話し言葉   はなしことば   《南》 구어<口語>   《北》 말체<―體>

    話された言語にのみ現れる言葉。大部分の単語や文法的要素は書き言葉と話し言葉の区別がないが、一部の単語や文法的要素で話し言葉と書き言葉が異なる。例えば、動詞 놀래다 「驚く」は 놀라다 に対する書き言葉、語尾 -한테 「…に」は -에게 に対する書き言葉である。話し言葉の一部は辞書に登録されているが、괜시리 「いたずらに」(<괜스레)や 숨키다 「隠す」(<숨기다)、II-ㅁ 「…すれば」(<II-면)など、辞書に登録されていないものも多い。韓国の場合、話し言葉の多くはソウル方言に由来する。 書き言葉


ばらし書き   ばらしがき

     풀어쓰기


ハングル   《南》 한글   《北》 조선글자<朝鮮―字>

    朝鮮文字の呼び名。「大いなる文字」という意味を持つとされている。「ハングル」という名称は、共和国では「ハン(한)」が「韓(한)」に通じるのでこれを嫌い、우리 글 「我々の文字」、조선글자 「朝鮮文字」と呼ぶ。
    日本では「ハングル」を言語の名称として使うことがあるが、これは誤った用い方である。また、朝鮮語を指して「ハングル語」と呼ぶ人がいるが、これはあたかも日本語を「カナ語」と呼ぶのに等しいもので、同様に誤った呼称である。
    訓民正音


ハングル正書法   はんぐるせいしょほう

     한글 맞춤법


ハングル正書法統一案   はんぐるせいしょほうとういつあん

     한글 맞춤법 통일안


半言   はんげん

     해体


反語形   はんごけい

    否定疑問形の一種で、強い肯定を表すもの。用言の部類に関わらず I-지 않다 の疑問形によっても表され、短い否定形はない。


半切表   はんせつひょう   《南》 반절표<半切表>   《北》 가갸표<――表>

     縦軸に濃音を除いた14個の子音字(ㄱㄴㄷㄹㅁㅂㅅㅇㅈㅊㅋㅌㅍㅎ)、横軸に10個の基本母音字(ㅏㅑㅓㅕㅗㅛㅜㅠㅡㅣ)をとり、その組み合わせを表した一覧表。日本の五十音図のようなもの。通常は濃音、合成母音字終声の入った字は反切表に組み入れられていない。読むときは「가갸、거겨、고교、구규、그기」のように2つずつ区切って読む。


半母音   はんぼいん

    朝鮮語には [j]、[w] 2種類の半母音がある。[j] は ㅏ,ㅓ,ㅗ,ㅜ,ㅐ,ㅔ と結合することができ、[w] は ㅏ,ㅓ,ㅣ,ㅐ,ㅔ と結合することができる。   母音


鼻音   びおん   《南》 비음<鼻音>, 콧소리   《北》 코안소리

     子音のうち、鼻に息を抜いて出す音。朝鮮語には ㅁ・ㄴ・ㅇ の3種類がある。    子音口音流音


鼻音化   びおんか   《南》 비음화<鼻音化>   《北》 코안소리되기

    語中で、口音あるいは流音が対応する鼻音になる現象。鼻音化が起きるのは以下のような場合である。
(1)口音終声の直後に鼻音が来る場合:집념[짐념]<執念>
(2)鼻音終声の直後に流音 ㄹ が来る場合、ㄹ が鼻音化:심리[심니]<心理>
(3)ㄷ を除く口音終声の直後に流音 ㄹ が来る場合、口音終声と ㄹ の双方が鼻音化:십리[심니]<十里>
(4)終声 ㄴ の直後に流音 ㄹ が来るとき、その間に形態素の境界がある場合、ㄹ が鼻音化:생산량[생산냥]<生産量>
    ただし、共和国の標準発音法では流音の鼻音化は行なわれず、常に ㄹ のまま発音することになっている。심리[심리]、십리[심리]、생산량[생산량]。しかしながら、共和国の発音法は頭音法則の場合と同様に、人工的に作られた発音法なので、年輩の世代では韓国での発音と同じく ㄹ を鼻音化させるのが一般的のようである。


