TUFS Today
TUFS Today
特集
東京外大教員
の本
TUFS Today
について

社会の要請が多様化する中で、大学における学問の探究をいかに豊かな社会の構築へとつなげていくべきか。本対談では、タイの第一線で活躍する卒業生ワーンさんとセンマイさんを迎え、実社会の課題解決に寄与する「高度な専門性」のあり方や、変化の激しい時代を歩むためのキャリア構築のヒントを語り合いました。

【対談者】

  • ゲスト:ワーンさん(タイ出身、2020年3月国際社会学部卒業)、センマイさん(タイ出身、2020年3月国際社会学部卒)

  • 対談者: 第一部 春名学長、 第二部:チャモーディさん(スリランカ出身、国際日本学部3年)

【第一部】卒業生 × 学長:実社会の課題解決に寄与する専門教育

春名  ワーンさん、センマイさん、お帰りなさい。今日は大学の将来像について、実社会で活躍する皆さんの意見を聞きたいと思っています。現在、日本の大学は少子化という大きな課題に直面しています。2040年には少子化により学生数が現在の約27%減少すると予測されており、本学でも学部の定員を削減せざるを得ない状況になることが予想されています。その一方で、現代社会の複雑な課題に取り組むプロフェッショナル人材の教育の拡充が期待されており、実社会の課題解決に寄与する専門教育も拡充していきたいと考えています。まずは、お二人が本学を卒業された後、どのように過ごされたか教えていただけますか。

ワーン  私は東京外国語大学国際社会学部で日本史や日本思想を学び、2020年に卒業しました。新型コロナウイルスの影響で、残念ながら卒業式には参加できず、空港が閉鎖される前に急いでタイへ帰国しました。卒業後、母国タイに帰国し働き始めたのですが、人権や開発の分野でキャリアを積む中で、人々の権利を具体的に守るためには、その土台となるタイの国内法を深く理解する必要があると痛感しました。そのため、タイのタマサート大学で改めて法学を学び、学士号を取得しました。

左:ワーンさん、右:センマイさん

春名  なぜ大学院ではなく学部に入り直したのでしょうか。

ワーン  タイで弁護士、検察官、裁判官などの法曹を目指すためには、法学の学士号を取得することが必要です。この進路においては、修士課程から始めることができないため、私は母国のタマサート大学で二つ目の学士号を取得することを決意しました。社会人向けプログラムで3年間学びました。既に他の学位を持つ社会人を対象としたプログラムで、数学や英語などの一般教養科目が免除されたため、通常4年のところを3年間で修了することができました。このプログラムの雰囲気は非常に独特で、学生の年齢層は私のような20代から50代までと非常に幅広く、中には既に二つの修士号を持っていたり、博士号(PhD)を取得しているような方まで一緒に机を並べていました。背景も多様で、全くの異業種へキャリアチェンジを志す人もいれば、会計士が業務に直結する法律を学ぶために通っているケースもありました。このように、明確な目的意識を持った多様な専門職の人々と共に学ぶ環境は、非常に刺激的でした。現在はその知識を活かして公的機関で働いていますが、将来はさらに専門性を高めるために修士課程への進学も計画しています。私の目標は、単に知識を得ることではなく、法律の知識を武器に社会をより良く変えていく「Social Change(社会変革)」に貢献することです。

春名  非常に興味深いですね。お二人のように、社会に出てから自らの意志で新たな専門性を積み上げるケースは、これからの大学が目指すべき姿の一つだと感じます。本学の大学院には、すでにPeace and Conflict Studiesコース/プログラム(PCS)という素晴らしい教育拠点があります。2004年に開始されたこの学際的なプログラムは、平和構築や地球規模の課題に対する専門知識を持つ人材を養成することを目的としており、世界中から多様な学生を受け入れています。これからの大学院では、従来のアカデミックな研究者や大学教員の養成を目的とするだけでなく、即戦力として第一線で活躍できる高度な人材として社会へ出ることを見据える必要があります。そのため、大学院には実務的な職業に直結する教育が不可欠であり、現代社会の重要な課題に批判的なアプローチで取り組むPCSのようなプログラムは、まさにその先駆けと言えるでしょう。

