2023年度 活動日誌

1月 活動日誌

2024年1月31日
GJOコーディネーター 原 真咲

【「戦争」をなんと呼ぶか】

2022年2月にロシアが全面的な武力侵攻を開始してからもうすぐ3年目を迎えます。さて、この事件はなんと呼ばれているでしょうか。これは使用する用語の定義の問題でもあるのでそれほど単純ではないように思いますが、例えば、国際法上の「戦争」は宣戦布告がなされたうえでの戦闘状態を指すので、この布告がないまま侵攻が始まったり、その後も交戦国が互いに宣戦布告をしないまま戦闘状態が続いたりすると、国際法上は「戦争」ではないということになるのかもしれません。日本では昔はこういう状態を指して「事変」という用語がありましたが、最近は使わないようです。この用語には、意図的に「戦争」であることを隠そうという情報操作という側面があるのでしょうか。
一方、軍事的観点からは大規模な戦闘が行われている状態を「戦争」と呼ぶようです。この意味では、2022年からのロシアによる侵攻は規模から言って「戦争」と呼べるでしょう。また、2014年から継続して「戦争」状態であると呼んでも誤解はないでしょう。
さて、今月はこの問題に関して、ロイター通信のスキャンダルがありました。ウクライナ側の批判によると、ロイターは「戦争」と呼ぶべきところ、「ウクライナ危機」(Ukraine Crisis)と書いたということです。その横には「Israel and Hamas at War」という記載があり、なるほど欧米ではやはりユダヤ人が絡んでくると問題は特別なのだなと邪推したくなります(この邪推はウクライナのではなく、今この原稿を書いている人間のです)。ウクライナの報道局「ウクライナの真実」社からの指摘により、ロイターは記載を「Ukraine and Russia at War」に改めたとのことです。この原稿を書いている時点でもそうなっています。
「ウクライナ危機」という表現は、日本のメディアでもときどき見かけるように思いますが、どんな問題があるのでしょう? 「ウクライナの真実」社は次のように説明しています。

「ウクライナ危機」という呼び方は、ロシアのプロパガンダが「戦争」という単語を避けるために使っている。このような方法で宣伝者たちはとりわけ状況の悲劇的度合いを軽く見せかけようとしてきた。また、「ウクライナ危機」という呼び方からは、まるでこれが本質的にウクライナの国内問題であり、ロシアとは無関係であるかのような印象が生み出される。
ロシア以外で、ウクライナにおける戦争を公共の弁論の中で「危機」と呼んでいるのは、中国である。

ところで、二つ目の問題点は、日本でときどき見かける「ウクライナ戦争」という呼び方にも通ずるものであると言えるでしょう。侵略国の名称が現れずに侵略された国の名前だけ冠されるのは奇妙であり、どんな意図でそう呼ぶのか、不思議に思われます。どちらかといえば、ロシアが始めた「ロシア戦争」でしょう(「ナポレオン戦争」の例に従えば)。尤も、世界の歴史を見てみると、侵略国の名前だけが名称に現れる戦争は少なく、侵略された側の名称だけ冠される戦争というのはしばしばあるような気もしますが。ともあれ、日本語の命名法を考えると、当事者二カ国の名称を関して「宇露戦争」か「露宇戦争」とするのが無難な気がします(最初に書いた問題で、これを「戦争」と呼んでよいかという点は別です)。ただ、これは歴史上何度もあった戦争なので「第何次」戦争なのか数えるのが大変そうです。

なお、日本の報道局のうち、NHKは通常「ロシアによるウクライナへの軍事侵攻」およびそれに類する表現(そこから多少省略した表現)を用いています。「ウクライナ情勢」という表現も用いていますが、ロシアが侵攻しているという表現とセットになるので、特に問題視はされないでしょう。NHKのウクライナ語ニュースでも「вторгнення Росії в Україну」(「ウクライナへのロシアの侵攻」)といった表現が用いられています。

  • Лозовенко Т. Reuters називав війну в Україні «кризою»: виправились. П’ятниця, 19 січня 2024, 11:53
    [https://www.pravda.com.ua/news/2024/01/19/7437974/](以下、リンクは日誌日付時点で有効).

【ウクライナの「世界」】

ウクライナのゼレンスキー大統領は、大統領令第17/2024号「ロシア連邦の歴史的ウクライナ人居住地域について」で、ロシア連邦に暮らすウクライナ人のアイデンティティーを保ち守るため、ウクライナと世界の専門家、識者、民間などに協力を求めるプラン作成を内閣に指示しました。
ウクライナとその周辺国の国境線は、時代によって大きく異なっています。現在のウクライナの国境線は歴史的に見て比較的広い範囲をカバーしていると思いますが、それでもなお「失われた領土」が存在します。とりわけ、1918年に当時のウクライナ国とロシア社会主義連邦ソヴィエト共和国とのあいだで定められた国境と比べると、現在の領土は大きくロシアおよびベラルーシに削られたものであることがわかります。なお、そのときはまだ西ウクライナはオーストリア帝国領でしたので、ここには入っていません。
ウクライナはこれまでも現在もこれらの失地の返還を要求していませんが、そこに住み続けているウクライナ系住民の権利と民族アイデンティティーの保証に言及するのが上記の大統領令です。そこに住むウクライナ系住民がその出自によって迫害されたり、権利を制限されたり、強制的な同化政策が取られたりしてきたことに鑑みてのことです。
上の大統領令では、今日ロシア連邦に併合されている地域のうち、ロシア連邦南部および西部地域の「クバーニ、スタロドゥーブ地方、北および東スロボーダ地方〔注:西と南はウクライナ領となっている〕」つまり現在の行政区分の「クラスノダール地方、ベールゴロド州、ブリャーンスク州、ヴォローネシュ州、クールスク州、ロストーフ州」を「ウクライナ人の歴史的居住地域」と名指しました。これは昔から研究者によってそう呼ばれていた地域なのですが、改めてこれらの地域名称を名指して強調することにより、ウクライナが失った領土が、それと比べれば今の戦争で目下占領されている地域がごく小さなものに見えるほど広大であったことをアピールし、国内向けのメッセージとするのみならず、ウクライナへ領土に関する譲歩を迫る国際世論への牽制も考えてのことでしょう。
それはともかく、「ウクライナ」といったときにどの地域を思い描けばよいのか、これらの「失われた領土」は「ウクライナ人の世界」を地理的に大きく押し広げるように思います。

  • УКАЗ ПРЕЗИДЕНТА УКРАЇНИ №17/2024 Про історично населені українцями території Російської Федерації. 22 січня 2024 р.
    [https://www.president.gov.ua/documents/172024-49513].

