「まち」こそ多様性の宝庫:関谷昴さんインタビュー
世界にはばたく卒業生
在学中に世界42カ国を旅し、留学中の東京外大生や世界で働く卒業生をインタビューしてまわった卒業生をご存知ですか。2019年3月卒業の関谷昴さん。キャンパスでも人懐っこく多くの学生に話しかけ、話しかけられる様子をよく目にしました。卒業後も東京外語会の理事やシェアハウスの管理人、府中市市民活動センター職員として東京外国語大学生とも数多くの接点を持っている関谷さんにお話を伺いました。
インタビュアーは、言語文化学部ヒンディー語4年生の守屋アンパトリスさんが担当しました。
本学での学び、在学中の活動
——関谷さんは、昨年3月に卒業されています。世界一周の旅やさまざまなプロジェクトを活発にされていたと伺いましたが、本学ではどんなことを専攻し学んでいたのですか。
所属は言語文化学部の英語専攻で、3年次からは多文化共生ゼミに所属し社会学を学んでいました。家などの第1の場を「ファースト・プレイス」、学校や職場などの第2の場を「セカンド・プレイス」と呼びますが、そのほかにある居心地が良くて関係性が生まれる第3の場のことを指す「サード・プレイス」に関する研究を主にしていました。ほかにも、在学中はとにかく興味のあることを学びに学内外問わず奔走していました。教授にコンタクトを取ってお話を聞きに行ったり、自ら先輩の卒論発表会を開いたり、興味のある授業を聴講したり友人と研究会を開いたり。その多様な学びが今にも生きているなと感じることは多いですね。
——在学中からシェアハウスを運営されていると伺いました。このシェアハウスもサード・プレイスと言えるのでしょうか。
そうですね。「たまりば!」というシェアハウスなのですが、人が集まれる場所をつくりたい、という思いからこのように名付けました。学生で初期投資をできるような金銭的余裕はなかったので、自分がシェアハウスに住みながら、人が集まれる空間にできたら良いなと思い、仲間を集って始めました。各国の文化を楽しむパーティーを開いたり、学生それぞれの研究や、日々考えていることを共有するトークイベントを開催してさまざまな方に気軽に集まってもらっています。実は、卒業論文はこの「たまりば!」を題材にして書きました。「シェアハウスはサード・プレイスになり得るのか」ということがテーマです。
——ほかにも、在学中にフィリピンの教育支援活動を行っていたと伺いました。どのような活動なのでしょうか。
「ALPHA(アルファ)」という学生NGOに5年間所属し、教育支援活動をしていました。フィリピンのイロイロ市にある小学校において、不足している教室を建設したり、オリジナルのワークショップを英語で行うといった活動を、春と夏に2週間ほど現地に行き、おこなっていました。「支援」というかたちで入って行ったものの、その中で自分たちが学ばせてもらうことも多かったですね。特に、「幸せって何だっけ?」と考えさせられることは多かったです。日本では、学生でもバイトをしてお金をためれば他国に気軽に行けるくらいにはお金が手に入りやすい一方、人とのつながりが希薄になっていて生きづらさを感じている人も多くいます。そんな中で私にとっての国際協力とは「近所の人たちと助け合える関係性」のようなものと捉えていくようになりました。誰でも生活を送っていれば足りなくなるものや、手に入りやすいものは自然と出てきます。それをうまくシェアできればいい。この感覚は、シェアハウスをしていてもまちで働いていても、いつも心の底に流れている気がします。今までフィリピンには10回ほど行っていますが、いつも行っている村は第2の故郷のように思っています。
世界を見て地域で働く
——現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか?
大学が所在する府中市の市民活動センターで勤務をしています。府中駅南口に2017年夏にオープンしたばかりの「プラッツ」というセンターです。広く市民活動を支援するセンターで、NPOや市民活動をする人たちが活動しやすいような環境づくりを行っています。府中市は「市民協働都市」を宣言していて、さまざまな主体が連携して課題解決をしていくことを大切にしています。例えば行政と市民活動団体、企業とNPO、大学とNPO、大学と行政などさまざまなセクターが連携して地域課題の解決に取り組んでいます。これらのセクターをつなげて、この「まち」がより豊かになるように一緒に活動していくことを推進するのがプラッツの役割です。そのコーディネートをしていくのが主な仕事です。
——在学中に世界中を飛び周ってこられた関谷さんですが、なぜあえて地元での勤務を選択されたのでしょうか。
世界一周の旅中にさまざまな地域を歩くなかで感じたのは、「まち」というのは一人ひとりが豊かに生活しようと思い、行動をした先に存在するのだということ。そこから「まち」って面白いな、と思うようになりました。それでは自分が今いる「まち」はどういう風につくられているのだろうと思うようになり、自分も文化や「まち」をつくる主体になりたいと思いました。その頃ちょうど良いタイミングで東京農工大学の「まちけん」というサークルの学生たちと交流する機会があり、府中の「まち」で一緒に活動していきませんか、と誘われました。私も興味があったので一緒に活動を始め、「Youth Action for Fuchu」というプロジェクトが立ち上がりました。その後、活動していくなかで、新設される「プラッツ」がスタッフを募集しているという話があり、応募しました。
——いろいろとつながっていったのですね。関谷さんはプラッツでのお仕事の他にもさまざまなプロジェクトに携わっていますね。
そうですね。一つはYouth Action for Fuchuのメンバーとして企画・運営に携わっています。例えば、一般社団法人まちづくり府中と府中駅南口の商業施設と協働で行う大規模イベント「FUCHU WORLD FESTIVAL」では、本学のいくつかの学生団体にも公演してもらい、市民の皆さんに世界の日常とのつながりを体感していただいています。
——私も以前ベリーダンス部としてFUCHU WORLD FESTIVALで公演したことがあります。関谷さんの団体が企画・運営されていたのですね。
そうですね。このフェスティバルは大学と「まち」を繋いでできる一つの形で、「府中が世界とつながる日」をコンセプトに毎年実施しています。今まで2018年の3月、2019年3月・9月に行い、徐々にイベントがまちになじんできたように思います。このイベントに込めた一番の願いは、世界というのはテレビで見る非日常ではなく、私たちの日常の先にあるものなんだということが多くの人に伝わっていくこと。私たちの生活はどうしようもなく世界とつながっていて、普段は見えづらいそんなつながりに日常の中で出会えるイベントにしたいという思いで行っています。
「日常」というのは私のなかで大きなコンセプトで、それこそ世界を旅している間も「日常」をずっと見てきたと思います。観光地に行くというよりも、その地域の日常の中でどうやって人々は生きているのだろう、どういう考え方をして仕事をしたり活動したりしているのだろう、そしてどういうものを幸せに思っているのだろう、というものを見てまわっていました。勉強や仕事も日常の先にあるもの。そんな普段の生活がより豊かになるように活動をしています。私はこれを勝手に「日常至上主義」と呼んでいます(笑)。
——この2月に府中市内にオープンした中高生の学びの場「Co-study space “Posse”(ポッセ)」の設立にも携わっていますね。このプロジェクトについて、どういう目的や願いがあってつくられたのですか?
