東京外国語大学

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世界とっておき情報―ブラジルの「スマホ」コミュニケーション

「スマホ」のない生活は考えられない。中でも、メッセージや通話が無料で利用できるトークアプリは欠かせない。2018年1月中旬から2カ月弱、フィールドワークを目的に、ブラジルのバイーア州サント・アマーロという村に滞在したが、小さな村でもそんなスマホ事情は大きくは変わらなかった。日本に比べて通信速度に差を感じたのは否めないが、人々はFacebookに写真を上げ、WhatsApp (日本でいうLINEのような存在) を使った日常的なコミュニケーションをしていた。

ひとつ気になったのは、多くの人がこのアプリのボイスメッセージ機能を活用していたことだ。大勢での食事会の最中だろうと、騒々しいバスの中だろうと、お構いなし。みんなスマホを口に近づけてつぶやいている。確かに機能はシンプルで便利なものだ。マイクのアイコンを押している間は録音され、離せば送信される。1回に送る音声の長さは個人差があるが、筆者が経験した中では10 ~ 20秒が平均的、少し長く語って40秒程度というところだ。しかし、正直なところ、筆者はボイスメッセージを使うのに抵抗があった。通話であれば相手から返ってくるはずのリアルタイムな反応がないため「スマホに向かって話している自分」にどことなく不自然さを感じてしまう。

しかし、今回のフィールドワーク中、このボイスメッセージを使ったコミュニケーションがブラジルでは不可欠だと思い知らされた。調査の主な目的は研究者を含め現地の関係者にインタビューすることである。そのため、出発以前からメールやメッセージアプリを用いて文面でその旨を知らせていたのだが、いまいち反応が悪い。やっと返信が来たかと思えば「休暇中だから旅行に出ようと考えている」といったボイスメッセージ。これでは研究が進められない。そこで意を決して、こちらもボイスメッセージで対応してみた。するとどうだろうか。文面とさほど変わらぬ内容を送ったはずだが、ある人は知る限りの連絡先を提供してくれ、またある研究者は「〇〇日には滞在先の近くに行くから会おう」と誘ってくれた。(先ほどまで旅行に出ると言っていたのに!) とにかく、ボイスメッセージを使ってからというもの、当初予定したよりも広いつながりを築くことができ、フィールドワークを実りあるものにしてくれたと思う。

なぜこれほどまでにボイスメッセージ機能が使われるのか。ひとつは、機能の便利さだろう。キーボードで文字を入力する手間がない。しかし、それだけではないブラジル特有の理由があるのではないかと考えずにはいられない。協力者の一人は「文面よりも音声の方が人となりが把握でき信頼できる」と言う。あくまで直接対面での会話が大前提であり、スマホの先にある現実のつながりを強く意識しているからかもしれない。どれほどスマホが発達しようと、そういった人とつながったコミュニケーションを忘れずにいたい。

東京外国語大学 大学院総合国際学研究科
世界言語社会専攻
博士前期課程2年 徳梅 元気

【掲載日:2018.5.21】