TUFS Today
TUFS Today
特集
東京外大教員
の本
TUFS Today
について

TUFS PLAYLIST(第1弾)ピアノ、ショパン、そしてポリーニ-深淵なるクラシック音楽の世界を語る-:隈澤純さんインタビュー

外大生インタビュー

「TUFS PLAYLIST」企画では、インタビュイーとなる東京外大生に、専攻地域の楽曲や個人的な思い入れのある世界の名曲を紹介してもらい、音楽を通してさまざまな学生の個性・魅力に迫ります。記念すべき初回は、隈澤純(くまざわ・じゅん)さん(国際社会学部中央ヨーロッパ地域3年)にお話を伺いました。おすすめしていただいた作品は、ショパンのピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 Op. 58です。

(演奏動画はこちらからご覧ください。→https://youtu.be/0mgjsKBxgAA

隈澤さんとピアノ、ショパン、マウリツィオ・ポリーニ、ひいては音楽そのものとの深い繋がりが存分に伝わる、内容盛りだくさんのインタビューとなりました。クラシック音楽がお好きな方もあまり馴染みのない方も、どうぞ最後までお楽しみください。

取材・記事担当:
言語文化学部中央ヨーロッパ地域/ポーランド語2年 山口紗和(やまぐちさわ)さん(広報マネジメント・オフィス学生取材班)

【ピアノ・ソナタ第3番とショパンの魅力】

—— 隈澤さんがこの曲を知ったのはいつですか。

小学校2年生のクリスマスに、ショパンの全作品を収めたCDと楽譜をプレゼントされて出会ったと記憶しています。子犬のワルツなどといった有名な作品がショパン作曲だと気が付いたのもその時で、非常に感銘を受けました。その直後の年末年始は、死に物狂いでショパンを勉強しました。

—— 隈澤さんが思うこの曲の魅力について教えてください。

この作品はショパンの作品の中でも特に複雑な書法で作られていて、弾くたびに新たな発見があります。それまでの作曲家が作ってきたものとは異なる伝統的なソナタ形式にとらわれない自由な展開を見せながらも、感覚的なものではなく作曲技法が盛り込まれた緻密なものであり、部分的ではなく全体を通して完成されたショパン独自の1作品に仕上がっています。

—— どのような時にこの曲を聴かれますか。あるいは、演奏したいと思われますか。

普段私は1度人前に出した曲を再び演奏することはないのですが、振り返ってみるとこの曲は、不思議と何度も人前で演奏しています。偶然にも、コロナ禍で在宅期間を強いられた前後の舞台で披露していたようです。つまり、もう2年以上は勉強していることになります。どのような時と明示することは難しいですが、この曲はショパンの最高傑作なので、心が自然と作品に向かうのかもしれません。

—— お気に入りのフレーズなどありましたら教えてください。

演奏動画の5:58以降が好きです。どこへ連れて行かれるのかと不安定な展開を経ての安心感に満ちたフレーズで、力強さと繊細さとが両立されている箇所だと思います。

—— 作曲者のショパンについては特別な思い入れなどありますか。

ショパンと聞いて、皆さん何をイメージされるのでしょう。優雅さ?繊細さ?ひと言で表現することはできませんが、ショパン国際ピアノコンクールで何百人もの参加者にショパンの作品だけを弾かせても、あんなに個性や解釈の違いが生まれてくる。つまりは、それだけショパン本人が捉えづらい存在であるということで、それが彼の魅力なのだと思います。誰もが独自のショパン像を抱ける訳ですからね。今回紹介したソナタ以外だと、作品56のマズルカ、作品62のノクターンといった後期の作品が好きです。ほとばしるショパンの才気が凝縮された、真珠の首飾りのような作品28の前奏曲集もおすすめです。

