階称   かいしょう

     待遇法


回想法   かいそうほう

     目撃法


牙音   がおん   아음<牙音>

    訓民正音などにおける伝統的な子音の分類の1つ。現代言語学の軟口蓋音に当たり、ㄱ・ㄲ・ㅋ・ㆁ がこれに属する。   子音


書き言葉   かきことば   《南》 문어<文語>   《北》 글체<―體>

    書かれた言語にのみ現れる言葉。大部分の単語や文法的要素は書き言葉と話し言葉の区別がないが、一部の単語や文法的要素で書き言葉と話し言葉が異なる。例えば、動詞 놀라다 「驚く」は 놀래다 に対する書き言葉、語尾 -에게 「…に」は -한테 に対する書き言葉である。 話し言葉


  かく   case  격<格>   《南》 자리

    体言が文中において他の単語とどのような関係にあるかを表す体言の文法範疇。格語尾によって表される。
    【朝鮮語の格の数】 朝鮮語の格がいくつあるかについては学者によって見解が大いに分かれる。例えば、韓国の許雄は『20세기 우리말의 형태론』で朝鮮語の格を主格、対格、位置格、方便格、比格の5種類にしか区分していないが、日本の菅野裕臣は『コスモス朝和辞典』の「文法解説」で15種類にも区分している。このような違いが生じるのは、体言に接尾する語尾のうちどれを格と見なすか、また1つの格についてどのような異形態を認めるかが、研究者によって異なるためである。また、格の名称が研究者によって異なる。例えば、ある研究者が「処格」と呼んでいるものを、別の研究者は「位格」、「向格」、「与格」などと呼ぶことがある。したがって、それぞれの研究者による呼称の対応関係を把握しておくことが望ましい。
    ただし、どの名称が「正しい名称」であるかは重要な問題ではない。1つの格の形に対して1つの名称が与えられていれば、基本的にどのような名称でも差し支えない。しかし、1つの形に対して複数の名称が与えられるのは望ましくない。


格語尾   かくごび   case ending  《南》 격조사<格助詞>, 자리토씨   《北》 격토<格吐>

    体言語尾のうち、体言のを表す語尾。格助詞と呼ぶ研究者もいる。-이/-가(…が)、-을/-를(…を)など。
    朝鮮語の格語尾は日本語の格助詞と同じく、体言の語幹に接尾する付属要素である。韓国および日本では多くの場合これを助詞という品詞と見なすが、日本の一部および共和国では品詞と見なさず、あくまで付属要素と見なす。いずれにせよ、朝鮮語の格語尾はヨーロッパ語の名詞の曲用語尾とは性格を異にしている。



下称   かしょう

    한다体のこと。広い意味では한다体と해体を合わせて下称という。   한다体해体


冠形形   かんけいけい

     連体形


冠形詞   かんけいし   관형사<冠形詞>

     体言の前に来て、その体言と関係を結ぶ単語。日本語の連体詞に当たる。모든 「全ての」、온갖 「あらゆる」など。


漢字語   かんじご   한자어<漢字語>   《北》 한자말<漢字―>

     朝鮮漢字音で読まれる単語。日本語の漢語に当たる。漢字語は漢字でもハングルでも表記することができる。국가<國家>「国家」、방심<放心>「油断」、엽서<葉書>「はがき」など。


間接話法   かんせつわほう   간접화법<間接話法>

    朝鮮語の間接話法は接続形連体形の2つがある。ともに한다体終止形にをもとに作られ、接続形「…すると」は語尾 -고 を、連体形「…するという…」は語尾 -는 あるいは語尾 -ㄴ を한다体終止形に付けることによって表される。以下は接続形の一覧表である。
  平叙形 疑問形 命令形 勧誘形
動詞 II-ㄴ다고/I-는다고 I-느냐고 《書》 I-냐고 《話》 II-라고 I-자고
存在詞 I-다고
形容詞 II-냐고 《書》    
指定詞 -이
아니
-이냐고
아니냐고
   
    指定詞の平叙形は -이다고,아니다고 でなく、-이라고,아니라고 となるので注意を要する。動詞存在詞の命令形は第III語基を用いた III-라 ではなく、第II語基を用いた II-라 に -고 を付けることも注意が必要である。
     直接話法