センマイ  私は東京外国語大学では国際経済学を専攻し、2020年に卒業しました。大学で経済学を学んだことで、資本主義社会の全体像を捉える視点を得られたことは非常に大きな収穫でした。しかし、実際に社会に出て働く中で、利益を追求するだけでなく、人間そのものへの深い共感や倫理観を大切にしたいと強く思うようになり、あえて異なる分野である心理学を学ぶためイギリスの大学院(ノーサンプトン)へ進学し、修士号を取得しました。
現在はタイにある日系のエネルギー関連企業で、ビジネスコーディネーターとして勤務しています。私の仕事の本質は、技術者やパートナー企業、クライアントなど、立場の異なる多くの人々をつなぐことです。大学院で学んだ心理学の知見は、相手の意図を正確に読み取り、どのようにアプローチすべきかを判断する「ソフトスキル」として、今の現場で非常に役立っています。また、今の会社に入ってからはエンジニアのような専門知識もゼロから学び、経済学・心理学・技術知識の三つを掛け合わせて、ビジネスを推進しています。

春名   将来をかなり見通していたのですね。

センマイ  私は未来のために働いています。私は現在エネルギー業界に身を置いていますが、この分野には2050年のカーボンニュートラル(ネットゼロ)実現という非常に長期的な目標があります。日本も2050年までのゼロ達成を公約しており、今後は炭素税の導入や、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)や経済産業省(METI)による投資への規制もさらに厳しくなっていくでしょう。そうなれば、企業は排出量を相殺するためのカーボンクレジットを活用せざるを得なくなります。そのための排出量の計算や、クレジットの登録手続きといった専門知識は、これから非常に長い期間にわたって必要とされる息の長い分野なのです。私のキャリアは、まさにこの未来のインフラを支えるプロセスと共に歩んでいくことになります。

春名   博士号の取得はめざさなかったのでしょうか。

センマイ   心理学の分野でカウンセラーや心理学者といった専門職としてキャリアを積もうとすれば、さらに研究を重ね、実習や訓練を経て資格を取得するという非常に長い道のりを歩まなければなりません。しかし、私はお金が好きだったから経済を勉強したんです。とにかく早く実社会に出て自分でお金を稼ぎたいと考えました。皮肉なことに、採用側は、その課程で実際に何を学んだかというよりも、修士号(MA)を取得しているという事実そのものにより関心を寄せますし、十分に自分なりのキャリアパスを築いていけます。今では専門外だったエンジニアのような専門知識も現場で使いこなしながら、ビジネスの最前線で働くことにやりがいを感じています。

ワーン   タイでは、学歴が非常に重視されています。同時に、開発や人権のように、現実社会の課題に向き合う分野では、専門家としての信頼性は、より実践的な問いにも左右されます。それは、「そこで得た学問的知識をどのように実践に活かし、意味のある社会変革(Social Change)にどのように貢献していくのか」という問いです。例えば、私が卒業後にタイで法学を学び直したのは、人々の権利を具体的に守るためには、その土台となる国内法の深い理解が不可欠だという確信があったからです。こうした学びが、単なる知識の習得ではなく、社会をより良くするための「武器」になることが重要なのです。
社会変革というのは、決して短期間で成し遂げられるものではありません。10年、20年、30年という長い年月をかけて取り組む「ロングゲーム(長期戦)」です。かつての日本でも特定の事柄に対して強固な固定観念がありましたが、今ではそれが変化しているように、あるいはタイで長年の運動を経て同性婚が法制化されたように、歴史は多くの人々が動き続けることで変わっていきます。だからこそ、将来、特に修士課程の進学先として大学を選ぶ際には、その大学で提供される高度な教育が、学生にとって、差し迫った現実社会の課題に向き合い、学問的知識を実践に活かし、卒業後に専門職として社会を変える動きに意味のある形で貢献する力を育むものかどうかが、最も重要な判断基準になるべきだと考えます。単に学位を与えるだけでなく、具体的な専門性と社会への出口を示すことが、これからの大学には求められているのだと思います。