一方、世界は一つのものではないらしく、別の世界に生きている人たちもいます。ベラルーシ共和国のルカシェンコ大統領(ウクライナでは正当な手続きを踏んでいない「自称大統領」と書くのですが、ここではご本人の「自称」に従うことにします)は、今月催された第二次世界大戦のレニングラードの戦いに関するイベントのスピーチでこう述べました。「どこの国がこれほどの可能性をベラルーシのような国に与えることができただろうか、と思った。だって、我が国は広義のロシアのなかで、何も問題を目にしなかったのだから」。そして、「ウクライナが、バルト諸国が、我々と協力するのを妨げたのは何だったんだ? これぞ我々の世界であり、我々はそれを何十年もかけて築き上げたのであり、我々はともにこのひどい戦争〔二次大戦〕に勝ったのだ。この方向を進もうじゃないか。〔そう言ったらウクライナやバルト三国は答えた〕いいや、いやだね、海の向こうでよりよい生活を探すんだ」。
日本でもルカシェンコ氏と同じ世界に生きている人は結構いるように思いますが、ともかく、真実の世界は一つなのか、複数の世界があって結ばれることなくそれぞれ並行しているのか、それともそのバラバラの無統一な諸世界をも包み込む大きな世界が真の世界というものなのか、古いテーマですが、恐らく今日まで全員が納得する回答が出されていない問いに繋がる問題提起があるように思いました。

  • УКАЗ ПРЕЗИДЕНТА УКРАЇНИ №17/2024 Про історично населені українцями території Російської Федерації. 22 січня 2024 р.
    [https://www.president.gov.ua/documents/172024-49513].

12月 活動日誌

2023年12月31日
GJOコーディネーター 原 真咲

【ウクライナ国立科学アカデミー物理学研究所上級研究員のインタビュー(引用)】

ウクライナの報道局「ウクライナの真実」社が、ウクライナ国立科学アカデミー物理学研究所のアントーン・セネーンコ上級研究員へのインタビューを掲載しました。セネーンコ氏は、物理数学者として研究に従事する一方、戦場となる町から住民を逃したり、軍へ必要物資(自動車など)を届けたりするボランティアとして活動してきました。今回は、報道局のインタビュー記事から、「戦時下の学問」に関する箇所を中心に引用してみたいと思います。

外国から買わないで自前の戦闘機や戦車、核兵器を作ればいいじゃないか、という声がときどきあるそうですが、そうしたものの開発には長い年月の学術的研究が必要であり、その蓄積のないウクライナには現時点では不可能であると言えます。

これに対してインタビュアー(ソフィーヤ・セレダー記者)の問い。「ロシアの科学は今日どれほどロシア軍を強化しているのでしょうか?」

「非常に強く。実際、これはずっと以前に始められていたのです。まだ《ゼロ》のうちにロシアは才能ある若き科学者たちのためのプログラムを多数、導入しました。例えば、何らかの研究所と契約を交わせばすぐに集合住宅の部屋の何らかの抵当権を得られるというわけです。ウクライナから、とりわけキーウから若者を、職を与えて直接モスクワへ引き抜いてきました。

今日、ロシアの科学はロシアの体制の基礎の一つとなっています。」

本日誌の筆者のコメント。これに対して、ウクライナ政府は有能な若者に十分な就職機会を与えてきたのでしょうか。今日まで奨学金の削減を進めてきました。ほとんど廃止を視野に入れているのではないかと思われています。現在、非常に多くの若者がウクライナ国外、主に欧米諸国で学んでいます。彼・彼女たちは戦後、(留学先の状況と比較した場合のウクライナ国内の就業・経済的観点から言って)ウクライナに戻ることができるでしょうか。

記者の問い。「科学や科学者には多くのステレオタイプがあります。どんなものが個人的に一番あなたの気に障りますか?」

「例えば、《学者といえば、みんな年寄りだ》というのがありますね。これは古典的なエイジズムです。実際には学者に年齢は関係ありません。肝腎なのは、新しい知識を考え出し、人類の宝物殿に運び入れることができるかどうかです。

他方で、ウクライナにおける科学振興予算のひどい有様のせいで若者が学問へ向かわない、という状況になっています。ですから、我が国では本当に大半が《年長の》人たちなのです。

二つ目の気に障るステレオタイプです。《君は学者なんだ! じゃあこれを実用化してくれなきゃあ!》もし基礎科学をやっているとか、何か記事やら論文やらを書いているとでも言おうものなら、面と向かってこう言われる。《ああ、つまり君は何もやってないんだね……。》」

記者の問い。「《なにゆえに科学に予算を割くべきなのか、もしそれがすぐに結果を出さないのならば?》という問いをどれほどよく聞くでしょう。」

「そうした問いは教育の欠如から生じるのです、実際技術はどのように発展して、新発見からその実用化まで、どれほど長い道のり通り抜けねばならないか、人々に説明がないときに。」

セネーンコ氏は「実用化」が比較的しやすい理工系の学者ですが、文系の学問についても質問を受けています。

記者の問い。「人文科学は戦争に勝つためにどう貢献できるでしょうか?」

「我が国では現在、熾烈な戦いが続いています。それはウクライナ人の知恵を、国民意識を、民族の自覚を巡るものであり、総じて《我々は誰か?》と《なにゆえ我々はロシアではないか?》という問いの答えを探す戦いです。

歴史学者、哲学者、文学者は、ウクライナ人に対して、彼らが誰であり、《ロシアの大いなる文化》という神話はどこから来たものなのか、はっきり示し、我々にもまた自分たちのものがあるのだということを証さなければなりません。

妻子を国外へ退避させていることについて質問を受けたセネーンコ氏は、次のように言葉(母語)の大切さを訴えます。

「ウクライナ語、それは君を祖国へ繋ぎ止めるものなのです、君が遠くへいたとしても。文学もです。今は本当に素晴らしい児童文学があるんですよ! 国は、この分野が決して衰退することのないよう注意を向けなければなりません。

