12月12日四方先生講義終了

以下は、塩原による講義のまとめです。
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来日外国人の受入れと犯罪問題
-留学生及び外国人少年を中心に
警察大学校 警察政策研究センター
四方 光 氏

パワーポイントファイル


○来日外国人犯罪の現状
日本における犯罪の認知件数は平成8年ころから急増していき、検挙率が低下した。その後最初は軽微な犯罪の増加が見られ、犯罪の凶悪化の傾向が起こった。平成16年以降は落ち着きを見せている。
来日外国人犯罪については、すべての犯罪における割合としてはたいしたことはなく、日本の治安を急激に悪化させているわけではないことは明らかである。ただし、壁を突き破って盗みに入ったり、手口に特徴がある。そのようなかたちで日本社会の不安感を高めたのは確かである。また捜査面においては、日本人の犯罪者よりも労力がかかる。語学面での問題や、文化の違いで供述を得るための説得のノウハウが通じない。海外に逃亡すると捕まえにくい。ICPOは国境をこえて捜査できる捜査権をもった警察官をもたない。
国・地域別の来日外国人検挙人員では、中国が44%を占めている。これは来日している中国人の数が多いことに由来している。
不法残留者はここ数年減少し、平成18年には20万を割り込んでいる。

○中国人留学生が犯罪グループのメンバーとなってしまう背景(張荊『来日外国人犯罪‐文化衝突から見た来日外国人犯罪』明石書店より)
・ゴト師となった元中国人留学生の例
 中国国内での犯歴はなく、当初はまじめな語学学生だったが、パチンコにのめり込んで留学資金を使い果たす。ゴト師の友人がいたので、その仲間になる。中国では賭博とみなされるパチンコ店からお金を搾取することには、良心の呵責はなかった。またゴト師の友人は、中国を侵略した日本において犯罪を行うことに良心の呵責を感じなかったとのことである。
・中国人犯罪学者の分析によれば、もともとまじめな青年であった者が、来日してから犯罪者になってしまったことを問題視する。また日本の犯罪抑止システムと中国のとは連動せず、日本で犯罪を犯しても、中国では知られない。したがって、中国国内で機能していた家族や故郷とのつながりという犯罪抑止システムは日本では機能しにくい。また日本では、もともと外国人は希望が持てないので、日本社会からの非難は犯罪抑止効果がない。また日本入国時に多額の借金を背負って、それがプレッシャーになっていることも少なくない。

○中国残留孤児の子弟が暴走族メンバーになってしまう背景
・暴走族「怒羅権」:都内における最強最悪の暴走族。昭和63年に中国残留孤児の子弟数十名が結成。現在では地元の日本人の若者も多数加入。仲間が逮捕されると、警察署、交番、パトカー等を襲撃したりする。監禁障害事件なども起こした。「怒羅権」メンバーとなった中国帰国者2世・3世は、日本語ができないので授業についていけず、いじめや差別を受け、自分たちが日本人なのか中国人なのかわからなくなってしまった。同じ境遇にあった他の2世・3世と知り合い、日本人に復讐しようと結成。

○日系ブラジル人少年が非行集団メンバーとなってしまう背景
事例:日系ブラジル人グループによる連続強盗事件:コンビニの駐車場やディスコで知り合った10人前後のグループ(犯行は、そのうち2-3人で行う)。薬物購入や遊ぶ金がなくなると、気軽に強盗を繰り返す。ナイフ・バット・催涙スプレーなどを使用し、深夜営業の弁当店などを襲撃
・日本語ができないので授業についていけない。いじめや差別を受ける。いっぽう、日本語が上手になると今度はポルトガル語が下手になり、両親とのコミュニケーションが希薄になってしまう。日本で生活しつづけたいが、就職先はない。日本社会から受け入れてもらえず、アイデンティティの揺らぎが発生し、同じ境遇の人々が集まって自然と非行集団をつくるようになる。

○警察における取り組み
・地域社会や学校などと連携した取り組み。少年サポートチームの結成。コミュニティ・ガバナンス、マルチ・エージェンシー・アプローチ

○2世・3世の犯罪化のパターン
親は希望して日本に来日した。子どもは当初は日本語ができず、いじめにもあう。しかし親よりは順応性が高いので、日本の生活に早くなれる。その結果、日本になじめない親との関係が悪化する場合も。しかし、日本社会に順応していても本当には受け入れてもらえず、学校からの脱落、就職難などにより「居場所」がなくなり、非行集団に入る者が生じる

○来日外国人受入政策における含意
・来日外国人を雇用している企業にとっては安価な労働力だが、彼らも生身の人間であり、支援する自治体には相応の負担がかかる(企業から一般市民への費用転嫁)
・就労する親たちは希望して来日するが、出稼ぎのつもりでも結局定住化することが多い。親は母国の状況を知っているので日本のほうがいいと思うが、日本で育った少年たちは劣悪な教育環境や労働条件を差別と感じる可能性が高い。被差別感が非行集団を生み、外国人少年たちの一層の不幸とさらなる社会的費用を生じさせる
・費用・便益を考慮すると、受入拡大のメリットはどうなるのか。日本人・日本社会の受入体制に応じた受入をすべきなのではないか。

○ヨーロッパにおける外国人少年問題
・イギリスの地下鉄同時多発テロの実行犯は、イギリス生まれ・育ちのムスリム移民の若者であった。フランスの北アフリカ系青年による暴動、ドイツの旧ソ連在住ドイツ人子弟の非行、ニューヨークの少年非行など、社会になじめなかった青少年たちが、被差別感、孤立感を深めて非行、犯罪、テロの行動に出るという共通の構図がみられる。安価な労働力としての外国人ではなく、日本人と対等の条件で受け入れる覚悟があるのかが問われている。