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学長鼎談:多様性を尊重する

世界にはばたく卒業生

ゲスト:倉田るり子様
(NTTコミュニケーションズ株式会社法務監査部法務部門担当課長)

本学外国語学部スペイン語科卒業後、日本電信電話株式会社(NTT)に入社されました。1999年のNTTの組織再編(分離・分割)後は長距離国際通信を担うNTTコミュニケーションズ株式会社に勤務し、長年国際業務に携わります。その後Northwestern University Pritzker School of Lawへの留学(LLM取得)。現在、NTTコミュニケーションズ株式会社法務監査部法務部門担当課長として活躍されています。幼少期を海外で過ごし、その後日系企業での勤務経験の中で、多様性を尊重しながら自由にしなやなかにその時々の状況に応じて働くことなどについて伺いました。


立石博高学長(以下、立石学長) 本日は、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT)で活躍されている倉田るり子様にお越しいただきました。倉田さんは本学の卒業生で、現在は法務監査部法務部門担当課長を務められています。今回は、本学の大野総務企画課長にも参加してもらい、鼎談という形でお話を伺っていきたいと思います。よろしくお願いします。

倉田るり子様(以下、倉田様)

大野智子総務企画課長(以下、大野課長)

よろしくお願いします。

―幼少期から大学時代について・・・

立石学長 倉田さんは1989年に本学のスペイン語科に入学されました。私もスペイン語科を卒業しているので、まずは、スペイン語に興味を持たれた理由をお伺いできればと思います。

倉田様 親の仕事の関係で、幼少期は中南米を転々としていたため、スペイン語は私にとって大変身近な言語であり、私にとって、切っても切り離せないものでした。チリのサンティアゴで生まれ、エルサルバドル、アルゼンチン、エクアドル…その後、中学受験合格を機に帰国するまでの約10年間の幼少期をすべて海外で過ごしました。

立石学長 当時は今ほど帰国子女がいなかったと思いますが、学校での生活はどうでしたか。

倉田様 当時から帰国子女は結構いたのですが、まだマイノリティの立場に置かれていました。私の頃は帰国子女が今のようにもてはやされる時代ではなく、むしろ帰国後日本の学校になじめず、いじめに遭うなど苦労する方が非常に多かったです。私は幸いにも国立大学の附属中学に入学することができ、先生方も非常に視野が広く、ありのままの自分を尊重してもらいながら、過去のブランクを無理なく取り戻せました。帰国子女の中でも、中南米からの帰国子女はまれで、今ほどサッカー等で中南米という地域に対する関心は高くありませんでした。どの国でも日本に勝るとも劣らない一流の教育環境の中で育ちましたので、誇りとプライドを持っていました。入学直後の全校試験で私の成績は当初ビリでしたが、まったく不安はなく、絶対に克服できる自信がありました。実際成績はどんどん上がり、常に上位に位置するまでになりました。

立石学長 大野さんはいかがですか。

大野課長 私は日本でずっと育ちましたが、今、倉田さんのお話と通じるところとしては、自主性を重んじる学校で育ってきたところですね。自由度の高い環境に育ったことが、今のものの考え方に大きく影響を与えたと思います。

立石学長 お互いに自由な校風の中学校、高校で学ばれて、大学に入学されたのですね。倉田さんは再びスペイン語に触れることになります。

倉田様 大学でようやくスペイン語の文化に再び触れるチャンスが訪れたと思い、東京外大を受験しました。大学入学後は、すでにスペイン語は習得していたものの、ほかの学生と同様にゼロからスペイン語を学び、スペイン語検定1級などにチャレンジしました(スペイン語検定1級合格(スペイン大使賞受賞)、DELE上級合格(スペイン科学文部省認定))。スペイン語は話せましたし、現地で国語として文法なども学んでいましたが、じゃあ、それを日本語で解説できるかというとそこは必ずしもできるとは言えません。専門の教授から言語としてのスペイン語を学びつつ、時には上の学年の授業を受けさせてもらいました。4年生のときは、NHKをはじめとする日本の各TV放送機関のスペイン語及び英語の通訳としてバルセロナ五輪の現場を体験することができ、記念すべき卒業の年になりました。実は、立石先生の授業を取った記憶が鮮明にあります。

立石学長 1992年に着任したので、倉田さんとは1年しか重なっていませんが、ちょうどその年のスペイン史を受講されたのですね。成績はどうでしたか?(笑)

倉田様 決して悪くなかったと思います。(笑)

―今の仕事に至るまで・・・

立石学長 倉田さんは1993年に本学を卒業され、NTTに入社されます。最初はどのようなお仕事をされたのでしょうか。

倉田様 当時は入社すると国内各地の支店に配属されるのが通例でした。私も支店に配属になり、地域営業を担当しました。ちょうど新規参入が激しくなり、競合とのシェアの取り合いのために入社前には想像もしなかったどろくさい営業もせねばなりませんでした。当時は国内通信事業者だったNTT(国際通信事業者はKDD(現KDDI))も必ず国際事業に出ていくと信じていたので(当時の米国の通信業界の動きから推測)、NTTが国際事業に進出するときには必ず自分も事業立ち上げに携わりたいという強い気持ちを持ちながら、苦しくても最初の3年は我慢しようと思いました。

