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シリーズ「大学院ってどんなところ?~東京外大の秘境に迫る~」海外で出身国政治を研究する―イー・ジュン ユエン ジェイソンさん(博士前期課程1年:マレーシア政治研究)インタビュー―

外大生インタビュー

大学院には、日本国内だけでなく、海外からもさまざまな動機を持って進学してくる学生がいます。今回取材したジェイソンさんはマレーシア出身で、学部から日本で学び、現在本学の博士前期課程で、出身国であるマレーシアの政党政治について研究しています。日本の学部、大学院に進学した経緯や、海外で出身国の政治を研究することなどについて、お話を伺いました。

EE Juin Yuen Jason(イー・ジュン ユエン ジェイソン)さん:大学院総合国際学研究科博士前期課程世界言語社会専攻国際社会コース1年。専門はマレーシア政治研究。

山本哲史(やまもとさとし)さん:大学院総合国際学研究科博士前期課程世界言語社会専攻国際社会コース2年。広報マネジメント・オフィス学生記者。

海外大学へ進学。そして大学院に。

―――ジェイソンさんは、学部から日本の大学で学んだそうですね。大学院のお話の前に、なぜ日本の学部に進学したのか伺ってもいいでしょうか?

日本語を勉強することが、自分のスキルアップや、社会での競争力向上につながるんじゃないかと考えたからです。もともと日本には興味がありましたし、マレーシアではルックイーストポリシーもありますね。なぜマハティールは日本に注目したのかにも興味はありました。その後は、日本留学試験や英語資格試験の勉強、大学の面接の対策をして、立命館大学の政策科学部に入学しました

―――数ある言語の中で、スキルアップの一環として日本語を選んだのはなぜですか?

高校の時に、漠然と他の学生と同じではダメだという危機感があったからです。高校ではいわゆる進学コースに在籍していましたが、クラスの中ではあまり成績の良い方ではありませんでした。その中で、どうにか自分なりの武器を身につけようと思った時に、周りの同級生がやっていない日本語にチャレンジしようと思いました。

―――大学院で外部進学した経緯を教えてください。

マレーシアのことを、自分の国のことをもっと知りたいと思い、大学院進学を考えました。指導教員の専門分野と学費の事情で進学先の候補を絞ったので、国公立大学でマレーシア政治に詳しい研究者がいる大学がいいなと思っていました。そこで、今の指導教員である左右田直規教授[2]のことを知りました。東京に住んでみたいという思いもありましたので、東京外大を選びました。

[2] 本学総合国際学研究院教授。専門は、マレーシア地域研究(思想史・現代政治史)

―――院試対策はどのようにしていましたか?

まずは左右田先生にアポをとって、直接お話しました。自分の興味関心について話して、指導教員になっていただくことは可能か確認しました。それから、左右田ゼミ所属の院生とコンタクトをとって、アドバイスをもらいました。筆記試験対策については、外国語のテストは特に問題ないと判断し、専門分野のテストに向けて、社会科学系の学問の基礎知識をおさらいしました。どんな問題が出題されるかは予想できませんでしたが、本番では政治学、社会学関連の問題を中心に出題されたので、内心「ラッキー」と(笑)。面接対策としては、研究計画書をしっかり書いて、質問を予想して回答を準備しました。ただ、一番大事なのは自分の研究は面白いんだという自信を持ってアピールすることだと思います。

―――日本語でのアカデミックな文章にどのように慣れていきましたか?

要領が良くないので、とにかくたくさん本や論文を読むしかありません。1回読み終わっても、理解度半分くらいで、2回は読まないといけません。これは今もそうですね。

研究について

―――現在はどんな研究をされているのでしょうか?

マレーシアの政党の1つである、民主行動党(Democratic Action Party: DAP)におけるマレー人の参加や代表について研究しています。DAPは「多民族政党」を標榜する一方、実態としては、長らく華人を代表する政党として存続してきました。しかし近年、DAP所属のマレー人議員の存在感は無視できないものになっています。中には地方政府レベルではあるものの重要な役職に就く人物もおり、今後のDAPを考える上で重要な論点です。また、マレーシア政党政治における「多民族政党」について考える上でも有用だと思います。

―――なぜDAPを研究しようと思ったのですか?

DAPは現在議会で40議席以上獲得するなど、存在感がある一方で、先行研究は多くありません。マレーシアの政党政治研究と言えば、与党連合である統一マレー国民組織(United Malays National Organization: UMNO)などの主要政党の話ばかりであることに、違和感がありました。自分が華人であり、DAPの議員や党員の方々と個人的に関わってきたことも、研究対象に選んだ理由ではあります。研究と個人的な政治信条は分けるべきですが、研究しやすいという意味では強みであると言えます。

現首相アンワルの演説会場の様子(ジェイソンさん撮影)

大学院での生活

―――大学院では、交友関係などいかがですか?