否定   ひてい   부정<否定>

     朝鮮語の否定には否定形と不可能形とがある。
  動詞 存在詞 形容詞 指定詞
否定形 長い形 I-지 않다 -가/-이 아니다
短い形 안⌒用言  
不可能形 長い形 I-지 못하다
短い形 못⌒用言  
    否定疑問形の一種に反語形がある。
    【長い形と短い形】 長い形は主に書き言葉によく現れ、短い形は主に話し言葉によく現れる。しかしながら、話し言葉であっても日常会話にあまり現れない書き言葉的な語彙の場合は、長い形が用いられる。存在詞の短い形は 있다 に限られ、動作的な意味の「いる(滞在する)」という意味を持つ場合に用いられる。例:오래 못⌒있는다 「長くいられない」。
    【形容詞・指定詞の不可能形】 肯定的な意味の単語にのみつき、話し手の考える一定の水準に達していないという意味合いを持つ。좋지 못하다 「よくない」、열심이지 못하다 「熱心でない」など。


標準語   ひょうじゅんご   《南》 표준어<標準語>   《北》 문화어<文化語>

    朝鮮語の標準語は1933年に朝鮮語学会で定めた 한글 맞춤법 통일안 で「おおよそ現在中流社会で用いるソウル語とする」という規定により、1936年に同学会の標準語査定委員会で定めた標準語に端を発する。現在の韓国の標準語は「표준어 규정<標準語規定>」(文教部告示第88-2号、1988年1月19日)により、「教養ある人々があまねく用いる現代ソウル語に定めることを原則とする」とある。共和国の標準語は 문화어 と呼ばれる。   사정한 조선어 표준말 모음「표준어 규정」のページ (朝鮮語版)


品詞   ひんし   품사<品詞>

    朝鮮語の品詞分類は研究者によって若干の異なりがあるが、以下に1つの分類をあげる。
    【変化詞】(語形変化するもの)
    1. 体言:対象を表すもの。3つに下位区分される。
      • 名詞:対象を直接表すもの。
      • 代名詞:対象を指し示すもの。
      • 数詞:対象を数的側面から示すもの。
    2. 用言:述語になりうるもの。4つに下位区分される。
      • 動詞:主に動作を表すもの。
      • 形容詞:主に状態や性質を表す。
      • 存在詞:있다,없다 およびその合成用言。
      • 指定詞:-이다,아니다 の2単語。
    【不変化詞】(語形変化しないもの)
    1. 副詞:主に用言を修飾するもの。
    2. 冠形詞:主に体言を修飾するもの。
    3. 接続詞:文どうし、または単語どうしをつなぐもの。
    4. 後置詞:他の単語とともに用いられる付属的単語。
    5. 間投詞:話し手の感情などを表すもの。
    【品詞をめぐる議論】 体言語尾とりたて語尾をまとめて「助詞」として1つの品詞に認める見解がある。後置詞を認めない見解がある。接続詞を認めない見解がある。


不可能形   ふかのうけい

     否定


不完全名詞   ふかんぜんめいし   《南》 의존 명사<依存名詞>   《北》 불완전명사<不完全名詞>

    単独では用いられず、前に必ず何らかの単語を伴ってのみ用いられる名詞。日本語の形式名詞に当たる。것(こと、もの)、무렵(ころ) など。名数詞は前に数詞を伴う不完全名詞の一種である。共和国の正書法では、不完全名詞は直前の単語と続けて書くことになっている。


副詞   ふくし   부사<副詞>   《南》 어찌씨

    品詞の1つで、主に用言を修飾する働きをする単語の一群。아주 「とても」,가끔 「ときどき」,더 「より」など。


副詞形   ふくしけい   부사형<副詞形>

    用言の語形の1つで、副詞的な働きをするもの。語尾 -이,-히 によって形づくられる。概して、固有語の用言は -이 によって、漢字語などの体言的要素に擬似接尾辞 -하다 が付いた用言は -히 によって副詞形が作られることが多い。例:높다 「高い」― 높이 「高く」,완전하다 「完全だ」― 완전히 「完全に」。しかしながら、-하다 の直前に終声 ㅅ がある場合には -이 が付く。例:깨끗하다 「きれいだ」― 깨끗이 「きれいに」。すべての用言に関して -이 あるいは -히 が付けられるわけではなく、単語ごとに付くことができるか否か、あらかじめ決まっている。
    【副詞的に用いられる接続形】 接続形 I-게 は副詞的に用いられる。例:높게 「高く」,완전하게 「完全に」,깨끗하게 「きれいに」。I-게 は「…するように」、「…なように」という意味を持ち、-이,-히 による副詞形と多少のニュアンスの違いがあるが、単語によってはニュアンスの差が比較的はっきりしているものもあれば、ニュアンスの違いがほとんどないものもある。また、単語によって I-게 が好んで用いられるもの、-이,-히 が好んで用いられるものがある。


