2022年度 活動日誌

3月 活動日誌

2023年3月31日
GJOコーディネーター 原 真咲

【戦時下のリヴィウ大学の学生生活④】

今月4日、ウクライナのゼレンスキー大統領が、ロベルタ・メツォラ欧州議会議長とともにリヴィウ大学を訪問しました。リヴィウ大学にはほかの近在の高等教育機関からも学生が集まり、交流の場が設けられました。

ウクライナは今後、ロシアのような攻撃的な隣国とどのように生きていったらよいのかという質問に対し、大統領はEUとNATOへの正式加盟によって文明上・安全保障上の防衛がなされると回答し、言いました。

「それに、私たちは戦勝国になるのです。そして、私たちは主体的になります。長年に渡り存在したパラダイムを転換することがたいへん重要です。ウクライナを欧州における強力な主体にしましょう、ウクライナはロシアの隣のどこかにあると言われるのではなく、ロシアはウクライナの隣のどこかにあると皆から言われるように。」

ウクライナの教育に関しては、戦災に見舞われたウクライナには、教育網のリノベーションが必要であり、教育空間と教育課程はより現代に合ったものとなるだろうと述べました。

「教育は、理性と足とで行きたいと思えるようなものでなければなりません。魅力的な構造が必要です。教員の質も重要です。」と大統領は言いました。

メツォラ議長は、自らの政治家への道は学生運動から始まったと言い、どんな困難な時であっても、豊かな歴史を持つ力強い教育機関で学ぶこと以上によいことはないと述べました。

彼女によると、このような試練の時には原則やビジョン、アイデア、そして自分の国や人々への愛を持った人々を国家のトップに戴くことが極めて重要であるとのことです。

メツォラ議長はウクライナがヨーロッパ連合の一員となることへの確信を述べ、「ヨーロッパとEUはあなた方の家でもあります」と表現しました。

議長は、ヨーロッパは戦勝までウクライナとともにあるとし、「終戦の時を決めることができるのはウクライナだけです。私たちは正義のない、自由のない、主権と領土の一体性のない平和を口にすることはできません」と強調しました。

以上は、右の大統領公式サイトの報告を参照して書いています。Освіта в Україні має стати більш сучасною – Володимир Зеленський і Роберта Мецола поспілкувалися зі студентами Львівщини. 4 березня 2023 року – 16:58 [https://www.president.gov.ua/news/osvita-v-ukrayini-maye-stati-bilsh-suchasnoyu-volodimir-zele-81437] (2023年3月27日閲覧).

「早く平和になるとよい」というのは素朴で素直な願いですが、それがどのような「平和」であるのかについても考えなければなりません。

2月 活動日誌

2023年2月28日
GJOコーディネーター 原 真咲

【この1年間での《ウクライナ人像》の変化】

本学の学生のなかには興味を持たれる方もいらっしゃるものと思われますので、今月報告された「感情複合的調査:戦争は如何に私と国を変えたか。1年のまとめ」と題する調査について抜粋して紹介します。

調査は、ウクライナの調査機関「レーティング」(Соціологічна група Рейтинг [https://ratinggroup.ua/])が実施し、2月21日に公表されました。調査目的は、「ロシアのウクライナ全面侵攻の1年間でウクライナ人の視点、価値判断、生活が様々な分野においてどのように変化したかを明らかにする」こととされています。「レーティング」はNHKと共同調査を行っていて、同日付でNHKからも調査結果が公表されています(文末リンク参照)。

以下、鉤括弧内は調査報告からの引用です(任意の引用であり、全文ではありません)。〔 〕は翻訳上補っています。

「2022年2月24日の記憶は、ショック、混迷、先行きへの不透明感、心構えの欠如を物語っている。にも拘らず、2022年1月時点で56%であった勝利への確信は今日、全面侵攻の1年後においては95%に達している。大半(63%)は、戦勝までに半年以上の時間が必要であると考えている。」

ウクライナの状況に関する自己評価は高まっているとのことです。自己評価は「中間より高い4.6ポイントとなっており、これは2021年の数値より1.5倍高い。」

「ウクライナについて考えるとき抱く主な感情は、誇りである。全面侵攻とウクライナ国民の英雄的抵抗の結果、その数値は34%から75%と、2倍以上になった。」

自分が何人であると考えるかというアイデンティティーにも変化が生じました。「回答者の絶対的多数は、自らをウクライナ国民であるというアイデンティティーを回答した(2021年の76%から94%に増加した)。半数は自分はヨーロッパ人であると答えた(以前より倍増)。」

