アクセント  accent   《南》 악센트,성조   《北》 소리가락

    現代朝鮮語の標準語では、高低アクセント・強弱アクセントともに、その違いによって単語の意味を区別することはない。しかし、東南方言(慶尚道方言)と東北方言(咸鏡道方言)では高低アクセントが単語の意味を区別するのに関与する。例えば、慶尚南道方言では、말「馬」は高調、말「言葉」は低調で現れ、両者の間にアクセントの違いがある。
    中期朝鮮語には高調と低調の2段階の高低アクセントがあったことが知られている。中期朝鮮語の文献には、ハングルの左横に傍点(声点)と呼ばれるアクセント符号が付いている。低調は一般に「平声」と呼ばれ「집」のように無点で表示され、高調は「去声」と呼ばれ「・눈」のように一点がハングルの左横に附されている。また低調と高調の複合である「上声」があり、これは「:말」のように二点で表示される。
    韓国では朝鮮語の高低アクセントを一般に「声調」と呼ぶが、これは訓民正音の創製時に朝鮮語の音の高低を説明するのに中国音韻学から援用した「声調」という用語をそのまま受け継いだものである。上述の「平声・上声・去声」などの用語も同じである。朝鮮語のアクセントは実際には日本語の高低アクセントと同様のものであり、中国語のようないわゆる声調とは異なるので注意を要する。

日本で読める主な論文、南北朝鮮における重要論文
門脇 誠一 (1976) 「中期朝鮮語における声調交替について」,『朝鮮学報』 第79輯,朝鮮学会
早田 輝洋 (1999)『音調のタイポロジー』,大修館書店
福井 玲 (1985) 「中期朝鮮語のアクセント体系について」,『東京大学言語学論集 '85』,東京大学文学部言語学研究室
金完 鎭 (1971;1982) 『中世國語聲調의 硏究』,塔出版社


アスペクト   aspect   《南》 아스펙트, 상<相>   《北》 태<態>

    動作がどのように行なわれるかを表す文法範疇。現代朝鮮語には I-고 있다 と III 있다 という2つの形式があり、概して前者は動作の継続(いわゆる「進行」)を表し、後者は動作の結果の継続を表す。自動詞の多くは I-고 있다 と III 있다 の両方の形をとることができるが、他動詞はごく一部を除いて III 있다 の形をとることができない。また、결혼하다(結婚する)など一部の動詞は I-고 있다 も III 있다 もとることができない。
    【I-고 있다】 大多数の場合、動作の継続を表すが、「입다(着る)、신다(履く)、쓰다(かぶる)」など自身の身体に装着するのを表す再帰的な他動詞の場合、I-고 있다 は動作の継続も表し、動作の結果の継続も表す。例:외투를 입고 있다「外套を着ている(着つつある/着た状態である)」
    「앉다(座る)、서다(立つ)、붙다(付く)」など何かに付着するような動作を表す自動詞は、一般に I-고 있다 形をとらない。また、「남다(残る)、죽다(死ぬ)、피다(咲く)」など動作の途中過程を特定しえない動作を表す自動詞も、同様に I-고 있다 形をとらない。しかしながら、動作を行なう主体が複数あり、個々の動作が連続して起こっているような場合には、 I-고 있다 形をとることができる。例:줄을 선 사람들이 앞에서부터 순서대로 앉고 있다. 「列を作った人々が前から順番に座っている。」
    【III 있다】 自動詞は III 있다 形をとりうるものが多いが、動作前と動作後で主体のあり方に変化のない「웃다(笑う)、울다(泣く)、걷다(歩く)」などの動詞は III 있다 形をとりえない。また、他動詞は一般に III 있다 形をとりえないが、「쓰다(書く)、그리다(描く)」など一部の生産動詞は III 있다 形が動作の結果の継続を表し、日本語の「…してある」に当たる意味を表す。例:칠판에 글’자가 써 있다. 「黒板に字が書いてある。」
    【朝鮮半島におけるアスペクト研究】 韓国でのアスペクト研究は油谷(1978)が大きな影響を与え、それ以降韓国の学界ではアスペクト研究が盛んに行なわれているが、それらの中にはアスペクト研究と称して文法範疇であるアスペクトと語彙範疇であるアクツィオーンスアールトを混同して議論しているものが少なくないので注意を要する。共和国では I-고 있다、III 있다 という形式を用言のパラダイムに含めないので、朝鮮語にはアスペクト形式が存在しないと見る立場が主流である。
日本で読める主な論文
油谷 幸利 (1978) 「現代韓國語의 動詞分類―aspect를 中心으로―」,『朝鮮学報』 第87輯,朝鮮学会
浜之 上幸 (1991) 「現代朝鮮語動詞のアスペクト的クラス」,『朝鮮学報』 第138輯,朝鮮学会


