11月28日長谷川町長講義終了

東京外国語大学 多言語・多文化社会 法・政策論
大泉町長 長谷川洋氏 講演(2006年11月28日)概要

大泉町は群馬県内でもっとも小さい町で、町の南側は利根川をはさみ埼玉県と隣接している。町内には三洋電機などの大きな企業や数多くの工場がある。狭い面積の本町には、約6800人もの外国人住民が住んでいる。大泉町は工業の町であり、群馬県で年間製造品出荷額3位である。
平成2年の入管法改正当時、中小企業を中心として慢性的な労働者不足が問題となっていた。いわゆる3K職種においては非正規就労の外国人労働者を雇用していたが、入管法の改正が契機となり、合法的に雇用できる日系人住民が急増した。
大泉町は、日系人の集住する町として全国で最も高い外国人住民比率を有するようになった。外国人登録者のうち、南米系が9割を占めている。
大泉町は、正規の手続きをして転入してきた外国人住民を人道的に迎え入れることを原則として、さまざまな取り組みを行ってきた。全国に先駆けて公立小中学校に日本語学級を設置したほか、通訳の設置、「暮らしの便利帳」、ポルトガル語版広報紙「GARAPA」などを発行している。生活習慣の違いから、日系人住民が夜に騒ぐなどの苦情は今でも日常的に寄せられている。町としては、外国人住民への生活のための正しい情報を提供し、ルールを守って頂くようPRなどを行っている。
また、外国人住民に地域社会でのルールを遵守してもらい、地域との関わりを持ってもらおうという目的で、各地域に住む外国人を対象に「地区別多文化共生懇談会」を開催している。懇談会には、地区の区長(自治会長)や環境衛生委員等も出席し、ごみの捨て方や分別などのシステム等も説明し、外国人住民からの意見や質問も伺っている。さらに、最近では一つの試みとして、外国人児童を預かる託児所の職員などを対象にした懇談会も開催し、保護者にもPRしてもらおうと働き掛けている。
外国人住民でもきちんと説明すれば、わかってもらえるが、そのような場に出てきてくれない外国人住民が圧倒的に多いので、どのようにアプローチしていくか、手を尽くしているところである。最近は在日ブラジル総領事とも連携し、領事館からも在日ブラジル人に必要な情報を流してもらうような仕組みを考えてもらうとともに、互いに協力することで多面的に情報提供をする施策の実施を試みている。
外国人住民との共生を阻む壁を一番象徴的にあらわしているのは、現状に合わない法律や制度である。たとえば、外国人住民は転出届を出す義務が無い。届出の住所と実際の住所が違ったり、住所地に当人が住んでいないというケースも出てくる。町で課税しても、当然、徴収できないことになる。そのこともあり、大泉町における外国人住民の納税状況は悪く、累積は数億円という未納がある。
日系人といっても、最近来ている人は日本語はほとんど話せない。日系人コミュニティの人口が増え、日本語を話せなくても暮らしていけるという現実がある。職種を選ばなければ仕事も確実にあるので、ブラジルよりもよい暮らしができると言われている。
また教育の問題も重要である。大泉町では小・中学校あわせて312人の外国人児童・生徒が通学している。過去の調査によれば、全体の半分が公立学校に通い、4分の1がブラジル人学校に通い、残りが不就学か行方不明であった。それぞれの児童・生徒に課題がある。公立学校に通う児童生徒の中にも、日本語の習得がなかなかうまくいかないといった課題もある。そこには、親の気持ちや意識の問題もある。「いつかはブラジルに帰る」という思いが先行するので、子どもに「日本語をしっかり覚えろ」と指導できず、子どもたちも日本語を覚えようという意識にならない。
現場の教師も悩むわけだが、日本語を覚えてもらわないと授業は進まないし、進路の上でも問題がでてくる。そのまま5-10年たつと、勉強への意欲を失ってしまい、進学や就職に支障をきたすという悪循環が生じている。地域にとっても大きな課題であるし、日系ブラジル人児童にとっても不幸である。文部科学省は通達を出したり、予算措置をとっているというが、不十分である。

<中略>

さまざまな外国人問題を抱える都市が集まり、外国人集住都市会議が結成された(現在18都市)。今年の会議では、子どもの教育問題に焦点を当てて提言を行った。義務教育前の支援をはじめ、外国人政策全般の改革などについて提言として提出した。また大泉町では、町独自の働きかけをしていくことも重要だと考えている。大泉町には多くの学生やマスコミ、議員や行政職員も視察にきているが、なかなか大泉の声を反映させた施策につながっていない。今後は更に、衆参両院の議員に働きかけをしていく考えである。
外国人住民は、今後なし崩し的に増大していくであろう。まもなく日本中に外国人が定住していくことになる。しかし、日本の外国人政策が現状のままであれば、国としては無策のままである。しかしそれではいけない。受け入れるなら受け入れる、受け入れないなら受け入れないという、明確な国としての方針を出すべきときにきている。しかし、すでにこれだけの外国人住民が住んでいるなかで「受け入れない」という方針を出すことはきわめて困難であると思う。であれば、受け入れる方向性での行政システムの再構築を目指すべきなのではないか。