もしも子供が良質のウクライナ語文学で育つのならば、ウクライナには未来があります。」

最後に、ジャーナリストの問い。「あなたは息子さんが学問に取り組むことを望みますか?」

「学問に興味を持つことは、まったくそのとおりです。それが、非常に目覚ましく発展しているからです。それは、大きな視野を授けてくれるでしょう。ですが、問題は、研究者が自分を養い得るか、です。そして、正直に言うと、ウクライナでの科学は、重たいパン〔手に入れるために非常に多くの苦労と努力が必要となる収穫物〕です。そして、私にはここで科学者がちゃんと生活できる将来が見えません。

本日誌筆者のコメント。ボランティアとしてウクライナ中を駆け回ってきた人物の意見として、ウクライナの学術分野に暗い展望を示しているのは、状況の深刻さを感じさせます。とりわけ、理工系の専門職は国外への引き抜きも多く、ウクライナ国内によい人材が残らない従来の状況も踏まえてのことでしょう。その状況は、今後も改善しないと見ているようです。

  • Середа С. Антон Сененко: Наука в Україні – важкий хліб. Я не бачу перспектив, що науковці зможуть тут достойно жити. 14 грудня 2023, 05:30
    [https://www.pravda.com.ua/articles/2023/12/14/7432955/].

11月 活動日誌

2023年11月30日
GJOコーディネーター 原 真咲

今月の出来事

ウクライナの首都キーウを代表する宗教施設である洞窟大修道院では、11月15日を以て(今日世界中で最も普通に使われているグレゴリオ暦に事実上一致する)修正ユリウス暦へ移行することになりました。

大修道院はキーウ府主教庁のウクライナ正教会と同じ暦を使用することになり、このことは、この施設および団体がモスクワ総主教庁から決別することを象徴するとも言えます。

ウクライナでは、ロシアの侵攻によって導入され継続している「戦争状態」と軍への「動員」が90日間、つまり2024年2月14日まで延期されました。

この数年、ウクライナでは共産主義や全体主義を称賛する地名や記念碑の撤去が進められておりますが、ロシアの植民地主義の象徴であるロシアに由来する地名や記念碑の撤去も進められてきました。今月はリヴィウでソ連軍の活躍を顕彰する三つの記念碑が撤去されました。第二次世界大戦では、リヴィウを含むウクライナ西部はソ連軍の侵攻を受け、占領中には多くの住民が迫害されました。ソ連と同じくこの地域を占領しようと思っていたドイツや、戦前に統治していたポーランド、ならびにウクライナの独立派を打ち破ってソ連がウクライナ西部の支配を固めた結果、この地域には占領者であるソ連軍を「解放軍」として表彰する記念碑が多く建てられました。これらの記念碑は常に地元住民には不人気だったのですが、撤去するとなると様々な手続きが必要なため、これまで多くの時間が費やされています。なお、撤去された記念碑はスクラップにはされず、ソ連の支配を紹介する博物館などに収容されています。

キーウでは、長年の懸案だったロシアの詩人アレクサンドル・プーシキンの記念碑と、ウクライナの独立運動に抵抗して戦ったウクライナ人の赤軍指揮官メィコーラ・シュチョールスの記念碑の撤去が決定し、前者は撤去されました。プーシキン像はベレーステャ大通りにあるイワーン・バフリャネィーイ記念公園にありましたが、この大通りも以前はソ連の対独戦争勝利を記念する勝鬨大通りと称しており、バフリャネィーイ記念公園の方はその名もプーシキン記念公園でした。第二次世界大戦ではウクライナの独立派が敗北し、ソ連が勝利したという側面があります。また、プーシキンの一部の作品がロシアの帝国主義を礼賛していること、少数民族弾圧を支持していることが問題視されています。そして、ウクライナ各地に建てられたプーシキンの記念碑や、彼の名前がつけられた地名は、多くの場合実際にはプーシキンには縁もゆかりもない場所だった、という問題も指摘されています。ロシアは、ウクライナを「ロシアっぽく」するために、ウクライナ各地にロシアに由来する地名をつけ、元の地名を抹消し、ロシア人やロシアへの協力者の銅像を建てました。問題はロシアの詩人を「ウクライナの詩人」でもあるかのように教えることであり、外国文学としてのプーシキンは、作品によって賛否はあるとしても(普通、神格化されない限り作家や詩人の作品には賛否があります)、相応の評価されていることは変わりありません。

文化の問題は難しいですが、例えば日本中にA国かC国かの「偉人」の銅像ばっかり立っている、などという状況を想像すれば、ウクライナのこれまでの状況は異様なものだったのかなと思います。政治的に建てられたものは政治的に撤去される宿命にあるのだろうと思いますが、今後も見てみたい人は、撤去された銅像は(スペースの問題や技術的問題がなければ)なんらかの施設に展示されている模様ですので、探してみるとよいでしょう。

10月 活動日誌

2023年10月31日
GJOコーディネーター 原 真咲

冬に向けて

ウクライナでは、その気候のためより多くの電力が必要とされるのは冬です。

温暖化によって夏が暑くなっているとウクライナでは毎年叫ばれていますが、今のところ住居の冷房の普及率は低いままに留まっています。そのため、夏の電力消費は比較的低い模様です。ちなみに、交通機関の冷房は基本的に設置されていないか、設置されていても「節約」されていることが多いです。市内公共交通で冷気に出会うことはないでしょう。

一方、冬には暖房や温水の提供のために多くの電力が必要とされる模様です。そこで、ロシア軍は発電所や変電所を中心に攻撃対象を選定しています。昨年はひどい被害が生じましたので、今年は電力施設にも防空システムを配備しようとしていますが、それでも100%の防衛は難しいでしょう。日本には優れた防衛体制が敷かれていると思いますが、こういう場合、完璧に防衛できるのでしょうか。

電力が必要とされるのは、暖房や温水だけではありません。まず、ソ連時代に数多く建てられたオール電化住宅です。電気がないと自宅でお湯も沸かせなくなります。ソ連は、深慮遠謀でこの日のために「世界の電化」をスローガンにしていたのですね。

