2009年1月11日、中東イスラーム研究教育プロジェクトは、如水会館にて緊急集会「イスラエルによるガザ侵攻を考える」を実施しました。急な呼びかけにもかかわらず、一般市民の皆様を中心に研究者、NGO関係者、メディア関係者等、270名余のご参加をいただき、熱気溢れる会となりました。ご参加、ご協力いただいた皆様に感謝申し上げます。当日のプログラムは次の通りです。
日時:2009年1月11日(日) 11:00 〜 15:00(10時40分開場)
於:如水会館 1階 如水コンファレンスルーム
(参加費:無料、最大100名まで)終了しました
東京都千代田区一ツ橋2−1−1
アクセス http://www.kaikan.co.jp/josui/company/access.html

■当日の概要
全文はこちらで読めます。
【PDF】
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*プログラム
東京外国語大学・中東イスラーム研究教育プロジェクト主催
緊急集会「イスラエルによるガザ侵攻を考える」
1. イスラエルによるガザ侵攻はなぜ起きたのか
報告:錦田愛子
(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・非常勤研究員)
2. アラブ世界のメディアは事態をどう報じているか
報告:山本薫(東京外国語大学・助教)
3. ガザ攻撃−繰り返されるイスラエルの武力行使
講演:川上泰徳(朝日新聞・編集委員)
4. イスラエルのガザ侵攻を読む−「戦争ゲーム」としてのガザ虐殺
講演:臼杵陽(日本女子大学・教授)
5. ガザ(2008-09)、レバノン(2006)と国際環境
講演:黒木英充
(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・教授)
6. 殺された人間はすべて“テロリスト”である−虐殺を合法化する「対テロ戦争」の論理
講演:飯塚正人
(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・教授)
7. イスラエルのガザ攻撃を巡る問題−日本の報道で語られないこと
講演:酒井啓子(東京外国語大学・教授)
8. 全体討議

【前半】
集会前半ではまず、錦田愛子研究員が詳細な資料を提示しながらパレスチナ問題の経緯と今回のイスラエルによるガザ攻撃の推移を報告し、
イスラエルによるガザの経済封鎖、イスラエルとハマースの軍事力の不均衡といった背景を指摘した後、ガザの貧困や占領の継続、
さらに言えば「ナクバ」、すなわち1948年のイスラエル建国にともなうパレスチナ人の難民化という根本的な問題の解決なしには、本当の意味でのガザ問題の解決も、
イスラエルとパレスチナ間の紛争の解決も見込めないと締めくくった。
次に山本薫助教は、本プロジェクトの事業のひとつである「日本語で読む中東メディア」のHPに蓄積されている、
過去数年分のアラビア語からの翻訳記事を分析し、特に2007年6月にハマースがガザ地区を制圧して以降、
イスラエルが封鎖によっていかにガザ地区を締め上げていったか、またそれによってハマース及びガザ市民が追い詰められていった過程を、
実際の記事を時系列的に引用しながら報告し、その中で今回の攻撃がすでに半年前、ハマースとの6ヶ月間の停戦に合意した頃からすでに
イスラエル首脳部のオプションに含まれていた事実が指摘された。また、ガザ攻撃をめぐるアラブ諸国間の分裂ぶりについても指摘がなされた。
続いて日本女子大学の臼杵陽教授は、今回のイスラエルによるガザ攻撃をファタハ政権も周辺アラブ“穏健派”諸国も黙認しているという事態の異常さを指摘し、
またイスラエルが今回の攻撃のために用意した作戦名の象徴性の分析から、ガザでの虐殺が「戦争ゲーム」としてイスラエル側に捉えられているのではとの解釈を行った。
また今回の攻撃は2月に控えたイスラエル総選挙向けのキャンペーンではないかと取り沙汰されていることについては、それ以前からの周到な計画性を持っていると指摘、
