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学長鼎談:大学の知財を活かしていく

世界にはばたく卒業生

ゲスト:電気通信大学 教授 坂本真樹様

本学ドイツ語科卒業後、東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻に進学され、東京大学助手を経て、電気通信大学情報理工学研究科情報学専攻の教授となられました。人工知能学者として研究を精力的に行うほか、教育活動や社会貢献活動でも活躍され、電気通信大学2017年度優秀教員賞を受賞されました。また、テレビ・ラジオ等の数多くのメディアに出演されるなど、多方面で活躍されています。文系大学である本学から理系分野に進んだきっかけや、大学は知財という面からどのように発展していけばよいかなどについて伺いました。


立石博高学長(以下、立石学長) 本日は、電気通信大学大学院教授の坂本真樹様にお越しいただきました。坂本教授は本学の卒業生で、人工知能学者として精力的にご活躍なさっています。今回は、本学の佐野教授と鼎談という形でお話を伺っていきたいと思います。よろしくお願いします。

坂本真樹様(以下、坂本教授)

佐野洋教授(以下、佐野教授)

よろしくお願いします。

——東京外大から電通大の教授へ・・・

立石学長 坂本さんは1993年に本学のドイツ語科を卒業され、現在は電気通信大学(以下、電通大)の教授職に就かれています。こちらのユニークな経歴を詳しくお伺いできればと思います。

坂本教授 言語が好きで、英語以外の他の言語も勉強したいと思い、東京外大のドイツ語科へ入学しました。当時は、将来、言語を活用できる外資系の企業への就職のほか、医療系の道へ進むことも考えていましたので、理系の勉強もしていました。

立石学長 もともと理系の基盤もあったのですね。理系科目は苦手という東京外大生もいますが、その苦手意識を払拭しようと、大学間連携を活かして、電通大の理系の先生方にリレー講義をお願いしています。坂本さんにもご協力いただいていますね。

坂本教授 はい、3年連続でリレー講義を担当しています。東京外大の学生さんにも少しでも理系に興味を持ってもらえると嬉しいです。

立石学長 本学の学部を卒業後、東京大学(以下、東大)へ進学されています。

坂本教授 学部の卒論を書く際に、ドイツ語の比喩が英語や日本語に似ていることに気づき、言語を超えた共通の認知基盤の存在に関心を持ちました。東京外大でも学べると思いますが、あえて違う場所に飛び込んでみようと思い、東大大学院へ進学し、言語情報科学を専攻しました。

立石学長 博士号を取得された後、東大助手を経て、電通大の教員となられたということですね。現在はどのような研究をされているのですか。

坂本教授 現在は、「さらさら」「ふわふわ」など物事の状態や動きなどを音で象徴的に表した言葉、いわゆるオノマトペを通じて人間の感性を数値化し、それをAIのシステムに導入する、という研究をしています。

立石学長 文系からそのような研究に進むのは、かなりの冒険だったのではないですか。

坂本教授 人工知能の分野でも文系出身は稀有な存在ですので、冒険だったと思います。しかし、私の研究は、文系ではおなじみの言語学や心理学と、理系の分野が組み合わさったもので、これは文系出身でなければ思い浮かばなかったことなのかもしれません。実際に、この研究は他の研究者にとって新鮮だったようで、高く評価されています。おかげさまで外部から研究資金もいただいています。

——ご自身の研究と研究時に心掛けていることについて・・・

立石学長 研究を進めていく上で、研究資金を獲得するのは、極めて大切なことです。

坂本教授 そう思います。さらに研究を発展させるためには、研究費の支援をいただく必要があります。研究成果を発表し、還元し、企業から資金をいただこうと努力していかなくてはなりません。理系では、聴講される方々と守秘義務を結んだうえで自分の研究成果を発表し、さらに半年以内に特許出願をしたうえで、論文を書くというルーティンが一般的です。

佐野教授 本学を含む人文系の大学の研究ではあまりなじみのないルーティンですね。人文系では特許出願があまりないので、そのあたりのノウハウがありません。

立石学長 そうですね。特許出願や取得に際しては、大学からどのようなサポートを受けているのですか。

坂本教授 発明に相当するものが生まれたときに大学に届け出をし、学内の審査が通れば大学の費用負担で出願してくれます。学内の審査が通らなかったものは、個人で出願しなければいけないのですが。審査はある種、大学の経営判断のような部分があります。

立石学長 電通大のお話を伺うと、知財という面で本学はまだまだ研究支援への取り組みの余地はありそうですね。

佐野教授 そうかもしれません。国立大学が法人化された2004年頃に、産学連携を模索していた際、本学には特許がないと指摘されたことがありました。

坂本教授 特許の出願書類を自分で書くのはなかなか難しいことです。弁理士さんに書き方をチェックしてもらい、最終的に大学の知財部門のスタッフが見る形をとっています。

立石学長 そういう意味では、本学もこれから大学の知財というものをきちんと検討していかないといけないですね。本学にとって今までとは違う発想から生まれるものがあるかもしれません。

坂本教授 東京外大では、話したことを自由自在に翻訳できるような、機械翻訳を超えるものが生まれると面白いな、と思います。

佐野教授 お話をお伺いする中で、坂本さんのアプローチは、いわゆる言語間の翻訳というよりも表象化だと感じました。ツルツルとかフワフワといったオノマトペが相手の言語にどのように翻訳できるかというよりも、それは一体何を表象しているのかを考える。印象や感覚を数値化し、見えるようにしたり、色で表現したりといったことですね。

