東京外大院生同士の交流の場:TAMA研
外大生インタビュー
〜外大院生自主企画イベント「ことばからみる社会」を開催します!〜
2019年9月1〜30日、大岡山駅近くにあるカフェToi toi toiにて、外大学院生イベント「ことばからみる社会」が開催されます。おそらく外大史上初となるこのイベントの内容は、本学院生サークル「TAMA研」が企画しました。TAMA研について、そしてイベントについて、TAMA研のメンバーである今城尚彦さん、小栗宏太さん、村山木乃実さんにお話を伺いました。
TAMA研について
——「TAMA研」ってなんですか。
はい、TAMA研とは、非公式の外大院生グループです。2年前に、博士に入りたての院生が3人集まって立ち上げました。
——立ち上げの経緯を教えてください。
立ち上げメンバーは、皆、修士あるいは博士から外大に入学した学生です。私たちはもともと、博士に入る前から、AA研が毎夏開催している「中東☆イスラーム研究セミナー」で知り合っていたので、博士に入ってからよく3人で集まっていたのですが、しばらくして、友達が全然できていないことに気がつきました(笑)。そこではじめて、そういえば外大には院生仲間との交流の機会が全くないことにも気がつきました。研究はただでさえ孤独な作業ですが、それで研究室のゼミ生が自分しかいないとかで、人との交流が途絶えると、結構辛いです。それは私たちが身をもって感じたことでした。だから、気軽に院生同士で集まって、研究のこととか、日々の愚痴とか話したり、研究上の情報交換などができれば、もっと研究も前に進むんじゃないかと思ったんですね。
それで、じゃあそういう場所がないなら自分たちで作っちゃえばいいじゃん、となって、とりあえずSNS上でグループを立ち上げてみたという経緯です。
——そもそもなぜTAMA研という名前なのでしょうか。
外大の最寄り駅である多磨駅のTAMAと、あと略語風にしたかったのでTAMAにしたのですが、あれこれ話しているうちに、結局略さない元が定まらずに今に至っています。
——そうだったんですね(笑)。これまでTAMA研でイベントを開催したことはあるのでしょうか。
ないです(笑)。今回が初めてのイベントです。というのも、SNSでグループを立ち上げてみはいいものの、私たちも友達が少なかったので、人があまり集まらずイベントどころではありませんでした。またSNSやらない主義の院生も結構いるので、どのくらいこのグループが知られているのかも謎なところがありますね。この記事をみて多くの院生がこのTAMA研を知ってもらえたらいいなと思っています。
話は戻りますが、まあ、それで、人がいないなりにイベント案も考えてはいたのですが、これもなかなか苦戦しました。一般的なイベントは、私たち院生にとって響かない場合が多いからです。例えば、最初「ゆるっと集まってご飯を食べながらおしゃべりする」企画を考えていたのですが、これは院生にとって非常にハードルが高いことがわかりました(笑)。それで、どうしようかなと思っていたとき、「そうではなくて、研究ポスターとか貼ってそれをもとに交流とかだったら、院生が参加できるのではないか」と友人に何気なく言われたのが、今回のイベントを企画しようと思った最初のきっかけです。そこから、1年くらいたって、いろいろなご縁があって今回初イベントの企画に至ることができました。
企画イベント「ことばからみる社会」について
——では、今回の企画の概要や目的など教えてください。
はい、このイベントは、東京外国語大学大学院生による、一般向け研究発表会(ポスター&口頭発表)です。
開催期間は9/1〜9/30、開催場所は「toitoitoi」という、若手研究者支援を行っているカフェです。カフェとの合同企画という形で、今回のイベントを開催します。
——イベントの開催目的は?
目的は2つあります。一つは外大院生同士の交流促進と、もうひとつは多くの方に外大の研究の魅力を発信することです。
今のところ、外大院生のための交流する機会は学内にありません。研究室の院生の数も一人だけという場合も少なくなく、気がつけば仲間がいないことがある、というのが現状です。この企画を通して、外大院生間のよりよいネットワークを作りたいと考えています。
また、外からみると、外大は言語のイメージが強く、その他は何をやっているのかわからないことが多いかと思います。この企画は、こういったイメージも打破するのみならず、私たちの研究の魅力をより多くの方に伝えられる機会だと考えています。私たち院生は地域やことばに根ざし、それを通して、専門研究を進めています。そしてその専門分野は言語学や政治学、人類学、文学、宗教学と様々です。ことばにこだわりを持つからこそ専門分野で独自性を発揮できるという外大ならではのアプローチを、より広く知ってもらいたいというのがイベントのねらいです。
本イベントのメインは研究発表ですが、それ以外にも各言語の名言又は研究を象徴することばの展示や、カフェのシェフにお願いをして、発表者おすすめの各国料理を期間限定メニューとして出します。各国の期間限定メニューはこちらです!
