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学び考え続けること

ピエリア・エッセイ

布川 あゆみ

 世界の中で、紛争や内戦、戦争が今もなお起きている。人々の暮らし、安全、命、尊厳が脅かされることが続いている。教育はときに戦争に荷担する役割も担ってきた。
 こうした状況を前にして、教育は、教育学は何ができるのか。教育の限界を認識せざるをえない場面も多く、自問自答することが続いている。
 そんなとき、私は研究室にある1冊を手にするようにしている。『ウクライナ危機から考える「戦争」と「教育」』である。教育の役割を一から考えようとした軌跡が、まとめられている。
 本書は、ロシアがウクライナへの侵攻を開始した直後の2022年3月25日、日本教育学会・国際交流委員会主催で開催された緊急セミナー「ウクライナ情勢を考える:教育学に何ができるか?」他、その後追加で行われた討論などをもとに構成されている。
 本書は、教育にかかわる人々が、無力感を抱きながらも、しかし考え続けることに意味があることを論じている。また、こうした状況だからこそ、教育を大事にしなければならない理由も率直に記されている。命や健康を守ること、日常性を回復し、教育を受ける機会を極力継続すること。そこに教育の役割があるのだと、説く。
 続いて取りあげる『スウェーデン・デザインと福祉国家』では、高度な福祉国家体制を築いてきたスウェーデンの建設過程を、住環境とそれを取り巻くデザインに着目して論じている。今日、スウェーデンは公正で平等な社会を築きあげてきたことで注目されている。
 しかし、かつてのスウェーデンでは、自然は厳しく過酷なもの、平凡でつまらないものと思われ、自然の過酷さや生活の苦しさを描写した文学作品も少なからず存在した。階級間の垣根に隔てられた時代もあり、決して豊かでも平等でもなかったと指摘されている。過酷な労働と貧しさに耐えかねて、19世紀後半から1920年代にかけて、国民の4分の1近くが北アメリカに移住した。
 しかしその後、暮らしの環境をつくりかえることによって、人々の意識や行動を変え、それによって社会を変えていくことを目指した近代デザイン運動がスウェーデンで展開していく。
 生活環境を変えていくことで、社会が変わっていく過程が豊富な写真とともに、詳述されている。変わる社会のあり様を視覚的にも捉えることができる1冊である。
 最後に取りあげる1冊は、『変容する世界と日本のオルタナティブ教育』である。今日、フォーマルな教育(学校教育)は多くの国で課題を抱えている。たとえば日本では、不登校児童生徒数が増加傾向にあることが知られている。「学校に行かない子ども(学校を欠席する子ども)」は、歴史的に「問題化」されてきた。
 しかし、本書ではオルタナティブな教育に注目することで、メインストリームの学校や教育制度のあり方を問い直している。取りあげられている事例はデンマークやイギリス、日本、オランダ、ドイツ、ロシア、カナダ、アメリカ、韓国など、多岐にわたる。それぞれの国がもつ教育制度やコンテクストの異なりに目が向けられながら、各国でオルタナティブな教育が求められ、さまざまな実践が模索されてきたことがわかる。
 本書は691頁にもわたる、大著である。しかしながら、本書を通して、教育は多様で、柔軟に展開されるものであり、誰にとっても望ましい完成型の教育の姿というものは存在しないことが伝わってくる。
 先を見通しづらく、教育への無力感を感じることも少なくないが、学び考え続けることが大切だと、そっと教えてくれる3冊である。

布川 あゆみ(ふかわ・あゆみ) アカデミック・サポート・センター准教授 教育社会学

文献案内

日本教育学会国際交流委員会編『ウクライナ危機から考える「戦争」と「教育」』教育開発研究所、2022年

太田美幸『スウェーデン・デザインと福祉国家――住まいと人づくりの文化史』新評論、2018年

永田佳之編『変容する世界と日本のオルタナティブ教育――生を優先する多様性の方へ』世織書房、2019年

ピエリア pieria 2026年春号
特集「不穏な時代のライフハック」第Ⅰ部 視点の在処 掲載

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