坂本教授 はい、そうです。オノマトペに限らず、表現の固い文章でもそこから感性を抽出して、この文章はどのような雰囲気なのか、を読み取る研究をしています。

立石学長 その研究が産業界から注目されています。

坂本教授 実は、オノマトペから感性を抽出するだけではなく、その商品を正確に表現できるような新たなオノマトペを生み出すこともできます。割とニッチな研究に取り組んでいるので、ナンバーワンというよりもオンリーワンの研究に見え、目を引くのかもしれません。

立石学長 研究をする際に心掛けていることは何かありますか。

坂本教授 素朴な疑問を常に大切にするようにしています。この研究も、人間の感性って不思議だなと思ったことから始まりました。感性といったあいまいなものを拒否せず、面白いと感じ、研究をする。理系ではどうしても、あいまいなものを拒否してしまいがちですが、そこを面白いと思えたのは文系ならではの考え方なのかな、と思います。また、どのようなことにでもチャンスを見出し、研究発表の場として大切にしています。基礎研究はもちろん大切ですが、研究成果を一般の方にも楽しんでもらいたいと思い、アウトプットは派手にしようと思っています。

立石学長 研究発表の場として、AIによるアイドルグループの歌詞の作成なども行われています。

坂本教授 イベントのブースにグループのメンバーが来訪し、そこから話が進みました。AIの歌詞作成に対する色々な方からの反響の内容が大変興味深いものとなりました。

——本学や学生に期待することについて・・・

佐野教授 あいまいなものに普遍性を見つけ、それを蓄積することに価値を見出すのが文系の考え方だと思いますが、普遍性をモデル化して、メカニズムを明らかにすることも大事だと思っています。その部分に対して、どのように感じられていますか。

坂本教授 そうですね。あいまいで混沌としているものを、すべて1本にきれいにモデル化することは大事なことです。オノマトペもあいまいな事象ですが、音と意味の足し算のようなシンプルなモデルに落とし込むことができます。一番鍵になるのは、あいまいで混沌とした事象を疑問に思う、面白いと思うことだと思います。

佐野教授 その点で、本学の1・2年次の一般教養では、現象をモデル化する学習が少ないと感じます。形式化の基礎概念を授業の中で繰り返し提示し、新しい現象をモデル化できるような授業があってもよいですね。

立石学長 本学の学生や研究者は、個別性をとても大切にしているので、自分の言語能力や研究成果や経験を駆使することはできます。しかし、普遍性のモデル化という部分ではまだ劣っていて、例えば大きなビジネスにつなげていくことは、まだ難しいと感じます。

坂本教授 大きなビジネスにつなげるためには、企業やメディアが何を求めているか考えることも必要ですよね。自分が取り組みたい研究をするのはもちろんですが、需要に合わせていくことも大切です。

立石学長 本学も研究費の獲得には意欲的で、科研費の採択率は常に上位です。しかし、大型研究費の獲得にはなかなかつながらない。社会の需要に合わせて研究費を申請し、獲得するという発想も本学の研究者たちに伝えていきたいです。本学の可能性が広がりますね。

坂本教授 たとえば、ズキズキという頭の痛みを表すオノマトペを様々な言語で表現できるようなAIを、電通大と東京外大で開発するなどの共同開発ができたら面白そうですよね。

立石学長 本学では27の専攻言語がありますが、そのすべてにズキズキという頭の痛みを置き換えることができるのでしょうか。

坂本教授 瞬時にできると思います。ズキズキという痛みを数値に置き換えて、さらに各言語に置き換える、という発想です。

立石学長 色々な可能性が広がりますね。

佐野教授 感性の翻訳など、文字表現にならない言語学を積極的に取り上げたAIの開発は、大変魅力的に感じます。

立石学長 そうした意味では、電通大、東京農工大学(以下、農工大)、本学が3大学で協定を結んでさまざまな分野で協力しようとしている中で、可能性を模索していけたらよいですね。

坂本教授 不思議なご縁で、東京外大は府中へ移転し、電通大や農工大と近くなりました。

立石学長 この縁を最大限に活用し、西東京を盛り上げていけるといいですね。

坂本教授 私もまだまだやりたいことがたくさんありますが、一人ではなかなかやり切れないので、さまざまなところと連携していければ、と思います。

立石学長 最後に、本学の学生にアドバイスがあったらお教えください。

坂本教授 東京外大の学生さんは、理系が苦手という方が多いかもしれませんが、基礎的な数学の概念を学んだり、線形・非線形などの問題をたくさん解いたりすることも大事ということを伝えたいです。そういった基礎的なことも、物事を考える上で道具として、たくさん持っておいた方がよいと思います。自分が苦手だから、好きでないから、何の役に立つか分からないから、といった理由でやらないのはもったいないと思います。何でもやっておくと後で意外なところで役に立つはずです。これは東京外大に限らず、電通大の学生にも言えることですが。

立石学長 苦手なことを回避するではなくどのように克服するか、というのは大切なことですね。本学でもいわゆる教養段階で、できるだけ教えたいと努力していますが、更に努力していく必要がありますね。

坂本教授 今後もリレー講義などで協力できたら、と思います。

立石学長 坂本さんのユニークな経歴やご意見をお聞かせくださりありがとうございました。文理協働を進めていくにあたり、貴重な機会となりました。

立石学長 佐野教授 本日はどうもありがとうございました。

坂本教授 ありがとうございました。

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