東京外国語大学

地域の情報

世界とっておき情報ーリオデジャネイロの配車アプリ事情

現地調査のためにリオデジャネイロに来てから1カ月半。日々の出費を記録している。その中でダントツに多い出費項目が「ウーバー(Uber)」。ブラジルで人気の高い配車アプリの一つで、移動に使うのは見知らぬ個人が運転する自家用車である。利用方法は、アプリをダウンロードし登録するだけ。現在地と目的地を入力すると、近くを走行中の運転手がその注文を受けて、迎えに来てくれる。アプリには、行き先までの予測料金と、運転手の名前、車種、ナンバープレートが表示される。概ね8分、早い時は3分くらいで迎えの車が到着する。

このサービスは利用者だけでなく、運転手も登録制だ。事後にお互いを評価する制度も採用している。これらの仕組みによって、運転手と客の双方に安心を提供する点が評価され、治安が悪く、何者か分からない他人への抵抗が強いブラジル社会において急速に普及したものと思われる。

評価されるという意識が働くからだろうか、運転手はサービス精神が旺盛だ。「エアコンの温度は適切か」と気にかけたり、「良かったらどうぞ」と車中に用意しているキャンディーをすすめてくれたり、何かと親切だ。走行が終わると、スマホに評価画面が現れ、5つの星マークで評価する。ある運転手の話では、優良さを示すバロメーターは4.7以上で、4.5以下はもっての外なのだとか。5段階中の4.5とは、相当厳しい評価ラインだ。

インタビュー調査の場合、初めて行く場所が多く、公共交通機関だと手間取るが、配車アプリなら住所さえ分かれば、目的地に簡単に到着できる。ウーバーの場合、運転手はwazeというGPS利用のカーナビ・アプリを使っていて道に迷う可能性も低い。クレジットカードで月ごとの決済が可能なので、現金を所持していなくても利用できる。料金も高くない。
もちろん、いいことばかりではない。私の知人は事前に予約した日時に運転手が現れなかったり、実際には通っていない道を走ったとして課金されたりといった経験をした。架空のアカウントを作った客が運転手を襲ったという話も聞く。

それでも配車アプリが普及したのは、利用者にとっての利便性に加え、サービスを提供する運転手の供給も潤沢だからだろう。その背景には、近年の不況が影響しているらしい。運転手に聞くと、本業は獣医だがそれでは食べていけないのでウーバーを始めたところ本業よりも稼げるのでやめられないという若者や、小売店舗を構えていたが店をたたんで乗り換えたという男性など、副業というより主要な収入源として選ぶ場合も少なくない。現時点では、アプリ提供元のウーバー・テクノロジーズが差し引く手数料(ある運転手の話では運賃の25%程度)を考慮しても、もうかる商売だと受け止められているようだ。

しかし利用拡大につれ、タクシー業界との摩擦も激化する。ウーバー運転手から聞いた話では、ブラジルでは、ウーバー側からタクシー事業者側に協定金のようなものが支払われており、このためウーバーが事業展開する他国よりも運転手が支払う手数料の比率が高いのだという。タクシー業界の抵抗にあいながらもブラジルで配車アプリが合法化されたのはつい最近(今年3月下旬)であり、そこに至るまで既成事実の積み重ねや水面下の交渉など、ブラジル流の駆け引きがあったのかもしれない。そんな想像を巡らせながら、サービスを利用するのも楽しい。

東京外国語大学 大学院総合国際学研究科
世界言語社会専攻
博士前期課程2年 宮下ケレコン えりか

【掲載日:2018.4.16】