春名   おっしゃる通りですね。個人の意識をすぐに変えることは難しくても、新しいシステムや基準が導入されることで、企業の行動が変わり、それが積み重なって社会全体が変化していくのだと私も信じています。大学院教育において、より専門的な教育を提供しようと考えているのは、まさにそのためです。これからの大学院は、研究者を目指すための学術研鑽の場としての役割を維持しつつ、同時に、実社会の第一線で活躍する専門職に向けた高度な実践教育を提供する場としての機能も強化していく必要があります。具体的には、企業や外部団体と連携したインターンシップやPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)といったプログラムを通じて、学生が現場で働く人々と実際に触れ合い、社会の課題に直接アプローチできる機会を増やしていけたらと思っています。そうして、単に学位を授与するだけでなく、社会を生き抜くための具体的な専門性と、その先のキャリアという「出口」を明確に提示すること。これこそが、本学が大学院を拡充し、進化を遂げようとしている最大の目的であり、これからの大学に課せられた重要な役割なのだと改めて確信しました。皆さんのような志を持った卒業生が、それぞれの場所で「社会を支える大切な一翼」として動き、やがて社会に大きな変化をもたらす。そのための確かな武器となる専門性を提供することが、これからの本学の重要な役割であると改めて確信しました。

Covid-19のパンデミックで卒業証書を受け取れずにタイへ帰国。ようやく卒業証書が受け取れました。

【第二部】卒業生 × 在学生:日本と母国を繋ぎ、自分らしく働くためのヒント

チャモーディ   私は、2019年に新設された国際日本学部に所属しています。今後、日本語教育をより深く学んでいきたいと思っています。現在、日本で外国人サポートをしている会社でアルバイトをしていて、将来は、日本と私の母国であるスリランカの間をつなぐような会社で働きたいと考えています。先輩方にお聞きしたいのですが、大学での専攻は将来の仕事にどの程度影響するのでしょうか。 また、ITスキルのような専門知識も在学中に習得すべきですか。

チャモーディさん

センマイ   大学で学んだことが直接仕事に役立つのは、だいたい30%から40%程度だと考えていいですよ。私自身、国際経済学を専攻して卒業しましたが、最初の仕事は物流会社でしたし、今はエネルギー業界で働いています。大切なのは、たとえ専攻と仕事が一致していなくても恐れる必要はないということです。なぜなら、どんな仕事であっても入社すれば全員が「ゼロからのスタート」。ITスキルやMicrosoft Office(Word、PowerPoint、Excelなど)のスキルに対する需要の高まりを懸念されている方もいらっしゃるかもしれませんが、今はAIを業務に取り入れ、そこから学ぶことができる時代です。ですから、完璧である必要はありません。それよりも、仕事を選ぶ上では「自分自身の成長(Growth)」を最優先に考えてみてください。仕事を選ぶ際には、給与や勤務地、職務内容など、さまざまな考慮すべき要素がありますが、未経験の状態で入社する以上、まずはその場所で新しいことを学び、自分にバリュー(価値)を付け加えることが、将来のキャリアを切り拓く鍵になります。

ワーン   専攻がどう影響するかを考える上で、私は学生のうちにインターンシップや、企業でのアルバイトを経験することを強くお勧めします。実際の現場を体験することで、その業界の文化や仕事の進め方が自分に合っているかどうか、あるいはその業界に興味が持てるかどうかを判断する材料になるからです。私たちは学生時代にインターンを経験しませんでしたが、今振り返れば、若いうちに色々な場所を見ておくことは、将来の選択肢を広げる上で非常に有益だったと感じています。