毎週月曜日にプラッツで勉強カフェという企画を行っていて、これは小中高生が大学生と一緒に勉強する企画なのですが、ここで中高生と話していてよく耳にしたのが、「行く場所がない」ということでした。小学生まではある程度行く場所があると思いますが、中高生になった途端に地域での居場所がほとんどなくなってしまうということでした。勉強をする場所もないし、公園なども遅くまではいられない。それだったら中学生や高校生が集まり、勉強ややりたいことができる場所をつくろう、ということで始まりました。このプロジェクトには、高校生や地元大学生・農工大・東京外大生などが主なメンバーとして関わっています。
——Posseという場所ができて、中高生の反応はどうでしょうか?
クラウドファンディングで寄付を集め、空き家をDIYでリノベーションしていったこともあり、手作り感のある空間になりました。そのため、来てくれた子たちも、初めからつくられた場所というよりも、自分たちでつくっていく場所として捉えてくれていると感じます。反応を見ていると、学校と家以外に話せる人ができて、「ここにいてよいんだ」と思える場所があるというのはすごく安心できるのだろうな、と思いました。普段まわりの人にはあまり話せない愚痴も、話を聞いてくれる地域のお兄ちゃん・姉ちゃんであれば話せるのではないでしょうか。そういう関係性も必要があるように思います。ここも、中高生にとってのサードプレイスになればと思っています。
「まち」こそ多様性の宝庫
——在学生に向けてメッセージをいただけますか?
周りに流されず、自分はどのような人間で、何がやりたいのか、自分で知ろうとすることが大切だと思います。例えば自分がどのような学び方をするのか、どういう考え方をするのか、どんなことに興味があるのか、という自分の特性を知る。その延長に自分の特性にあてはまる仕事があるだろうし、なければ自分でつくることもできるでしょう。
私にとって、自分を顧みる機会は旅の中でした。いつもいるコミュニティから離れて、一人で知らないまちを歩き、全責任を自分に負って行動する。その中で自らと対話し、少しずつ自分の人間像を知っていきました。もちろんそれも毎日変化していきますが、今自分がどんなことを考えているのかを自分が知っているということはとても大切だと思います。
——「まち」やコーディネーターの仕事に興味がある学生に向けて、アドバイスはありますか。
まずは一つ「接点」を作ることから始めてみてもらえればと思います。興味があることにつながる接点が必ずどこかにあるので、臆せずそこに向かって足を踏み出してほしいなと思います。一度足を踏み入れたら、そこから先はびっくりするほど一気にコミュニティは広がっていきますので(笑)。世界一周の旅に出るときも、まずは友達に話して、その後外語会プラザを訪れて、、、とやっていたら一気に世界中の東京外大生のコミュニティが広がっていきました。まちで活動するときも同じですね。まずはどこか接点を探してみてください。
その先にコーディネーターの仕事があります。コーディネーターというのは、社会をつくっているさまざまな主体をつなぎ合わせる大事な役割。みんなが持っているスキルや考え方、個性を画一的なものに当てはめるのではなく、それらをうまくつなぎ合わせていくことで新しい価値や社会に必要なものを生み出していきます。そこで必要なのは、目の前の相手のバックグラウンドを知ろうとすること。これは多くの東京外大生が得意とすることなのではないでしょうか。東京外大の中にいるとあまり気づかないかもしれないですが、そういった力を必要としているところはたくさんありますので、ぜひそんな場を探してみてください。
——一人ひとりが「まち」そして「社会」とつながりを持つということですね。
「まち」こそ、多様性の宝庫だと思います。むしろ多様でないとまちは回っていきません。今ある社会に合わせることで個性が埋没してしまうのではなく、一人ひとりが個性を発揮して「まち」をつくり社会をつくっていくことが、多文化共生にも通じます。そのようにして豊かに生きられる社会を作っていけたらと思っています。
——今の社会を生きる私たちにとって、人と人、人と「まち」、そして多文化共生の意味を考えさせられました。ありがとうございました。