ふるさとワーキングホリデー:馬産地でインド人を支援 〜高松夢香さんインタビュー
外大生インタビュー
国内の競走馬生産地(馬産地)である北海道の浦河町。近年、牧場の働き手不足が深刻化している中、200年以上の競馬の歴史を有するインドから多くのスタッフを招き入れています。そのような中で、浦河町ではインド人の支援にも積極的に取り組んでいますが、「言葉の壁」が課題となっています。今回インタビューをしたのは、「ふるさとワーキングホリデー」を活用して、浦河町でのインド人の方々への支援に参加した高松夢香さん(博士前期課程1年)です。
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––––浦河町での取り組みについて伺う前に、本学で学ぼうと思ったきっかけを聞かせていただけますでしょうか。
幼いころから外国にルーツのある方々との会話を通して異なる社会や文化、そして価値観を知るのが、とても好きでした。英語や日本語以外の他の言語を学ぶことで、より多くの価値観を吸収し、さらに広い世界を知る機会が得られるのではないかと思い、東京外国語大学を志望しました。
––––高松さんは、本学のヒンディー語専攻で学んだあと、大学院へも進学されていますね。
新型コロナウイルスの世界的大流行で国内で初めて緊急事態宣言が出された2020年4月、私は大学2年生を迎えたばかりでした。春学期は完全オンライン授業、秋ごろからは対面授業やサークル活動が一部再開し、非対面での実施ではありましたが外語祭も開催されました。完全オンライン体制が続く他の大学の状況と比べ、自分の置かれている環境が大変恵まれているとは感じつつも、どの局面においても「もし完全対面だったら」と考えてしまう節がありました。このままなんとなく大学生活を終えてしまえば一生悔いが残ると感じ、これまでの学びをさらに深めるべく大学院へ進学しました。現在ヒングリッシュにおける結合動詞に関して研究をしています。インド人の方々は会話で英単語を用いることが多いのですが、彼らがヒンディー語で会話をするときにどのような英単語をどういった文脈で使用するのか、さらにその際どのような混ざり方をするのか、特に結合動詞に注目して考察しているところです。
––––さっそくですが、今回の活動についてお伺いできたらと思います。ふるさとワーキングホリデーに参加しようと思ったきっかけはどのようなことだったのでしょうか。
NHKのヒンディー語放送のアルバイトをしているのですが、アルバイト先の方や本学の先生方から教えていただき、ふるさとワーキングホリデーを知りました。自分のヒンディー語の運用能力で果たしてお役に立てるだろうかと申し込みを迷っていたところ、縁があって浦河町役場で前回のヒンディー語通訳のワーキングホリデーに参加された方から直接お話を伺う機会に恵まれました。ふるさとワーキングホリデーでは国内にいながらヒンディー語を用いて国際協力に携わることができる、彼のパッション溢れる経験を聞き、応募することを決意しました。
––––活動をした浦河町はどのようなところなのでしょうか。
北海道浦河町ではインド人の人口が近年急増してしています。2014年時点ではインド人住民が0人だったところ、現在ではその数が300人を超えています。インド出身者は他の国と比べても多く、2024年1月時点で町内外国人の7割弱を占めるほどです。その背景として、町の基幹産業である軽種馬産業での人手不足が挙げられ、各事業者は現状を打破すべく外国人労働者を受け入れるようになりました。
町での受け入れ開始当初は、単身でいらっしゃる移住者が多かったようなのですが、2019年ごろから徐々に家族単位で移住するケースが見受けられるようになったとのことです。このような変化を受けて、浦河町役場は町内の外国人への支援に乗り出したと伺いました。
––––例えばどのような支援を行なっているのでしょうか。
例えば、ヒンディー語版の母子手帳の作成やニーズ調査、ヒンディー語による生活支援や随行サービス、外国人向け行政セミナーの実施など多岐にわたります。現在、ヒンディー語・日本語間の通訳・翻訳の全ての業務をたった一人の方が担っているというのが実情なようです。
––––それは大変ですね。そこで、ふるさとワーキングホリデーを活用して、町外からの協力を得る取り組みを始めたのですね。高松さんは具体的にどのようなことをサポートしましたか。
学校から保護者宛てに書かれたお知らせなどをヒンディー語に翻訳したり、インド人母子の保育園体験に同行したり、幼稚園の説明会での同時通訳や、病院・保健所・町役場での通訳といった業務を経験しました。さらに町民向けのやさしい日本語教室に参加したほか、町役場初の試みである多文化共生ワークショップの運営にも携わりました。
––––特に印象に残っている活動はなんでしょう。
多文化共生ワークショップにおいて、町民の方々と「町内で外国人が生活しやすくするために日本人として何ができるか」ということについて話し合ったことが、特に印象に残っています。言語がわからないと、周りとのコミュニケーションが希薄になり、そして社会の中で周縁に追いやられてしまう。そうすると情報へアクセスしづらくなり、当然利用する権利のある行政サービスも受けられない。病院で病状を伝えようにも上手く伝えられない。さらには自動車免許も取れず、家にひきこもってしまうという負のループに陥る...。日本で日本語が分からないことがどういった意味合いを持つか、改めて考える貴重な体験でした。
––––参加してみてどうでしたか。
大学で学ぶ中、授業でよく「言語外事実」(言語が話されている地域の社会・歴史・文化に関する知識)を学ぶ必要性についてたびたび耳にしていました。言語は文化や社会と密接に絡み合っているから、こうした知識も言語と同じくらい重要で身につけておく必要がある、言語外事実を通じて初めてその言語を正しく運用することができる、と先生方がおっしゃっていました。が、今回の活動を通してそれを痛感しました。単語や文をただ言語間で置き換えるだけではなかなか伝えきれないところがありましたね。相手の言わんとすることを汲み取り、こちらの言うことを相手に理解してもらうには、お互いの前提として持っている文化・制度・環境の違いを踏まえた上で説明する必要があるのだと今回改めて感じました。
また浦河町に住むインド人の方々の大半は母語がヒンディー語ではなかったので、説明をまずやさしい日本語に直し、そこからヒンディー語に訳すというプロセスが必要でした。以前大学の授業で学んだ「やさしい日本語」がこんなところで役に立つとは!と目からうろこでしたね。
––––この経験をどう活かしていきたいですか
自分の研究に精を出すことは勿論ですが、より広くアンテナを張って、インド、日本の社会・文化に関するさまざまな事象の知識を吸収していきたいです。次回このように外国人支援に携わる機会があったときに、伝えたい事象が双方の社会の何に相当するかを上手く説明できるよう、今から頑張ろうと思います。さらに今回のワークショップで実践したように、当該の問題の解決方法を模索するだけではなく、そこから派生する他の問題にまで視野を広げ思考する癖をつけるよう普段から心がけるようにしたいです。