静岡から世界へ——コミュニティの再生とメディアの未来を語る
~プシェメクさん×春名学長・福田講師・石田留学生アドバイザー 座談会~
世界にはばたく卒業生

2025年3月に東京外国語大学 国際日本学部を卒業し、7月から静岡のメディア企業での新たな一歩を踏み出すポーランド出身のプシェメク(ヘルジク・プシェミスワフ)さん。在学中に取り組んだ福島や山形でのスタディツアー、春名先生の助言をきっかけに始めた多摩ニュータウンでの「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」の研究を通じて、彼は現場の生の声に触れ、自身の先入観を覆す多くの学びを得てきました。「メディアの人間は情報の商人だ」という言葉に自らの役割を重ね、地域の細かな思いを汲み取る「ミクロ」の視点と社会を俯瞰する「マクロ」の視点を併せ持つ彼がいま、静岡を世界へ届けるために見据える戦略とは——。春名学長らとの対話を通じて、コミュニティの再生やメディアが果たすべき新たな役割、そして世界を見据えたプシェメクさんの熱いビジョンを伺いました。
出席者
- プシェメク(ヘルジク・プシェミスワフ)さん: ポーランド出身。2025年3月卒業。今年7月より静岡のメディア企業に入社。
- 春名 展生 学長
- 福田 彩 特任講師(グローバル・イノベーション・デザイン・インスティテュート)
- 石田 理恵 特定研究員(留学生アドバイザー)
「隠れた輝き」を見つけ出す仕事
春名学長 今日はプシェメクさんが素敵なお土産を持ってきてくれましたね。このお茶には、どのようなこだわりがあるのでしょうか?
プシェメク はい、これは今年のお茶の初取引で、最高値で落札されたお茶を仕入れた老舗お茶屋さんの商品です。こうした「その土地ならではの良いもの」を見つけてくるのが、私の仕事であり強みだと思っています。 最近、会社の先輩から「メディアの人間は情報の商人だ」と言われたのですが、そう思わされることが少なくありません。
春名学長 一般的に流行しているものではなく、まだ広く知られていないけれど輝いているものをうまく拾い上げてくる。その姿勢は、プシェメクさんが大学時代に力を入れていた山形や福島でのスタディツアーの経験とも深くつながっているようですね。
福島で覆された先入観と「生の声」の重み
プシェメク 実際、就職活動の面接でも福島スタディツアーでの経験をアピールしました。 私は3.11の被災地に非常に興味がありましたが、行く前は「被災された方は原子力発電に対して批判的な思いしかない」という先入観を持っていました。しかし、実際に現地でさまざまな立場の方に取材を重ねる中で、その考えは大きく変わりました。
福田 プシェメクさんは、果物農家や野菜農家、お寺の僧侶、起業家、元東京電力の社員の方など、立場が違う方々全員に「原発事故の前後で、原発に対する印象は変わりましたか?」と同じ質問をぶつけて回っていましたね。
プシェメク はい。特に驚いたのは、ある農家の方が「これは技術なのだから、続けなければ改良できないし、より安全にすることもできない」と仰ったことです。 批判一辺倒だと思っていた私にとって、非常にバランスの取れた視点であり、大きな衝撃でした。また、避難命令を受けた地域と受けなかった地域が隣り合っている場所で、賠償金の有無によって住民間に「嫉妬」の感情が生まれてしまったというお話も伺いました。こうした複雑な感情やリアルな現場の声は、実際に行ってみなければ決して分からなかったことです。
ポーランドと多摩ニュータウンをつなぐ「ソーシャル・キャピタル」
春名学長 現場の「ミクロ」な声を大切にする点は、多摩ニュータウンを対象に「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」を研究した卒業論文にも引き継がれていますね。
プシェメク 1年生の時に大学近くの「車返団地」を見て、母国ポーランドの社会主義時代に建てられた団地風景とそっくりだったことに興味を持ったのが始まりです。その後、春名先生から「多摩ニュータウンに行ってみたらどうですか?」という助言をいただき、授業の課題で見学に行ったことでさらに関心が深まりました。実際に多摩ニュータウンのコミュニティカフェなどでボランティアをしながら、高齢化が進む中で「互恵的な協調行動」がどうやってに維持されているかを研究しました。
春名学長 高齢化でコミュニティが崩れていきそうな多摩ニュータウンと、危機の直後にバラバラになった福島。 そこには共通性があったのでしょうか。
プシェメク はい。「危機に直面したコミュニティがどう反応すべきか」という共通の問いがありました。私は多摩ニュータウンの事例は一つの成功例だと考えています。こうした日本の取り組みや学びは、海外の方にとっても非常に有益なはずです。実際に福島スタディツアー中にアメリカの学生に自分たちの取材結果を英語で伝える機会もあり、日本の経験を世界に発信することの意義を実感しました。
静岡の課題:お茶産業の危機とインバウンドの可能性
石田 7月からはいよいよ静岡での生活が始まります。静岡のお茶産業についてはどう見ていますか? 最近は「急須でお茶を入れない」家庭も増えているようですが。
プシェメク 静岡のお茶の生産量が一昨年、鹿児島に抜かれて2位になったというニュースには危機感を覚えています。後継者不足も深刻です。解決策の一つとして、私はインバウンド誘客に大きな可能性があると信じています。
春名学長 具体的にはどのようなアプローチを考えているのですか?
プシェメク 以前、SNSで人気のインフルエンサーと一緒に静岡の魅力を発信する実験をしたのですが、茶畑のテラスでお茶の飲み比べができる農園を紹介したリール動画に、海外から物凄い反響がありました。海外向けの発信には、地上波テレビよりもSNS、特に短尺のリール動画やショーツが圧倒的に有効です。
福田 短い動画の方が今の時代には届きやすいのですね。
プシェメク はい。個人のインフルエンサーとは違い、放送局には高い技術、機材、そして専門知識があります。これらを活用して、高品質なコンテンツを作ることができるはずです。東海道新幹線で多くの外国人が静岡を通過していきますが、それを「もったいない」と感じています。「静岡でちょっと降りてみよう」と思わせるような発信をしていきたいです。
東京外大での学びと、新しい挑戦への自信
石田 プシェメクさんは「チャレンジに立ち向かうのが好きだ」と仰っていましたね。
プシェメク 正直に言うと、最初のスタディツアーは自分の思いを日本語でうまく伝えられず、とてもつらくて恥ずかしい経験でした。しかし、そこで逃げずに日本人と対話し続けたことで、日本語力だけでなく、日本特有のコミュニケーションのあり方にも自信を持てるようになりました。
春名学長 地域の細かな思いを汲み取る「ミクロ」の目に加えて、静岡の位置と観光資源というような社会全体を俯瞰する「マクロ」の目の両方を持っていることこそが、プシェメクさんの最大の武器ですね。 静岡は富士山もお茶もあり、世界へ発信すべき魅力に溢れています。
プシェメク ありがとうございます。 静岡の方々やお茶の専門家など、様々なソースから学びを深め、より専門的な知識を持って、効率よく静岡の素晴らしい文化を世界へ届けていけるよう頑張ります。
(2026年6月18日収録)
参照:
本記事に関するお問い合わせ先: 広報・社会連携課 広報係 koho[at]tufs.ac.jp([at]を@に変えて送信ください)