電気がないとダメになるサービスには、当然、インターネットと電話があります。通信施設がダウンするので、携帯電話も通じなくなります。情報の遮断は、不便なだけでなく人々に大きな不安を巻き起こします。

国は、停電回避のために破壊された電力施設の復旧、新たな防空網の構築などに取り組んでいます。日本から50万世帯分の単巻変圧器が提供されたのも、この一環でしょう。昨年から続けられている、従来式照明をLED式電球に無料で交換する事業も、節電対策として始められました。今月までに、集合住宅、病院、学校は100万個のLED電球を受け取ったそうです。

停電の問題を自己解決するため、自宅にディーゼル発電機を設置する人も増えました。ただ、集合住宅では本当はそういう発電機の使用は禁止されているところが多く、だから使わないという人もいたようです。自宅で薪ストーブを使う人も増えたようです。昨冬は、スーパーで大量の薪が売られていました。

これに対し、いくら自家発電しても解決するとは限らないのがインターネットです。プロバイダーがダウンする可能性があるからです。

家庭用プロバイダーがダウンする場合、携帯会社のネットワークにアクセスが過度に集中するという現象が生じるそうです。もちろん、このことは予想される通りの問題を実際に生じさせます。

昨年携帯電話会社の変更が自由化されたのですが、このことから人々は停電時でも使えるサービスを提供できる会社へ乗り換えているそうです。

国は、受動光ネットワーク(PON)を使用できるプロバイダーへの切り替えを住民へ推奨しています。また、プロバイダーは蓄電池や発電機からの電力供給で動かすことのできるシステムの導入を進めている模様です。

しかし、国の報告によると、プロバイダーの対策の進捗度は地域によって大きく異なっているとのことです。最も状況のよいキロウォフラード州、ウォレィーニ州、リーウネ州で60%の利用者にXPONが提供されているのに対し、最も状況の悪い首都キーウでは9%未満となっているそうです。国全体では、XPONの利用者は37%に留まっているが、大きく増加しているとのことです。

  • Пилипів І. Мережі готові, але не скрізь. Чи будуть українці з інтернетом при вимкненнях світла: Чи вивчили інтернет-провайдери уроки попередньої зими і чи готові вони до нових вимкнень електрики? 2 жовтня 2023, 09:30
    [[https://www.epravda.com.ua/publications/2023/10/2/704965/])

9月 活動日誌

2023年9月30日
GJOコーディネーター 原 真咲

ウクライナ鉄道の脱ロシア化

ウクライナでは、各方面に浸透したロシアや共産主義および全体主義の影響からの脱却を目指した政策が進められています。わかり易い部分では地名の脱ロシア化・脱共産化が挙げられますが、今月はウクライナ鉄道の切符が「最終的に」脱ロシア化されたという報告がありました。

以前はウクライナ鉄道の切符はウクライナ語とロシア語が併記されており、且つ、略号などはロシア語のものだけが表示されていました(例えば、ウクライナ語ではзагальнийだからзと略記すべきところ、なぜかоと表記されていた。ロシア語のобщийの略と思われる)。ウクライナ語とロシア語とで同じような文字列が2行ずつ並んでおり、ただでさえ情報量の多いウクライナ鉄道の切符が大変複雑になっていました。

私見ですが、このロシア語表記はそもそも誰のためにされていたのかよくわからないものだったと思います。ロシア語が読めるウクライナ人はウクライナ語も読めるのが普通です。ウクライナ語とロシア語は一方がわかれば他方がわかるというようなものでもないのですが、駅名や時刻、列車番号・号車・座席などに限って言えば、ウクライナ語かロシア語かあまり違いがなく、違っていても、雰囲気でわかる程度の差です(ウクライナ語でстанція Київ-Пасажирський, станція Львів、ロシア語でстанция Киев-Пассажирский, станция Львовのような具合)。だいたい、時刻や列車・号車・座席番号などは数字ですから、2言語で書かなくてもわかります。

実用上の必要性はほとんどないので、ロシア語表記は実際的な理由ではなく、何らかの別の(政治的か心情的かの?)動機によるものであったのではないかと思われます。一方、切符はまったくキリル文字による表記であり、外国人にとっては不親切なものであったと思われます。そこで、それよりも英語表記をした方が実用的であるという判断は合理的なものであったと思います。

ウクライナ鉄道では、今後は施設の表示などに残るロシア語表記をなくしていくそうです。ソ連崩壊以降、旧東側諸国ではそれまでロシアに敬意を表するために多用されていたロシア語表記の使用を削減・廃止する傾向にあり、ウクライナも遅ればせながらその流れに乗ったと言うことができるでしょう。

ウクライナでは公共の場でのロシア語の使用に制限がかけられているわけではないのですが、今後、ロシア語が忘れられていくのか、それとも中ぐらいに残るのか、復権するのか、先行きは不明です。また、ウクライナのロシア語政策は主にウクライナ国内向け・ウクライナ国民向けのものであり、外国人のロシア語使用に関しては特に規定されていません。

ウクライナ鉄道では、近年(戦前から)需要が高まっているEU諸国方面への路線拡大に取り組んでおり、今月もいくつかの列車が新たに走り始め、特に、長年休止路線であったポーランドとリヴィウ州のラーワ=ルーシカ間が1435mmの標準軌(ソ連の規格ではなくEUの規格)で営業再開したことは、事実上の新線開設に匹敵するニュースだと言えるでしょう。

鉄道は人や物の流れを表していますが、それは人の意識の向きも映していると思います。そうだとすれば、ウクライナ人の意識は着実にロシアやソ連の過去から離れ、「ヨーロッパ」へと向かっていると言えるでしょう。

文化財への違法行為

ウクライナでは、2014年のロシアによる侵略以降、文化財への違法行為が534件記録されたという報告がなされました。報告を行ったクリミア戦略研究所によると、そのうち200件はクリミア自治共和国で、残り334件はヘルソーン州、ルハーンシク州、ザポリーッジャ州、ドネーツィク州で行われました。違法行為は、研究員だけでなく各地の活動家によって情報が提供されている模様です。

主な違反の内訳は、文化財横領、軍事目的への転用、文化財の持ち去り、博物館の略奪、違法な発掘、歴史的建造物の改築、歴史的施設の脱文脈化が挙げられています。

例えば、かつてクリミア汗国の王宮であったバフチサライ宮殿は、「復元作業」の名の下に違法な改築が行われました。2022年から2023年8月までに報告された違法行為は、以下のようなものです(情報は右、調査団体の報告に基づきます。

