平成21年度 of EUおよび日本の高等教育における外国語教育政策と言語能力評価システムの総合的研究


研究計画・方法

平成21年度

研究計画について

 平成21年度は本課題研究の遂行には、緊急度・重要度を考慮して、以下の優先順で企画し実施する。下記のように、対応する研究班を組織する。

(1) EU諸国の高等教育機関における外国語教育制度の変革の動向調査と情報収集:(A班)

 計画全体の基礎的作業として、現在EUで進められているボローニャ・プロセスに実施に伴う大学等の言語教育制度改革の最新の取り組み状況を調査する。文部科学省や国際交流基金が集計したEUの言語教育制度調査は2000年以前のデータに依っているために信頼性が低い。また、旧大阪外国語大学(現大阪大学)の文部科学省採択の「平成17年度海外先進教育実践支援プロジェクト」による「国際標準・言語教育到達度評価制度の構築」は優れた調査と実践の成果をあげているが、EU諸国を広くわたる情報収集に至らず、また、CEFRに準拠する方向性を強く持っているために、CEFR基準の高等教育機関への適用について、批判的検証が薄いといえる。
 本研究では、EUのエラスムス計画・エラスムスムンドゥス計画による学生のモビリティが高まりつつある現在、受け入れ大学における外国語としての言語教育制度(カリキュラム・教材を含む)のきめの細かな現地調査を行う。特に、ボローニャ・プロセスとの整合性からくる外国語教育の変革を、ブリュッセルのEU委員会(富盛伸夫、および研究協力者川村三喜男東京外国語大学非常勤講師担当)のほか、上記国際連携研究の枠組みCAAS参加大学であるロンドン大学SOAS(根岸雅史担当)、ライデン大学文学部(研究協力者川村三喜男担当)、フランス国立東洋言語文化学院INALCO(富盛伸夫担当)、およびカナダ等の複数言語併用大学(矢頭典枝担当)等で調査する。この調査結果を、研究集会や国内外の学会で成果発表を行い共有する。

(2) EU諸国における第1外国語教育・第2外国語の能力評価基準と測定方法に関する最新動向調査:(B班)

 EUの標榜する複数言語主義の原則とは逆の方向が、高等教育機関での教育・研究の現場では通用している。ボローニャ・プロセスが徹底すればするほど、非英語圏でもBachelor-Master体制の導入により授業での使用言語としての英語が第1言語の地位を多くの加盟国で占める傾向が強まっている。この研究計画では、上記国際連携研究CAAS参加大学およびカナダ他の大学での現地調査により、Webや二次資料の情報では得られない信頼度の高い情報が入手できる。(ロンドン大学SOAS根岸雅史担当、ライデン大学文学部川村三喜男担当、フランス国立東洋言語文化学院INALCO富盛伸夫担当、およびカナダ等の複数言語併用大学矢頭典枝担当)

 この計画には、高等教育機関での外国語教育制度立案者や言語教育従事者(教師等)に対する聞き取り調査を含む。これをふまえ、次年度の研究準備が可能となる。

(3) 日本の外国語能力検定試験の到達度評価基準に関する通言語的共通性と透明性の検証:(C班)

英語(浦田和幸担当)、フランス語(富盛伸夫担当)、ドイツ語(成田節担当)、スペイン語(川上茂信担当)、ポルトガル語(黒澤直俊担当)、イタリア語(山本真司担当)、ロシア語(中澤英彦担当)の国内の外国語能力検定試験について、過去の問題をデータベース化し具体的かつ網羅的に検証し、級別到達度評価の根拠、音声・文法・語彙項目ごとの学習進度との連関、通言語的共通性と透明性、中等・高等教育機関での単位認定・教材・学習への活用実態などについて、研究班を組織して調査し、問題点を洗い出す。この結果を、次年度の計画への基礎資料とする。研究会や国内外の学会で成果発表を行う。

(4) 日本の外国語能力検定試験と海外の言語能力評価システムとの対照研究:(D班)

 EUのCEFRに準拠したオンライン言語能力自己評価システム(DIALANG)を活用し、CEFRの達成度評価基準と、EU諸国で実施されている語学能力試験(英語ではTOFLEとTOEIC、フランス語ではDEL-DALF、ドイツ語ではGoethe Institut、等)における評価基準の具体的対応の研究を行う。(根岸雅史、富盛伸夫、成田節、川上茂信、黒澤直俊、山本真司、中澤英彦、担当)その上で、日本で実施されている外国語能力検定試験における評価基準との対照研究を試みる。東京外国語大学21世紀COEで開発した、「TUFS言語モジュール」の通言語的能力評価方法を活用する。(川口裕司担当)

研究方法について

(1) 上記研究計画に対応した4つの研究班を組織し、各分担者はより関係の深い研究領域において、計画遂行に向けて協同する。詳細は【研究体制】を参照。

(2) 基礎的現地調査の実施(必要に応じて研究協力者に依頼する):
 上記研究計画に沿って、EU委員会および関係諸国の大学等に研究分担者を派遣し、ボローニャ・プロセスと高等教育機関の言語教育政策の改革に関する情報収集と臨地聴き取り調査を行う。
 平成21年度は、ブリュッセルのEU委員会(富盛伸夫、および研究協力者川村三喜男)、SOAS(根岸雅史)、ライデン大学文学部(研究協力者川村三喜男)、フランス国立東洋言語文化学院INALCO(富盛伸夫)、およびカナダ等の複数言語併用大学(矢頭典枝)での現地調査を計画している。この調査結果を、研究集会や国内外の学会で成果発表を行い共有する。
 万一、分担者の事情等により調査派遣の計画に変更がある場合には、全員の合意のもとで、調査対象の大学等を変更する。しかし、計画全体に延滞をきたさないように配慮する。

(3) 外国語能力評価方法と国内の外国語能力検定試験の単位認定・授業等への活用について、国内の国立大学法人、私立大学等に分担者・協力者を派遣し、聞き取り調査を行う。現地調査が不可能であった機関には通信アンケート調査を行う。(根岸雅史、浦田和幸、富盛伸夫、成田節、川上茂信、黒澤直俊、山本真司、中澤英彦、川口裕司、および研究協力者山崎吉朗)
・EUの言語政策・言語教育政策・能力評価方法などの関連分野で研究する国内の研究者に研究集会参加を呼びかけて研究の連携をはかる。共同研究の企画を検討する。

(4) 国際研究連携組織 CAAS の参加大学を中心に、国際研究集会の企画・準備を始める。(富盛伸夫、川口裕司、根岸雅史担当)