間投詞   かんとうし   감탄사<感嘆詞>, 느낌씨   《北》 감동사<感動詞>

     品詞の1つで、話し手の感情などを表す単語の一群。感嘆詞ともいう。아이구 「ああ」,예 「はい」など。間投詞を品詞として認めない研究者もあり、そのような見解では間投詞を副詞と捉える。


勧誘法   かんゆうほう   《南》 청유법<請誘法>   《北》 추김법<――法>

    聞き手に対する勧誘を表すムードの1つ。実行形と中止形とがある。形容詞指定詞は勧誘法を持たない。

 

합니다体

해요体

하오体

하네体

해体

한다体

実行形

II-십시다

(III-요)

II-ㅂ시다

I-세

(III-Ø)

I-자/I-자꾸나

中止形

I-지 마십시다

I-지 마요

I-지 맙시다

I-지 마세

I-지 마

I-지 말자

    共和国では해요体に I-자요、하오体に I-자오 がある。
    実際の会話においては、目上に対して上称の勧誘形を用いることはほとんどなく、같이 I-지 않으시겠어요?「いっしょに…なさいませんか」などの婉曲表現を用いることが多い。



擬似接尾辞   ぎじせつびじ

     分離用言の後ろの要素。-하다(…する)、-되다(…される)、-시키다(…させる) など。擬似接尾辞は漢字語に付く場合が多く、擬似接尾辞を取り替えることによってヴォイスの違いを表す。


郷札   きょうさつ   향찰<鄕札>

    新羅時代の郷歌と呼ばれる詩歌を表記するのに用いた表記法。日本の万葉仮名のようなもので、漢字の音・訓を利用して朝鮮語を表記したものであるが、完全には解読されていない。   吏読
【郷歌の例(処容歌)】

東京明期月良 夜入伊遊行如可
入良沙寢矣見昆 脚烏伊四是良羅
二肹隱吾下於叱古 二肹隱誰支下焉古
本矣吾下是如馬尾隱 奪叱良乙何如爲理古  

東京の明るき月に夜更けまで遊び
帰りて寝床を見るに脚が四本なり
二つは吾がものにして二つは誰がものぞ
本は吾がものなれど奪いしを如何にせん



近代朝鮮語   きんだいちょうせんご   《南》 근대국어<近代國語>

    中期朝鮮語の次の時代の朝鮮語。河野六郎の区分によれば、豊臣秀吉の朝鮮侵略(16世紀末)以降の朝鮮語を指す。韓国では李基文の区分により、豊臣秀吉の朝鮮侵略(16世紀末)から開化期(19世紀末)までの朝鮮語を「근대국어(近代朝鮮語)」と呼ぶが、近年では「전기 근대국어(前期近代語)」と「후기 근대국어(後期近代語)」に分けるようになってきている。母音 ヽ (아래아)の消失、アクセントの消失、ㄷ の口蓋音化など、現代語の主な特徴がこの時期に形づくられた。


金枓奉   きんとほう

     김두봉


訓民正音   くんみんせいおん   훈민정음<訓民正音>

    朝鮮文字であるハングルの創製当時の名称。または、同名の書籍を指す。「民を訓(おし)える正しい音」という意味を持つ。訓民正音は李朝第4代国王である世宗が集賢殿という官庁に鄭麟趾・申叔舟・成三問などの有能な学者を集めて各国の文字を研究させ、1443年の陰暦年末に完成し1446年旧暦9月上旬に『訓民正音』(一般に「解例本」と呼ばれる)という名の書籍として公布した。完成当時に漢字・漢文を是とする崔万理ら儒教信奉者が訓民正音創製反対の上訴をしたりしたが受け容れられなかった。共和国では1443年の陰暦年末が陽暦で1444年の年頭になることから、完成年を1444年としている。
    【字形の由来】 ハングルの字形については、口の発音器官を模式化したとする説が一般的である。解例本に「正音二十八字、各象其形而制之(正音は二十八字、各々其の形を象りて之を制す)」とあり、続けて「牙音ㄱ、象舌根閉喉之形、舌音ㄴ、象舌附上腭之形、脣音ㅁ、象口形、歯音ㅅ、象歯形、喉音ㅇ、象喉形(牙音ㄱは舌根喉を閉ざすの形を象り、舌音ㄴは舌上腭に附くの形を象り、脣音ㅁは口形を象り、歯音ㅅは歯形を象り、喉音ㅇは喉形を象る)」とある。しかしながら、ㄱㄴㅁㅅㅇという形自体をどのようにして選んだかについては、起―成文図を参考にしたという説、パスパ文字を参考にしたという説など、いくつかの説がある。それらの説はあくまで仮説の1つに過ぎないが、当時の学者がさまざまな図形や他の文字体系などを参考にしつつ新たな文字を作成したであろうことは十分に考えられるといえる。
    【訓民正音の原本】 訓民正音の解例本は1940年に発見された澗松文庫所蔵本が最も世に知られている。初めの2帳は落丁しており、発見後に復元されたが、いくつか誤りがある。諺解本の原刊本は西江大学所蔵本があり、月印釈譜の巻頭に収められている。解例本と比べ、いくつか補充された内容がある。