ゼミの同期がいるほか、ゼミ以外の授業で一緒になる学生とも仲良くしています。グループワークなどで、研究分野の近い人とも交流があるのは嬉しいですね。関西の大学から外部進学で来て知り合いもいないので、授業で一緒になった学生とはなるべく話すようにしています。英語の授業のクラスメイトとは、毎週授業前に食堂で集まって食べながら話したりします。ただ、修士2年目からほとんど学校に来る必要もないし、忙しくもなりますので、あまり友人と会えなくなるかもしれませんね。これから修士に進学する人には、1年目を大切にと言いたいです。

―――かなり忙しいのではないかと思いますが、プライベートとのバランスや、メンタルケアはどうされていますか?

週に7コマ授業があり、正直忙しいです。本や論文も読まなければいけませんし、課題もあります。ストレス発散の方法は、風景写真を撮ることです。勉強で家にいる時間も長いので、YouTubeを観たりゲームをしたりすることもありますが、どうしても疲れたら寝ます。断続的に頑張ることが大切で、ダメな日は諦めて休むことも必要です。

もみじトンネルから見える富士山(ジェイソンさん撮影)

将来の展望

―――修了後の進路はどのように考えていますか?

今は、メーカーや教育関連の業界を中心に就職活動をしています。研究は好きですし続けてもいいかなとも思いましたが、社会に出て新たなチャレンジをしたいという思いが強くなり、就職にシフトしました。語学力や、研究で培った調査能力には少々自信(笑)がありますので、仕事で活かすことができたら良いなと思います。

大学院には覚悟と希望を持って進むべし

―――大学院の大変なところ、楽しいこところは何ですか?

自分の研究の問いが定まらず、オリジナリティを見いだせない時期は大変でした。1年目の秋ぐらいまでは悩んでいましたね。元々は博士後期課程も視野に入れていましたが、その前に修士論文もダメなんじゃないかと悩みました。ただ、何か突破口が見えたり、成果が出たりした瞬間は楽しいですね。スポーツでも、厳しいトレーニングの時期があった後に、試合で勝てたら嬉しいですよね。研究に使う時間がたっぷりある点は学部よりも楽しいところかもしれません。小言になりますが、これは日本の就活システムの問題の裏返しとも言えます。大学3年生のゼミが始まる時期にインターンなどに多くの時間を割く学生の多さには驚きました。大学院は、研究に集中できる時間が多いのが良いところですね。

―――最後に読者へのメッセージをひとことお願いします!

まずは、進学するにあたっては覚悟を持ってほしいです。留学生かつ大学院生としては、母国ではないところで、母語ではない言語で研究することは難しいとはっきりと言えます。学力=研究力ではなく、重要なのは、何を明らかにしたいかという問いが明確であることです。また、研究はその性質上終わりがあるものではないですし、成績(点数)もつきません。友だちは働いてお金を稼いでいるのに…という気持ちにもなります(笑)。ただ、チャレンジしたい気持ちがあるのなら、入ってみてほしいとも思います。学部以降ももうちょっと勉強したいと思うのなら、2年間研究に専念できる空間を存分に味わってほしいです。

編集後記

大学院進学、とりわけ「文系」となると、就職に関連した極端に悲観的な意見や、反対に、学びたいことがあれば迷わず進学するべきというような楽観的な意見を耳にしがちではないでしょうか。大学院進学にあたっては覚悟を持ちつつも、研究に専念できる場所を味わってほしいというジェイソンさんの言葉は、地に足の着いたものでありながらも、同時に希望に満ち溢れたものに感じました。大学院進学を考えている皆さんも、覚悟と希望を持って、前に進んでみてはいかがでしょうか?

私事ではございますが、TUFS Todayのインタビュー記事を担当するのは、今回で最後となります。2021年の学生取材班発足時から関わり、多くの方にインタビューをし、記事にしてきました(中には当然ボツになってしまったものも)。ご協力いただいた皆様に、改めてお礼申し上げます。私自身が博士前期課程に進学した2022年からは、一貫して、本シリーズ「大学院ってどんなところ?~東京外大の秘境を訪ねる~」に関わってきました。世間一般はもちろんのこと、同じ大学の学部生にすら、大学院のことはあまり理解されていないのではないかという問題意識のもとに取り組んできました。企画を通して少しでも大学院への理解につなげられていたらとても嬉しいですが、その点は、読者の皆様のご判断にお任せしたいと思います。もし、本学の大学院に進学するにあたり、本シリーズの記事を参考にしたという方がいらっしゃりましたら、学生記者や本学広報の人間にお声がけください。とても励みになると思います。今後も本シリーズを通して本学の大学院への理解が広まり、多くの大学院生が活躍していくことで、本学が教育・研究機関としてより一層発展していくことを願っております。

山本哲史(大学院総合国際学研究科博士前期課程世界言語社会専攻国際社会コース2年)

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