立石学長 今の若い世代は、せっかく就職しても3年のうちに3割くらいが辞めてしまいます。

倉田様 以前よりも諸外国同様に転職が一般的になってきているという印象もあります。そのためにも自分は何をしたいのか、どうなりたいのか(つまり自分のキャリア)を常に見据える必要があり、受け入れる会社の方も、その会社にいたいと思われるようなやりがいのあるwork-placeを提示できなければならないと思います。

立石学長 学生も主体的に情報を収集していくことが大事ですね。私たちもグローバル・キャリア・センターなどを通じて、さらに積極的に情報発信をしていこうと思います。大野さんは、なぜ大学に就職されたのですか。

大野課長 就活氷河期に当たってしまったので、なかなか就職が難しい中、女性が就職する先として比較的良いといわれていた公務員という選択肢を選びました。

倉田様 確かに、以前は女性に対して総合職は狭き門でした。ご承知かとは思いますが、NTTの前身は電電公社ということもあり、採用時の総合職・一般職の区別や男女による差がなかったことも、私がNTTを選択した理由の一つです。

立石学長 倉田さんは法務をご担当されているとのことですが、どのような経緯で担当されることになったのでしょうか。

倉田様 支店の3年間を経て、当時NTTグループで唯一国際ビジネスを行っていたNTTインターナショナルに2年間出向(念願かなって国際業務に携わることができました)、その後思いのほか早く国際通信事業に進出すべく、会社が動き出し、その事業開始の準備会社とでも言いましょうか、当時でいうところのインフラを保有する国際通信ラインセスを取得したNTT国際ネットワーク株式会社に出向。国際通信を始めるためのキャリア間交渉のため上司とともに世界中を飛び回りました。もともと入社時よりいつか会社の制度で留学をしたいと考えていたのですが、NTT国際ネットワークに勤務していた上司をや諸先輩方にMBAをはじめとする留学経験者が多く、私の希望を後押ししてくれる風土がありました。大学受験の際に外国語学部のほかに法学部も志望していたこともあり、Law School受験を心に決めていました。ただ、当時の会社の制度では米国トップ10のLaw School合格が条件だったのと、一方で私は法学士を持っていませんでしたので、受験に非常に苦労しました。必死に各校に猛アピール。おかげさまで英語は得意でTOEFLのスコアがよかったことも奏功しました。また、当時の東京外大学長であられた中嶋嶺雄学長も私のおかれている状況を理解くださり、推薦書を書いてくださったことも大変ありがたかったです。

立石学長 どちらで勉強されたのですか。

倉田様 米国シカゴにあるNorthwestern University Pritzker School of Lawです。1年勉強し、LLMの学位を取得したのち、1年Sidleyという米国の法律事務所で研修しました。日本に戻ってからはグローバル事業部や「ひかりTV」で知られているNTTぷららで働き、2011年の社内の組織再編を機に法務に携わっています。現在は、法人のお客様との契約交渉などを行っています。

立石学長 出向や留学を経て、今の部署でご活躍されているのですね。大野さんも東京外大に入職後、文部科学省に転任されています。

大野課長 そうですね。文科省に一度転任して国際部署を経験しました。大学に戻った後は、学務部に携わり、2017年から総務企画課長となりました。

立石学長 大野さんは、大学で学んだことで現在の仕事活かされていることはありますか。

大野課長 学問そのものよりも学びの姿勢の大切さを学んだことが今の仕事に役立っていると思います。

立石学長 確かに大学時代に学びの姿勢を培うのが一番大事で、社会に出てからも必要に応じて新たな知識を吸収する。その姿勢があると良いですよね。

倉田様 その場に応じて色々なことを学んできましたが、学問として直接的に今の仕事と関係はなくても、間違いなく自分の考え方や発想の仕方などに影響を与えていて、学んだことは私を形作っていると思います。現代は何かと効率性を求められることも多いですが、一見無駄に映るかもしれない様々なことを学ぶことは人間を豊かにし、その結果、より良い行動や判断に繋がると思います。

―課長という役職について・・・

立石学長 お二人とも現在は課長という役職ですよね。職場の男女比について何か思われることはありますか。

倉田様 男女比については、あまり意識しておらず、多様で公平な採用基準に基づいた結果だとしたら、男女比が偏っていようと構わないと思います。多様性が重要と考えます。同質な人ばかりの集団は決して強い組織とは言えないでしょうね。いかに多様なバックグラウンドや個性の人が相手を尊重しあいながら力を発揮できる組織かがポイントだと思います。男女の違いという観点でいうと、一緒に仕事をしていて感じるのは、女性は仕事に対して柔軟に対応できる人が多いです。女性はどうしても育児など私生活や仕事を全て両立させなければならないので、時間の制約がありますよね。もちろん個人差なので、一概に男女の差とは言い難いのですが、男性は慣例や慣習を重んじる傾向があります。

