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学長座談会:国際機関で働くということ

世界にはばたく卒業生

ゲスト:小松原茂樹様
(国連開発計画(UNDP)アフリカ局TICADプログラムアドバイザー)

本学外国語学部英米語科を卒業後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに進学され、国際関係論の修士号を取得されました。その後、経済団体連合会(経団連)、経済協力開発機構(OECD)を経て、現在、国連開発計画(UNDP)アフリカ局TICADプログラムアドバイザーとして活躍されています。国際機関で働くうえで大切なことなどについて伺いました。


立石博高学長(以下、立石学長) 本日は、国連開発計画(以下、UNDP)で活躍されている小松原茂樹様にお越しいただきました。小松原さんは本学の卒業生で、現在は日本とアフリカのパートナーシップの強化に尽力されています。今回は、本学の八木言語文化学部長と吉田国際社会学部長との座談会という形でお話を伺っていきたいと思います。よろしくお願いします。

小松原茂樹様(以下、小松原様)

八木久美子言語文化学部長(以下、八木学部長)

吉田ゆり子国際社会学部長(以下、吉田学部長)

よろしくお願いします。

経歴について・・・

立石学長 小松原さんは1990年に本学の外国語学部英米語科を卒業され、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(以下、LSE)に進学されました。まずは、本学に進学を希望された理由をお伺いします。

小松原様 父が英文学者なので、幼いころから英語が周りにある環境にいました。父は私に英語を教えませんでしたが、中学校で英語を習い始めて、どんどん好きになっていきました。中学校2年生のときに初めて海外に行きました。イギリスのファストフード店で英語を使って注文できたのが、嬉しくて。言葉は話すと通じるのだと感じました。この経験から、海外のことを勉強して、英語を使って色々なことを話してみたいと思いました。言語も国際的なことも両方学べるのは、東京外大だということで、入学しました。

立石学長 海外の人とコミュニケーションができた実体験から語学に興味を持たれたのですね。大学の授業の思い出はありますか。

小松原様 ネイティブの先生の授業で、東京都内で外国人と5分話して、その様子をテープレコーダーに録音する課題が出されたことがあります。勇気を出して話しかけた外国人が30分もつきあってくれて、大変嬉しかった思い出があります。提出したら“too long”と言われましたが(笑)。アメリカ文学や英語音声学など、どの先生も素敵で、思い出に残っています。

立石学長 本学卒業後、LSEに進学されましたが、就職は考えなかったのですか。

小松原様 実は内定をもらっている企業がありました。しかし、冷戦やソ連の崩壊など世界が変わっていく様子を見て、もう少し勉強したいと思いました。思い切ってLSEに願書を出したら合格しました。

立石学長 LSEでの専門は何でしたか。

小松原様 私は国際関係論の修士のコースに入りまして、経済制裁が国際政治の中でどういう役割を果たすのか、それは実効性があるのかを、ケース・バイ・ケースで学びました。

立石学長 そうすると、若いころから平和構築への関心が強かった。

小松原様 はい。進学時も国連のような国際社会の現場で働いてみたいと思っていました。

日本で就職した理由について・・・

立石学長 LSE卒業後、帰国され、経団連に就職されています。

小松原様 はい。LSEに通っているとき、1学年40名くらいで、日本人は私だけでした。授業でクラスメートに「シゲキ、湾岸戦争でなぜ日本はこういう行動をとったんだ」と質問攻めに遭いました。しかし、正直、私は、日本のことはよく分かりませんでした。入試も世界史で、日本史の知識は不十分でした。

八木学部長 私も海外の大学に進学しましたので、日本について説明ができないことはよく分かります。

立石学長 世界で活躍するためには、母国である日本のことをきちんと理解することも大事ですね。東京外大も近年そういった点にも力を入れています。

吉田学部長 そうですね。学部共通の全学教養日本力プログラムで、日本語や日本のことを学ぶことができます。また、来年度には英語で日本を学ぶ「国際日本学部」が立ち上がります。

