11月7日山脇先生講義終了

11月7日の法政策論では、「多文化共生政策の現状と課題」というテーマで山脇啓造先生(明治大学)に講義をしていただきました。以下、塩原による講義のまとめです。

(詳細は配布レジュメ参照:ここからダウンロード)

1.グローバリゼーションと少子高齢化
先進国に限ると、10人にひとりは移民の時代である。少子高齢化も進行している。日本の高齢化率はすでに20%を超えており、将来も急速に進行していくことが予想されている(生産年齢人口の減少、人口動態の激変)。

2.多文化共生社会とは
こうしたなかで、外国人労働者受け入れが議論されるようになってきた。日本社会に住む外国人数の増大とその定住化が進行している。その背景には、国際結婚が急増しているということもある(東京で10組に1組)。
そして「多文化共生」が重要な課題として注目されている。この言葉自体は新しいもので、ここ10年くらいの歴史しかない。90年代半ばの「多文化共生センター」の立ち上げ以降、草の根の動きのなかでキャッチフレーズとして広まっていった。その後、行政のキーワードとしても使用されるようになった。昨年、総務省が初の多文化共生研究会を立ち上げた。
 80年代、自治体レベルの国際交流が具体的施策として出現(国際交流協会・国際課など)。それは基本的には外国との交流、外国から来た人との交流を意味していた。したがって、外国人はあくまでゲストという考え方が主流だった。それに対して多文化共生という考え方は、地域住民として、対等なパートナーとして認めあうものである。
 また、外国人支援という概念と多文化共生の概念も区別したい。後者は、前者よりも大きな概念としてとらえたい。
 多文化共生とは、複数の文化が並存しているのではなく、それらが交じり合って、ダイナミックに変化していくものと考えたい。そういう意味で、それは「多文化の共生」ではなく、共生するのはあくまでも人と人である。

3.国の外国人政策
日本には出入国政策はあっても、社会統合政策はなかった。むしろ外国人の定着を防ぐ政策をとってきたと考えてよいと思う。あったのは、いかに外国人を「管理」するかという政策だった(レジュメ年表参照)。
1988年には、政府は「単純労働者」の受け入れには慎重な姿勢を示したが、90年代には日系人、研修生、技能実習生といったかたちで実質的な「単純労働者」の受け入れが始まった。
現状では、日本政府内に外国人政策に責任を負う部署がない、一種の無責任体制だが、ここ数年、自治体(集住都市会議)や財界からの提言、あるいは政府の研究会・審議会の提言・答申が、積極的な外国人政策を進めるように進言してきた。
など)。今年の3月に、総務省「多文化共生の推進に関する研究会」報告書が出され、それをもとに総務省は「地域に多文化共生推進プラン」を出した。これが、自治体国際化についての政府が提示した3つ目の柱(国際協力、国際交流、多文化共生)となった。
今年4月7日の経済財政諮問会議で、重要な議論がなされた。そこで当時の竹中総務大臣が総務省報告書を紹介した。外国人労働者・犯罪者問題についての検討はこれまで政府で行ってきたが、生活者としての外国人については政府の検討の場がない。それに対して小泉首相は、合法的に外国人に入国を認めた以上、その生活環境を保障するのは国の責任であると発言。日本首相がこのような言及をしたのは初めてのことであった。そして、当時の安倍官房長官が省庁横断的に取り組んでいくことを指示した。それ以降、省庁がめまぐるしく動きだした。6月に省庁横断的な検討の場として、「外国人労働者問題関係省庁連絡会議」がはじめて「生活者としての外国人」への対応について中間まとめを発表した。今年の骨太の方針にも、はじめて「多文化共生社会の構築」という文言が入った。こうして住民としての外国人への取り組みがようやく国レベルで始まっている。

4.自治体の外国人施策
こうした国の取り組みの開始の背後には、それ以前の長期にわたる自治体の取り組みがあった。1970年代の在日コリアンの運動から、80年代の「地域の国際化」とニューカマー外国人住民の増大を受けて、自治体の施策が「人権型」「国際型」から「統合型」にシフトしていった。また外国人施策に関するビジョンづくりも進んだ。集住都市会議「浜松宣言」2001年を皮切りにいくつかの宣言がなされた。
2005年を、「多文化共生元年」と呼んでもよいだろう。同年3月には、川崎市の多文化共生社会推進指針が出された。これは多文化共生をうたった全国初のプランであり、そのほか、立川市、群馬県、長野県、磐田市、新宿区などでさまざまな施策がなされた。自治体は政府に先んじて、多文化共生に取り組むための部署を次々に設置しはじめている。

5.多文化共生のまちづくり
コミュニケーション支援、生活支援、多文化共生の地域づくりなどが行われており、そのための担当部署の設置、庁内連携、市民と行政の協働(NPO・市民セクター、企業など)の仕組みづくり。たとえば学校と地域の連携など(例:いちょう団地 多文化共生交流会やPTAを中心とした獅子舞サークル、磐田市の設立した多文化交流センター、兵庫県子ども多文化共生センター)など

6.グループ討論
グループ討論は10分間、各自がポストイットに自分の意見を記入し、その後グループのまとめ役がA3の紙に各メンバーの意見を貼り付けて集約し、グループごとに意見をまとめて報告係の人が発表しました。その後、授業の残り15分ほどで、山脇先生が議論をまとめられました。
グループ討論の内容については、こちらのファイルを参照してください。

グループ討論で出た意見・質問(ダウンロード)

グループ討論についての山脇先生のコメントとしては、以下のような点が強調されました。
・多文化共生社会の形成のために大学生ができることは何か、考えてほしい
・多文化共生の取り組みにおける外国人市民自身の参加の重要性
・多文化共生は「結果」ではなく「プロセス」である
・メディアについては、既存のメディアの役割は重大であるが、オルタナティブな媒体を使用した市民メディアに可能性があるのではないか
・自治体、NPO、学校、国、企業、メディアなど、さまざまな主体が多文化共生に取り組むと同時に連携していくことが重要だが、連携の仕組みづくりは国が責任をもって行うべきであり、そのためには多文化共生社会基本法の制定が必要である。