「ウクライナ人の22%が、開戦以来ウクライナ語をより多く使うようになった。」現在、ウクライナ人の82%が母語はウクライナ語であると回答し、家庭内での(つまり公的な圧力のない)言語使用においても60%がウクライナ語であるとしました。これは、ウクライナ語とロシア語両方(28%)、ロシア語(12%)という回答者数を大きく突き放したと言える数値でしょう(ただし、回答は回答者の自己評価なので、飽くまで自分が何語を使っているつもりかという自意識に関するデータであると考えるべきでしょう。調査の趣旨もウクライナ人の意識調査です)。従来、ウクライナではロシア語が多く使われているという意見がよく言われていましたが、調査データを基にして言えば、少なくとも当人たちの意識上ではウクライナは二言語体制ではないと言うべきでしょう(客観的に何語が使われているかの把握のためには別の調査が必要)。

経済状況についての報告もあります。「回答者の3分の2が自らの経済状況の悪化を認め、3分の1は変わらないと答えた。同時に、将来への確信は40%近くにのぼった(2021年末には14%であった)。」

「国家再建の優先事項としては、企業と職場の復興および損害の復旧が挙げられているが、それはウクライナ人の大半が〔生活保護のような〕社会的援助よりも働くことを望んでいるからである。」

「ウクライナは、歴史上の自らの役割を見直しつつ、その発展上困難な時期を生きている。概して戦争は国民の国家機関への信頼度を高めた。ウクライナ軍への信頼度は65%から97%に向上し、大統領への信頼度は36%から90%にのぼった。」大統領支持率は、2022年1月時点では「完全に支持する」が14%、「どちらかといえば支持する」が22%に留まっており、「どちらかといえば支持しない」が18%、「まったく支持しない」が44%にのぼっていました。今月時点では、「完全に支持する」が59%、「どちらかといえば支持する」が31%となっており、不支持はまったくの少数派となっています。また、大統領が(1期限りとした公約に反して)2期目に再選することを望む回答者も65%となっています。一方で、国会に不満を持つ回答者は54%と、満足している37%より多く、もし近日中に選挙があったら、有権者は既存政党以外の候補者を探すとのことです。

「ロシアの侵攻がもたらした最も大きな結果のひとつが、ウクライナ人の欧州大西洋志向の増加である」。「今日、87%がウクライナのヨーロッパ連合加盟を、86%がNATO加盟を支持している。」これは、空前絶後の高い支持率です。同時に、74%がウクライナは正しい方向へ進んでいると考えています(間違った方向と考えているのは11%)。「2021年には国民の大半が〔ウクライナ〕国家を否定的に思い描いていたのに対し、現在は半数以上が雄弁に、あるいは控えめに、肯定的な像を語るようになった。」

「心身への影響」といった側面は、NHKのニュースにも結果が出ていますので、ここでは省略します。

調査方法や対象などについては、以下のリンク先文末に説明がありますので、必要な方はご参照下さい。

Комплексне дослідження: ЯК ВІЙНА ЗМІНИЛА МЕНЕ ТА КРАЇНУ. ПІДСУМКИ РОКУ. Соціологічна група Рейтинг [https://ratinggroup.ua/research/ukraine/kompleksne_dosl_dzhennya_yak_v_yna_zm_nila_mene_ta_kra_nu_p_dsumki_roku.html] (2023年3月5日有効、以下同じ).

Рік війни: як змінився портрет українців і України. Середа, 22 лютого 2023, 15:00 (参考記事、調査に関する報道) [https://www.pravda.com.ua/columns/2023/02/22/7390482/].

ウクライナ市民 8割が「心身に不調がある」と回答 NHK意識調査 (2023年2月21日 4時06分) [https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230221/k10013986201000.html].

Опитування: 8 з 10 українців мають проблеми зі здоров’ям. NHK国際放送局ウクライナ語ニュース (вівторок 21 лют. 17:39) [https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/uk/news/20230221_11/].