以影補来   いえいほらい

     이영보래


意志=推量形   いしすいりょうけい

    朝鮮語には意志および推量を表す形がいくつかある。
    【I-겠-】 接尾辞 I-겠- は蓋然性接尾辞とも言われる。意志=推量を表す総合的な形として代表的なものである。一般に、動作の主体が話し手である平叙文の場合には話し手の意志を述べ、動作の主体が聞き手である疑問文の場合には聞き手の意志を問う。それ以外の場合には推量(蓋然性、すなわち話し手がきっとそうなるだろうと判断すること)を表す。なお、この形を未来形とする見解があるが、朝鮮語には未来時制が存在しないため、この見解は正しくない。I-겠- はムードに関連する形であるとする見解のほうが正しい。
  • 이 작업은 제가 하습니다. 「この作業は私がします。」(話し手の意志を述べる)
  • 몇 시쯤에 이쪽으로 오시습니까? 「何時ごろこちらにいらっしゃいますか。」(聞き手の意志を問う)
  • 내일은 눈이 오습니다. 「明日は雪が降るでしょう。」(推量を表す)
    【II-ㄹ⌒것이다】 II-ㄹ 連体形を用いた分析的な形として代表的なものである。I-겠- と同様に、動作の主体が話し手である平叙文の場合には話し手の意志を述べ、動作の主体が聞き手である疑問文の場合には聞き手の意志を問う。I-겠- と比べて切迫感がない。それ以外の場合には推量(話し手がおそらくそうなるだろうと判断すること)を表す。終止形 II-ㄹ게 は、語源的にはこの形にさかのぼる。
  • 저는 한번 약속한 일은 반드시 지킬 것입니다. 「私は一度約束したことは必ず守ります。」(話し手の意志を述べる)
  • 너 정말로 한국말을 공부할 거냐? 「おまえ本当に朝鮮語を勉強するのか。」(聞き手の意志を問う)
  • 한국은 아무래도 일본보다 추울 것이다. 「韓国はいくらなんでも日本より寒いだろう。」(推量を表す)
日本で読める主な論文
野間 秀樹 (1988) 「<하겠다>の研究―現代朝鮮語の用言のmood形式をめぐって―」,『朝鮮学報』 第129輯,朝鮮学会
野間 秀樹 (1990) 「<할것이다>の研究―再び現代朝鮮語の用言のmood形式をめぐって―」,『朝鮮学報』 第134輯,朝鮮学会


依存名詞   いぞんめいし

     不完全名詞


陰母音   いんぼいん   음모음<陰母音>, 음성모음<陰性母音>

    朝鮮語の母音調和における母音グループの1つ。現代語の用言の活用について言う場合は、 ㅏ,ㅗ 以外の全ての単母音を指す。中期朝鮮語について言う場合は、ㅓ,ㅜ,ㅡ の3つ母音を指す。   陽母音    母音調和


陰母音語幹   いんぼいんごかん

    母音語幹のうち、語幹末の母音陰母音である語幹。現代語では主に用言の語幹について言い、語幹末の母音が ㅏ,ㅗ 以外の母音である語幹を指す。   陽母音語幹    母音調和


引用形   いんようけい

     直接話法間接話法


ヴォイス   voice   《南》 태<態>   《北》 상<相>

    動作の主体と客体の関係を表す文法範疇で、態ともいう。朝鮮語のヴォイスには能動態・使役態・受動態の3つがある。ヴォイスの形はヴォイス接尾辞によって作られる場合と、擬似接尾辞によって作られる場合とがある。
    【ヴォイス接尾辞】 ヴォイス接尾辞は固有語の用言にのみ付く。代表的なボイス接尾辞として -이-,-히-,-리-,-기- があるが、それ以外にもいくつかの形がある。ヴォイス接尾辞が付きうるか付きえないか、ヴォイス接尾辞が付くならばどの接尾辞がつくのかは、それぞれの用言ごとにあらかじめ決まっている。また、それぞれのヴォイス接尾辞は定まった役割がなく、1つの接尾辞が使役態を表しもするし受動態を表しもする。はなはだしくは 속이다(だます) のように、能動態に接尾辞が付いた形もある。

能動態

使役態

受動態

먹다(食べる)

다(食べさせる)

다(食べられる)

놓다(置く)

 

다(置かれる)

앉다(座る)

다(座らせる)

 

알다(知る)

다(知らせる)

다(知られる)

부르다(呼ぶ)

 

다(呼ばれる)

다(だます)

 

속다(だまされる)

ヴォイス接尾辞はさらに、使役・受身のみならず、自動詞を他動詞に換えたり、他動詞を自動詞に換えたり、あるいは形容詞動詞に換えたりと、ヴォイス転換以外の役割も担っている。朝鮮語のヴォイスは日本語のように形態論的に明確な形の対立を持たず、自動詞と受動形の境界および他動詞と使役形の境界も明確ではない。

