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シリーズ「東京外大って…実際どうなの?」第2回「東京外大で『アート』する」

外大生インタビュー

「東京外国語大学」と聞くと、「語学」のイメージが強いのではないでしょうか?ですが、東京外大には「語学」に留まらず、各々の興味関心に合わせて、様々な分野で活躍している学生が多くいます。今回は「アート」を武器に、自身の想いを発信してきた、東京外大生2名にインタビューをしました。彼女たちはどのようにして「アート」と東京外大での学びを結び付けたのか、「アート」を通じて何を伝えたいのか、そして「アート」が持つ魅力とは?大学5年間過ごした今、彼女たちはどのような想いを語ってくれるのでしょうか。

座談会参加者

  • 髙橋良美(たかはしよしみ)さん 国際社会学部西南ヨーロッパ地域/ スペイン語 4年
  • 武藤珠代(むとうたまよ)さん 言語文化学部 英語/北アメリカ地域 4年

※以下、それぞれ「髙」「」と表記する。

インタビュー

  • 国際社会学部東南アジア第2地域/ビルマ語4年 山本哲史(やまもとさとし)さん

記事執筆

  • 言語文化学部英語/北西ヨーロッパ地域 4年 朝妻亮子(あさづまあきこ)さん

アート活動について

——ご自身のアート活動について教えてください。

:インターン先のデザイン会社でイラストレーター職に就く傍ら、フリーランスのイラストレーターとしても活動をしています。もともとイラストレーターになりたいわけではなかったのですが、絵を描くことがずっと好きで、大学に入って時間ができ て絵を描く機会が増えたため、インスタグラムを開設して、お仕事を頂いたことを機にイラストレーターとして活動を始めました。

展示会の様子

:私がアート活動に最も力を入れていたのは、2018年から2019年にかけて、アメリカのサンディエゴ州立大学に留学していた時です。ドローイング(線画の授業)・ペインティング(絵具を使う授業)を取っていたのですが、せっかく渡航したので現地の人と関わりたくて、自身で制作した絵を現地のカフェやギャラリー 、屋外イベント等で展示していました。

——留学前からアート活動に興味はあったのですか?

:生涯何かしらの形で「発信」することをやっていきたいと、小さい頃から思っていました。大学に入ってからは、英語専攻なので英語ができる人は周りに多くて、言語で伝えていくことに関して、自分は思っていたよりも得意とは言えないのかなと思った時期がありました。それを機に、自分の発信方法で何か武器が欲しいと思って、せっかく1年間留学するのなら、全く違った「ビジュアルの発信」でどこまで行けるか懸けてみようと思ったのが活動を始めたきっかけでした。

留学中の展示の様子

活動のモチベーションは「人」と「社会への怒り」

——ご自身の活動のモチベーションになっていることは何でしょうか。

:作品を生むこと自体楽しいのですが、絵を見てくれる人から反応をもらえたり、自分の絵が仕事で使ってもらえるなど、誰かに必要とされていることを感じる時が、絵を描いていて嬉しい瞬間です。コロナで人と会えない時間は何かを生むことも辛くて、絵が描けないという状況が続いていたのですが、人と会うことでインスピレーションや、描くきっかけができ たりするので、人との関わりの中でモチベーションは維持されているように思います。

髙橋さんのイラストが掲載されているポスター

——髙橋さんは、人のイラストを多く描かれますよね。

:そうですね。例えば私はファッションが好きで、洋服を「着る」以外に表現する方法はないかなと考えた時に「描く」という手段があって、自分が着てみたい服をそこに投影させて描いたりします。他にも、好きな人や、ハッとする表情をふと描き留めたくなる時があって、その時に抱いた気持ちや、素敵だなと思ったことを自分のビジュアルに置き換えて表現することは楽しいです。

——武藤さんはどのようにしてモチベーションをキープしていたのでしょうか。

:留学して絵を描き始めた初期は、友達と過去に取った写真などをモチーフにして描くことが多かったです。よく「色が特徴的だよね。」と言われていて、ネオンカラーを使ってカラフルな色使いをしていたのでハッピーな印象があったのかなと思います。
活動していた理由の一つは、自分が社会の中でどういう存在なのかということに興味を持っていたことがあります。大学に入ってしばらくすると、「なんで自分勉強しているんだろう。」「自分はこれから何になるんだろう。」と考える時間って誰しもあると思います。そういう自己分析的な作業の一環として、自分を含めたポートレートを描いていたのだと思います。
変化があったのは、その作業を続けて8か月くらいの時でした。アメリカの中で日本人女性として生活するだけで結構嫌な思いをすることがあって、道を歩いているだけで屈辱的な言葉をかけられたり、勝手に写真を撮られたりしました。そういうことに対して「怒り」を感じたことが、作風が変わった大きなきっかけでした。その時から、他人から見たらちょっと怖いと思われるような絵になったのかなと思います。そしてそれを機に、縦2m×横3mくらいの大きな布に絵を描いて展示しました。

——その絵とは、具体的にどのようなものですか?