小松原様 日本を自分の言葉で語れないとだめだと、ロンドンで日本研究の本を片端から読みました。ここで日本の経済や社会に関心をもちました。経団連の面接に行きましたら、興味を持ってもらいまして、そのまま就職しました。

立石学長 OECDへ出向した3年間を含め経団連には11年近く勤められたと伺っています。

小松原様 経団連の事務局では主に国際分野を担当し、OECDでは貿易投資政策や国際的なルール作りを勉強しましたが、その中で、発展途上国を理解する重要性に気がつきました。その後、UNDPが日本に派遣した採用ミッションに偶然出会い、2002年からUNDPでアフリカ支援に携わっています。

立石学長 国連には関連機関含め、東京外大卒業生はどれほどいるのでしょうか。

小松原様 国連全体では800名以上、ニューヨークでも200名を超える日本人職員がいますが、出身大学のことを話す機会はあまり無いので、私にも良くわかりません。昔からの同僚が実は東京外大卒業生だったということもあります。

八木学部長 どうしても最終学歴が先に目に入りますからね。

大学と同窓生のネットワーキングについて・・・

小松原様 欧米の大学院はプロフェッショナルのネットワークの構築など同窓会をうまく使っていますよね。定期的なニュースレターやイベントなど、気軽に関われるところから構築されていく。ある大学では親にまで雑誌が届いたり、またある大学では膨大な人数の卒業生をすべて把握していたりします。

八木学部長 私も博士号を米国で取得したのですが、短いスパンでニュースやイベント情報や寄付のお願いがきます。果てには、同窓会の役員の選挙の投票用紙も来る。定期的に大学から便りが届くと、奨学金をもらっていたこともあり、大学に還元しなくてはという気持ちになります。

小松原様 大学のビジネスモデルが完成していますよね。東京外語会も海外に行くとすごいですよね。

吉田学部長 海外支部が多くて、東京外国語大学ならではですね。

八木学部長 常識では考えられないようなところにも。

立石学長 これからますます、幅広い年代に東京外語会の活動が受け入れられるとよいと思います。

国際機関で働くことについて・・・

吉田学部長 昨年度からニューヨークの国連本部に研修に行く「国連スタディツアー」を始めました。国連職員になりたいと思う学生は多くいます。

小松原様 そうですね。「どうやったら国連に入れますか」という質問も多いですが、自分の専門を掘り下げていくと、その先に自分に合った国際機関が見えてきます。だから、心配せずに、自分の興味のあるものを見つけてほしいと思います。

立石学長 国連で働くうえで大切なことは何でしょうか。

小松原様 1つはコミュニケーション、1つは専門性、もう1つがコンペテンシーと考えています。コミュニケーションは単に言葉ではなく、一言でいうと心が通じること。国ごとに異なる常識を認めて、お互いに話を聞いて、合意をつくっていくことです。専門性は、資格や学位にとどまらず、自分が熱くなれる分野のことです。「ミッションとパッション」という言葉をよく使うのですが、自分がこだわりを持つ分野や課題に取り組んで、社会の役に立つことを願う職員が多いです。コンペテンシーとは、仕事ができる人の行動特性の事で、グローバルな仕事をするときに役立つノウハウです。国連に入ってからも、意識して様々な能力を鍛えるよう、常に要求されています。

立石学長 一般企業の研修のように、国連の中に能力を鍛える仕組みがあるのでしょうか。

小松原様 自分が更に伸ばしたいコンペテンシーをトレーニングできるオンラインコースや、公用語を学べる教室や、専門の研修所があり、自分を伸ばす環境は大変充実しています。また、国連は自己研鑽を奨励しています。勤務時間の5%は自分の好きな勉強に使ってよいことになっているんですよ。

立石学長 このことを学生に言うと、国連職員にぜひなりたいときっと言うでしょうね。さらにお聞きしたいのですが、民間企業は営業成績など客観的な指標から人を評価すると思いますが、国連職員はどのように見ていくのでしょうか。