複数   ふくすう   복수<複數>

    朝鮮語の複数は -들 によって示される。日本語と同様に複数の表示は、必ずしも義務的ではない。
    【体言に付く -들】 体言に付く -들 は、さまざまな体言に付きえ、人間名詞・動物名詞に限らない。例:신문들 「諸新聞」、조건들 「諸条件」など。
    【用言などに付く -들】 -들 は体言のみならず、用言や副詞にも付きうる。この場合、動作の主体が複数であることを表す。
열심히 텔레비를 보고 있다.
열심히 텔레비 보고 있다.
열심히 텔레비를 보고 있다.
    これらの文は、どれも「(多くの人が)熱心にテレビを見ている」という意味になる。


分析的な形   ぶんせきてきなかたち   analytic form   분석적 형식<分析的形式>

    2つ以上の単語で1つの文法的な意味を表す形。例えば II-ㄹ⌒수 있다 「…することができる」,I-지 않으면 안⌒되다 「…しなければならない」,-에도 불구하고 「…にもかかわらず」など。   総合的な形


分離用言   ぶんりようげん

    2つの要素(一般に体言的な要素と用言的な要素)からなる用言で、要素の間に格語尾とりたて語尾が入りこみ、あたかも2単語のようになりうる用言。例えば 공부하다 「勉強する」は 공부 「勉強」と 하다 「する」の間に格語尾 -를 「…を」、とりたて語尾 -만 「だけ」などが入りこみ、공부를 하다 「勉強をする」、공부만 하다 「勉強ばかりする」のように2単語のようになる。分離用言の後半の用言的な要素を擬似接尾辞と呼ぶ。
    分離用言はその品詞的な性質により、공부하다 「勉強する」などの分離動詞、재미있다 「面白い」などの分離存在詞、안녕하다 「安寧だ」などの分離形容詞の3つの下位部類に分けられる。分離動詞と分離存在詞は要素の間に語尾が比較的入りやすく分離しやすいが、分離形容詞は一般的に格語尾は入らずとりたて語尾のみが入る。例:안녕은 하지만 「安寧ではあるが」。ある種の分離動詞は2つの用言的な要素から成り立つ。このような分離動詞は分離形容詞と同様に、格語尾は入らずとりたて語尾のみが入る。例:쳐다는 보아도 「眺めはするが」。
    韓国・共和国では一般的に分離用言という概念を認めない。공부하다、안녕하다 などは名詞と用言が結合したものと見なす。


平音   へいおん   《南》 평음<平音>   《北》 순한소리<順―――>

    口音の系列の1つ。息を伴わずに出す子音。ㅂ・ㄷ・ㅅ・ㅈ・ㄱ の5つがある。有声音(鼻音流音および母音)に挟まれているときは有声化する。鼻音・流音を含めて平音と呼ぶ研究者もある。   子音激音濃音


並立語尾   へいりつごび

    体言語尾のうち、を表さずに単に体言の並立関係を表す語尾。-나/-이나 「…や」、-라든지/-이라든지 「…とか」など。


変格用言   へんかくようげん   《南》 불규칙 용언<不規則用言>, 벗어난끝바꿈

    基本形から規則的に語基による活用を導き出せない用言。ㄷ変格ㅂ変格ㅅ変格ㅎ変格르変格러変格하変格어変格がある。変則用言、不規則用言ともいう。 「用言活用一覧表」のページ


