2023年2月10日

夕刊文化の終焉か

以前に拙ブログで何度かご紹介したこともあるが、当方の高校時代の恩師、K先生は樺太のご出身で、樺太論の著書もある。そんな先生が樺太連盟で『樺連情報』の編集をされていた時代に継続して作っていたメモ書きが、『樺太覚書』としてオンラインと冊子体で公開されたのが、昨年である。https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/87292
それを見たM新聞の記者さんが先ごろ、先生にインタヴューを行い(かつての教え子メンバー2名で立ち合い、多少ご協力をさせていただいた)、夕刊にコラムを書いてくださった(2/6)。
ところが、である。第一に掲載日の夕方、弟子たちはそれぞれ近隣のコンビニや駅の売店へと買いに走ったものの、昨今「夕刊」というものは、M新聞だけでなくそもそも置かれていないことが判明したのである。まあ、朝刊もそうかもしれないが、夕刊はもっと売れないのだろう。コンビニや駅の売店に毎日何部かを配達して置き直してもらうだけの労力にペイしなければ、商品の棚から消失するのは当然である。各紙、比較的落ち着いて読める面白い読み物が載っているという夕刊文化の時代は、とうに過ぎていたのかもしれない。
 さらにいえば、わずかな協力の謝礼?として掲載紙2部をお送りいただいたとのことだったが、それがようやく職場の郵便受けに到着したのを発見したのは本日、なんと4日を経過してからのことであった。これまた昨今、郵送で手紙や資料を送る人は激減してきており、郵便の集配の曜日や回数も減少の一途であったのだ。手紙とメール、もらって嬉しいのはどちらかと問えば答えは前者とたやすくこたえられるが、これまた大いなる時代遅れなのかもしれない。いずれもわかっていたことながら、このたびあらためて現実に直面し、状況の厳しさを痛感した次第である。

2023年2月 5日

過ぎ去った寒中の頃

昨日は立春大吉、暦の上ではもう春である。たしかに日射しがなんとなく春めいてきている。とはいえまだまだ寒さは続くだろう。寒中の一月は例年、年明けの授業再開から卒論提出と試問、学期末の試験、レポート、成績評価、来年度の授業計画、修士論文(や博士論文)の最終試験、各種入試やその判定、と教員にはめまぐるしい季節である。とはいえ、そこに学生や院生の一人ひとりの大切な節目や旅立ち、次なる人生が絡んでいる、というか人生そのものであることを忘れずにいたいと思う。
そんなとある日、卒業生のS星が連絡をくれた。久しぶりに大学付近で仕事があるという。しかしそんな日に限って当方は学外の用事で都心に出なければならなかった。当方が大学に戻ってオンライン会議の始まるまでの時間はわずか20分。それでも久しぶりに顔を見て近況を聞けたのはよかった(お茶も出しませんでー)。かれは拙ゼミの合宿でも一度ならずお世話になった某所に就職し、しっかり活躍している shusei20230118.PDF

在学中はゼミ幹として、大いにがんばってくれたことを懐かしく思い出す。すっかり立派になった様子が感慨深かった。立ち寄ってくれてありがとう!
思えばかれらの卒論の年は、コロナ禍で大学も図書館もすべて閉鎖となり、研究を進めるのが本当に大変だった。今はずいぶんよくなったとはいえ、まだまだコロナの影響は続いている。今年度も残り2ヵ月を切ったが、卒論発表会その他のゼミ行事を何とか無事に乗り切っていきたい。

(ちなみに今年の卒論提出時はこんな感じ:ええ、密ですね。大丈夫、換気してました!)
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2023年1月 5日

2023年、明けました!