*王宮評定ホールの大理石の床をセラミックタイルに張り替える計画。
*大モスクの屋根をOSB合板(オリエンテッド・ストランド・ボード)に張り替え、梁を鋼鉄製のストラップで補強した。
*2017年から博物館の展示物の持ち出しの準備を開始したが、持ち出しが実現した場合、それは国際法違反となる。
*外務院と台所院の塀の撤去、大モスクのミナレット(尖塔)の違法な「復元」開始。
*クルム・ギレイ汗(ハン)の黄金の間の屋根の撤去(添付された写真)。
*王立学院(汗のマドラサ)の基礎の破壊。
*現在の技術と建材を用いて行われた後宮の修理、歴史的景観の偽造。
*ペルシャ院への円形劇場と舞台の設置計画。
*鷹の塔の塗り替え。色の選定や基準の学術的根拠が疑わしい。

こうした行為はかつてヨーロッパの植民地主義国家の多くが植民地で行ってきたことですが、遅ればせながら「ヨーロッパ」の仲間入りを果たしたいのでしょう。

尤も、文化財の破壊自体は日本でも頻繁に行われてきましたので、あまり他人事として見るべきではありませんが……。

8月 活動日誌

2023年8月31日
GJOコーディネーター 原 真咲

新学年に向けて

ウクライナでは、9月から始まる新学年に向けて教育機関の準備が行われています。

戦時中であるため、すべての児童・生徒と教職員を守るための防空壕の100%の設置が求められています。目下、教育機関(基本的に6~17歳の生徒が通う、日本の小中高に当たる学校を指すと思われる)の68%が各種の防空壕を持っており、470万人を収容することができます。しかし、これではまだ不十分であり、政府は自治体の関係機関に一層の努力を求めるとともに、4月の時点で15億UAHの予算を防空壕整備に計上しました。

このほか、学校までの送迎を必要とする30万人の生徒のための通学バスの整備、EU諸国を中心に、国外で学ぶウクライナ人生徒のための教育支援にも取り組んでいるとのことです。

また、生徒たちには爆発物に対する安全講習も学校で実施するとのことです。

ウクライナでは、戦闘地域における不発弾や地雷、元被占領地域で住民、特に子供を標的にロシア軍が設置していった仕掛け爆弾(ブービートラップ)の脅威が懸念されています。

母称

ウクライナでは、公的ないわゆる「氏名」については、他のヨーロッパ諸国と異なるソ連時代のロシア型システムが引き続き使用されています(1989年に制定された法律で規定)。それは、姓(名字)、名(下の名前、ファーストネーム)のほかに、父親の名から作られる父称(イムヤー・ポ・バーチコヴィ)というものを、名にくっつけて用いるというものです。この場合の父親は、母親が婚姻関係にある場合はその相手、ない場合は母親が父親であると申告した人物を差します。

ウクライナにおける父称の起源は古代に遡るものの、「姓名父称」の三つを組み合わせるシステムが身分に関わらず社会全般に広まったのは、18世紀後半から20世紀にかけて、ロシアの支配下にあった地域であると思われます。例えば、19世紀の「文豪」たちは、本の著者名に自分の父称を書いていません。しかし、20世紀にソ連で出版されたその「文豪」たちの著作集には、本人は表記していなかった父称が付け足されています。ソ連初期には、ウクライナの文筆家たちはウクライナにおける父称の使用はロシアの影響で広まったと主張しましたが、そういう主張をする人は皆自殺しないのであれば銃殺されて、ウクライナとロシアは昔から等しく父称を用いる文化を共有していたという考えが残りました。今日では、ソ連に50年間支配されただけの地域(ウクライナ西部)に比べて、ロシア帝国に150年間、その後ソ連に70年間支配された地域(西部以外)では、父称を日常生活においてよりしばしば用いる傾向があるようです。

父称に関しては、歴史的にいくつかの問題が指摘されてきました。古くは、いわゆる「父無し子」の場合に父称がつけられないことから、差別の温床になっているという問題がありました。今日議題に上がるのは、この制度が極めて父権制的であること、男性優位の思想に基づく制度であるということです。なぜなら、父称が作られるのは父親からだけで、母親の名前はどこにも反映されないからです。子供に父称をつけることは父親の権利であるとされています。これに対し、母親の名前にせよ、どんな名前にせよ、父称に準じた形は文法上作ることができますが、ウクライナの法制上は「母称」(イムヤー・ポ・マーテリ)というのは認められていません。文法的側面を見ると、父称というのは意味上は付属・派生・所有関係を表すので、子供は必ず「父親の物」であることを名乗らなければならないということになります。父親との繋がりをより強く感じることができる反面、それを煩わしく、疑問に思う人もいるでしょう。子供の立場からすると、仮に両親が離婚して父親が子供を「捨てた」(と子供自身が感じる)場合、自分を捨てた父親の名前を否応なく名乗り続けなければならない、ということに抵抗を感じるケースがあるようです。

他方、今日のウクライナには、様々な理由により氏名を変更することが16歳より認められています。また、2021年からは、如何なる理由であれ父称も変更することが許可されました。母称は認められていませんが、好きな父称に変更できるということは、出生時には無理でも、あとから母称に変更することを事実上可能にしていると言えます。今月は、この制度を利用して氏名のみならず父称も変えたという人の話が取り上げられていました。

16歳の女の子は、自分の姓を生物学上の父親の姓から育ての父親の姓に変更しました。名前は、自分の母が出産の際に本当はつけたかった名前に変更しました。そして、父称は母親の名前から作った母称に変えました。これについて、彼女はこう説明しています。「私は名前のなかに何か母親からのものが欲しかったのです、なぜなら、これは私の人生にとってとても大事な人だからです。そこで、〔お母さんの名前レーシャから〕レシーイウナと名乗ることに決めました」。

(なお、「レーシャ」から普通に派生させると「レーシウナ」になるため、そう表記している報道もありますが、お母さんのフェイスブックでは「レシーイウナ」となっています。お母さんのフェイスブックへのリンクは、以下の参考リンク1つ目、「ススピーリネ」の記事にあります。)