敬語   けいご

     尊待法


形式名詞   けいしきめいし

     不完全名詞


形容詞   けいようし   형용사<形容詞>   《南》 그림씨

    用言の下位部類の1つ。主に状態や性質を表す単語。終止形において、命令形、意志形、勧誘法を持たない。詠嘆形は I-구나 などの形をとり、婉曲形は II-ㄴ데요 の形をとる。連体形は、非過去連体形で II-ㄴ をとる。


形容名詞   けいようめいし

    -적<的>という接尾辞を持った名詞。名詞であるが -이다 が付いて形容詞的な役割を果たす。後ろに付く要素が限られており、指定詞 -이다「…である」、-이 아니다「…でない」以外に格語尾 -으로「…に」、-이 되다「…になる」程度しかつかない。一般の名詞と異なり、否定形で -이 아니다 の外に -이지 않다 の形もとることができる。日本語のいわゆる「形容動詞」の「語幹」に相当する。


激音   げきおん   《南》 격음<激音>   《北》 거센소리

    口音の系列の1つ。息を伴った無声子音。ㅍ・ㅌ・ㅊ・ㅋ の4つがある。中国語やベトナム語の有気音と同じ。   子音平音濃音


激音化   げきおんか   《南》 격음화<激音化>   《北》 거센소리되기

    子音の音韻交替の1つ。語中で、本来平音であるものが激音になる現象。口音終声[ㅂ][ㄷ][ㄱ]の直後に ㅎ が来るとき、ㅎ は口音終声の対応する激音で発音される。입학[이팍]<入學>「入学」など。また、終声字母 ㅎ の直後の平音は激音で発音される。좋다[조타]「よい」など。


諺解   げんかい   언해<諺解>

    朝鮮の刊本のスタイルの1つ。漢文(およびそれに対する注釈)を掲げた後、その漢文に対する朝鮮語訳をハングルで記述する形式を指す。「諺解」とは「諺文(ハングル)による解釈」の意。訓民正音の創製後、このような諺解本が多く作られた。
【諺解本の例】 『訓民正音』諺解本の冒頭部分。4行目に見える「國之語音」が漢文で、その下に注釈が割注の形で書かれている。5行目に1字下げて書かれている「나랏말미(国の言葉が)」が「國之語音」に対する朝鮮語訳である。


謙譲   けんじょう   《南》 겸양법<謙讓法>, 객체 높임법<客體――法>

    尊待法の1つ。自らをへりくだらせることによって話題の人物を相対的にあがめる表現。謙譲接尾辞によって表される。

 

母音語幹・ㄹ語幹

子音語幹

ㄷ語幹

第I語基

I-아옵-/-압-

I-사옵-/삽-

I-자옵-/-잡-

第II語基

I-아오-

I-사오-

I-자오-

第III語基

I-아와-

I-사와-

I-자와-

    現代語において謙譲接尾辞を用いた謙譲表現は、電車やデパートのアナウンスや広告文など不特定多数に対する書き言葉的な文、年配の手紙文など、ごく限られた場面以外ではほとんど用いられない。謙譲接尾辞に代わってよく用いられるのは、分析的な形である III-Ø 드리다 「…して差し上げる」を用いた表現である。また、この形を作る動詞 드리다 「差し上げる」は、주다 「やる」の謙譲形として、本動詞としてもしばしば用いられる。
    現代朝鮮語の謙譲接尾辞は、中期朝鮮語の謙譲接尾辞 I--、I--、I-- が今日にまで伝わったものである。中期朝鮮語の謙譲接尾辞はその後、形を変化させて I-습니다 などの用言語尾の中に 습 として化石化して残ることとなった。