キューバ
キューバサンド・・・表面カリカリのパンの中からチーズがとろけ出す、ローストポークを挟んだキューバ定番サンドイッチ。
ハバナクラブ ・・・キューバでつくられているラム酒。ハバナクラブでつくったモヒートもあり。
香港
乾炒牛河・・・平たいフォーみたいなビーフンを牛肉、玉ねぎなどと一緒に炒めた香港風焼きそば。この料理をリクエストした小栗さん曰く「食べたらわかる。」
香港式ミルクティー・・・エバミルクでつくるミルクティー。
トルコ
ラク・・・ぶどうからつくる、トルコの代表的な蒸留酒。水を加えると白く濁る。
トルコ前菜盛り合わせ(白チーズ・ハイダリ・焼きナスのメゼ)・・・この料理をリクエストした今城さんが実際にSNSで行なったアンケートをもとにしてつくる、トルコ人一押し前菜盛り合わせ。
チェコ
チェコビール(ピルスナーウルケル)・・・チェコのピルゼンで誕生した、ピルスナービールの元祖。
グラーシュ・・・チェコ風ビーフシチュー
スマジェニースィール・・・ビールと相性抜群、チェコ風カマンベールチーズ揚げ。
ポーランド
ビゴス・・・ポーランド風煮込み料理。ポイントはザワークラウト。
シャルロトカ・・・ポーランド定番リンゴケーキ。
イラン
ザクロジュース・・・イランといえばこれ。食事にもあうザクロのジュース。
(イラン料理は、前回のイベントで沢山作っていただいたので、今回は少なめです。)
また、これはカフェがもともとやっているシステムなのですが、発表を聞きに来てくださった方は、応援したい研究者に投げ銭をすることもできます。
——面白そうですね!研究発表スケジュールや内容はどんな感じでしょうか。
スケジュールと内容をご紹介します。どれも外大らしい非常にユニークな研究内容です。
イベントのスケジュールと内容
1回目:2019年9月1日(日)16:00〜17:30
発表者:新谷和輝さん(博士前期課程)
「キューバの革命的映画文化」
1959年の革命成立のあと、キューバでは積極的な映画政策が行われました。社会主義の国の映画というと、検閲やプロパガンタといったイメージが強いかもしれません。キューバにもそうした一面はあるのですが、それが全てでもありません。そこには映画をつくること、届けること、観ることの間に、一筋縄ではいかない様々な交渉がありました。革命の最中で育ったキューバの映画文化、その独自の魅力についてお話します。
2回目:2019年9月15日(日)16:00〜17:30
発表者:今城尚彦さん(博士後期課程)
「フィールドワーカー、現地でバズる:トルコにおける日本人のイジられ方」
文化人類学のフィールドワークは、現地の言葉を学び、人々の日常生活に身をもって参加することで社会を内側から理解しようとする営みです。したがってフィールドワークではインタビュー以上に、調査者自身が様々な文化的実践に参加すること、そして社会を客観的に観察する参与観察という手法が重視されます。しかし実際、フィールドワーカーは透明人間のように社会を客観的に叙述できるわけではありません。むしろ色々な人々の厚意に甘え、もしくはからかわれながら生きている、ある種の「異質な存在」だと言った方が正確でしょう。
調査対象であるアレヴィーの音楽を私が演奏している動画がSNS上で「バズって」しまった事件は、まさに調査者である私自身がトルコの人たちにとって「異質な存在」であることを示したといえます。しかしこのことは、単に私が珍しい外国人であるというだけではありません。アレヴィーを研究する日本人がトルコ人にとって笑えてしまうのはなぜなのか。彼らにとってどのような意味があるのか。「親日」という常套句からは見えてこない独特の関係性を明らかにしたいと思います。
3回目:2019年9月21日(土)16:00〜17:30
発表者:村山木乃実さん(博士後期課程)
「神秘主義×社会運動?:イランの知識人が考えていたこと」
