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日本で生まれ育った仮放免者として 〜クアテン・ユニスさんインタビュー〜

世界にはばたく卒業生

「日本で生まれ育った仮放免者として」と題した学内講演が、2023年5月下旬に行なわれた。講演者は、昨年度本学を卒業された、クアテン・ユニスさん(22)。アフリカ地域研究の大石高典先生が受け持つ「地域基礎」の授業の一環として開催された。会場となった教室は、授業を履修している1・2年生だけではなく、3・4年生や大学院生、教職員らによって満員となった。質疑応答の時間には次々と手が挙がり、参加者の関心の高さが感じられた。

今回、クアテン・ユニスさんに、学内講演の内容を振り返りつつお話をうかがった。

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取材担当:鳥倉捺央(国際社会学部 西南ヨーロッパ地域/フランス語専攻 4年、広報マネジメント・オフィス学生記者)

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まず、授業内講演に至った経緯だ。「大石先生から、卒業後の4月にご依頼がありました。長年申請していた在留特別許可が下りた直後のことで、私が今までおかれていた『仮放免』がどのようなものなのか、自分の中で改めて整理するとともに、周囲の人にも知ってもらういい機会だと思いました」。

在学中は周囲に明かせなかった「仮放免」だということ。迷わず講演を引き受けた。「『仮放免』とはなにか、聞いたことがある方、知っている方は少ないと思います。きっとたくさん質問が出るだろうけど、どのような質問に対しても丁寧に答えよう、と。およそ1ヶ月かけて、準備をしました」。

授業内講演の様子。大勢の参加者に丁寧に語りかけるクアテンさん。

〈仮放免とはなにか〉

仮放免/仮放免制度とはなにか。出入国在留管理庁(以下、入管)の定義によれば、「退去強制手続は、身柄の収容を前提として行われるところ、収容されている者について、病気その他やむを得ない事情がある場合、一時的に収容を停止し、一定の条件を付して、例外的に身柄の拘束を解く」(註1)ことだという。堅い言葉が並んでいてわかりにくいが、仮放免になった人、すなわち仮放免者は、入管にとって「例外的」な存在であり、「条件」に従わなければならない、というのである。

仮放免者に課される「条件」として、入管への出頭義務があること、住居や行動範囲が制限されること、をクアテンさんはまず挙げた。「入管への出頭は、曜日、時間が指定されています。また、県をまたぐ移動は制限されており、移動する場合は、一時旅行許可を受けてからでなければなりません。高校行事の修学旅行に参加する際も、いつ・どこへ・なにをしに行くのかを、事前に入管に説明する必要がありました」。

次に、就労の禁止という「条件」が続く。生活するためにはお金が必要だが、なんと、その手段としての労働が禁止されているのだ。「私はキリスト教徒で、幼いころから家族と共に教会に通っています。神様のご加護と、教会の友人や、親戚、支援団体の方々の援助のおかげで、これまでなんとか生活することができていますが、支援してくださる方々がいなかったら……、無理ですね……」。

そして、在留資格がないことを理由に、医療保険への加入不可という「制限」もある。昨今、Covid-19が猛威を振るっているが、たとえウイルスに罹患したとしても、入院して治療することは選択肢にない、とクアテンさんは述べる。全額負担、という高額な医療費が待ち受けているからだ。

ここで、先ほど引用した、入管による仮放免制度の定義を思い出していただきたい。「病気その他やむを得ない事情がある場合」に仮放免になる、とあった。しかし、仮放免者に課される、就労の禁止という「条件」、医療保険への加入不可という「制限」を踏まえると、たとえば病気によって仮放免になったとしても、その病気を治す術はない、ということになる。高額な医療費を全額自己負担しなければならないが、就労禁止によって賃金を得る術もないからだ。入管と仮放免は、入管の内/外という違いはあるものの、人間を非人間的に扱い生きる術を与えないという点で、一続きのものと言えるだろう。

〈クアテン・ユニスさんのいままでとこれから〉

ガーナ国籍の両親のもと、日本で生まれ育ったクアテン・ユニスさん。在留資格を失ったのは小学生のころだ。それ以来、「日本に残りたい」と入管に宛てて手紙を書いていたが、「返事はありませんでした」。高校時代には、大きな夢として描いていた留学を断念せざるを得なかった。将来に希望を抱けず、進路もなかなか決めることができなかったが、「子どもの頃から、学校や市役所で、家族と職員との通訳をしていた経験から、語学なら挑戦できるかもしれないと思い、外大を選びました」。