7月 活動日誌

2023年7月31日
GJOコーディネーター 原 真咲

クリミア・タタール語の正書法を制定

ウクライナ一時的占領地域再統合問題省は今月28日、クリミア・タタール語の正書法を制定すると発表しました。正書法の制定により、クリミア・タタール語の学習が、クリミア・タタール人にとっても、ほかの学習者にとっても、容易になることが期待されるとのことです。

新しい正書法の作成作業は、教育省と、ウクライナ国立科学アカデミーO・O・ポテブニャー記念言語学研究所、シェフチェンコ記念キーウ国立大学、クリミア・タタール人議会(メジリス)が共同で取り組むことになっています。

正書法というのは、「正しい綴り方」のことで、正しく書く(表記する)ための指針、お手本となります。いわゆる文法の教科書と異なり、原則的には純粋に表記の仕方について定めています。なお、ウクライナ語の正書法は2019年に新しいものに改められていて、大きく分けて168項目が記載されています。

これまでの経緯について。

クリミア・タタール語は、クリミア語、あるいはタタール語(ただし、ロシアのタタルスタン共和国で使われているタタール語と異なる)とも呼ばれています。

2021年9月には、ウクライナでラテン文字(ローマ字)を用いたクリミア・タタール語のアルファベットが制定されました。これにより、2025年9月の学年開始までにクリミア・タタール語による教育プログラムが制定されることになっており、今回の正書法制定もそのなかに位置づけられます。


かつてクリミア・タタール語は、高い文化水準を誇ったクリミア汗国の公用語でした。伝統的にはアラビア文字を使用していましたが、同じくアラビア文字を使用していたトルコ語はじめ、ほかの同族の言語はラテン文字へ移行しており、また、かつてロシア語の支配下に置かれたキリル文字使用のテュルク系の言語もラテン文字へ移行しているので、ラテン文字の使用は、こうした国際的な動きに同調した方向付けであると看做してよいでしょう。一方で、ウクライナ語はキリル文字の使用を続けています。

文字は第一には単に音や意味を表す記号ですが、ある言語が別の言語との関係を築いたり、その関係について考えたりするうえでは、単なる記号に留まりません。漢字を使えば、翻訳なしで漢語がそのまま流用できるようになります。多くのヨーロッパ言語は、翻訳なしでラテン語の単語を(ちょっと綴りに手を加える程度で)そのまま流用しています。19世紀以降、キリル文字を使用する言語に対し、ロシア帝国やソ連は直接的に影響力を行使してきました。文字の選択は、このように、属する文化圏の選択という側面も持っています。

目下クリミアを占領しているロシアはラテン文字の使用を禁止しており、ロシア語と同じアルファベットの使用を義務付けています。19世紀には、ポーランド語やリトアニア語もキリル文字の使用が義務付けられ、それらの言語がそれまで使っていた(そして現在も使っている)ラテン文字の使用が禁止されていました。ロシア語の文字で書かれたポーランド語を、読んだことがありますでしょうか?

ロシア語とその文字を帝国支配と他民族弾圧のための手段として積極的に活用してきたのはほかならぬロシアであり、支配下に置かれ自分の言葉を奪われた人々から、ロシア語やその文字がロシアの悪のシンボルとして受け取られたとして、その原因がどこにあるか、何か思い当たることはないか、一度真摯に考えてみる機会が必要なのではないかと思います。本学で皆さんが楽しく学んでいる(なお、本コーディネーターも勉強しました)ロシア語も、比類なきロシア文学も、誰かに悪意と敵意に満ちた道具として利用され、その結果、悪意を向けられた他者から憎まれる存在になるとしたら、極めて残念なことです。これは本コーディネーターの個人的な意見ですが、ロシア文化のおもしろいところを、そのような「秘めた敵意」抜きに語れる日が来るべきですし、そういう日が来るとしたら、それはその文化のなかにあるよい部分も、背景に隠れている悪い部分も十分理解した、そのあとにでしょう。

ロシアに破壊された全火力発電所を復旧

ウクライナ政府のオレクサーンドル・クブラコーウ復興担当副首相の報告によると、ロシアによって破壊されたウクライナの火力発電所を100%復旧した、とのことです。地域熱供給網(セントラルヒーティング)については、65%が復旧済みだそうです。

その上で、暖房シーズンの始まる10月1日までに、ウクライナは100%の準備が整うとしました。

右ハンドル車の走行許可

ウクライナは、他のヨーロッパ諸国と同様、右側通行を採用しており、自動車は左ハンドルとなっています。これまで、右ハンドル車の走行は禁止されてきました。

この度、いくつかのケースにおいて右ハンドル車の走行を認める法律が制定されました。許可は、8月1日から適用されるとのことです。

主な該当例を挙げてみます。文面は省略を含む意訳で、厳密な法令の文面に対応していません。

「ウクライナ軍等の車両」、「ウクライナ保安庁の車両」、「情報機関の車両」、「警察車両」、「国家国境庁の車両」等々。また、「人道支援の車両」、「慈善活動の車両」、「国際的な技術支援の車両」等も対象になっています。

例外措置の適用を受けるには、登録申請が必要とのことです。

現在、ウクライナにあって走っている右ハンドル車の数は把握しておりませんが、戦争のため、日本と同じ左側通行の国であるイギリスやオーストラリアから多数の車両が提供されています。これらの車両の走行を追認することが第一の目的かもしれませんが、日本からも自衛隊の車両を提供することになったので、それも今回の決定の理由の一つになったのかも、と思いました。

  • Ільченко Л. З 1 серпня на дорогах України можуть з’явитися автівки з правим розташуванням керма. 31 липня 2023, 09:50
    [https://www.epravda.com.ua/news/2023/07/31/702729/].