また今回の作戦の軍事的「成功」がイスラエル世論の圧倒的な支持を引き出していることに憂慮を示した。最後には前田哲男『戦略爆撃の思想―ゲルニカ・重慶・広島』を
引き合いに出しつつ、われわれはゲルニカ→重慶→広島という一連の流れに「→ガザ」を加えなければならなくなるのであろうか、と問いかけた。
その後、朝日新聞編集委員の川上泰徳氏から、これまでのパレスチナ取材を通じて見えてきたハマースの実態や、
ヨルダン川西岸地区の荒廃ぶりなどを、複数の写真を交えて報告いただいた。川上氏は、ハマースには政治部門と軍事部門のほか、
保育園などの教育施設や病院を運営するといった慈善団体の顔もあること、
2006年1月にパレスチナ評議会選挙で勝利して以来の国際的な経済制裁の下でもハマース支配が崩れなかったのは、
パレスチナ人が和平に対する展望を抱けないからだということ、今のイスラエルによるガザ攻撃は、
パレスチナ人の抵抗精神の拠り所となっているハマースのガザをつぶす試みであるということなどを指摘した後、
現在出されているエジプト停戦案に触れつつ、今はとにかく流血を止めるべきであり、
アラブ世論もハマースもパレスチナ民衆の犠牲を防ぐことを第一に考えるべきであると主張した。
【後半】
後半では最初に黒木英充教授がハマースとヒズブッラーについて、@1980年代に生まれた抵抗運動A超ハイテクのイスラエルに対する熟練ローテクの軍事技術
B宗教・ナショナリズム・統治力のより合わせといった、両組織の類似点を指摘した後、Cロケット砲やイスラエル兵の人質という戦端の口実
D両組織を非難するも国内世論の激しさに驚くという“穏健派”アラブ諸国の反応E空爆から地上戦へという戦況の推移Fイスラエル軍による国連施設・要員への攻撃
といった、今回のガザ攻撃と2006年夏に行われたイスラエルによるレバノン攻撃の類似性を指摘した。
そしてイスラエルにだけ自衛権を認め、ハマースやヒズブッラーという「テロ組織」の支持者の犠牲は「自業自得」だとする「国際社会」の偽装正義や、
「バランスをとる」ことに腐心する報道、「対テロ戦争」の論理に同乗する日本のあり方を批判した上で、その「国際社会」も変わりつつあると締めくくった。
続いて飯塚正人教授は9.11以降のテロとの戦いという一連の流れの中で今回の事態を捉え、
イスラエルの行為は米がアフガンでやっていることと同じであり、米には批判できないと指摘、
またアラブ諸国での世論調査の結果を示しつつ、アラブの市民が考えるテロと、欧米でのテロはそもそも食い違っており、
前者にとってはイスラエルのパレスチナに対する暴力こそがテロであり、それと戦うことは彼らにとっても「テロとの戦い」ということになると指摘した。
そして、誰がテロリストかというのは自明ではなく、テロリストというのはレッテルに過ぎないこと、
テロ組織を指定することでそのメンバーや支持者をテロリストとして規定し、それを攻撃する、
あるいは殺してしまった人間はテロリストだった事にする、といった無茶な論理が9.11以降の世界に広がり、日本にもその論理が入り込んでいると批判した。
最後に集会の発案者である酒井啓子教授は、2008年12月27日から2009年1月8日までのイスラエルによるガザ攻撃に関する378件の日本の新聞記事を分析し、
「原理主義」や「ロケット弾」といったハマース側への言及に対し、「占領」や「封鎖」といった、
イスラエルがガザ地区に対して行ってきたことへの言及が極端に少ない点を問題視した後、攻撃をするのも止めるのもイスラエル側の事情や決定次第、
というような強い者勝ちの論理を「リアリズム」だとして受け入れている日本のマスメディアの問題点を指摘し、
こうした国際政治の根本枠組みを変える必要性があると訴えた。また2005年夏にイスラエル軍はガザ地区から一方的に撤退したが、
それによって「占領」が終結したわけではない、と強調し、集団討議でもこの点について各専門家から「パレスチナ自治政府ができたからといって
占領が終わったわけではない」「イスラエルの戦略は、アパルトヘイト体制を維持するために事実上の占領状態を作り出すことにある」
「国際法上も占領状態は続いており、占領者としてイスラエル政府はガザ市民を保護する義務がある」といった指摘が相次いだ。 (文責:山本薫)