1月 活動日誌

2023年1月31日
GJOコーディネーター 原 真咲

【戦時下のリヴィウの生活】

リヴィウ州には50万人以上の避難民が移住しており、一方では企業225社が州内に移転し、4千人分のポストを募集しました。(На Львівщині прийняли понад 500 тисяч переселенців // galinfo [https://galinfo.com.ua/news/na_lvivshchyni_pryynyaly_ponad_500_tysyach_pereselentsiv_394965.html])。避難民の多くは州内最大の都市であるリヴィウ市に集中しているものと推測されます。市内の空き地にはプレハブ住居が建てられ、一部の避難民が居住していますが、同時に賃貸住宅の価格の高騰が報告しています。また、短期滞在の需要と思われますが、ホテル等の一時的宿泊施設も埋まり気味のようです。

2023年1月31日のデータでは、リヴィウ市の1部屋住宅(日本で言うワンルームに当たるのか、1K、1DK等の部屋に当たるのか詳細不明。恐らく寝室を兼ねた居間1部屋に仕切られた台所を備えた部屋を指すと思われる)の賃料は13500 UAHでした。これに対して、かつては常に最も高額であった首都キーウ市の同様の住宅の賃料は9000 UAHに下落しています。2部屋住宅の中央値は、リヴィウ市は16000 UAH、キーウ市は12000 UAH、3部屋ですとリヴィウ市は19000 UAH、キーウ市は18000 UAHとなっております(Оренда квартир у Львові дорожча ніж в Києві – дослідження // Економічна правда [https://www.epravda.com.ua/news/2023/02/3/696695/])。

このことは、当然、リヴィウ市の家主にとっては利益となり得ますが、従来、キーウ市より所得が平均的に低かったリヴィウ市民にとってはあまりありがたい現象ではないと思われます。

一方、キーウ市では低層階の部屋に人気が出ているそうです(Кияни стали орендувати квартири на нижчих поверхах через обстріли та електрику // Економічна правда [https://www.epravda.com.ua/news/2023/02/2/696645/])。以前は、(見晴らしがよい、気分がよい、ステータスの象徴といった好みや価値観の問題もありますが)主に防犯上の理由で高層階の方が人気が高く、したがって値段も高かったのですが、今は上の階はミサイルを喰らう危険性が高いというイメージから人気が低迷し、より被弾の可能性の低そうな低層階の人気が上がっているようです。報告されたデータによると、1~10階の住宅は、それ以上の階に比べて50%多くの注目を集めており、特に5階までの住宅が人気であるとのことです。

このように、戦争が起こると人々の住居に対する意識が変わったり、不動産価値にも影響が如実に現れてくるようです。

【TUFSオープンアカデミー オンライン日本語講座(2023年春期講座)の無料公開】

本学では、今年度春・秋学期に引き続き、来年度もウクライナの学生を対象とするオンライン日本語講座の無料公開を実施することとなりました。

申し込み期間は、2023年2月15日(水)~3月19日(日)です。

<日本語講座>

  • ライブレッスンで学ぶ日本語(金)20:00-21:30(JST)/ 14:00-15:30(EEST) 初級1~上級2 4/7~7/21 ※全15回

<教養講座>

  • 日本社会を学ぶ(月)20:00-21:30(JST)/14:00-15:30(EEST) 4/3~6/26 ※全12回
  • 日本語学入門(火) 20:00-21:30(JST)/ 14:00-15:30(EEST) 4/4~5/16 ※全6回
  • 日本の近現代小説を読む(水)20:00-21:30(JST)/ 14:00-15:30(EEST) 4/5~6/28 ※全12回
  • 日本語でオンライン演劇を作ってみよう(木) 20:00-21:30(JST)/ 14:00-15:30(EEST) 4/6~7/6 ※全12回

詳しくは、以下のサイトにあります各講座の説明をご覧下さい。

■春講座ウェブサイト
【日本語】
https://www.tufs.ac.jp/social_international/open-academy/online-jpclass/spring.html
【英語】
https://www.tufs.ac.jp/english/social_international/online-jpclass/spring.html

ウクライナの学生が無料で受講したい場合、以下の専用フォームからお申し込みいただく必要があります。通常のフォームから申し込まれますと、無料で受講するためには個別に手続きが必要になりますのでご注意下さい。

■ウクライナ学生専用申込みフォーム
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfv5uMPcm7T6JqzaIZiQWKjePyH1mnZkShMky7wXNxRkPhZpA/viewform?usp=sf_link

12月 活動日誌

2022年12月31日
GJOコーディネーター 原 真咲

【戦時下のリヴィウ大学の学生生活③】

日々状況の変わる停電&断水で、合計数時間(最低4時間から)の電力供給しかない日が続きます。4時間ごとの時間帯に分けられ、グループごとに「電力供給が保証される時間帯」、「電気があるかもしれないし、ないかもしれない時間帯」、「停電する時間帯」を交互に割り振られます。曜日ごとに時間帯がずれます。曜日は週替りではなく、ずっと固定です。区画によってはずっと電気があるところもあるようですが、それは重要な社会インフラがある配電網に属している区画であると説明されています(停電するグループ1~3に対し、グループ0と称されている)。

