大学院での「経験」という財産:藤岡祐羽さん(国際法) インタビュー
外大生インタビュー
日本の文系大学生の大半は就職し、「大学院」に進学する学生は非常に少ないと言われています。まさに社会にとって「大学院」は未知の世界なのかもしれません。そんな大学院にはみんな何かしらの思いと「ほんの少しの勇気」を持って入学してきます。今回取材をした藤岡さんも幼い頃からの夢を実現させるために大学院の門をたたきました。大学院進学の経緯や東京外大の印象、海外での経験などについて伺いました。
藤岡祐羽(ふじおか ゆう)さん:大学院総合国際学研究科世界言語社会専攻国際社会コース博士前期課程1年。専門は国際法。
取材担当:小勝周(おがつ あまね):大学院総合国際学研究科世界言語社会専攻国際社会コース博士前期課程1年、広報マネジメント・オフィス学生記者
大学院進学について
―――なぜ東京外大の院に進学を?
学部時代は愛媛大学 の法文学部に所属し、国際法や国際関係論といった社会科学系の学問を幅広く学んでいました。そんな中、インド留学中に出会ったチベット難民との関わりをきっかけに「人権法」に関心を持ち、卒業論文のテーマとして書き上げました。大学院進学 に関しては「将来、国際機関に就職したい」という思いが元々あったので、大学入学した時点ですでに意識はしていました。愛媛大学大学院という選択肢もありましたが、コミュニティが比較的狭いことと、さまざまな学生が集まる東京の大学院に進学し、刺激を受けながら研究をしたいと思っていました。またインド留学中、同時期に東京外大のヒンディー語専攻の方とお会いしたことも、東京外大を意識したきっかけでした。
―――初めて東京外大を訪れた時の印象は?
そうですね、第一印象は大学名に「東京」がつくのにだいぶ緑が多いなーと思いました。官庁や商社の多いビジネス街みたいな風景を想像していたので(笑)。 ただ、私が学部時代を過ごした松山市と同じようにのんびりした時間が流れていたので、とても過ごしやすいと思いました。
―――試験対策、どのようにしていましたか?
私は推薦入試で受験をしたので、東京外大の筆記試験は受けませんでした。推薦入試では研究計画書の提出と口述試験の受験が必要です。研究計画書に関しては学部時代の指導教員の先生や学部の他の先生方が熱心に指導してくださり、書き上げることができました。他大学院に進学するにも関わらず、こんなにも応援してくださり、いまでも感謝しています。ただ、推薦入試が上手くいかなかったときのことも考え、一般入試に向け英語と専攻分野の基礎概念は勉強していました。大学側が公開している入試の過去問はほとんどが黒塗りだったので、研究室訪問も兼ねて一度、入試問題を閲覧しに愛媛から東京外大を訪れたこともありました。
推薦入試に関する詳細 (2024年度版)
https://www.tufs.ac.jp/admission/pg/masters_course_recommendation.html
研究について
―――研究について教えてください。
国際法がご専門の松隈潤教授 のゼミに所属し、国際法、とりわけ「市民の力が国際法の形成にどのように影響するのか」をテーマに研究をしています。対人地雷禁止条約や核兵器禁止条約といった国際法はどちらもNGOが主導して形成されたという背景があります。基本的に国際法とは国家間 での合意が前提となっていますが、核兵器禁止条約などはNGOを含めた市民側から核兵器禁止の必要性を訴え、それに共感した非核兵器保有国の賛同を経て、国連総会で採択、発効されました。このように国家の側からではなく市民の側からの「法形成の力」が、将来的に良い場合も悪い場合も含めてどのような影響を持つのか、①国際人道法②対人地雷禁止条約③核兵器禁止条約の三つの事例を中心に研究をしています。
松隈潤教授について
https://www.tufs.ac.jp/tufstoday/topics/research/22030301.html
大学院生活について
―――HIPSプログラムに参加されているんですか?
