12月5日池田氏講義終了

12月5日の文部科学省の池田室長の講義の概要を塩原がまとめたものです。

当日のパワーポイントは以下からダウンロードできます。

12月5日池田氏パワポ


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我が国の留学生政策

2006年12月5日 法・政策論
文部科学省学生支援課 留学生交流室長
池田輝司 氏
(記録:塩原良和)

・留学生交流の意義には、以下のようなものがある。
 1.諸外国との相互理解の増進と人的ネットワークの形成:ある国会議員は、「留学生は未来からの大使である」と述べた。留学生交流は安定した国際関係づくりの基礎である。
 2.途上国等の人材育成・知的国際貢献:日本にくる留学生は、アジア諸国からが圧倒的に多い
 3.(日本自身あるいは日本の大学等の)国際化や国際競争力の強化:現在では、これに力点が置かれている。

・「留学生受入れ10万人計画」は、当時の中曽根政権時代に提出されたふたつの提言をもとに昭和58年に策定された。21世紀初頭に10万人の留学生受入れを目指すという数値目標が設定された。この「10万人」という数字には明確な根拠はなく、当時のフランスの留学生受入れ数がその程度であったことから「他の先進国並み」の受入数を目指すという趣旨であった。それゆえ、数値目標だけが一人歩きをして、留学生受入れ体制の整備が不十分なのではないかという批判もあった。その後、平成15年には留学生数は約11万人となり、予想外のスピードで計画は達成された。とりわけ平成12年から17年にかけて留学生数は倍増し、「留学生バブル」などと呼ばれることもあった。その結果、留学生宿舎の不足など受け入れ体制の不備が問題視されることがあった。

・平成17年には留学生数は12万人を超えたが、平成18年には8年ぶりに減少に転ずる見込みである。これには中国からの留学生数の減少が影響している。留学生総数のうち、国費留学生はわずか1万人であり、日本に来る留学生の大半は私費留学生である(ただし、私費といっても政府関連機関や文科省の短期留学制度による留学生も含まれている)。私費留学生が多いということに関して、経営に困った私立大学が留学生を無計画に受け入れているといった見方もある。確かに、酒田短大のように戦略的に留学生を受け入れずに破綻を招いたケースもあった。「留学生」は、以前は比較的管理しやすい存在であったが、最近では留学生が非正規滞在・就労や犯罪に加担するといったケースも増えており、受け入れについては功罪両面を考えなければならない。

・日本への留学生の93.3%はアジア地域からやってくる。なかでも、中国、韓国、台湾からの留学生が全体の8割以上を占める。平成12-17年頃の留学生の急増は、中国からの留学生が増大したことが大きかった。

・在学段階別に見ると、大学学部に在籍している留学生が半数を占め、専修学校と合わせると4分の3にもなる。いっぽう、国費留学生では大学院に在籍している者が圧倒的に多い。また専攻別では、人文社会系の分野で学ぶ留学生が半数以上を占めている。平成16年度に卒業(修了)した外国人留学生は約3万人であるが、そのうち日本国内で就職したことが確認されたのは約6000人であった。

・留学生10万人計画達成以後の留学生政策については、今のところ明確な数値目標は掲げられていない。日本は主要先進国に比べ、高等教育機関在学者数に占める留学生の割合はまだ低く、今後は外国人留学受入れをいっそう推進するとともに、留学生受入れの質的充実を図る必要がある。英国やオーストラリアのように、留学生政策を市場原理によってとらえ、経済政策のなかに位置づけている国もある。留学生は金になり、学校経営に資するという考え方である。世界的に見れば、優秀な留学生の獲得競争が起きており、そういう留学生を日本にいかにひきつけるかが考慮されなければならない。

・いっぽう、留学生の質的充実ということには、非正規滞在・就労の防止といった側面も含まれる。出入国管理が厳格化すれば、おのずと留学生も減少する。留学生の経済能力を証明する手続きが厳格なことが中国側には不評なこともある。いわゆる「留学バブル」の、入管は留学生に若干寛容であったように思えるが、現在では中国からの留学生数は明らかに減少している。

・日本に来ている留学生は「労働者の卵」なのか。経済産業省や厚生労働省では、留学を終えた者を日本国内の労働力として有効に活用していこうという考えがある。文科省はあくまでも本人の自由意志を尊重する立場だが、アジアからの留学生が多い日本では、日本国内で留学生を就職させることが途上国からの人材流出につながるという懸念もある。

・日本にいる留学生の8割がアルバイトを経験している。「留学」という在留資格では特別な許可がないとアルバイトはできず、しかも就労は制限されている。留学生が日本に来て困ることは、第一に物価高、第二に日本語だという。

・留学生を受け入れるということは、労働者として受け入れることでもあり、地域住民として受け入れることでもあり、学友として受け入れることでもある。留学生たちのキャリア意識の強さに学ぶことが日本人学生にとって重要である。