月の下旬頃に府中市民の方も参加できる、専門家を招いたオンライン講義を計画しています。府中市での活動の第一歩として、BBSや更生保護の存在を多くの方に知ってもらえたらと考えています。

——次に個人として、府中BBS会発足やこれからの活動などの経験を自分の将来に生かしていきたいと思いますか。

BBSの活動に関わる上での一番大きな目標は、「誰も取り残されない社会を作る」ということです。具体的に言うと、罪を犯してしまった人が、その後社会復帰という選択肢が社会にあるかどうかで、社会はものすごく変わると思うんです。今は、選択肢があるにはあるけど、あまり認知されていなかったり、あるものとして見られていないと思います。そんな社会はどこかに歪みが出てくる気がするんです。例えば、大学を辞めたいと考える人がいたとして、その人に大学に通うことに代わる道が用意されていたとしたら、大学を辞めることはそんなに大したことではなくなる。そういうのが、僕は多様性だと思います。いろいろな道があるのと、一つの道から外れたところにセーフティネットが用意されていて、それがきちんと機能している社会が多様性のある社会で、いろいろな人が生きやすい社会なんだと思います。そんな社会を実現させるための活動にはずっと携わっていたいと思います。いろいろな形があるし、いろいろなやり方があるので、これからじっくりと考えていきたいです。

インタビュー後記
家族や友人、またBBSのような団体など、悩みや困難に遭遇した時に助けを求められる存在を持っておくことは本当に重要であると思います。「罪を犯した少年少女の社会復帰を支援する活動」と聞くと、すごく複雑で難しそうに思えますが、実は大学生が始めた活動で、私たち大学生が主体となって行えるということに驚きました。よりよい社会を実現するために、大学生でもできることがたくさんあるのだということを、改めて気づかされました。取材にご協力いただき、ありがとうございました!
取材担当:長谷部結衣(国際社会学部東アジア地域/中国語2年)

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