入学式にて、お母様と記念の一枚。「少し不安はあったものの、東京外大での生活にワクワクしていたのを覚えています」。

入学料は知人に借り、授業料は大学に申請して一学期を除き全額免除を受けることができた。しかし、大学生活を送るためには、教科書代や生活費、通学費など、多額の費用がかかる。政府や民間の奨学金を申請することも考えたが、在留資格がないため、奨学金受給に必須となる銀行口座を開設できず、諦めるほかなかった。加えて、就労禁止という「条件」により、アルバイトはできない。少しでも生活費を抑えるために、片道2時間半かけて遠く離れた実家から大学に通った時期もあった、とクアテンさんは回想する。「クラスメイトと会話をしていて、留学やアルバイト、遊びなどの話題になると、なるべく手短に答えて、心の中で祈っていたんです。『早く別の話題にならないかな』と。今思うと、自分の殻に閉じこもりすぎていたのかな? という気もしますが、当時は精一杯でした。常に気を張っていました」。パソコンや電子辞書を購入したのは、大学3年生になってからだった。

クアテンさんは、大学生活を振り返って、「もしも、自分と同じような立場にいる若い世代の方々と交流することができていたら、少しは心にゆとりをもてたかもしれない」と語る。そんな自身の経験から、現在は反貧困ネットワーク「仮放免高校生奨学金プロジェクト」で高校生をアシストするチューターとして活動中だ。また、アフリカ日本協議会(AJF)では、アフリカンキッズクラブのインターンに従事している。来年度の就職に向けても活動中です、と穏やかな笑みを浮かべた。

〈考えたこと〉

お話を伺いながら、私は、海外でのサンクチュアリ・キャンパスの実践を連想した。これは、大学メンバーである非正規(註2)移民を強制送還しようとする国家政策(アメリカでは移民税関捜査局、略称ICE)に対して、大学・学生が抵抗して仲間を守り、差別のないキャンパスを自分たちの手で実現するという実践を指す。例えば、当局への非正規移民学生の情報公開を拒否したり、ICE職員が令状なしにキャンパスに入ることを禁止したり、在留資格のない学生に対しても奨学金制度を整備・拡充したりすることなどが行われている。

在留資格がないならば出ていけ、という国家の定めたルールに盲目的に従うまえに、そのルールが誰を対象にして、実際はどのような効果を持っているだろうか、と考えてみたい。肌の色、国籍、容姿……ここから出ていけ、という国家のルールを、一緒に暮らそう、というコミュニティの声や力で解体することは、このようなサンクチュアリ・キャンパスの実践事例からも、不可能ではない、と思う。

クアテン・ユニスさんは最後に、「仮放免について、もっと知ってもらえたらなと思います。大学から講演のご依頼やインタビューのお話をいただき、みなさんに話を聞いてもらうことができて、感謝の気持ちでいっぱいです」と語った。

私たちの生を分断する国家のルールは、人為的につくられたものにすぎない。であれば、それを変えていくことができるのも、また、わたしたち自身なのだ。

1)出入国在留管理庁「仮放免拒否判断に係る考慮事項 仮放免制度の趣旨」(2023年8月27日取得)

2)日本では「不法移民」という言葉がよく使われるが、国際的には「非正規」「無登録」という表現が一般的である。「不法」には、移民・難民の存在じたいを犯罪とみなすネガティブな響きがあり、差別を生みだすことが以下の記事で指摘されている。

SMJ移住連「在留資格のない移民・難民を不法と呼ばず非正規や無登録と呼ぼう!」(2023年10月18日取得)

参考文献

取材後記:

クアテン・ユニスさん、お忙しい中、インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。日本で生まれ育っているのにもかかわらず、仮放免であることを理由に様々な「条件」「制限」が課せられていたことを明かしてくれました。私たちの生を分断する国家のルール。盲目的にそれに従うのではなく、実際は誰に対し、どのような効果を持っているのか、果たして本当に必要なのか、と立ち止まって考えてみませんか。

鳥倉捺央(国際社会学部 西南ヨーロッパ地域/フランス語専攻 4年、広報マネジメント・オフィス学生記者)

本記事は本学の「学生取材班」により準備されましたが、文責は、東京外国語大学にあります。ご意見は、広報マネジメント・オフィス(koho@tufs.ac.jp)にお寄せください。

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