研究の要旨 of EUおよび日本の高等教育における外国語教育政策と言語能力評価システムの総合的研究


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要旨

1. 研究の学術的背景

 本研究に参加する研究者は中等教育・高等教育において外国語教育に従事している者であり、教育の現場から日本の外国語教育の改善の必要性を痛感している。現在多くの大学では年々財源などの教育リソースの厳しくなる一方で、特に第2外国語、第3外国語に関わる教育方法の改良とカリキュラム整備など制度改革に尽力している。しかしながら、地球規模での国際化が急速に進むなかで日本の外国語教育政策の見直しと改善への取り組みが必要である。

 他方、ヨーロッパ連合(以下、EU)では、2010年に第1期の完成年度を迎える高等教育の再編計画「ボローニャ・プロセス」が教育改革の施策として推進され、これまでの各国・各大学等の伝統の制約を超えて、EUの知的伝承・再生産を担う高等教育が急速かつ質的に変容しつつある。とりわけ、エラスムス計画による学生のモビリティーガ高まる中、外国語教育の改善は不可避的な課題であり、言語能力評価の透明性と共通性を掲げた「ヨーロッパ共通参照枠組み」(Common European Framework of Reference for Languages、以下CEFR)の設定と実践は、実社会のニーズとともに、EUの中等・高等教育にとっても、さらに言語・文化的多様性の中での統合というEUの理念にとっても成否の核心といえる。現実には、多言語・多文化社会であるEUの理念的基盤である複数言語主義と実際上の英語優先的施策という矛盾と乖離は深刻である。

 すでに研究代表者(富盛伸夫)は1990年代から本課題にかかわる新たな外国語教育改革のための研究グループを組織し、東京外国語大学学内共同利用施設である「語学研究所」でそのための研究活動を開始した。平行して、他教育研究機関との連携を深めるために、会長職にあった2004年以来「外国語教育学会」の内に言語教育政策に関わる研究活動を推進し、本研究に関連する2度のシンポジウムを開催した。

 上記の準備的活動をふまえ、2006年度より3年間にわたり、文部科学省科学研究費補助金課題「拡大EU諸国における外国語教育政策とその実効性に関する総合的研究」を組織・推進し、13名の共同研究者・研究協力者が対象国における聞き取り調査に基づく言語教育政策とCEFRの実践・実効性の調査を行っている。その成果はすでに12回の研究集会で発表し報告書を現在編集中である。

 本研究は、東京外国語大学が提唱し2007年に結成した「アジア・アフリカ研究教育コンソーシアム」(CAAS)の枠組みを利用し、イギリス・ロンドン大学SOAS、フランス・国立東洋言語文化学院INALCO、オランダ・ライデン大学等との国際的研究連携を組織して協力支援をえるとともに共同研究が可能となり、本研究課題の遂行に活用してゆくことができる。(下記参照)
いえる。EUの言語教育政策の検証は、通言語間の共通性と透明性を高めるための重要な参照例として、日本の外国語教育の改革に明確な指針を与えるであろう。

 上記科研課題研究でEUでのCEFRの実効性の調査を行った結果、複数言語主義の理念と高等教育機関での実践とのギャップについては多くの国で観察され問題点が多く確認できた。本研究の高等教育機関での言語教育政策の比較と問題点の検証は、通言語間の共通性と透明性を高めるための重要な参照例として、日本の外国語能力検定試験の改善と教育システムの改革に寄与する意義を持つ。


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