2023年、無事に新しい年となりました。今年もどうぞよろしくお願いいたしますー。
さて、新春オペラ・バレエ・ガラをウクライナ国立歌劇場管弦楽団と合唱団、バレエ団が公演とのことで、「応援しよう!」と3日の夕方に有楽町へ観に行ってきた。が、そのくらいの気持ちでは軽すぎたことがよくわかった。それはなんとも特異なコンサートであった。
第一部は名曲アリアと合唱だったが、ウクライナ国歌に始まり、ベートーヴェンの交響曲第9番第4楽章で締め括られた。真剣な面持ちの指揮者とオケが奏でる音にのせて、50人もの人びとが生身でそこに立ち、どこか重さを漂わせた表情で「歓喜」やさまざまな人生の風景を歌う。そこには、想像をはるかに超える迫力と切実さがあった。第二部のバレエは華やかで美しかったが、その後のカーテンコールになったときのダンサーたちの表情の変化に、気づかないわけにはいかなかった。思いは歌い手の人びとと同じであったのだ。彼らは戦時の母国から束の間離れ、仕事をしに日本へ来ているのだ。仕事が終われば帰国し、ふたたび戦時の日常へと戻るだけである。国際政治には複雑な様相がいろいろあるが、突然に平穏な日々を奪われた彼ら、彼女らには何の罪もない。観客の多くがスタンディングオベーションで長いこと声援を送った。それは舞台に対してと同時に、彼らが生きる闘いに対する声援であり、連帯であった。会場は一体感と熱気に包まれ、拍手はなかなか鳴りやまなかった。
 昨年2月以来の「ロシアによるウクライナ侵攻は」という日々の報道にどこか耳慣れして想像力が鈍磨していたが、一気に世界のリアリティに引き戻された時間であった。

そしてこれまた偶然なのだが、これも戦争関連で、早く観たいと思っていた『ラーゲリより愛を込めて』をようやく調布で観てきた。まだ松の内で映画でもということか、ギリギリに駆け込んだ会場は残席2席ほど、一番前の首の痛くなる席だったが、その分大迫力であった(笑)。今どきの人気俳優も含め錚々たる配役、見応えのあるつくりで、辺見じゅんの名著『ラーゲリ(収容所)から来た遺書』が現代のスクリーンに甦っていた。なんども落涙。ぜひ多くの人びとに観てほしい一作である(当方が頼まなくても、たぶんすでにそのようだが)。
実は、少し前の拙ブログにも書いたとおり、この主人公の山本幡男氏が外大の卒業生である。2020年のちょうどコロナ禍にはいる直前、「外大生と戦争」というプロジェクトへの協力を依頼された際に、この本を教えられて読んだ。名著で何度か映像化もされたというが、当時は本の入手にも少し手間取るほどであった。しかし今回の映画化で、あらためてこの本を手に取る人も多いだろう。さらにご長男の山本顕一氏の『寒い国のラーゲリで父は死んだ』(バジリコ、2022年)も刊行され、また別の側面からとらえる視角が豊富に示されている。上記の「外大生と戦争」が再企画される2023年、じっくりと考えていきたい。

2022年11月27日

とても楽しかったお仕事ひとつ

昨日26日(土)はT光学園というところに呼んでいただいて、中高生(中学1年生から高校3年生)を相手に講義をさせていただいてきた。テーマはずっと以前(9~10ヵ月前ぐらい)に「お金が消える?貨幣の成り立ちと最近の事情」と決めて、そのままとさせていただいた。日頃、今どきの中高生と会うことはほとんどなく、どんなかなあと考えつつ準備をして臨んだが、なんとびっくりするほどたくさんの生徒さんが参加してくれて、内容への食いつきもバッチリで、たいへん楽しく終えることができた。みなさん、ありがとう!!先生方は事前から当日、事後までとても丁寧にフォローして下さり、ひたすら恐縮するばかりであった。ありがとうございました!!
それにしてもどうしてそんなにたくさんの生徒さんが来たのだろう?と思い、コメントシートに書いてもらって読んでみたら、これがまた楽しい。「お金が消えちゃうとコワいと思って、参加しました」、「お金が大好きだから」「自分は最近、お金の使い方がダメなので」(あははは)、「お金が消えるのは、使ってしまうという意味なのか、お金自体がなくなるという意味なのか、それとももっと別の意味なのか、知りたくて参加しました」、うーん、すごい、いろんな生徒さんがポイントをすでにしっかりつかんでいる!それと、「いくらお金を持っていますか」の質問には、0円(あるいは「0円になる予定」)からウン十万円までのバラエティがあって、これもビックリ。講義の後の質問もたくさんもらえて、どれもポイントを突いた質問だったので、大いに内容を補足することができた(クナップの宣伝までしてしまった。てへ)。大学の授業とはまた違って、「学校」の雰囲気もなんだか懐かしく、大いに刺激と元気をいただきました!
この講義はいろいろな大学教員による連続講義の一つで、一年分の記録をまとめて毎年本にしているという。御依頼をいただいた校長先生のアイディアでもう数十年も続けているとのことだが、まことに見事な企画である。他の先生方がどんなお話しをしているのかも、とても気になる(笑)。