リヴィウ大学では試験期間が始まりました。コロナ禍以来、オンラインでの試験が一般化していましたが、地区ごとに異なる停電時間帯に合わせることが不可能なため、旧来の対面式での実施に移行した模様です。学生はすっかりオンライン試験に慣れきっていたので、対面式には緊張したようです。

また、リヴィウ大学では修士課程は1年半しかないので、修士論文の審査も年末に行われます。1年半ですと修論を書くのが却って大変そうな気もしますが、リヴィウ大学では在学期間が短い方が気軽に学位を取得できそうな印象が生じ、学生を集めやすいと考えているようです。

11月 活動日誌

2022年11月30日
GJOコーディネーター 原 真咲

【戦時下のリヴィウ大学の学生生活②】

ミサイルによる攻撃で電力施設が損害を受けているため、リヴィウ市内でも停電とそれに伴う断水が増えました。当初、当局は地区ごと(通りごと)に3つのグループに分けて計画停電を行っていました。一度の停電は5時間で、日替わりで停電が割り当てられました。実際に停電になるかはそのときの状況次第でした。その後、さらなる破壊で計画停電も実施不能となり、ランダムに緊急停電が行われるようになりました。その後、状況が改善したとのことで、4時間毎の枠で日に2回、停電が行われることになりました。もともと、停電の枠が割り当てられていましたが、電力事情の悪化により給電の枠が割り当てられるようになりました。

最新のグループ分けと停電時間帯の割り当て、現在の停電状況は、「なんで電気がないの?」(Чому немає світла? [https://poweroff.loe.lviv.ua/])というサイトで見ることができます。

電力の問題だけがよく取り上げられているようですが、停電はほぼ同時に断水を意味します(自治体によって違いがあるかもしれません)。また、関係はよくわかりませんが、暖房も停電時には停止するようです。集合住宅の立て付けはあまりよくないので、部屋は暖房が切れるとすぐに寒くなります。

学生の立場からすると、この停電は非常に根本的な問題をもたらしています。まず、リヴィウ大学では(そして恐らくほかの大学でも)、多くの授業がオンラインで実施されています。ところが、各学生と教員の停電の時間帯が異なるため、授業に出席ができない学生や授業を実施できない教員が常にいるという状態になりました。特に地方の小規模な自治体では停電がより頻繁に行われる模様ですので、実家にいる学生は欠席率が上がります。

この状況を踏まえ、これから期間を迎える定期試験はコロナ禍以来のオンラインではなく、大学へ登校して実施する形式が採用されるようです。学生たちはオンラインでの試験に慣れてしまったので(特に低学年はオンライン試験しか受けたことがありません)、大変緊張している模様です。

今後、さらに状況が悪化した場合、オンライン授業はどうなるのでしょうか。現状が維持された場合でも、授業の実施にはかなりの支障が生じているように思われます。

ところで、第二次世界大戦下の日本では電力事情はどうなっていたのでしょう? そういえば、あまり聞いたことがありません。また、現代日本では、停電すると断水するのでしょうか? これについても聞いたことがありません。我々は、生活インフラの仕組みについて、あまりよく知らないのではないかと思いました。

10月 活動日誌

2022年10月31日
GJOコーディネーター 原 真咲

【戦時下のリヴィウ大学の学生生活】

ウクライナでは、小中高の学校は防空壕完備の場合のみ登校しての授業が許可されています。防空壕というと太平洋戦争中の日本の防空壕のイメージが強いのですが、ウクライナでは多くの多層階建築が地下室を備えており、普段は倉庫などとして使用されているこの地下室も防空壕と認められています。なので、防空壕と言っても必ずしも特別な施設を意味しません。地盤の弱いリヴィウには地下鉄がありませんので、こうした各建物の地下が防空壕の主流になっていると思われます。

リヴィウ大学では、学年によって対面式と遠隔が組み合わされて授業が実施されている模様です。公表されたところによりますと、1年生は対面、2~4年生は混合、修士以上は全部オンラインだそうです。しかし、いくつか大きな問題があります。

まず、制度的な問題です。時間割上、遠隔の授業と対面式の授業が続けて組まれていることがあります。大学はネット環境を整えていないため、授業間の短い休み時間で学生は教室からネットのある自宅等のあいだを移動する必要があります。遅刻が増えます。コロナ禍のときにも同じ問題がありましたが、初めは考慮して時間割が組まれていたものの、調整が難しかったのか、結局混在する状態になってしまっています。今は、何も配慮がありません(これは一部の例です。学部や専攻によって違いがあるかもしれません)。