小松原様 先ほど申し上げたコミュニケーション、専門性、コンペテンシーがカギとなっています。期待されるコンペテンシーの達成度や専門的な仕事の結果を判断し、1対1でディスカッションをするなど、十分なコミュニケーションの後に評価が決まります。自己評価はしますが、上司とコミュニケーションをとる事で自己評価との差異がわかり、勉強になります。

八木学部長 多くの職員がいる中で、1体1のディスカッションをしているとは、驚きです。

各学部の学生に期待することについて・・・

立石学長 ご自身の専門性を掘り下げた結果、国連に入職された小松原さんから各学部の学生にメッセージをいただきたいと思います。

小松原様 2つの学部の学生さんはそれぞれどのような特色があるのですか。

八木学部長 言語文化学部の学生は、異文化に関して柔軟に対応できる学生が多いです。私はアラビア語の授業だけでなく宗教学の授業も持っているのですが、宗教学の授業には、他の語科の学生も多く受講しています。アラビアでは当たり前のことも、他の言語地域では当たり前ではないと指摘されます。そういった「当たり前」が揺らぐ瞬間がたくさんあるので、異文化に対して上からでなく対等に向き合うことができるのだと思います。

小松原様 違う文化、言語、国の人たちに怖がらずに素直に興味を持って話しかけられるというのは、この大学では普通のことかもしれませんが、とても貴重なことだと思います。よく「オープンマインド」という言葉を使うのですが、先入観を持たない、まず話を聞く、まず経験してみるということは、国際機関で仕事をするうえで必須です。ぜひその部分を大事にして、どんどん自分の興味を掘り下げてほしいと思います。

立石学長 国際社会学部はいかがでしょうか。

吉田学部長 高校生のときから一貫して国際社会に興味があって、世界で困っている人たちに手を差し伸べたいと思っている学生が多いです。そのため、アクティブな学生がとても多いです。ただ、1・2年生のうちは言語を学ぶ時間が多いので、迷いが生じる学生がいるのも事実です。そのため、近年は1・2年生のうちから、国際社会に携われるような企画に力を入れています。

八木学部長 精力的ですよね。

吉田学部長 先にお話しした国連スタディツアーや山形スタディツアーなどがあります。山形スタディツアーは今年からの企画で、4つの自治体と協定を結び、日本人学生と留学生が日本社会の現状を実際に体験し、自分で学び、地域の魅力を多言語で発信し、良質なインバウンドにつなげるというものです。

小松原様 それは素晴らしいですね。今学んでいることが何に役立っているか不安な学生がいると聞きましたが、時々学校を離れて現実を見てみよう、と伝えたいです。現実を見ると、学問が社会の中でどう重要なのかが見えてきます。実際に社会に出たときに、視点はひとつでなく、できるだけ多く持った方が応用もききますし、様々な課題をより深く理解する事ができます。そういった意味でも、現実の社会に関心を持って学んでいってほしいと思います。

立石学長 学生全体に対して、改めてメッセージをいただけたらと思います。

小松原様 これから日本がグローバル化する中で、個人の力がより求められてきます。先入観を持たず、違いを尊重し、人の話を聞く。そういう心の広さを持った人材が世界でも日本でも必要とされると思いますので、自分の関心を大事にしながら、東京外大で学んでほしいと思います。自分がパッションをもって追究できる課題を見つけ、社会の役に立ちたいと考える中で、国連というキャリアのオプションが出てくる方もいらっしゃると思います。楽しみにお待ちしています。学生の皆さんのお役に立てるアドバイスや情報提供も喜んでさせていただきます。オープンマインド、ミッションとパッションを忘れずに頑張ってください。

立石学長 本日は、一時帰国中にお時間を割いてくださり、ありがとうございます。これからも国連スタディツアーや現代アフリカ地域研究センターの活動など様々な点でお世話になります。これからもどうぞよろしくお願いします。

八木学部長 吉田学部長 本日はどうもありがとうございました。

小松原様 ありがとうございました。

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