2022年11月15日

しょええ、もとい書影...

またまたクナップの訳本の話で恐縮であるが、すでに見本ができ、今週土曜日19日には店頭に並ぶとのこと。うおお!編集Hさんから書影もいただいた。これです!Knapp1905JapCover1.jpg

というわけでとても綺麗な(というか派手な)表紙です!(帯のコピーも派手だし...。編集Hさんに多謝)書店にてぜひお手に取ってみてくださいませ~。

2022年11月 9日

皆既月食の晩に

11月も一週間を過ぎ、3年ゼミ生はゼミ論、4年ゼミ生は卒論の準備にピリピリした空気が流れる季節に入った。昨日そんなゼミの後、ゼミ生たちがサプライズで拙誕生日を祝ってくれた。じーん。ありがとうございますー。
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ケーキとお茶が一段落したところで、ちょうど皆既月食が始まるぐらいの時間になり、みんなで5階の某所に出て、月が欠けていくところを見ることができました。かなり寒かったけれど綺麗でしたね!!みなさん、どうもありがとうございますー。

2022年10月30日

いよいよ!(今度こそほんとに)

たしかこの前(一ヵ月以上前?)拙ブログを書いたときには、しかかり中の翻訳プロジェクトが「いよいよ終盤」みたいな気持ちで索引作業をしていることを書いたのだが、その後も意外と細かい作業や表紙(これはむしろ楽しいものであったが)など仕事が続いて手間取り、終わりが見えない状態でいた。そんな折に友人S氏から「こんなん出てるよ」と連絡をもらった。
https://www.amazon.co.jp/%E8%B2%A8%E5%B9%A3%E3%81%AE%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E7%90%86%E8%AB%96-%E3%82%B2%E3%82%AA%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%92%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%8A%E3%83%83%E3%83%97/dp/4296115421

うおおおあああ!たかが広告、されど広告、リアリティ増すこと限りなし!で、さっそく第一訳者のK先生にも連絡し、残り作業のテンションの針が一挙に振れた。びよーーーーん。それで、ほんとにいよいよ出ます。お読みいただいて損はおかけしません。大おススメです。拙ブログを読んでくださるみなさまにも、どうか店頭にてお手に取ってご覧いただきたく、よろしくお願いいたしますー。
てか、今あらためて見てびっくりするのだが、まだ発売前なのにいきなりもう本の売れ筋ランキングがついている。どゆこと?まあ、前宣伝が上々ということか。昔、歌番組の「ベストテン」が好きだった者としては、こういうのは心が湧きたつが、上がるものはいつか下がるので、なんだかコワい。まあ地味な本なので、じわーっと長く読まれれば十分なのだが。

2022年9月19日

夏の終わりに

目下、巨大な台風が襲来しつつあるときに「夏の終わり」というのもナンだが、さすがに残暑もそろそろ終わるだろう。拙ブログを読んでくださっているみなさまには、どんな夏だっただろうか。
当方にはここ数年来しかかっていた古典(G.F.クナップの貨幣論)の翻訳がようやく終盤に差し掛かり、その関連で名古屋や岡山に出張した。名古屋は貨幣ミュージアムで古い外貨の資料調査をさせてもらい、その後2019年以来3年ぶりに飛騨高山を研究仲間らと訪れて、三年前に知った地域通貨のさるぼぼやエネポのことをより深く知った。岡山は岡山商科大学の図書館にこもり、短いながらも久しぶりのアーカイヴワークに勤しんだ。クナップの翻訳は立教大名誉教授のK先生を第一訳者にお願いし、2018年9月以来、4年というか足かけ5年というか、細く長く取り組んだ。途中からコロナ禍で、まあいろいろあったが、何とか年内刊行を目指して、あと一息!この連休は索引作業をやっている(これが意外と時間がかかる)。