発表では、イランで活躍した思想家がどのように「神秘主義」を考えていたのか、ということについてお話ししたいと思います。神秘主義というと、現実世界とは乖離したイメージですが、今回取り上げる思想家によれば、そこには社会運動を起こす要素があるといいます。さらに、この彼の神秘主義にたいする考えを紐解いていくと、現代にも通じるような社会批判を含んでいるのです。
メディアからではなかなかみえてこない、複雑な歴史のなかで豊かな文化を培ってきたイランの姿に、文学・宗教学の観点から、思想家の思想を読み解くことを通して、迫ってみたいと思います。
4回目:2019年9月22日(日)16:00〜17:30
発表者:川本夢子さん(博士前期課程)
「ポーランド語にも敬語はあるのか」
日本語の難点、そして面白さでもある敬語。他の言語にも敬語は存在するのか、そもそも敬語とは何なのか。先輩・後輩、上司・部下、同僚・恋人、初対面の人・慣れ親しんだ友人…。言葉の礼儀という概念について、人間関係における距離感やコミュニケーションの場面といった要素に焦点を当てながら考察していきます。具体的に紹介する例は、私が研究で扱っているポーランド語。ポーランドにおいて近年盛んになってきたポライトネス諸研究を概観しつつ、私自身が収集したドラマ・映画のセリフデータも分析しながら、言葉が映し出す社会構造・文化の違いに迫ります。
5回目:2019年9月28日(土)16:00〜17:30
発表者:佐藤ひとみさん(博士前期課程)
「なぜチェコスロヴァキアは分離したのか?:異論派言説の分析から考える」
チェコスロヴァキアとは、1918年に誕生し、1993年に分離した国家である。言語も文化も非常に近いチェコとスロヴァキアであるが、なぜかつて存在したこの国家は分離を選んだのか。直接的な原因は、双方の経済や政治への視座が異なったからだと言えるだろう。しかし、分離直前の世論調査を概観すると、「チェコスロヴァキア」は分離すべきではない、と答えた人が、半数を超えていたことが示されている。それでは、当時の社会を生きた人々は、「チェコスロヴァキア」をどのように捉えていたのだろうか。今回の発表では、少し時代を遡り、共産主義時代時代に、反体制派の知識人、つまり異論派の言説から、「チェコスロヴァキア」がどのように語られたのか、ミロスラフ・クッスィーの思想を中心に考察する。異論派の知識人らは、体制転換後の民主主義政権で政治家へ転向した者もおり、彼らの言説を分析することは、一定の価値があるだろう。
6回目:2019年9月29日(日)16:00〜17:30
発表者:小栗宏太さん(Kota Sasha Oguri)(博士後期課程)
「還能憑甚麼〜どうすりゃいいんだ〜:返還後香港のポピュラー音楽と社会」
「香港ってまだ香港なの?」—— 香港研究をしているというと、返還以前を知る方からしばしばこう尋ねられます。たしかに、1997年の返還以降、香港が大きく変わったのは事実でしょう。実際、香港はもう以前の香港ではない、という悲観的な声は香港人自身の口からも聞かれます。映画や音楽などのポピュラー・カルチャーが国際的な注目を集めることも減りました。今さら「香港の文化」を研究する意味などどこにあるのか、と問われるのもしかたがありません。しかし、その理由は、まさにそんな変化や消失の危機の中で、逆説的に「香港らしさ」を求める意識が高まり、それにより以前にもまして活発な文化活動が生まれているからです。香港人が作り、香港人が消費する今日の香港文化には、香港の「今」が依然として色濃く反映されています。本講演ではその一例として返還後の広東語ポップスをとりあげ、変化の中で居場所を模索する香港の「今」を読み解きます。
——イベントページなどありましたら教えてください。
はい、Facebook上でイベントページを作成しています。よろしければこちらもご覧ください!
ことばからみる社会〜外大院生イベント〜
https://www.facebook.com/events/1401184793378263/
——イベント、楽しみですね。企画の成功をお祈りしております。今城さん、小栗さん、村山さん、本日はどうもありがとうございました。