チャモーディ   私は通訳の仕事にも興味があるのですが、語学力だけでは不十分でしょうか。

センマイ   通訳は非常に素晴らしいスキルですが、私個人の意見としては、それだけでは不十分だと感じています。将来、AIはさらに進化していきます。100%完全に取って代わられることはないにせよ、比較的簡単な通訳の仕事の多くはAIに置き換わっていくでしょう。ですから、通訳を「唯一の仕事」にするのではなく、通訳を一つのスキルとして持ちつつ、他にも「ハードスキル」や「ソフトスキル」を身につけるとよいと思います。

ワーン    労働市場に出ると、語学ができる人は本当にたくさんいることに気づくはずです。私自身も3〜4ヶ国語を話しますし、世の中にはそれ以上の言語を操る人も大勢います。特にネイティブ並みに流暢な人が常に競合する中で、単に「コミュニケーションができる」だけでは、プロとして生き残るには不十分かもしれません。これからの時代は、何でも屋(ゼネラリスト)ではなく、「スペシャリスト」が求められます。プロジェクト管理や特定の業界の技術知識など、誰もあなたに取って代わることができないような、特定の分野におけるテクニカルな強みを磨いてください。そうすることで、どんな業界や分野でも生き残っていくことができるようになります。

チャモーディ   私が自分の強みとして答えたいのは、「人々をつなぐ(Linking people)」力です。現在アルバイトをしている職場では、外国人の方々と日本企業の間に立つ、いわば「仲介役(架け橋)」のような役割を担っています。また、いくつかの国際イベントで通訳を務めた経験もありますが、そこで実感したのは、通訳とは単に言葉を別の言語に置き換える作業ではないということです。その国の背景や文化、そして言葉の裏にある多くのことを深く理解していなければ、本当の意味で人々をつなぐことはできません。ですから、私は今、自分の語学力を一つの手段として活用しながら、異なる文化を持つ人々の間に立って調和を生み出すスキルを磨いている最中です。今のところ、これが私の確かな強みになると考えています。

センマイ   その「人々をつなぐ」という強みは素晴らしいですが、就職活動ではそれをさらに具体的にアピールするといいですよ。日本の企業はチームワークを重視しますから、単に「つなぐ」だけでなく、「異文化間のコミュニケーションを調整し、チームとして円滑にプロジェクトを進める力がある」と言い換えることで、あなたの価値がより明確に伝わります。今のあなたは、学生時代にインターンを一つもしていなかった私たちに比べれば、ずっと準備ができています。もし入った環境が自分に合わないと感じても、そこで立ち止まらずに次のステップへ進む自信を持ってください。自分自身の成長を信じて挑戦し続けることが何より大切です。

ワーン   そうですね。あなたが今、通訳や外国人サポートの現場で経験していることは、一見するとバラバラなスキルの積み重ねに思えるかもしれません。しかし、私がプロジェクトマネジメントの仕事を通じて実感したように、日々の調整やレポート作成といったすべての経験は、将来必ずパズルのピースのように一つにつながります。無駄な経験は何一つありません。スリランカと日本をつなぐという目標に向かって、自信を持って今の歩みを続けていってください。

チャモーディ   ありがとうございます。先輩方のアドバイスをいただき、自分の経験をどう言葉にし、どうキャリアにつなげていけばいいのか、視界が晴れたような気がします。まずは自分の強みを信じて、より多くの現場を経験し、自分にしかできない「架け橋」の形を見つけていきたいと思います。

左から、春名学長、ワーンさん、センマイさん、ルビーさん(2020年言語文化学部卒、5月まで本学で勤務)、石田留学生アドバイザー

本記事に関するお問い合わせ先: 広報・社会連携課 広報係 koho[at]tufs.ac.jp([at]を@に変えて送信ください)

PAGE TOP