学長鼎談:東京外国語大学監事、寺前隆監事・桑原道夫監事
世界にはばたく卒業生
現在本学で監事を務める寺前隆監事と桑原道夫監事。寺前監事は、九州大学法学部卒業後、弁護士となり1994年には法律事務所を開設、数々の弁護士会の委員役員を務めながら、2010年より本学監事を務めていただいております。桑原監事は、本学のスペイン語科を卒業後、株式会社丸紅で長年勤務、米州支配人、副社長を経て、2010年からダイエー社長としてダイエーの黒字回復に向けて尽力されました。2016年4月から本学監事を務めていただいております。監事として本学への率直な意見を伺いました。
立石博高学長(以下、立石学長) 本日は、本学で監事を務めていただいている寺前隆監事と桑原道夫監事にお越しいただきました。監事として、本学の現状についていろいろと厳しいご意見を持っていらっしゃると思います。改めてざっくばらんにご意見を賜ればと思いますので、よろしくお願いします。
寺前隆監事(以下、寺前監事)、桑原道夫監事(以下、桑原監事) よろしくお願いします。
——大学の監事、学長のリーダーシップ・・・
立石学長 監事の役割について再確認させていただきますが、監事は、大学のあらゆる現状について状況を確認し的確に提言する役割があります。中期計画・年度計画の進捗状況、資金運用、決算状況や経理業務等も含め、第三者の目で厳しく監査し意見することとなっています。大変重要な役割を担っていただくため、任命も文部科学大臣がおこなうことになっています。経営協議会・役員会・教育研究評議会などの重要会議に出席していただいて、必要に応じて意見を述べていただきます。本学の場合、お二人の監事には違った観点から監査をしていただくということで、弁護士である寺前監事には、特に大学のコンプライアンスに関する事柄を、民間企業で長く務めた桑原監事には、特に経営的な観点からのご意見をお願いしております。監事をお願いしてから、まずは、これまで本学の監事をされて困難に感じた点を教えていただけますか。
寺前監事 本学で監事を務め始めて6年になりますが、大学組織での経営や運営に関する意思決定の難しさを感じています。さまざまなプロセスを経由して、最終的に学長が意思決定をすることになっていますが、いわゆる経営のプロがいない中で学術的な専門家集団である教員の意見を調整しながら、さまざまなレベルで意思決定をしていき、最終的な経営決定をするという過程は、企業とは少し違いますよね。マネジメントに携わっている教員と、まったく携わっていない教員との間では、かなり認識の齟齬があるのではないかと思いますし、多くの教員に参加してもらうということ自体がなかなか難しいことなのだろうと感じています。二学部改編の際もマネジメントを行った執行部の方々は大変苦労されていたように認識しています。
立石学長 大学教員の人事評価は、大きく4つに分けられます。1つ目は「教育」。2つ目は「研究」、それぞれがおこなう研究を教育に還元されなければなりません。あるいは教育現場での課題をさらに研究に活かしていかなければなりません。3つ目は「社会貢献」。大学の知を社会に対して還元することが求められています。そして、最後に「業務運営」です。ただ実際には、マネジメントに積極的に関わっている教員と、ほとんど関わらないで済む教員がいるのが実情です。皆が少しずつ関われば、一人当たりの負担も少ないと思うのですが、なかなかそういうわけにはいきませんね。
寺前監事 企業も社会も強いリーダーシップの下でスピード感を持って運営をしている時代ですが、大学という組織では、それとは異なりコンセンサスを取るのにとても手間が掛かるのだと感じています。
桑原監事 私は民間企業で長年働いてきましたしマネジメントの立場にもおりましたが、大学という組織に関わるようになって、大学の経営の難しさを感じています。その一つの大きな理由と思われるのは、数年で他機関へ異動してしまう教職員が多くいるということ。将来のビジョンを描く、という時の意識が違いますし大きく影響してくるのではないでしょうか。
立石学長 確かにそうですね。例えば優秀な人材が文部科学省から来たとしても、キャリアパスに影響するので2・3年で他機関へ異動してしまいますね。
——「コスト削減」への取り組み・・・
立石学長 コスト削減についてはこれまでにも厳しいご意見をいただいております。大学は社会に出て行く人材を養成するという大きなミッションがあり、個別的な利益追求に対する考え方は民間企業とは異なります。しかし、だからと言って予算の無駄を正当化していいかというと、それは全く別の問題ですね。ペーパーレス化についても、本学は取り組みが遅かった。大学には、教員と事務職員とがいますが、教員にそうしたことを取り組ませるのはなかなか難しい。実際の運営現場で働く事務職員の方々に大学業務の無駄に関して各々意識を持ってもらい、積極的にアイデアを出して実行に移してほしいと思っています。無駄について具体的なご意見をいただけたらと思います。
寺前監事 事務職員には優秀な人がたくさんいると思いますが、効率的な運営や合理化という点においてはあまり積極的ではない気がします。自ら工夫しようという意識が必ずしも強くないように思います。その一つの要因として考えられるのは、例えば民間企業であれば財政的に厳しくなったら、トップの指導のもと昇給率やボーナスを抑えたり、制度を変えたりすることは当然のように行われますが、国の保護があるためか大学ではそういったことがなかなかできないという点です。年俸制についても、大学組織では、どうも文部科学省が言っているから一定数の年俸制教員を作っているのではという印象があります。コスト削減の一環として取り組むことは、大学ではなかなかむつかしいことなのでしょうか。
立石学長 そうですね。本学も一部教員に年俸制を導入していますが、むしろインセンティブを高めるためのもので、必ずしもコスト削減にはつながっていません。また、大学では文部科学省や他大学との人事交流で赴任する職員もいます。特に課長職などにそのような方が多いのですが、年俸制の採用はそのような異動にも関わってきます。優秀な方がいたとしても、本学から他大学へ異動した時に給料が下がるわけにはいかないので、なかなか大きな差はつけられずにいる状況です。