この夏はもう一つ、能登の七尾に住む友人を訪ねつつ、友人数名で金沢~七尾へと旅行に行ってきた。純粋に「休暇」でこういう旅行をするのはいつ以来だろう?(何なら院生時代以来かも?)ひとつの目当ては無名塾の公演「いのちぼうにふろう物語」であった。ちょっと変なタイトルだが、山本周五郎の作品を原作にした時代劇とのことで、お上は金と陰謀にまみれて存続し、地べたに生きる者たちがトカゲのしっぽを切られるように「いのちをぼうにふる」構造が、現代をも突く。89歳の仲代達矢さんは衰えを感じさせない素晴らしい演技で魅了し、現地の地形を活かして後ろへ開かれる構造の演劇堂は雄大で素晴らしかった。それに友人たちとたくさんしゃべって飲んで食べて寝て、ああ、身体がほぐれたー。能登は魚が美味しいのはもちろんだが、稲作もずいぶん盛んでコメがとても美味しい!という発見もあり、至福の夏休みであった。

2022年8月30日

バルファキス繋がり(たまたま)

ただいま絶賛発売中の『週刊東洋経済』(2022年9月3日号)に、書評を載せていただいている。対象書籍はロバート・スキデルスキー『経済学のどこが問題なのか』である。スキデルスキーといえばケインズ研究の大御所で、ケインズ経済学にそれほど詳しくない当方が書評をするのもどーなんだろうと心配になったが、せっかくお声掛けいただいたので、恐縮しつつもやらせていただくことにしたのだった。

さて、同書を読み準備を進めていた時に、結構重要な部分でヤニス・バルファキスへの言及のあることがわかった。いうまでもなく例の25分de名著のテキスト『父が娘に...』の著者である。スキデルスキーを含めイギリスやヨーロッパの経済学者にとって、2008年の金融危機と連動したギリシャ危機がどれだけ重要な意味を持っていたのか、あらためて実感する。そんなわけで、拙書評にもその論点を盛り込んでみたところ、ご担当T様がこれをくんでくださり、相談と改稿が進む中でその部分をさらに大きくフォーカスしていただいた。ポイントは、バルファキスが財務大臣時代の経験を書いた著書『黒い匣』に明らかである。この本、現実のことながら小説のように(?)めっぽう面白い。2019年に映画化もされたのだが、日本で公開されることはないのかどうか...。観たいなあ...。実名ががんがん出るからヤバすぎるのか?(いや書籍にだって出ているのだから)

校了までのやりとりで、ご担当のTさんはこの仕事を最後にご定年とのことがわかった。最後の仕事に、当方なんぞを選んでくださり、ありがとうございます。じーん この御恩はいつかきっと...(いや、返すのは容易ではない)。

2022年8月17日

番組終わる

たまたま「お盆」の時期に、例の25分de名著の番組放映があった。編集後の仕上がりは初めてみるので、何とも居心地悪く実家で観たが、その後や翌日には友人や知り合いの方々から「観たよ!」のご連絡をいただき、旧交を温めたりして嬉しかった。総じて「短かった」、「もう少しゆっくり聞きたかった」とのご意見が多く、たしかに論点のてんこ盛りで、一度さっと観ただけではつかみにくかったかもしれない。すみません。しかしティーンズの望結ちゃんや司会の加藤くん(もちろん安部アナも)、朗読のみなさんはさすがのプロの仕事で、なんというか手慣れていた。当方も「落ち着いていた」とのコメントをいただいたが、自分で観てみると、緊張のあまりキューピー人形の眉毛(?)のような表情になっていて、二度は見たくないシロモノであった。しかしまあ、やれやれ、とにかく無事に終わった。めでたしめでたし(なんのこっちゃ)。

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