諺文   げんぶん

     オンモン


口音   こうおん

    子音の一種で、鼻に息が抜けずに口から出る音。平音激音濃音の3系列がある。   子音鼻音流音


喉音   こうおん   후음<喉音>

    訓民正音における子音の分類の1つ。現代言語学の喉頭音に当たり、ㆆ・ㆅ・ㅎ・ㅇ がこれに属する。   子音


硬音   こうおん

     濃音


口蓋音化   こうがいおんか   《南》 구개음화   《北》 입천장소리되기<―天障――――>

    子音 ㄷ,ㅌ の直後に母音 ㅣ (あるいは半母音 [j])で始まる接尾辞語尾が来るとき、ㄷ,ㅌ が ㅈ,ㅊ になる現象。굳이 [구지] 「しいて」,핥이다 [할치다] 「なめられる」など。
    【歴史的な口蓋音化】 中期朝鮮語において ㅅ は母音 ㅣ および半母音 [j] の直前であっても [s] と発音されたと推測される。ㅅ は近代朝鮮語の時期に母音 ㅣ および半母音 [j] の直前で口蓋音化して [∫] となったと見られる。また、ㅈ は中期朝鮮語においては [ts] であったと推測されるが、やはり近代朝鮮語の時期に口蓋音化して [t∫] となったと思われる(ㅊ も同様)。西北方言では、口蓋音化しない [ts] 音が一般的である。
    中期朝鮮語においては子音 ㄷ,ㅌ と母音 ㅣ および半母音 [j] の結合があったが(디,뎌 など)、近代朝鮮語においてそれらは口蓋音化して ㅈ となった(지,저)。現代朝鮮語にある 디 という音節は、中期朝鮮語で 듸 だったものが母音が単母音化した結果生じたものである。なお、西北方言では、디,뎌 などが口蓋音化しないまま現在に至っている。例:덩거당 「停車場」(<뎡거댱。標準語:정거장)。


洪起文   こうきぶん

     홍기문


口訣   こうけつ,くけつ   구결<口訣>

    漢文の読解の際に、漢文に添えられた朝鮮語の要素。日本における漢文読み下しの際の送り仮名に似る。もともとは漢字を用いるが、カタカナのように漢字の一部を省略した独自の文字でも書かれる。例えば、하니「…するので」は「為尼」を省略した文字「ソヒ」で表され、하고「…して」は「為古」を省略した文字「ソロ」で表される。   吏読
【口訣の例】


合成母音字   ごうせいぼいんじ

    2つ以上の母音字母が組み合わさってできた母音字母。ㅐ、ㅞ など。
    合成母音字母は「字母の合成」であって、必ずしも二重母音を指すわけではない。ㅐ、ㅔ などは合成母音字であるが、実際の音は単母音である。



後置詞   こうちし   postposition   후치사<後置詞>

    品詞の1つで、体言の後ろに来て体言と他の単語との関係を表す補助的な単語。ヨーロッパ諸言語の前置詞に対応する単語である。後置詞は連体形接続形がありうる。대한「対する」/대하여「対して」、의한「よる」/의하여「よって」 など。韓国や共和国では一般に後置詞という品詞を認めず、대한 などは動詞 대하다「対する」の変化形と見なしている。
    【朝鮮語の後置詞の概念】  ヨーロッパ語の前置詞は、(1) 名詞と結びついて用いられる非自立的な品詞であり、(2) 結びつく当該名詞の前に位置し、(3) 名詞のある種の格の形と結びつく、という特徴を持つ。例えば、ラテン語の前置詞 cum 「…とともに」(英語の with に当たる)は名詞の奪格形と結びつき、amīcus 「友人」という名詞と cum が結びつくときは、amīcus の奪格形 amīcō と結びついて cum amīcō となる。
    朝鮮語の後置詞は、ヨーロッパ語のこのような前置詞を念頭に置いて設定された品詞である。朝鮮語の後置詞は、(1) 体言と結びついて用いられる非自立的な品詞であり、(2) 結びつく当該体言の後ろに位置し、(3) 体言のある種の格の形と結びつく、という特徴を持っており、ヨーロッパ語の前置詞とほぼ同様の特徴を有している。例えば、後置詞 의하여 「よって」は体言の -에格と結びつき、친구「友人」という体言と 의하여 が結びつくときは、친구 の -에格形 친구에 と結びついて 친구에 의하여 となる。
    朝鮮語学界では「後置詞」という品詞を認めない見解も多い。そのような見解では、上述のとおり、의하여 という形を 의하다 という動詞の変化形と見なすわけであるが、의하다 は 의합니다、의한다、의했다、의하고、의하니까 など、動詞が持ちうるさまざまな形を持たず、ただ連体形 의한 と連用形 의하여(의해서、의해)という形のみを持ちうる。そのような意味で、もし 의하다 を動詞と見なすのならば、まっとうな動詞からかけ離れた、かなり特殊な動詞と考えなければならない。「後置詞」という概念は、連体形と連用形しか持たない 의하다 は、もはや1つの動詞と見なすのが困難であると考え、連体形と連用形を併せて「後置詞」という品詞に分類しているのである。
    【後置詞に関する他の見解】 韓国の研究者の中には、別のものを指して後置詞と呼ぶ場合がある。例えば、格語尾 -에서 は 格語尾 -에 に  -서 が付いた形であるとし、この -서 を後置詞と呼んでいる。