寺前監事 そうですね。給与制度についての仕組みを変えることはとても難しいことだと思います。人件費に手をつけなくても、先ほどのペーパーレス化などさまざまなところを工夫してできるコスト削減の方法はまだまだあると思います。そして、それを一番よく知っているのは事務職員の皆さんではないでしょうか。無駄だと認識しておられることも意外に多いのではないでしょうか。教員と調整してできる工夫はたくさんあるのではないかと思います。
立石学長 そういう声をきちんと拾い上げて、少しずつ改善していかなければならないですね。
寺前監事 民間の製造現場ではいわゆる提案制度があって、コストを減らすためのアイデアを出し合って改善につなげる取り組みを毎月のようにやっていて、そうすると改善されるたびにコストが減り品質は上がっていきます。それでもコスト削減の余地は絶えることなく出てくると伺っております。
——「時間の無駄」への取り組み・・・
桑原監事 ペーパーレス化などに対する取り組みもそうですが、会議時間ももう少し改善できるのではないかと思います。企業の場合は会議を短くしないと稼ぐための時間が減ってしまうので、時間もコストと考えるのが普通です。その辺の考え方に違いを感じます。おそらく、時間の概念が違うのではないでしょうか。24時間は常にある、と感覚的に思われている方が多いように感じます。時間の無駄も含めて考えていかないと、無駄は削減されていかないのではないかと思います。
寺前監事 このままですと、教員が本来もっと費やさなければならない「研究」の時間は、絶対出てこないですね。役員となるとよりそうです。それは、研究教育機関である大学にとっては本当に残念なことだと思います。
立石学長 法人化以降、特にそうですね。大学の運営予算の獲得ひとつとっても、手を変え品を変え、振り回されている感があります。単年度予算なので、長期的な形での予算獲得ができず、特に教育現場は困りますね。プロジェクトの形で予算を要求しなければならないのですが、やっと獲得したプロジェクトも蓋を開けてみるとどんどんどんどん予算額が減り、その減り方も激しい。プロジェクトが終わった後は自前で維持しなければならない、あるいは別の形でプロジェクトを応募しなければならない。教育というのは長期的な観点から考えなければならないのですが、それが今の制度ではなかなか難しいですね。
桑原監事 3年あるいは6年は保証するよ、けどその先は知らない、というのが多すぎますよね。
——大学広報・発信力の強化・・・
寺前監事 そのような中で、本学が取り組む3つの戦略的プラン、スーパーグローバル大学(SGU)構想、国際日本研究の推進、そして世界展開力強化事業での農工大・電通大との取り組み、これらはまさに本学でないとできないようなプランだと思います。ぜひ外部にもこの取り組みを積極的に発信してほしいと思っています。それがひいては、学生の就職や外部資金の獲得に役立つのではないかと思います。
立石学長 ありがとうございます。そうした面で大学広報の強化も必要ですね。
桑原監事 記者懇談会を開催して、大学の現状や方向性を学長が自ら広報することも今後はやるべきではないかと思います。各社に声をかけて一同に会して、軽食を囲みながら交流を持つ。年に1・2度でいいので、記者の方に直接説明する機会を作った方が良いと思います。例えば、本学のSGUの取り組み、「留学200%」とかいうのを広く知ってほしいわけです。
立石学長 わかりました。開催を検討させていただきます。
桑原監事 それと、広報だけでなく、評価、そして改善ですね。本学は、さまざまなコンソーシアムを組み込んだ形のプロジェクトが多くありとても積極的に前向きに行っていますが、プロジェクトを進行する際に、進捗状況をきちんと広報し評価をもらい振り返ることももっときちんとやってほしいと考えています。PDCA(計画→実行→評価→改善)ですね。プロジェクト自体を運営するのにかなりの時間を持っていかれますから、なかなかその余裕がないのも事実だと思います。ただ、そうしたことをきちんとやっていくと中身がより良く作られていいきますね。これはプロジェクトだけでなく、入試や教育制度などについても同じことが言えますね。学生の人材育成に関して、分析していくとよいと思います。
立石学長 そうですね。企業や社会で活躍するために何が必要かがわかってくると、大学のキャリア形成支援の中にも組み込めますね。
桑原監事 「留学200%」なども、ぜひ追跡調査を行っていってほしいと思います。
立石学長 ありがとうございます。本日は時間となりましたが、今後も監事の立場から積極的にご意見をいただいて、本学のさまざまな改善、そして新たな取り組みにつなげていきたいと思います。本日はありがとうございました。
本学監事の主な役割 (本学監事規定より)
- 関係諸法令・業務方法書・諸規定等の整備状況・遵守状況
- 中期計画・年度計画の実施状況
- 組織の運営・人事管理の状況
- 防火その他保全に関する措置状況
- 決算(年次及び月次)の状況
- 予算の執行・資金運用の状況
- 契約の執行状況
- 債権管理の状況
- 金銭出納・資金管理の状況
- 資産管理の状況
- その他必要な事項
東京外国語大学は、2023年に建学150周年を迎えます。
建学150周年を迎えるにあたり、「東京外国語大学建学150周年記念基金」を2014年1月に開設しました。皆様からのご協力・ご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。
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建学150周年記念募金事務室(総務企画課内)
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