もう一つは、空襲警報です。実際に空襲がある場合はもちろん問題ですが、実際の敵襲の有無に関わらず、一旦警報が発令されると、警報解除されるまで授業は行われません。遠隔でも中断・中止されますが、対面式の場合は大学も閉鎖されるようです(学生は退去)。

なお、あらゆる種類の店舗も同様で、警報発令中は施設内から立ち退きが求められます。また、品物の販売も禁止されています(屋外での販売も同じ)。

よくわからないのは、市内の公共交通機関のうち、電気交通(市街電車、無軌条電車)は運行が停止されるのですが、路線バスは停止されません。どういう違いがあるのでしょうか。また、長距離交通も停止されない模様です。なお、キーウ市では電力不足から無軌条電車(トロリーバス)を通常のバスに置き換えるなどの措置が講ぜられているようですが、リヴィウ市ではまだそういう厳しい段階には至っていません。鉄道も列車を牽引する電気機関車をディーゼル機関車に置き換えて運行するという措置が採られている路線があるそうですが、リヴィウ鉄道の状況については把握していません。なお、リヴィウ駅を発着する旅客路線の半分は元から非電化です。

警報は、例えばミサイルの場合、どの弾道上に位置するすべての自治体に発令されます。つまり、実際には飛来しなくても発令されることが多いです。警報の時間は1~2時間のことが多いですが、数十分から2、3時間程度のこともあります(最初に警報発令のサイレンが鳴り、最後に警報解除のサイレンが鳴ります。何時間もずっと鳴っているわけではありません)。サイトで全国の警報の発令状況を知ることができます(https://alerts.in.ua/)。公式発表によると、イラン製の無人機の場合は警報が長引く傾向にあるとのことです。飛行速度が遅いためだと思われます。警報の音は日本の防災行船無線のサイレンと同じようです。

ところで、ウクライナ政府ほか各国がイラン製であると断定している無人機ですが、イラン政府はひたすら輸出を否定しているのに、賢いロシア人がネタばらししてしまっています。ロシア軍では、イラン製無人機の主力をなす「シャヘド136」を「ゲラーニ-2」(Герань-2, Geran-2)という名称で呼んで運用しています。「2」がどこから来たのかは存じませんが、「ゲラーニ」はロシア語で「フウロソウ」のことです(学名Geranium)。本学でロシア語を専攻する学生の皆さんはお気づきでしょうか? ロシア人はいわゆる「はひふへほ」の発音ができず、「ガギグゲゴ」と言いますね(「ハリー・ポッター」は「ガーリ・ポッチェル」でした)。そのため、イランの首都テヘランは「テゲラーン」(Тегеран, Tegeran)となります。おや、「ゲラーニ」がひょっこり顔を出しました。ロシア人の賢さに、イラン政府はがっかりです。

さて、警報以外にも問題があります。運が悪いと停電に引っかかります(リヴィウ市の場合。リヴィウはマシな方で、ほかの自治体ですと運がよくても停電しているところが多いです)。遠隔式授業の場合、学生の全員ではなく一部だけが停電に当たる可能性が高いので、その学生だけ授業に参加ができなくなります。教員が停電になった場合は、教員が自力で近所にネット環境の整った場所を見つけでもしない限り、休講になるでしょう。

このような状況ですから、授業の遅れが慢性化します。目下、通常は休みである土曜日にも週替りで別の曜日の授業が入れられています。これがわかりにくいので、迂闊な学生は勘違いで授業をすっぽかしてしまうこともあるようです。

残念ながら、授業はまともに行われているとは言えず、教育水準の低下は避けられそうにありません。一方、各国の支援の一環で留学生の受け入れ枠を増やしたウクライナ外の大学が多いので、主に女子学生は留学機会が爆発的に増えたようです。しかし、男子学生には厳しい制限がかかっています。現在、出国許可要件はなぜか秘密にされていて公表されていませんが、大学の大学や教育関係省庁の推薦は意味を持たず、あくまでウクライナの教育省の推薦が必要なようです。ほかの様々な名目(例えば、「ボランティア」など)では男性も出国が許可されているのに、なぜ学生は目の敵にされて出国を制限されているのか、理由は説明されていません。

コロナ禍で入学した学年は、ずっとまともな授業を受けることができず、登校機会もほとんどなかったので、友人関係も築きにくくなっているのです。

リヴィウ市も10月には何発か防空網をすり抜けたミサイルを喰らいました。ウクライナ人は3月までにはロシアは負けるだろうと思っているようですが、戦場で勝って議場で負けることのないようにしないといけないと思います。ウクライナはそうやって1659年の勝ち戦に負けました。日本も20世紀初頭にはロシア相手に議場で負けるところでした。迂闊にもすぐネタばらしをして馬脚を現す粗忽な相手ですが、それは、ばれても平気と思っているということなのです。