ボイス

     ヴォイス


母音   ぼいん   vowel   모음<母音>   《南》 홀소리

    朝鮮語においては伝統的に、単母音・二重母音のみならず、半母音 [w]、[j] を母音の体系に入れる。
    【単母音】 現代朝鮮語の単母音は、韓国・共和国の標準語規定によれば、ともに10個(ㅏ,ㅓ,ㅗ,ㅜ,ㅡ,ㅣ,ㅐ,ㅔ,ㅚ,ㅟ)あるとされる。しかしながら、現代のソウル方言においては、ㅚ,ㅟ の2つは半母音 [w] を伴った [we]、[wi] と発音され、ㅐ、ㅔ はともに同じ音 [e] と発音されているので、実質的に単母音は7個しかない。
    【半母音を伴った母音】 直前に [j] を伴うことのできる母音は ㅏ,ㅓ,ㅗ,ㅜ,ㅐ,ㅔ の6個ある。また、直前に [w] を伴うことのできる母音は ㅏ,ㅓ,ㅐ,ㅔ,ㅣ の5個である。
    [j] を伴いうる母音のうち、ㅒ、ㅖ は原則的に語頭にのみ現れ、語中では原則的に単母音[ㅐ],[ㅔ]と発音される。
    【二重母音】 現代朝鮮語の二重母音は ㅢ 1個のみである。この二重母音は語頭にのみ現れ、語中には現れない。表記上で「ㅢ」と書かれていても、語中にある場合の実際の発音は単母音[ㅣ]である。また、生粋のソウル方言では語頭においてすら二重母音「ㅢ」が現れず、単母音[ㅡ]と発音される。研究者によっては半母音 [j]、[w] を伴った母音を指して二重母音と呼ぶこともある。
    【長母音】 長母音は第1音節にのみ現れる。母音の長短で意味を区別する単語があるが、若い世代では母音の長短の区別がなくなっている。
【現代ソウル方言の母音】
実際の音素 /ㅏ/ /ㅓ/ /ㅗ/ /ㅜ/ /ㅡ/ /ㅣ/ /ㅔ/

単母音
[j]+母音    
[w]+母音       ㅞㅚ
二重母音              


母音語幹   ぼいんごかん

    母音で終わっている語幹用言は 보- 「見る」、만나- 「会う」など。語幹末の母音の種類により、陰母音語幹陽母音語幹に分類される。体言は 우리 「我々」、학교 「学校」など。   子音語幹ㄹ語幹


母音調和   ぼいんちょうわ   vowel harmony   모음조화<母音調和>

    1つの単語の中で、ある種の母音のみが使われる現象。アルタイ諸語の特徴として知られている。朝鮮語は系統が明らかでないが、かつて朝鮮語にもはっきりした母音調和があったことから、朝鮮語のアルタイ諸語説の有力な根拠となっている。中期朝鮮語では陽母音 ㅏ,ㅗ,ヽ と陰母音 ㅓ,ㅜ,ㅡ の対立が明確であり、語基による活用や体言語尾に母音調和が適用された。例えば、第II語基形成母音は陽母音語幹の場合 -ヽ- がつき、陰母音語幹の場合 -ㅡ- がついた。現代朝鮮語では第III語基形成母音 -아-/-어- や 졸졸/줄줄 「ちょろちょろ」など擬声擬態語で化石化して残っている。


  ほう

     ムード


方言   ほうげん   방언<方言>

    現代朝鮮語の方言は、一般的に東北方言(咸鏡道方言)、西北方言(平安道方言)、中部方言(黄海道方言・京畿道方言・江原道方言・忠清道方言)、東南方言(慶尚道方言)、西南方言(全羅道方言)、済州方言の6つに分けられる。韓国の首都であるソウルは中部方言地域、共和国の首都であるピョンヤンは西北方言地域に属するが、南北ともに標準語はソウル方言の要素を土台としている。
    【東北方言】 鼻母音がある。日本語と同様に高低アクセントを持つ。
    【西北方言】 저,자 などが口蓋音化せず 더,다 などで現れる。例:덩거당 「停車場」(中部方言:정거장)
    【東南方言】 ㅓ と ㅡ が区別されない。日本語と同様に高低アクセントを持つ。
    【西南方言】 ㅚ,ㅟ が単母音として現れる。
    【済州方言】 他の方言にない母音 ヽ (아래아)を持つ。


補助語幹   ほじょごかん

     接尾辞


補助用言   ほじょようげん   보조용언<補助用言>

    単独では用いられず、必ず他の単語の形の後ろでのみ用いられる用言。補助動詞と補助形容詞がある。試みを表す 보다 「…みる」、願望を表す 싶다 「…たい」、否定を表す 않다 「…ない」など。