河野六郎   こうのろくろう

    1912~1998。朝鮮語学者、言語学者。兵庫県生まれ。東京帝国大学で小倉進平に師事し、東大助教授を経て京城帝国大学に赴任する。朝鮮解放後は東京文理科大学助教授、天理大学教授、東京教育大学教授を歴任する。中期朝鮮語方言、漢字音研究で顕著な成果をあげ、戦後日本の朝鮮語学界の中心的存在だった。著書に『朝鮮方言学試攷』、『朝鮮漢字音の研究』などがある。韓国では「河野六郎」をそのまま朝鮮語読みして、하야육랑 と呼ばれることもしばしばある。


語幹   ごかん   stem   《南》 어간<語幹>   《北》 말줄기

    単語の形において、語尾の前にある単語の本体部分。主に単語の語彙的意味を担う。語根を中心にして、その前に接頭辞が、その後ろに接尾辞が付くことがある。用言の場合、語幹は語基による活用をする。語幹が母音で終わるものを母音語幹といい、子音で終わるものを子音語幹という。また、用言は終声 ㄹ で終わるものをㄹ語幹とする。


語基   ごき   base

    日本語用言の活用形に類するもので、実際に現れる用言の語幹のそれぞれの形。朝鮮語用言の語幹は常に同じ形で用いられるのではなく、実際にはいくつかの形がその都度用いられるが、それらを語基と呼ぶ。現代朝鮮語には第I語基・第II語基・第III語基の3種類がある。中期朝鮮語には、さらに第IV語基があった。河野六郎は中期朝鮮語に第V語基を認めている。
    【語基の形の作り方】 第I語基は基本形から語尾 -다 を除いた形、第II語基は、子音語幹の場合は第I語基に -으- をつけた形、母音語幹の場合は第I語基と同じ形、第III語基は第I語基に -아-/-어- をつけた形。従って、正格用言は基本形から3つの語基の形を自動的に作り出すことができる。基本形から3つの語基の形を自動的に導き出せない用言を変格用言という。
    用言がどの語基で現れるかは、後ろに来る語尾接尾辞によってあらかじめ決まっている。例えば、-고「…して」や蓋然性接尾辞 -겠- は必ず第I語基につき、-면「…すれば」や尊敬接尾辞 -시- は必ず第II語基につき、-요「…します」や過去接尾辞 -ㅆ- は必ず第III語基につく。
    【語基をめぐる見解】 朝鮮語の用言の活用を語基という概念で最初に捉えたのは河野六郎である。語基を用いない文法論では、-으- や -아-/-어- という要素を語尾の一部と見なすが、語基を用いた文法論では語幹の一部と見なすところが特徴である。実際のところ、-으- は用言の語根と語尾を結ぶ連結母音(Bindevokal)なので、これを語幹の一部と見なそうが、語尾の一部と見なそうが、あるいはどちらにも含めなくても、理論上さしたる問題はない。河野は、-으- をヨーロッパ語の幹母音(thematic vowel)と同様のものと考え、これを語幹に含めた。語基と同様の考え方に立つ見解として旧ソ連のホロドヴィッチの見解がある(Холодович, А. А. (1954) “Очерк грамматики корейского языка”)。
    語基に否定的な見解では特に -아-/-어- を語幹の一部と見なすことに異を唱える。接続形の -아/-어 や해体終止形 の -아/-어 がそれ自体で文法的な役割を担っており、これを単なる連結母音と見なしがたいからであるとする。
     「語基」のページ