9月 活動日誌

2022年9月30日
GJOコーディネーター 原 真咲

【秋学期のウクライナ大学生向けオンライン日本語講座】

本学では、春学期に続き、秋学期にもオンライン日本語講座を公開することになりました。今月、その応募が締め切られ、のべ68名の応募がありました。そのうち56名がウクライナ国内からの受講予定となっており、国外留学へ行かれない(行かない)学生たちへの学習機会提供として有効活用されていることを表していると言えると思います。所属大学も、本学と協定のあるリヴィウ国立大学だけでなく、東西の様々な大学から応募がありました。恐らく、春学期に受講した学生たちから話が伝わったものと思われます。

目下、ウクライナの大学は戦時下のため(コロナ禍もありますが)対面での授業がほぼ実施されない状況になっており、分野によってはやむを得ない結果として教育の質が低下しています。こうした現状を背景に、専門に関わらず多くの学生が国外留学へ行ったという話ですが、戦争から避難するという理由以外に、これまで留学機会が限られていた学生たちに留学機会が爆発的に増えた結果、おのずと留学へ応募する学生が増えたという面もあると思われます。

一方、出国規制に関するウクライナの法関係が混乱を極めており、9月現在、国境庁は男子学生の出国は許可しないと宣言しました(合法性、また決定に至る法的手続きについては説明がなく不明です)。そのため、男子学生は9月現在、留学ができなくなっています。これ以外にも、戦時中に自分だけ出国してしまうことに対する疑念、家族を置いて行きたくない等、個人個人で様々な理由があって、学習意欲はあるが留学しないという選択をする学生もいますので、留学をせずに質の高い教育機会を得られる制度は有意義だと思います。

8月 活動日誌

2022年8月31日
GJOコーディネーター 原 真咲

【秋学期のウクライナ大学生向けオンライン日本語講座】

春学期に続き、秋学期にもオンライン日本語講座が公開されます。本学のウクライナの学生支援の取り組みとして、ウクライナの高等教育機関に所属する学生には専用フォームからの申し込みにより、無料で講座が公開されます。

現在、ウクライナの学生に対する支援としての日本全国規模での取り組みとして、少なからぬ日本の大学がウクライナからの留学生を受け入れています。それに対し、本学では、元々の交換留学生の受け入れは別として、支援の取り組みとして、学生がどこにいても(ウクライナでもウクライナ国外でも)アクセスができるオンライン講座を公開することにしました。春学期では、様々な理由で留学ができない、または希望しない学生や教員から高評価をいただきました。それを受けて、秋学期もこの取り組みを続けることになりました。

春・秋学期ともに、ウクライナで日本語が専攻として教授されている大学には本学からお知らせを送っていますが、今回はお知らせを送っていない大学の学生からも問い合わせがありました。学生間で評判が広まっているのだろうと思われます。普段日本語の学習機会のない、または限られる学生からも興味を持たれているようです。もし本学のプログラムが気に入られているのであれば、よかったと思います。

プログラムの詳細は、以下にご案内があります。
■日本語 https://www.tufs.ac.jp/social_international/open-academy/online-jpclass/index.html
■English https://www.tufs.ac.jp/english/social_international/online-jpclass/index.html
■講座案内動画 https://www.youtube.com/watch?v=m2qm1eUu6cM
■ウクライナ学生受付期間 7月29日~9月4日(終了)

7月 活動日誌

2022年7月31日
GJOコーディネーター 原 真咲

【ウクライナ大学生とのタンデム学習】

先月まで学生交流会を行って下さいました本学の学生団体TUFCOMMUの仲介で、同じく本学の学生団体であるLET’Sが主体となって、本学の学生とウクライナ各大学の学生間のタンデム学習の機会が設けられています。今月は、そのマッチングが完了し、10組ほどが成立しました。両国の学生間の継続的な交流の後押しになればよいと思います。

【秋学期のウクライナ大学生向けオンライン日本語講座】

春学期に続き、秋学期にもウクライナの大学生向けに本学のオンライン日本語講座を公開することになりました。講座の詳細は、以下のサイトを御覧下さい。

ウクライナ人学生への広報や問い合わせ対応をGJOコーディネーターが行っています。

6月 活動日誌

2022年6月30日
GJOコーディネーター 原 真咲

【ウクライナデー②】

先月に引き続き、オンライン学生交流会が開催されました。今月も、本学の学生交流団体「たふこみゅ(TUFCOMMU)」(http:www.tufs.ac.jp/student/international student/TUFCOMMU html)とLET’S(http://www.tufs.ac.jp/st2/club/letstufs/about1.htm)との共催です。ウクライナ各地の大学から参加者が集まりました。