大野課長 それはそうかもしれませんね。

倉田様 置かれている状況が意外とまだまだ男女平等にはなっていなくて、「家庭のことは女性」という考えがまだあるのも事実です。男女が一緒に仕事をしていると言いつつ、結局女性に家庭の負担が行きがちです。男女で家庭の負担を分け合うために、残業ありきで働くのではなく、仕事の優先順位をつけて、定時に上がるのが当然、という考え方になればいいなと思います。私も2014年から介護が加わってきたため、時間にはセンシティブになりました。少子高齢化社会において男女問わず各々が公私ともにマルチタスクで対応できるかが肝要なのではないかと思っています。

大野課長 ライフイベントを持っている方ならではですね。

倉田様 不思議なことに、男性にも女性にも同じライフイベントがあるはずなのに、その負担の比重は平等でないように感じます。

立石学長 耳が痛い話です…。

倉田様 今はまだ働き方改革の過渡期です。管理職に就く人々の意識が高まり、実際に行動に移せるようになれば、変わっていくのだろうと感じます。

立石学長 東京外大はいかがでしょうか。

大野課長 私が入職した頃は、女性はやはり少なかったです。ただ年を経るごとに女性は増えてきました。そうすると、女性の考え方もある程度浸透してくると思います。東京外大は、2016年に文部科学省から「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)」に採択されました*。事業を進めていくうえで、男性の教職員からも介護や子育てのニーズがあることが分かりました。もし15年前だったらニーズがあったかと言われると考えにくいので、少しずつ意識が変わってきたところはあるかな、と思いました。
*東京農工大学を代表機関として、国際農林水産産業研究センター、首都圏産業活性化協会とともに、連携機関として採択

立石学長 社会が大きく変化しているのも事実ですよね。そこに対してみんなが柔軟に頭を切り替える必要があります。

―特に心がけていることについて・・・

立石学長 今後また活躍していく上で、ご自分で特に心がけている点をお伺いしたいと思います。

倉田様 そうですね。これは私の半分反省ですが、特に介護が始まってから、24時間フル稼働の状態です。そうすると、どうしても今のことに目がいきがちです。少しでも心掛けたいなと思っているのは、大きい視点に立ったものの見方や、外の世界を自分で吸収する努力です。また、時間がないなりに、少しでも時間を作れるように、仕事の効率化を心がけています。みんなが定時に上がれて、残りの時間を各々の豊かな時間に回せれば、好循環になっていくと思っています。

大野課長 効率化というところに関しては、学生時代に先生から聞いた「いい加減は良い加減」のように、ほどほどに完璧にやりすぎない方がいいときがあると感じます。その加減は私自身を含めて難しいところもあると思いますが。また、職位にかかわらずオープンな気持ちで、一緒に働いている人の良いところを吸収できたら、と思いますし、自分の得た経験を伝えていけたらと思います。

倉田様 そうですね。私自身、管理職といえども、すべてのスキルや知識を有しているわけではないので、部下やチームメンバーに法務業務そのものを100%支援できるわけではありませんが、法務にとどまらないところで、自分のキャリアや人生経験で得たことを伝えていけたらと思いますね。

―学生に期待することについて・・・

立石学長 倉田さんの経験を踏まえて、今の学生に対して、メッセージを頂きたいと思います。

倉田様 せっかく東京外大に入学されたので、日本を含めて世界のどこでも生きていけるようになってほしいと感じます。視野を広げて、柔軟に学んでほしいと思っています。もともと東京外大の学生さんは、色々な価値観を共有できる人たちだと思います。広い心で、色々な国や民族の人たちと普通に渡り合えるような人材になってほしいと思います。

立石学長 東京外大には正規学生が4,400人ほどいて、留学生は700人くらいいます。頭の中で多言語・多文化のことを思い描いていても、実際にその状況を経験することが大事ですよね。東京外大でそういった経験を積み重ねていってほしいと感じます。

倉田様 勉強をしっかりやると同時に、分野やジャンルを問わず色々なことに積極的に触れていってほしいと思います。直接何かに役立つかどうかということにとらわれずに、もっと自由に様々なことを吸収し、少しでも人間の幅を広げることが、必ずや将来に役立つはずです。学生という実りある時間を無駄にしないでほしいです。社会に出てしまうとそのような時間はどんどん減っていきますので、貴重な時間を大切に使ってほしいと思います。

立石学長 本学の学生を職員として長く見てきた大野さんはいかがですか。

大野課長 倉田さんの考えと重なりますが、東京外大の学生さんは、居ながらにして色々な価値観や考え方に触れられる環境にいるので、自分と異なる価値観や考え方に寛容だと思います。社会に出たときもその良さを消さずに伸ばしていってほしいと思います。そういう形の学びが維持できるように、事務方も頑張っていかなければなりませんね。

立石学長 大学は財政的に厳しい状況に立たされていますが、各大学の良さ、東京外大としては個性の豊かさを醸成し、国際社会で活躍できる能力を涵養していく、そんな大学キャンパスでありたいですね。

立石学長 本日は貴重な時間を割いてお越しくださり、ありがとうございました。

倉田様 大野課長 ありがとうございました。

学長室にて

東京外国語大学は、2023年に建学150周年を迎えます。

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