研究室訪問の際、松隈先生が勧めてくださり、挑戦を決意しました。東京外大に加え、中央ヨーロッパ大学など複数の大学で講義を受け、研究を行い、ダブルディグリー取得を目指すプログラムですが、基本的にすべて英語で行われます。私自身は英語があまり得意ではなく、HIPSに出願できる外部英語試験のスコアも持っていなかったので、とにかく英語の勉強を院に進学するまでひたすらしていました。英語のスコアを取得し、無事、HIPSに参加することはできましたが、ヨーロッパ現地の大学での生活は想像を絶するほど大変でした。毎週、40ページの英語の学術文献を課題で読まなくてはならず、週にそのような課題を出す講義が5-6コマあったので、計200-240ページぐらいを読んでいたと思います。また、日本でいうレポートや発表ももちろん英語で行うので、それもかなり大変でした。しかし、そのような課題をやり切ることで自分にとって少しずつ自信を積み重ねることができました。HIPSに参加している学生は日本人を含め英語が母語ではない学生も多く、彼らもとても頑張っていました。授業終わりにはよく、彼らとご飯を食べたり、飲みに行ったりもしました。そういった経験から「英語はあくまで一つの道具に過ぎない」ということを改めて確認できました。
HIPSについて
https://www.tufs.ac.jp/hips/
―――FAO(国連食糧農業機関)でインターンをされていたんですか?
FAOインターンシップに関しては、東京外大が推薦を行うという制度を利用して採用されました。原則オンラインでの活動でしたが、かなり専門的な業務を任され、国連の活動に携わるまたとない機会でした。具体的には「薬剤耐性問題の法整備」に関する日本の現状を分析し、報告するというものです。FAO側にも同問題に関する膨大な蓄積があったことから、それらをカバーしつつ日本の事例を分析していくことがとても大変でした。しかし、FAOでは恐らく私が初めて日本の薬剤耐性菌問題に関わる法制度を分析し、報告書をまとめました。重要な仕事でしたが、これを成し遂げることができ大きな自信につながりました。2023年6月には実際にバンコクにあるFAO地域事務所に訪れる機会にも恵まれました。
国連食糧農業機関(FAO)インターンシップ(大学推薦枠)について(2023年度)
https://www.tufs.ac.jp/student/NEWS/career/230120_1.html
将来の展望について
―――大学院卒業後はどうされるのですか?
将来は国連や外交に携わる仕事がしたいと考えていますし、同時に「国際法と公共圏」と
いう研究分野のパイオニアになれるかなとも思ったりします。機会があれば外務省の専門調査員にも挑戦してみようと考えています。
―――大学院進学を考えている学生にメッセージをお願いします。
まず、HIPSに関して「公共圏における歴史」というテーマですが、「歴史学じゃないといけないんだ」などと堅苦しく考えないでほしいと思います。実際、プログラムに参加している学生たちの研究テーマは多種多様です。「ヨーロッパ経験を積みに行く」、そのような考え方で挑戦してみてもいいと思います。
次に文系大学院への進学を考えている学生に向けてですが、残念ながら、今の日本社会では文系で大学院に行っても中々理解されない場合があるかと思います。むしろ、周りの友人らが就職してゆく中、自分だけ大学院に進学することはとても勇気がいることだと思います。しかし、頑張って進学をしてみたら今までは思い描くことのできなかった「未来」をつかみ取ることができ出来るかもしれません。文系大学院、来たからにはぜひ一緒に頑張りましょう!
インタビュー後記
大学院に入学して思うのが、みんな何かしらの「思い」を持って未知の世界「大学院」に足を踏み入れていることです。大学院は学部以上に世界が広がる場所ですが、より能動的に過ごさないとあっという間に2年間が過ぎてしまうことを自己反省的にも強く思います。そんな中、藤岡さんの「経験」の仕方は多くの大学院生が見習うべきモデルのように感じます。今後、藤岡さんがどのようなキャリアを歩まれてゆくのか、またぜひお伺いしたいです!
小勝 周(大学院総合国際学研究科世界言語社会専攻国際社会コース博士前期課程1年、広報マネジメント・オフィス学生記者)
本記事は本学の「学生取材班」により準備されましたが、文責は、東京外国語大学にあります。ご意見は、広報マネジメント・オフィス(koho@tufs.ac.jp)にお寄せください。