わが人生の小説
- 刊行
- 著者等
- レオナルド・パドゥーラ(著) 久野量一(訳)
- 出版社
- 水声社
内容の紹介
故国キューバから追い出された文学研究者のフェルナンド・テリーは、19世紀の詩人ホセ・マリア・エレディアの「回想録」にまつわる情報を得る。一時帰国したハバナで「回想録」の手がかりを探すフェルナンドは旧友たちと再会し、自分を亡命に追い込んだ裏切り者の存在を見つけようとするだが……。キューバ独立運動にまつわる事件をミステリー仕立てに描き出す傑作長編。
訳者のコメント
久野 量一(大学院総合国際学研究院/教授)
著者のレオナルド・パドゥーラは『犬を愛した男』(水声社)で世界的に有名になりました。『わが人生の小説』はその直前に書かれた純文学要素が満載の小説です。1999年と19世紀のキューバを往還しながら物語は進み、500ページ近くもある長編なので、読了してくれる人がいるのかどうか少し不安です。タイトルも「わが人生の小説」と、なんだか重いです。翻訳は難航して、このままじゃ終わらないのではないか、「わが人生の翻訳」になってしまいそうだと思う時もありましたが、同僚のクララ先生をはじめ、周囲の助力を得ながらなんとか仕上げました。翻訳では女性の語り口に悩みました。主人公の男(物語上では50歳くらい)には、長年の片想いの相手である同世代の女性がいて、2人で会話を交わすのですが、彼女のセリフをどんな日本語にしたらよいのかがわからない。要は二人称の使い方の難しさです。「あなた」がいいのか、そうではないのか…… ちょうどこの翻訳をしている頃、高校時代のクラスメイト(女性)から連絡があって、30年以上ぶりに電話で話したり、メッセージのやりとりをしました。互いの近況報告の時、つい僕はその時の彼女の口調に注意深くなりました。どんな語り口なのか、興味深かったのです。小説では18年ぶりの再会を果たす2人ですが、こちらは30年ぶりの音声や文字のみの再会です。翻訳でその時の会話の雰囲気をそのまま生かしたわけではないのですが、なんとなくイメージのもとになったかもしれません。翻訳というのはどれほど原書と睨めっこしても、つい訳者が生きているその時が映し出されてしまうものです。時代や個人の拘束を受けながら読まれていくから読書は面白い。そう、それからこの本はカバーが素晴らしいです。僕が好きなキューバの画家の絵を表紙にあしらってくれました。この画家の名前も小説内で言及されますので、ぜひその辺りまででも読み進めてくれたら嬉しいです。