6月11日(土)に開催されました「ウクライナデー②」では、グループディスカッションで盛り上がりました。そこでは、日本語の勉強を始めた動機、知っているウクライナ語、自分の趣味や関心のあることなどについて、会話が行われました。

6月26日(日)に開催されました「ウクライナデー③」では、本学の学生が日本の食文化について、多くの写真を用いてその歴史と特徴を踏まえた詳しいプレゼンを行いました。和食だけでなく、日本独自の発展を遂げた中華料理と洋食について紹介したのはよい着目点だったと思います。いわゆる純・日本的なもの以外の、日本人が普段慣れ親しんでいるものへの理解は、日本文化の理解のためには欠かせない要素であると思います。質疑応答では、ウクライナの学生が水餃子に似たウクライナの料理ワレーニキについて話題に上げました。餃子が豚肉を用いるのに対し、伝統的なワレーニキは肉類は用いません。両国間を、食通が気軽に行き来ができる時代になるとよいと思います。その後、ブレイクアウトルームセッションではグループに分かれてディスカッションの場が持たれました。

ウクライナデーの詳細は、https://www.tufs.ac.jp/NEWS/student/220705_2.htmlを御覧下さい。

今回、日本側からは本学の学生以外に渋谷教育学園渋谷高等学校から2名の高校生が参加してくれました。彼らは、大学生たちとともに「ウクライナデー」のグループディスカッションに参加しました。また、本交流会の最後に、来月30日(土)14時からオンラインで開催予定の高校生主催イベント「ウクライナ × 日本 中高生フォーラム」(https://forum-ua-jp.com/)のプレゼンを行いました。日本とウクライナの学生間交流の機会を増やすことでウクライナの現状への理解を深め、ウクライナ支援の輪を広げるために行動を起こしたいと、イベントの理念を話されました。当日は、ゲストスピーカーの基調講演、ウクライナ支援についてのディスカッション、両国の学生の交流が計画されているとのころです。4時間のフォーラムと1時間の交流会が予定される、本格的なイベントとなっている模様です。

これから試験期間や夏季休業期間がありますので、「ウクライナデー」は今月で一旦終了となります。今後は、LET’Sが主体となって、希望する学生個人間のタンデム学習の機会が設けられる予定です。

たふこみゅ(TUFCOMMU)
LET’S

5月 活動日誌

2022年5月31日
GJOコーディネーター 原 真咲

【ウクライナデー①】

コーディネーターの都合で本年1月から現地窓口は休業中であり、現地対応は受け付けていません。しかし、コロナ禍の副産物でオンラインイベントが一般的になりましたので、この機会を活かして本学の学生とウクライナの学生との交流会を催しました。これは、侵略戦争の被害を受けている国の学生が、そのために学業に支障をきたしていることに鑑み、支援活動の一環として本学で企画提案されたものです。学生団体の賛同を得て実施に漕ぎ着けることができました。

第1回オンライン交流会となる「ウクライナデー①」は、本学の学生交流団体「たふこみゅ(TUFCOMMU)」(https://www.tufs.ac.jp/student/international_student/TUFCOMMU.html)と、同じく本学の学生団体でタンデム学習の機会を提供しているLET’S(http://www.tufs.ac.jp/st2/club/letstufs/about1.htm)との共催で開催されました(両団体のフェイスブック、インスタグラム、ツイッターもご覧下さい)。

イベントは語学力による制限は設けず、日本語、ウクライナ語、英語を中心に計画しました。留学生の参加もできます。応募資格は、東京外国語大学の在学生であること、または、ウクライナの大学の在学生であることです。応募要項や会の実施計画は、主としてたふこみゅさんが何度も会議を開いて作成して下さいました。

第1回交流会は時差や平常の授業などを考慮して今月29日(日)の夜8時から行われ、本学とウクライナの諸大学の学生45名が参加しました。ウクライナからは、本学と協定のあるリヴィウ国立大学のほか、南部のドニプロー市にあるオレーシ・ホンチャール記念ドニプロー国立大学、首都のボレィース・フリンチェーンコ記念キーウ大学、キーウ国立言語大学から参加者がありました。予想しましたが、日本の大学へすでに多くの人数を送ることに成功した大学からは参加がありませんでした。日本へ行くことができなかった学生(特に、男子学生は出国が許可されません)にとって、その不利を少しでも補うことのできる機会になったと期待します。