隈澤さんがお持ちの、ショパンの楽譜コレクション

【隈澤さんとピアノ】

—— ちなみに隈澤さんはピアノを始めて何年になりますか。

小学校入学と同時に始めたので15年以上になります。突き指をしても受験期でも、ずっと変わらず続けてきました。

小学校5年生でオーケストラと共演した時の1枚

—— 突き指をしても弾かれたのですか…!それは驚きです。ピアノを始めたきっかけはどのようなものだったのですか。

単なる習い事として始めました。もともと家にピアノが置いてあったのですが、あの箱からCDで聴くような美しい音が出せるとは想像もせず…。近所のピアノの先生が弾く音を聴き、一瞬でピアノの虜になりました。あの衝撃は今でも鮮明に覚えています。

ただ、最初の2週間は全く練習しませんでした。初っ端から先生に怒られてしまい、これではだめだと思って初見演奏の技能を身に付けようと考えました。その後は楽譜を読むのが速くなり、いろんな作品に触れながらの練習も楽しくて、のめり込みました。

—— ピアノを弾けて良かったと思う瞬間はありますか。

そうですね、全ての感情をピアノで表現できると意識させられる瞬間です。何かを伝えたい時、言葉よりもピアノを介した方が自分にとってはしっくりきます。私は感情を言葉で伝えることがあまり得意ではありません。昔は無口で、友達と遊ぶことも少なくピアノと戯れていた時間が多かったのですが、自分のことをあまり知らなかった人とも、演奏を聞いてもらったことで会話が生まれることがあり、そういった意味では助けられた存在です。

—— 好きなピアニストはいらっしゃいますか。

マウリツィオ・ポリーニという、今年で80歳を迎えたイタリア人ピアニストの大ファンです。彼に関する資料を国内外から集め、公演記録を作成しているくらいです。彼は誰よりも真摯に音楽と対峙していると思います。しばしば「完璧」という言葉で彼の演奏は形容されますが、知情意の均整を保つことにより作品の構成美を示したものとして、全ての録音が歴史的に重要です。彼の録音で沢山の作品を覚えました。生でも聴きましたが、音自体の純度が凄まじかったです。あの音を他の奏者から聴くことは望めないですね。

直近だと、2018年10月7日、サントリーホールにて開催された来日公演で彼の演奏を聴きました。今回ご紹介したピアノ・ソナタ第3番も演奏していました。他のピアニストの生演奏でも何度と聴いた作品ですが、ポリーニの演奏は格別で、万華鏡のように音色が変化し、終楽章では涙が溢れそうになりました。ピアノの中から聞こえてくる音ではなく、上から降り注いでくるような音に打ちのめされました。今はコロナの影響で海外渡航が難しくなっていますが、機会があればぜひまた彼の演奏を聴きに行きたいです。

【終わりに】

—— ここまでショパンやピアノに対する熱い想いをたくさんお聞かせいただきましたが、隈澤さんにとって音楽そのものとはどういった存在であるか教えてください。

生涯に渡って情熱を注ぐことのできる存在です。音楽に心からの情熱を持っています。燃えたぎる熱意とは裏腹に、クラシック音楽の世界には果てしない広がりと深さがあります。自分は古今東西あらゆる編成での作品、そして多くの音楽家が遺した膨大な数の録音に関心があるので、きっと生涯学習という位置付けで今後も探究を続けるでしょう。突き詰めていろいろ知っていくことが楽しくて仕方ありません。

—— 最後に読者のみなさんに向けて、ピアノ・ソナタ第3番のおすすめコメントをお願いします。

とにかく聴いてみてください。一度で曲の隅々まで理解できる人は絶対にいないので、ある程度の忍耐は必要だと思いますが、聴くことで得られるものは必ずあるはずです。

隈澤さんがお持ちの、CDコレクション

インタビュー後記
今回のインタビューでは、単なるおすすめ曲紹介に留まらない隈澤さんの音楽に対する熱い想いをお聞かせいただきましたが、隈澤さんが幼少期からいかに真摯に音楽と向き合ってこられたかがよく伝わり感銘を受けました。また、私自身もショパンが大好きでポーランド語を専攻しているため、ショパントークが盛り上がって大変楽しい取材となりました。普段クラシック音楽を聴かない方にも、本記事を通してその魅力を少しでも伝えることができましたら幸いです。
記事担当:山口紗和(言語文化学部ポーランド語2年)

PAGE TOP