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経験から研究を形づくる:小林怜佳さん(博士前期課程:ソ連史/ジェンダー史)インタビュー

外大生インタビュー

「大学院生」というと、自分の興味関心に従ってまっすぐ突き進むようなイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし実際は、試行錯誤を繰り返し、時間をかけて研究テーマや進路を決める学生が多くいます。今回取材した小林さんは、地元での生活、学部での学び、留学、社会運動の経験などが今につながっていると言います。大学院進学の経緯、研究テーマを見つけるまでの道程、今後の目標などについて伺いました。

小林怜佳(こばやし れいか)さん:大学院総合国際学研究科世界言語社会専攻国際社会コース博士前期課程1年。専門はソ連史、ジェンダー史。

取材担当:山本哲史(やまもと さとし):大学院総合国際学研究科世界言語社会専攻国際社会コース2年、広報マネジメント・オフィス学生記者

大学院進学について

―――大学院に進学した経緯を教えてください。

学部は東京外大の国際社会学部中央アジア専攻でした。勉強すればするほどわからないことが増えていき、「もっと勉強したい」と思うようになりました。具体的に進学を考えたのは、カザフスタン留学中だった4回生の5月頃でした。5年卒業の予定だったのですが、大学院の進学説明会に参加し、当時の指導教員の金富子先生[1]とも相談する中で4年卒業での進学を決意しました。学部卒での就職も考えたのですが、働きながら自力で勉強を続けるのは簡単ではないと思います。博士前期課程までであればその後の就職もしやすいイメージがありましたので、進学を決意しました。

[1] 本学名誉教授。専門はジェンダー史、植民地史。

―――試験対策について教えてください。

5月に大学院進学を決めたので、直後にある推薦入試ではなく、秋の一般入試に向けて対策をしました[2]。留学中は卒論のための史料収集などを行い、試験対策は7月に帰国して以降本格的に取り組みました。一ヶ月後に研究計画書を提出しなければいけなかったので、お世話になっていた先生や、大学院生の方々にチェックしてもらいました。筆記試験は語学と専門分野があります。語学試験ではロシア語を選択したので、ロシア語で書かれた本を読んで対策しました。専門科目試験は、研究計画書を書く際に参考にした本や論文を読んで対策しました。面接試験の対策は、就職活動を終えた友人に手伝ってもらって練習していました。今思えば、推薦入試を受験できた方が良かったです。内部進学であれば、学費や入学料免除で優遇してもらえる可能性がありますし、筆記試験も必要ありません。

[2] 詳しくは2024年度博士前期課程特別選抜(推薦入試)募集要項を参照。

ロシア語の試験勉強も兼ねて読んだ、ダリア・セレンコ『女の子たちと公的機関』(小林さん撮影)

研究について

―――現在の研究内容を教えてください。

巽由樹子先生[3]のゼミに所属し、1917年から1930年代のソ連における、女性解放や地位向上を標榜した政策の実態について研究しています。革命後のソ連では、離婚の自由や事実婚、夫婦別姓など、家族や女性に関して、当時としてはかなり進歩的な政策が導入されていました。政策が実際に女性の権利拡大に寄与した面がある一方、農村や中央アジアの女性には、ロシアの都市部などとは異なった影響ももたらしました。例えば、中央アジアの女性は、前近代的で抑圧された存在としてステレオタイプ化され、女性の近代化を達成したい共産党と、中央アジアの宗教的権威との間で板挟みになることもありました。進歩的な政策と、その裏にあったさまざまな実態を解明することに、今は関心を持っています。

[3] 本学総合国際学研究院准教授。専門はロシア文化史。

―――関心を持ったきっかけは何ですか?

学部入学時点からジェンダー論には関心がありました。私の地元では、普段の生活でジェンダーギャップを感じる場面が多かったので、漠然ともっと広い世界に出たいという思いから東京外大を受験しました。現在の研究テーマにつながる大きなきっかけとなったのはカザフスタン留学中に、カザフ国立大学の先生方からソ連時代の話を聞いたことです。苦労した話をよくされる一方で、医療や教育が無料だったと聞き、旧ソ連地域の社会主義時代の経験に関心を持ちました。元々ジェンダーに関心があったことと、留学時代の経験が、今の研究につながっています。

留学中、カザフスタン・アルマトゥで行なわれていた国際女性デーのイベントに参加。壇上ではフェミニズムやレズビアンなどの旗が掲げられる。(小林さん撮影)

大学院での生活

―――交友関係について教えてください。

研究のためにはどうしても1人の時間も必要になるので、人と会う機会があれば、なるべく関係を築くよう心がけています。ただ、博士前期の1年目は特に授業のコマ数が多く、スケジュールも個人間であまり違いがありません。その点では、あまり孤独を感じにくいのかもしれません。また、大学院は学部よりも周りに留学生が多くいるので、彼らと交流しつつ励まし合うこともできます。

―――授業は忙しいですか?

週6コマほど履修しています。学部よりも1コマあたりの負担も大きいことに加え、「公共圏における歴史(HIPS)」というダブル・ディグリープログラム[4]に向けて準備しているので、忙しいなと思います。大学院進学当初は特に余裕がなくて、自分の研究にも時間を割けませんでした。就職した友人と比べて自由な時間もあるはずなのに…と思った時期もありましたが、今はなんとかメリハリをつけて生活をしています。

[4] ヨーロッパの大学と東京外大を学期ごとに行き来するプログラム。詳細はリンク(https://www.youtube.com/watch?v=DqBwriCusP4)から。

将来の展望

―――博士後期課程への進学は考えていますか?

興味はあるのですが、経済面、能力面で迷っています。自分自身が社会運動に関わって来た経験があり、その中で後期課程の大学院生とも関わりがあったのですが、大変そうだなと思うと同時に魅力も感じました。可能であれば進学したいと思います。ただ、就職しても研究人生が終わるわけではありませんし、大学院に戻ってくることもできます。研究だけで満足するのではなく、社会とのつながりも大切にしたいので、大学の外で働くことにもポジティブな意味づけをしていきたいです。

―――就職活動は何か取り組んでいますか?

9月からHIPSのプログラムでオーストリアのウィーンに渡航するので、今はその準備に追われています。ただ、HIPSに参加すると修了が半年遅くなるので、修了時期を踏まえて進学と就職のメリットやリスクの洗い出しをしています。

読者へのメッセージ

―――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

大学院進学、特にいわゆる「文系」の場合、多くの人とは違う道を歩むことになり、悩むこともあると思います。ただ、興味のあることを突き詰めて考えられる環境や時間は貴重です。学びを通し、周りの世界に対する見方や価値観が変わることはとても楽しいです。興味があるなら、踏み出してみてもいいのではないでしょうか?

インタビュー後記

私は主に書籍や論文、マスメディアの情報などからヒントを得て研究テーマを決めてきたため、自身の経験を研究につなげている小林さんのお話はとても新鮮に感じられました。きっとHIPSで海外大と本学を行き来する中でも何かヒントを得て、研究やキャリア形成につなげていかれるのだと思います。帰国後にまたお会いできるのを心待ちにしています。

山本哲史(大学院総合国際学研究科博士前期課程世界言語社会専攻国際社会コース2年)

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