会は、全体のセッション、少人数のグループごとのセッション、発表や次回以降の告知のためのセッションに分けられます。グループごとのセッションの状況は把握していませんが、ほかのセッションでは準備された説明は日本語と英語で行われ、ウクライナの学生は英語で話すことが多いようでした。慣れてくると、ウクライナ語や日本語での会話も増えてくるのではないかと思います。発表のセッションでは、今回は「お手本」としてたふこみゅの岡田さんが日本のアニメ文化(作品の特徴やアニソン)についての発表を行って下さいました。次回以降は、希望者がグループで自分の国を紹介する発表が行われる予定です。

今後は、6月第2週の週末に第2回、第3週以降または7月に第3回の交流会を開催する計画です。時間は、時差を考慮して夜になる見込みですが、毎回参加希望者のアンケートによって決まります。同時に、LET’Sさんが中心となって個人のあいだでタンデム学習のペアを作り、今後の自主的な学習機会の創出に繋げていく予定です。

今回の交流会ではまた、LET’Sのラーソンさんがタンデム学習とは何かについてレクチャーを準備してきて下さいました。タンデム学習というのは、プロの教師ではない二人が、互いに自分の母語を教え合いながら自主的に学習していく互恵的学習システムです。この場合、本学のウクライナ語を学びたい学生が、ウクライナの日本語を学びたい学生とペアを組み、コミュニケーションを取るなかでお互いの間違いを教えたり、知識を増やしたり、親交を深めたりします。ご興味のある方は、公開されたアドレスからLET’Sさんに連絡を取ることができます。

この原稿を書いている時点では、第2回の応募が行われている最中です(6月8日締め切り予定)。すでに応募者が集まっていると聞いていますが、盛会になることを期待したいお思います。

【リヴィウ大学の状況】

リヴィウ大学では、一時授業が行いにくい状況になっていたために日程が押しており、学期を延長するのかと思いきや、予定の期間内に終わらせるために5月は授業や課題、試験が目白押しになったそうです。学年末試験や卒業試験、あるいは入学試験の日程を変更しないために、大変忙しいことになっているようです。国外にいる学生も少なくないらしく、果たして従来の対面式での試験が行えるのかなど、解決すべき課題があるようです。

ところで、ウクライナでは大学生は卒業してから就活をすることが珍しくありません。在学中によい仕事を見つける機会に恵まれた学生は、その機会を見逃す必要はありませんが、日本のように大学生活の半分は就活生活だった、というような人は少ないようです。

このところ、コロナウイルスの感染状況の発表がたまにしか行われなくなりました。しかし、コロナウイルス予防の検疫措置は今月27日付で8月31日まで延長され、感染症はまだ終わっていないと注意が促されました(В Україні продовжують “ковідний” карантин: кабмін схвалив проєкт постанови п’ятниця 27 травня, 2022 14:40 [https://galinfo.com.ua/news/v_ukraini_prodovzhyly_kovidnyy_karantyn_385864.html] 2022年5月31日閲覧)。欧州各国のなかではコロナ対策の要求が変更されている国が増えてきましたが、ウクライナでは入国方法含め、2月初頭から変更されていません。

4月 活動日誌

2022年4月30日
GJOコーディネーター 原 真咲

【ウクライナ支援】

ウクライナ支援の一環として、ウクライナの大学生に対するオンラインでの学習機会提供を検討している。

まず、先月作成を始めた需要調査のためのアンケートフォームを完成させ、各大学にアンケートへの協力を依頼した。

13日(水)、14日(木)にリヴィウ大学とリヴィウ工科大学に公開講座募集のお知らせを行った。募集は20日に締め切られたが、150件の応募があったとのこと。

学生同士の交流を通じた学習機会の提供も計画されている。これには、本学の学生組織で交流イベントを主催してくれるTUFCOMMUと、タンデム学習を提供してくれるLET’Sがイベントを企画してくれている。27日にはLET’Sのタンデム学習に関する講習があり、それを聴かせてもらった。

本件は4月中にはまだ各団体で計画中の段階であったが、5月2日にTUFCOMMUが会議の結果をまとめた計画書を提出してくれた。今後、連休明け辺りにアンケートフォームを作成してくれるとのこと。計画が出来上がったら、GJOからウクライナ大学へアンケートを配布する。

交流イベントは、ウクライナの大学が試験シーズンに入る前の5月末から6月初め頃の開催を目指している。

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