:当時、ロサンゼルスでギャラリーを貸してくれていた人がいたんです。そこはホームレス街だったのですが、まずそこで自撮りをしました。その写真をモチーフにして自分を描いたのですが、自分というよりは「アジア人の女性を代表した自分」という意味を込めて描いて、その上に文字で「I am 珠代」と書きました。人種や性別といったカテゴリーの前にひとりひとりが名前を持っているんだ、という気持ちでした。

——髙橋さんは、どのような作風を意識されていますか?

:正直、今も作風という作風があるわけではなくて…試行錯誤を繰り返しているのですが、「線」へのこだわりはあります。太目の線を使って描くことが好きで、私のインスタグラムの投稿にもそういう作品が多いと思います。強いて言うなら、ミッフィーの作者のディック・ブルーナーさんが私はすごく好きで、ミッフィーの柔らかい太い線を用いたような絵を描きたいなと思うことは何度もありまして、リスペクトも込めて、シンプルで柔らかな線を意識して描いていたら今の絵になったというのもあります。
また、色使いも大事にしています。もともと色を使って何かを表現することはそんなに得意ではなかったのですが、線だけの状況から抜け出したくて色を使い始めて、そこから自分の好きな色の組み合わせを発見しました。

将来の活動について

——髙橋さんはイラストをTシャツやトートバックにして販売しているのを拝見したのですが、将来はイラストやデザインをお仕事に活かしていくのでしょうか?

:今後は働きながらではあるのですが、デザインなど勉強をしながら、いずれ独立できたら良いなと思っています。イラストとグラフィックデザインの二つを軸に、自分の好きな絵を描くことも続けていきながら、様々なことを表現していきたいと思っています。

——武藤さんにも将来のことをお伺いしたいです。

:卒業後は、記者になります。アメリカにいた時は絵を描いて展示するという、感情をダイレクトにぶつける方法で発信したのですが、帰国後は “ファクトチェック”というジャーナリズム寄りの活動に力を入れていました。NPOに所属して誤情報を検証するという活動を通じて、もっと世の中でどのようなことが起こっているかを自分はまず知らないといけないと思ったんです。「怒り」を感じて、発信するというアクティビストやアーティストも大切だけど、自分はまだ責任を持ってメッセージを発信できる人じゃないなって思って、何かを知りたいと思ったときに、まずは事実に謙虚に向き合いたいと思いました。記者という仕事だったら好奇心を追いかけることもできるし、自分が書いた文章や写真でインパクトを与えることもできるので、そちらに進むことに決めました。

実際、東京外大で良かった…?

——それぞれ違った想いからアートと関わってこられたようですが、お二人はそもそもなぜ今の大学や学部を選ばれたのですか?

:高校時代は建築に興味があったのですが、数学が壊滅的にできなくて諦めました(笑)。それ以外にも絵を描くことは好きだったので、美術大学も良いかなと思ったのですが、英語に特化した高校で学んでいて、そこでスペイン語を第二外国語として勉強した経緯もあって、東京外大という選択肢が自然と出てきました。スペイン語は1.2年生で必修だったのですが、絵やサークルの活動が重なっていくうちについていけなくなってしまって、大変という感じで(笑)。気づいたころには絵の仕事やデザインの依頼を頂いて、将来を見据えてこういうことを本気で頑張ってみようかなと思っていた時期でもあったので、2年生が終わった時にスペイン語は辞めました。その後に文化人類学のゼミに入って、デザインやイラストについての論文を書くために本を読んだことが東京外大での大きな学びだと思っています。

——在学中に、ご自身の進路選択として、東京外大で本当に良かったのかなと感じたことはありましたか?

:そうですね。そう感じるときは実際にありました。2年生の秋学期はスペイン語の難しさも佳境を迎えて他の科目も大変で、本当にやりたいことじゃないのに…と思いながら半ば我慢しつつ授業を受けていた時もありました。ただ、絵やイラストはこの大学でなくても描けたと思うのですが、この大学に入らなかったら得られなかったものは本当にたくさん あったと思います。絵を描き、東京外大生としてさまざまな学びを通じて人間的に成長できる。ただの絵だけの人じゃない、多面的な部分を持てるようになったという意味では、辛い時期ももちろんあったのですが、入学したことに後悔は全くしていないです。

——武藤さん、大学、学部を選んだ経緯を教えてください。

:私は、受験期は東京外大に行くことしか考えていませんでした。自分自身を振り返った時に東京外大で、そして英語専攻 にして良かったと思います。というのも、英語を専攻した ことで言語だけでなくアメリカの文化・多様性も学べる余裕があったからです。英語ができることで得られる知識というのは、日本語ができるよりも何倍にも広がると思うので、多様な視点を持てたことは一生の財産だと思っています。

留学中の様子

——ゼミではどのようなことを学んでいるのですか。

:卒論では、ティム・インゴルド(※注1)さんという、文化人類学者の方が書いている『ラインズ-線の文化史-』という本を取り上げて、その本の内容と実際のデザインの現場で引かれる線のつながりや異なる部分について、現場における実例を絡めながら自分の考えを書いています。線といっても糸や書道の筆の線など…それぞれに特徴があることを教えていただけるような面白い本です。

