【ほけせん便り231号】サル痘に関する情報

2022.08.30

ほけせん便り231号
東京外国語大学 保健管理センター
学校医 山内康宏
2022年8月30日

サル痘は、1970年にヒトでの感染が初めて確認され以来、主に中央アフリカから西アフリカにかけて流行している急性発疹性感染性疾患であり、日本では現在、感染症法の4類感染症に指定されています。これまでも発生地域からの輸入事例での散発的な発生が確認されていましたが、ヒトからヒトへの感染は稀であり感染の連鎖はすぐに途絶えると考えられていました。しかし、2022年5月初旬以降、欧州や北米を中心とした複数の国から、渡航歴がなくサル痘患者から疫学的リンクの確認できない症例が短期的に多数報告され、ヒトからヒトへの感染がこれまで想定されていた以上に生じやすい可能性が示唆されるようになりました。

サル痘は、ポックスウイルス科オルソポックスウイルス属に分類されるサル痘ウイルスによる感染症で、遺伝子系統群ではコンゴ盆地系統群と西アフリカ系統群の2種類が確認されていて、コンゴ盆地系統群の方が重症化しやすく、ヒトからヒトへの感染性が高いとされています。現在の流行は西アフリカ系統群に分けられますが、2022年以降の流行では臨床経過や重症化割合についても従来の報告と差異がある可能性があり、注意が必要とされています。

感染経路は、ウイルスを保有する動物との接触によりヒトに感染します。また、感染した人や動物の皮膚の病変・体液・血液との接触(性的接触を含む)、患者との接近した対面での飛沫への長時間の暴露や、患者が使用した寝具などとの接触などにより、ヒトからヒトに感染します。

潜伏期間は、通常7~14日間(最大5~21日)とされています。今回の流行に基づく推計では、中央値が8.5日と報告されています。

典型的な症状としては、発熱・頭痛・筋痛・リンパ節腫大などの症状が0-5日ほど持続し、発熱の1-3日後に皮疹が出現するという二相性の経過をたどります。リンパ節腫大は顎下、頚部、鼠径部に見られます。皮疹は、典型的には顔面から始まり、体幹部へと拡大します。各皮疹は、原則として紅斑→丘疹→水疱→膿疱→結痂→落屑と段階が移行します。多くの場合は、2-4週間持続し自然軽快するものの、小児例やあるいは曝露の程度、患者の健康状態、合併症などにより重症化することがあります。

また、2022年以降の流行では、発熱やリンパ節腫大などの前駆症状が見られない場合も報告され、また病変が局所(会陰部、肛門周囲や口腔等)に集中して全身性の発疹が見られない場合や、異なる段階の皮疹が同時に見られる場合などが報告されています。

診断は、水疱や膿疱の内容液や蓋、あるいは組織を用いたPCR検査により、サル痘ウイルスの遺伝子を検出することによります。

治療は、対症療法が原則です。我が国ではまだ利用可能な薬事承認された治療薬はありません。欧州においては特異的治療薬として承認された薬剤があり、我が国においても特定臨床研究が行われています。合併症として肺炎や蜂窩織炎を発症する場合には、適宜治療が行われます。

予防法としては、天然痘ワクチンによって約85%の発症予防効果があるとされています。またWHOはサル痘曝露後予防として、天然痘ワクチンを推奨しています。流行地では感受性のある動物や感染者との直接的な接触を避けることが大切です。

何かご不明な点などありましたら、保健管理センターまでご相談ください。

参照:
サル痘(国立感染症研究所)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/408-monkeypox-intro.html
サル痘について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/monkeypox_00001.html
Monkeypox(World Health Organization)
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/monkeypox
サル痘診療指針(国立国際医療研究センター国際感染症センター)
http://dcc-irs.ncgm.go.jp/material/manual/monkeypox.html
感染研_病原体検出マニュアル_サル痘ウイルス第2版
https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/monkeypox20220805.pdf

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