日本で読める主な論文
菅野 裕臣 (1997) 「朝鮮語の語基について」,『日本語と外国語との対照研究V 日本語と朝鮮語(下巻)』,くろしお出版
河野 六郎 (1955) 「朝鮮語」,『河野六郎著作集』 第1巻,平凡社,1979


国語醇化   こくごじゅんか   《南》 국어순화<國語醇化>   《北》 말다듬기

    朝鮮語における外来語を固有語に置き換えたり、難しい漢字語を平易な単語に置き換えること。主に日帝時代にもたらされた日本語起源の外来語に関する事がらが多く、解放後に南北ともにさかんに行なわれた。쓰메끼리 → 손톱깎기「爪切り」、산맥 → 산줄기「山脈」など。大筋のところ、国語醇化はうまくいっているようであるが、日常生活に深く根ざした語彙や専門分野での職業用語などでは、醇化語がいまだ十分に普及していないものも多い。


語根   ごこん   root   《南》 어근<語根>   《北》 말뿌리

    単語の形において、実質的な語彙的意味を担う部分。語幹の中核をなす。


古代朝鮮語   こだいちょうせんご   《南》 고대국어<古代國語>

    中期朝鮮語の前の時代の朝鮮語。河野六郎の区分によれば、訓民正音創製(15世紀中葉)以前の朝鮮語を指す。韓国では李基文の区分により、統一新羅(10世紀初頭)以前の朝鮮語を「고대국어(古代朝鮮語)」と呼ぶ。共和国では紀元前3世紀までの朝鮮語を「고대조선말(古代朝鮮語)」と呼び、10世紀までの朝鮮語(すなわち韓国の 고대국어 に相当するもの)は「중세전기조선말(中世前期朝鮮語)」と呼ぶ。日本・韓国においては概して三国時代・統一新羅時代の朝鮮語を指して古代朝鮮語と呼ぶ。
    古代朝鮮語は、三国遺事や三国史記、日本書紀など、朝鮮・日本の歴史書に現れる漢字表記された地名・人名などを資料として分析する。しかしながら、資料が少なく、また漢字表記であるため、その正確な姿はいまだ十分に明らかになってはいない。



語尾   ごび   ending   《南》 어미<語尾>, 조사<助詞>, 씨끝   《北》 어미<語尾>, 토<吐>

    単語の形において、語幹の後ろにある単語の付属部分。主に単語の文法的意味を担う。用言は語尾を必ず伴うが、体言は語尾のつかない形でも用いられうる。用言にのみつく語尾を用言語尾、体言にのみつく語尾を体言語尾という。また、用言・体言のみならず副詞などさまざまな品詞につきうる語尾をとりたて語尾という。学者によっては体言語尾ととりたて語尾を合わせて助詞と呼び、1つの品詞と見なしている。用言語尾は用言のどの語基につくかあらかじめ決まっている。
    【韓国における語尾の扱い】 韓国では一般的に用言語幹に後接する付属部分を「어미<語尾>」とし、体言や副詞に付くものは「조사<助詞>」と呼んでいる。「조사」と呼ばれるものは更に「격조사<格助詞>」と「특수조사<特殊助詞>」とに分類される。「특수조사」とは日本語のいわゆる「副助詞」に当たり、「보조사<補助詞>」とも呼ばれる。また、接尾辞を「선어말어미<先語末語尾>」と呼び、語尾の一種としている。
    【共和国における語尾の扱い】 共和国で「어미<語尾>」といえばもっぱら屈折語に対してのみ用い、朝鮮語に対しては「어미」という概念を認めていない。朝鮮語においては「토<吐>」という概念を認めているが、これは語幹に後接する付属的要素全般に対して用いられ、語尾と接尾辞を総称するものである。
     語基



固有語   こゆうご   고유어<固有語>

    朝鮮語の単語のうち、古来からある固有の朝鮮語語彙。나라「国」、집「家」、아주「とても」 など。日本語の和語に当たる。日本語は「訓読み」と称して漢字に和語を当てて表記することができるが、朝鮮語には訓読みがないので固有語は漢字で表記することができず、常にハングルで表記される。