形容詞

自動詞

他動詞

 

다(聞こえる)

듣다(聞く)

 

숨다(隠れる)

다(隠す)

높다(高い)

 

다(高める)

    【擬似接尾辞】 擬似接尾辞は名詞語幹に付き、擬似接尾辞を取り替えることによってヴォイスを転換する。一般に -하다 が能動態、-시키다 が使役態、-되다,-받다,-당하다 が受動態を表す。用言の種類によっては擬似接尾辞のうちいくつかを取りえないものもある。통하다「通じる」など漢字1字の語幹に -하다 が付くものは、他の擬似接尾辞を取りえない。낙하하다「落下する」など -하다 が付いて自動詞を表すものは、-되다 が付いても同様に自動詞を表す。このように -하다 が付いても -되다 が付いても自動詞となるものは、通常 -되다 の方が好んで用いられる。-받다 は「受ける」という意味を持つ受動態として用いられ、-당하다は「こうむる」という意味の受動態として用いられる。피격<被撃>など受動的意味を持つ名詞語幹には -하다 が付きえず、使役形と受動形のみを持つ。

名詞語幹

-하다

-시키다

-되다

-받다

-당하다

통<通>

×

×

×

×

낙하<落下>

×

×

사용<使用>

×

×

존경<尊敬>

×

×

침략<侵略>

피격<被撃>

×

×

    【分析的な形】 受動・使役を表す分析的な形として、受動形 III-지다、使役形 I-게 하다/만들다 がある。これらはあらゆる動詞から作ることができ、ヴォイス接尾辞や擬似接尾辞の付きえない動詞も、これらの形を用いて受動形・使役形を作ることができる。
日本で読める主な論文
菅野 裕臣 (1982) 「ヴォイス―朝鮮語―」,『講座日本語学』 10,明治書院


詠嘆形    えいたんけい   《南》 감탄형<感嘆形>, 느낌

    用言終止形の1つ。「…しますねえ」のような詠嘆を表す形。直説法と目撃法があり、直説法の形は用言の種類によって形が異なる。待遇法としては해요体해体とがある。

 

해요体

해体

直説法

I-는군요(動詞)/I-군요(それ以外)
I-는구먼요(動詞)/I-군먼요(それ以外)

I-는군(動詞)/I-군(それ以外)
I-는구나(動詞)/I-구나(それ以外)
I-는구먼(動詞)/I-군먼(それ以外)

目撃法

I-더군요
I-더구먼요

I-더군
I-더구나
I-더구먼

    I-는구먼(요)、I-구먼(요)、I-더구먼(요) は共和国の標準語でそれぞれ I-는구만(요)、I-구만(요)、I-더구만(요) となる。なお、韓国でも話し言葉においては、 I-는구만(요)、I-구만(요)、I-더구만(요) という形がしばしば現れる。
    共和国では詠嘆形を直説法の一種と見なしている。「感嘆法」という範疇で括ろうとする試みもあったようだが、正式には採用されなかったようである。



[n]の挿入   えぬのそうにゅう

     リエーゾン


婉曲形   えんきょくけい

    用言終止形の1つ。「…するんですが」のように断言をせずに明言を避け、柔らかいニュアンスを表す。直説法、目撃法、推量法があり、直説法の形は動詞・存在詞と形容詞・指定詞で形が異なる。待遇法としては해요体해体とがある。

 

해요体

해体

直説法

I-는데요(動・存)/II-ㄴ데요(形・指)
I-는걸요(動・存)/II-ㄴ걸요(形・指)

I-는데(動・存)/II-ㄴ데(形・指)
I-는걸(動・存)/II-ㄴ걸(形・指)

目撃法

I-던데요
I-던걸요

I-던데
I-던걸

推量法

II-ㄹ’걸요

II-ㄹ’걸

    韓国・共和国では婉曲形という形式を認めていない。韓国では I-는데(요)/II-ㄴ데(요) は接続形と見なし、I-는걸(요)/II-ㄴ걸(요)、II-ㄹ’걸(요) は分析的な形である I-는 것을(요)/II-ㄴ 것을(요)、II-ㄹ ’것을(요) の縮約形と見なしている。


小倉進平   おぐら しんぺい

    1882~1944。朝鮮語学者、言語学者。仙台出身。東京帝国大学を卒業後、京城帝国大学、東京帝国大学の教授を歴任した。朝鮮語の歴史的考察に長け、日本における朝鮮語学の基礎を築いた。著書に『郷歌及び吏読の研究』、『増訂朝鮮語学史』、『朝鮮語方言の研究』などがある。韓国では「小倉進平」をそのまま朝鮮語読みして、소창진평 と呼ばれることもしばしばある。


オンモン   언문<諺文>

    諺文。ハングルの旧称。または、中期朝鮮語などの古い時期において、ハングルによって書かれた文。