コーパス言語学集中講義

研究計画

目的

本研究の目的は、日本人中学生・高校生の自由英作文データを使って、日本人英語学習者が特定のトピックについて英作文を書く場合に、どのような語を英語にしづらいと感じるのかを調べ、そのリストを作ることである。学年ごと、トピックごとのリストを作ることによって、同様の自由英作文を生徒に行わせる際の指導に生かすことができると考えられる。

仮説

  • 学年によって、生徒が英語にしづらいと感じる語や品詞は異なる。
  • トピックによって、生徒が英語にしづらいと感じる語や品詞は異なる。

コーパス

本研究ではJEFLLコーパスを用いる。JEFLLコーパスは、10年以上の長期間にわたって日本人中学生・高校生の英作文データを収集したものであり、約67万語という大量データを有している。この英作文は、中学1年生から高校3年生まで、統一された6つのトピックについて書かれている。採用されたトピックは「浦島太郎の話の後には何が起こったと思うか」「朝食にはパンとごはんのどちらがよいか」「学校の文化祭について」「大地震が起こったら何を持って逃げるか。その理由は」「お年玉に10万円もらったらどうするか」「これまで見た一番の悪夢はどのようなものか」の6つである。 データ収集は教室内で、事前の準備なしで実施され、1つのトピックに対して20分間の制限時間が設けられた。辞書の使用は許可されなかったが、英語でどう書けばいいかわからない語に関しては、日本語での表記も認められた。各トピックにおいて、例文が提示された。 JEFLLコーパスには学年やトピックなどのサブコーパスを検索できる機能がついており、この機能を用いることによって、発達段階ごと、トピックごとの分析が可能になる。

研究方法

JEFLLのサブコーパスの検索ツールを使い、学年、トピックごとに日本語が使われている部分を検索する。頻度順に並べ、5回以上の頻度で表れるものを分析対象とする。 データ収集初期にはコーパス中の日本語の部分はローマ字で表記されていたが、現在では漢字かな混じり表記がされている。この点を踏まえ、ローマ字、日本語で書かれた同一の語は1種類の語としてみなす。 その後、学年、トピックごとにどのような日本語が使われているかを調べ、比較する。

データ分析

  • データ分析の例1 サブコーパスの語数が異なるため、単純な比較はできないものの、学年が上がるにつれて、日本語で書かれる語の頻度、種類が減る傾向にあることがわかる。
  • データ分析の例2 「地震」のトピックにおいて日本語で書かれる頻度の高い語は、「宝物」「携帯電話」「貯金通帳」「大切な」などである。このうち、最も頻度が高かった「宝物」は、タスク中の例文でも日本語になっていた部分なので、生徒がこれに従った可能性がある。

予想される結果

学年や英作文のトピックによって、生徒が日本語で書く部分の語は異なると考えられる。また、学年が発達段階の指標の1つになると考えれば、学年が上がるほど複雑な文が書けるようになる、または書こうとするために、名詞、形容詞、接続詞などいろいろな品詞で日本語の表記が見られるようになると考えられる。 また、データ分析の例2でも示したように、日本語で書く部分はタスク中の例文にも影響されると考えられる。上記で示した例以外にも「展示」「早弁」などがこの例として見られた。この理由として、英作文を書く際に、使う語彙だけでなく内容も例文の影響を受けることが挙げられる。この点を踏まえ、それ以外の語に注目することによって、タスクの特性に沿ったリストを作ることができるだろう。

本研究の限界

本研究では、発達段階の指標として学年を扱ったが、学校、年度によってデータ収集を行った時期が異なるので、これが妥当性のある分け方であるとはいえない。 またすべてのトピックで、均等なデータ収集が行われているわけではない。例えば、中学3年生が「夢」について書いた英作文のサブコーパスはコーパス全体の3.97%を占めるが、高校1年生が同じトピックについて書いた英作文は0.40%にしか満たない上に、3回を超えて出現する日本語表記の語がない。このような小規模のサブコーパスは本研究では分析の対象とはできない。JEFLLは学習者の書き言葉コーパスとしては約67万語を有する 大規模なものであるが、サブコーパスを充実させるためにも、さらなるデータ収集が望まれる。

教育的示唆

本研究で作成した語彙リストは、同様のタスクを行う場合の指標の1つになると考えられる。例えば、生徒にとって難しいと考えられるものを教師が事前に知っておくことによって、授業計画が立てやすくなるだろう。 また、「紙芝居」「福袋」など、英作文中に表れる頻度が多いものの、英語で簡潔に表すことが難しい語に関しては、どのように言い換えたり、説明すれば伝わるのか、適切な例を教師が知っておく必要がある。 本研究の利点であり、さらに指導の現場でも役立つと考えられるのは、本研究が実際の英作文データを使用していることで、「教師が指導したいこと」だけでなく、「生徒が指導を必要としていること」に焦点を当てたリストができることである。このことによって、より生徒のニーズに合った指導ができると考えられる。本研究では対象を語彙に絞ったが、今後、この点を踏まえて、文法事項に注目することも可能であろう。


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Last-modified: 2007-09-15 (土) 23:59:19 (3685d)