:アメリカの現代アートについて研究していて、バスキア(※注2)について卒論で書いています。彼はいわゆる黒人であることをとても意識した作品作りをしています。私自身のアート活動と重なることもあって、自分の人種や性別によって社会の中でどのように位置づけられるかということを一生通じて考え続けたアーティストだと思います。

——受験生に向けて大学を選ぶ上でのアドバイスをお願いします。

:何を学ぶかだけでなくて、そこにどういう人がいるのかを考えて大学を選べば有意義な4年間になるのではないかなと思います。できるだけ大学に足を運んでみるとか、自分の言葉で疑問に思ったことを聞いてみるなど、リアルな体験というのはやはり大事にしてほしいと思います。私が東京外大で良かったのは、やはり自由にやりたいことをやれるところです。私が突飛な活動をしていても誰も気にしていなかったですし、自信をつけて背中を後押ししてくれる友達ばかりでした。違ったものを受け入れる姿勢を持っている人がとても多い点は魅力的なところだと思います。

:最初、私はスペイン語をバリバリ勉強してスペインに留学して…という理想的な東京外大生像があって入学したのですが、それだけが正しいことではないし、学内外で様々なことを吸収する中で、自分のやりたいことを見つけられると思います。多様性に富み、受け皿が大きい大学なので、言語だけに縛られずに様々な視野を持って、受験に臨んでもらえれば大学生活が楽しくなると思います。

読者へのメッセージ「人生を豊かにするアート」

——最後に、アートが持っている力と魅力について教えてください。

:鑑賞者の視点で言うと、カフェや渋谷パルコなどでも展示があったり、身近なところでどんどんアートが感じられるようになっているのはすごく良いと思います。ニュースを見て心が苦しくなるようなこともあると思うのですが、アートって全然違う世界に連れて行ってくれるじゃないですか。そういう時間っていうのは、リアルの世界を生きている人たちにも大事だと思うので、心の豊かさや健康にアートは欠かせないと思います。

:私の場合、自分の絵を描いている時間というのは特別な時間ですし、何かを表現することで自分の心の中を整理したり、逆に葛藤していくとう過程を生み出したり、手を動かすことで直接の喜びに繋がることもあります。それは決して美術だけでなくて、歌うことや踊ることなど、表現することは自分の内側にあるものを試行錯誤して生み出すことだと思うし、それが生きる喜びになることもあると思います。何でもよいので、生み出すということがもっと気軽にできるようになって、それを誰でも楽しんでよいという環境になれば良いなと思います。

——本日はありがとうございました。

※注1:「ティム・インゴルド」(1948年―)イギリスの社会人類学者。人間と動物、進化という概念、人間にとっての環境の意味など、従来の文化人類学の枠組みを大きく越える思索を続け、世界的に注目されている。

※注2:「ジャン=ミシェル・バスキア」(1960年―1988年)ストリートアートや「新表現主義」の絵で知られる、80年代のニューヨークを中心に活動した画家。ハイチ系とプエルトリコ系の両親の間に生まれる。

告知

インタビュー後記
高橋さん、武藤さん、インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。高橋さんは2年生までで専攻語の学習をやめ、イラストやデザインの活動に集中された一方、武藤さんは、アート活動を含めた留学中の経験を通じ、「社会に対する思い」や「発信」という観点からジャーナリズムの道に進まれるという、それぞれ違った道を歩まれている点を興味深く感じました。一方で、人と会うことで得られるインスピレーションを大切にしていたり、「発信」や、「表現」をするなかで自分を問い直していたりする点では繋がっているように思いました。共通点がありつつも、異なった道を歩まれるお二人の話は、東京外大の学生や、受験生にとって、参考になるのではないかと思います。
国際社会学部東南アジア第2地域/ビルマ語4年 山本哲史

編集後記
インタビューにご協力くださり、ありがとうございました。お二人の、その都度抱いた感情を大切にし、ビジュアルに置き換えて発信している姿が、魅力溢れていて素敵でした。「アート」は言葉を使わずとも、間接的に想いを訴えることができ、国籍や言語が異なる人の心さえ動かせる、無限の可能性を持つコミュニケーション手段だと感じました。インタビューでもおっしゃっていただいたように、誰かが表現したものに触れる、自分自身も発信する、その行為は日常の中で深呼吸する瞬間となり、「心の豊かさ」に繋がると思います。今回の例のように、東京外大では言語以外のフィールドで自分の興味関心ある分野に飛び込み挑戦している学生も多くいます。特に受験生、後輩の皆さんは、言語という枠組みにとらわれず、様々なことに挑戦し、大学生活を楽しんでほしいと願っております。さらに、今回の記事を通じて、多くの方が「アート」の魅力に気付ける機会になれば幸いです。
言語文化学部英語/北ヨーロッパ地域4年 朝妻亮子

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