6月 活動日誌

2023年6月30日
GJOコーディネーター 原 真咲

新型コロナウイルス感染症対策措置の終了

今月最も注目されたニュースはカホーウカ水力発電所ダムの破壊でしたが、戦争関連以外のニュースもありました。

ウクライナでは、2020年3月以来続けられてきた新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止措置を、7月1日で終了すると27日、首相から発表されました。首相と保健省は、感染拡大に対し献身的な働きをした医療従事者らに対し、感謝の言葉を述べました。

先月の発表によると、ウクライナでは延べ550万人が同感染症に感染し、うち11万2千268人が死亡したとのことです(そのうち子供89人、医療従事者1256人)。

ウクライナ鉄道が女性専用個室を導入

ウクライナ鉄道は先月、寝台列車に対し、女性専用個室を導入すると発表しました。今月、試験運行の開始が発表され、以下の列車の切符の販売が開始されました。切符は今月30日分からの販売となっているとのことです。

16列車 ハールキウ(ハールキウ州)~ヤシニャー(ザカルパーッチャ州)
81列車 キーウ~ウージュホロド(ザカルパーッチャ州)
41列車 ドニプロー~トルスカヴェーツィ(リヴィウ州)
75列車 キーウ~クレィヴィーイ・リーフ(ドニプロペトローウシク州)

南方へ向けて走る75列車以外の3本は、リヴィウ経由でカルパチア山脈周辺の各駅に向かいます。

なお、切符はスマホ用アプリからのみ購入可能とのことです。

また、個室は2等客車に設置されますが、女性専用となる個室は車両の一部であり、残りは一般の客室になるため、車両には男性も立ち入り得るとのことです。

今後、試験運行の実績を踏まえて問題点を整理し、今後の運行を検討する模様です。

ウクライナ鉄道のサービスはほかの欧州各国の国鉄と比べてさほど遜色ないものと思いますが(個人の意見です。細かくは一長一短あります)、一部で暴力などのトラブルも報告されているようなので、さらなる改善が図られていくとよいと思います。ウクライナ鉄道はかねてより多くの問題を抱えていますが、戦時下であるにも拘らず、設備や車両の改善(新製、アコモ改善)や提供するサービスの改善に取り組んでいます。

5月 活動日誌

2023年5月31日
GJOコーディネーター 原 真咲

戦時下のウクライナの航空事情

今月はゼレンスキー大統領のG7広島サミット参加、軍事行動関係のニュース以外はあまりめぼしいニュースがありませんでしたので、比較的小さいニュース、戦時におけるウクライナの航空会社の企業活動について書くことにします。

2022年のロシアの侵攻以来、ウクライナでは民間航空機の飛行が停止されています。空港や飛行場の多くは機能していて、軍用機や政府機関の航空機は飛行を続けていますが、民間機は原則として一切が飛行を停止しています。そのため、国内での経済活動ができなくなったウクライナの航空会社は、国外に活路を見出そうとしています。

ヨーロッパでは、夏の休暇シーズンに向けて航空便の需要が最も高まる期間が始まります。それに合わせて、ウクライナ国外に退避しているウクライナの航空会社も新たな企業戦略を打ち出そうとしています。

そうしたなか、戦火を逃れてスーダンに機材と乗員を派遣していたウクライナの航空会社「スカイアップ航空」は、今年4月の現地での戦闘激化によりハルトゥーム空港に駐機中であったボーイング737-800型旅客機1機を喪失しました。日本の報道でも、社名は出ていませんでしたが、焼け落ちたこの機体の映像が放送されていました。4月下旬には、同社の乗員全員がスーダン国外へ退去したと報ぜられました。「スカイアップ航空」は全部で2機、スーダンの航空会社に旅客機を提供していましたが、残る1機の現状についての報道はありません。

昨年来、いくつかの企業はすでにヨーロッパ連合内での運航の実績を積んできましたが、それはスーダンにおけるのと同様、他社の便をその会社の機材・乗員に代わって運航する「ウェット・リース」と呼ばれる形態での運航が主でした。これは、ウクライナの会社にとっては自社の機材を有効活用し、操縦士・客室乗務員なども乗務できる利点がありますが、自前での商業便の運航は基本的にできませんでした。今月は、「スカイアップ航空」がマルタに新会社「スカイアップMT」を作り、ヨーロッパ連合の企業として連合領域内での旅客便の運航を開始したというニュースがありました。また、「スカイアップ航空」はアフリカでの活動も続けており、今月は新たにチュニスエアやフライエジプトでの運航を開始しました。モルドヴァにも機材を提供しています。このほか、今月はウクライナ国際航空の機材を運用する「ローザ・ヴィトリーウ」がモンテネグロやジプトの航空会社へウェット・リースを開始しました。また、「スカイライン・エクスプレス」と名称を変えた、以前のロシア系のウクライナの航空会社「アズール・エア・ウクライナ」もヨーロッパ連合内での運航を開始しました。同社はロシアのイメージを払拭して企業活動を続けるため、ブランド名を改めた模様です。

ウクライナへの物資輸送もしばしば話題になっていますが、ウクライナの民間郵便会社「ノワー・ポーシュタ」(「新しい郵便局」の意味)は、自前の郵便航空会社「超新星航空」を設立し、今月よりヨーロッパ連合内での貨物便の運航を開始しました。当初はウクライナ製のAn-26型貨物機での就航をアナウンスしていましたが、手続き上の都合で急にラトヴィアの会社「RAF-Avia」から機材のウェット・リースを受けることとなり、5月19日より日本でも馴染みのある仏伊製の小型機、ATR 72-500型貨物機で就航しました。現在はヨーロッパ連合各国やイギリスからポーランドのジェシュフ空港などウクライナ近くの空港への貨物輸送に従事している模様です。これ以外には、「アントーノウ航空」が以前よりAn-124型大型貨物機による輸送を続けています。同社のAn-124型機は中部国際空港にもときどき飛来しています(日本から/へ何か運んでいるのかは不明ですが、給油のための中継である場合が基本だと思われます)。

このように、逆境だからといって「休暇」に入るわけにはいかないのですから、その力のある会社はピンチをチャンスに変えるべく、努力を続けているようです。

ウクライナの新型コロナウイルス対策

ウクライナ保健省は、WHOの勧めに従い、新型コロナウイルス感染症に関する検疫措置を撤廃する計画であると発表しました。

4月 活動日誌

2023年4月30日
GJOコーディネーター 原 真咲

戦時下のウクライナの宗教行事

今月はウクライナの主要な宗教であるキリスト教の最も重要な祭日の一つである復活祭(ウクライナ語でВеликдень)がありました。教会によって用いる暦が異なるのですが、ローマ=カトリック教会やプロテスタント諸派などが用いるグレゴリオ暦では9日、ウクライナ正教会やウクライナ・グレコ=カトリック教会が用いるユリウス暦では16日にこの祭日がありました。なお、ウクライナ正教会とウクライナ・グレコ=カトリック教会は今年9月よりグレゴリオ暦へ移行することを決定しています。

  • Денисенко Т., Осадча Я. З вересня 2023-го УГКЦ переходить на новий календар: як зміняться дати свят. 05.03.2023, 12:27 [https://life.pravda.com.ua/society/2023/02/6/252730/].
  • Червоненко М. ПЦУ переходить на новий календар. Коли буде Різдво, Великдень, Покрова і Миколая. 24 травня 2023 [https://www.bbc.com/ukrainian/news-65691768].

恐らく、このようにウクライナ人の宗教心が高まる時期であることも関係して、今月は宗教関係のニュースが多かったように思います。

ウクライナには、上記2つのウクライナの教会のほかに、ロシア正教会の出先機関であるモスクワ総主教庁ウクライナ正教会があります(これ以外に、ロシア正教会が直接管轄する施設やロシアから亡命した古儀式派の施設もありますが、信徒数はごく少数の模様です)。昨年8月に公表されたキーウ国際社会学研究所の調査によると、ウクライナ国民の4%がモスクワ総主教庁ウクライナ正教会の信徒であるとされていますが、信徒数の少なさに拘らず、同団体はこれまで多くの重要宗教施設を専有してきました。ヤヌコーヴィチ政権によって便宜が図られたキーウ洞窟大修道院やポチャーイウ大修道院はじめ、各地の主要な聖堂の多くをこの団体が所有またはレンタルで使用してきました。しかし、ウクライナとロシアとの戦争に関してモスクワ総主教庁ウクライナ正教会の施設にロシアの工作員や軍人が出入りしていたり、聖職者がロシア軍を支援したり、ロシアの政治宣伝を担ってきたことが問題視されており、そうした事例を理由に国や自治体から施設や土地の使用権を停止されたり、返還を求められたりしています。また、そのようなロシアとの「コラボ」(仏語collaboration, 宇語колабораціонізм)を理由に、同団体を禁止する自治体も徐々に増えてきました(禁止は今のところ国ではなく自治体レベルです)。

こうした状況を背景に、従来モスクワ総主教庁に従ってきた教区のなかにはキーウ府主教が統括するウクライナ正教会への転属を表明する教区が出てきています。4月には、リヴィウにあったモスクワ総主教庁ウクライナ正教会の教区がキーウ府主教庁のウクライナ正教会への移籍を表明しました。これを受け、リヴィウのサドヴィーイ市長はリヴィウ市における「モスクワ総主教庁の歴史に終止符を打つために協力してくれた人々」に感謝を表明しました。

復活祭では、長年ロシア正教会に利用されてきたキーウ洞窟大修道院でウクライナ正教会の典礼(儀式)が行われました(同時にモスクワ総主教庁ウクライナ正教会も典礼を実施しています)。これに先立ち、ウクライナ正教会のエピファーニイ府主教は、「如何なるウクライナの政治家も、教会〔ウクライナ正教会〕の立場や決定に対する統制は持っていない」とする声明を公表し、ウクライナ正教会が「政治的に」作られたものであるという言説を否定しました。

実のところ、政治から完全に独立した宗教というのもなかなかないようには思いますが、例えば日本ではロシア正教会の政治活動には言及しない一方、ウクライナ正教会は政治家のイニシアティヴにより政治的に成立したと述べる解説が「専門家」によって書かれてきた経緯があります。恐らくこうした傾向は世界的なものであるので、キーウ府主教としては特に上記のように言明する必要があったものと思われます。(なお、日本ではウクライナ正教会は「ロシア正教会から独立した」と書いている人がいますが、これは「独立」という日本語につられて誤解したもので、正しくは「コンスタンティノープルの全地総主教から《独立正教会》の地位を承認された」というものです。この「独立」は「自分で自分を統御できる、自分が自分の頭である」という意味のギリシャ語Αυτοκεφαλίαから来ている宗教的および教会組織上の概念で、政治用語や日常用語の「独り立ち」の意味で理解すべきではないのですが、いずれにせよ「独立した」のと「独立正教会として認められた」とのを区別する必要があります。また、ウクライナ正教会は「独立」して新しい教派を形成したのでもありません。)

一方、世界のキリスト教会の中心の一つであるバチカンでは、昨年に引き続きウクライナ人とロシア人に共同で「十字架の道行き」をさせようとしたため、このような偽善に対してウクライナ外務省は遺憾を表明しました。交戦国の市民が手を取り合っているのを見ると心が和む人もいるのかもしれませんが、ウクライナは昨年に続いてバチカンに抗議し、「侵略者と犠牲者を同列に並べるべきではない」と主張しました。

今月はまたイスラーム教にとっても重要な期間でした。3月22日から4月20日にかけてのラマダーン(断食月)に関連し、ウクライナのゼレンスキー大統領はクリミア・タタール人が中心となって催されたイフタール(断食月中に信徒の連帯を強める夕食)に参加しました。大統領は、今後ウクライナでは公的レベルでイフタールが実施されると述べました。

クリミア・タタール人はイスラーム教を信奉し、独自の国家、クリミア汗国を持っていましたが、ロシアの侵略によって国を滅ぼされています。

戦時下のウクライナの航空事情①

今月15日に勃発したスーダンでの戦闘に、ウクライナ人も巻き込まれました。
まず、ウクライナの「スカイアップ航空」は以前より現地に機材と乗員を派遣していましたが、ハルトゥームの戦闘で自社の旅客機1機を喪失しました。その後、25日に乗員は無事にスーダン国外へ脱出したと報じられています。

この2機とは別に、「スカイアップ航空」は旅客機を派遣してウクライナ国民とその他の国民(ジョージアとペルーと報道)の避難を助けました。退避希望者はバスで隣国へ脱出し、エジプトのアスワン空港からポーランドのジェシュフ空港まで、同社のチャーター便(ボーイング737-700型旅客機)で運ばれたとのことです(報道では、バスの乗車人数と国籍、航空便への搭乗人数と国籍が一致しません。多分、基本的には同じグループのことを言っていると思いますが、一部メンバーの入れ替わりがあった模様です)。

PAGE TOP